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雪の降らない日々
まひろ、さん
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麻紘さん、雪風の妻。俺にとっては大切なご主人様である雪兎を産んだ偉大な人だ。だが、雪風に関しては複雑な感情が湧いてしまう。
「君、前に俺のこと花瓶で殴ったろ? まひろちゃんもしたことあるんだよ、彼女は置時計だったかな」
雪風が俺に惚れたのは、俺が雪風に暴力的な一面を見せた瞬間だった。嫁に似てると、そう言われたのをよく覚えている。
「君、めちゃくちゃ目つき悪いよねぇ。雪風ってそういう子が好きなのかな?」
「……ちょっと、黙れよ」
「雪兎くんは……お母さんの面影でも見てるのかなぁ? 会ったことはないはずだけど、なんとなくとか、ね」
「黙れって……」
雪兎は俺の胸が好きだ。嬉しそうに揉むし、顔を寄せては安心しているような素振りを見せる。俺の身体に勝手な母性を見出しているのか? いや、でも、麻紘の胸は控えめ──だからこそ、男の胸筋で十分なのか?
「あの二人に愛されてること以外なーんの価値もない君はさ、あの二人がまひろちゃんの面影追っかけてるだけだとしたらさ、君って……何の価値があるの?」
「黙れち言いよんやろっ!」
「まひろちゃんもガラの悪い方言使ってたんだよねぇー! しかも関西弁! これは確定じゃない? 俺の妄想じゃないよね。ねぇ、まひろちゃん。死んだ女に似てるから金で買われた君は、君自身は、必要ないんだよ。分かる? ふふ……君って何のために生まれてきたの? 一人産んで死んだ女の代わりになるため? かわいそ」
「……俺、は」
麻紘さんはどこ出身だったんだろう。関西弁……いや、俺は九州出身だし方言なんて使わないし関係ない。
叔父の言う通り俺は彼女の代わりでしかないのかも──いや、だったら何だ? 亡くなった妻の代わりになれているのなら、会えもしなかった母の代わりになれているのなら、あの二人の心を俺が癒せていることになる。じゃあ無問題じゃん、あの二人が幸せなら俺の個なんてどうでもいいんだし。
「……俺は、雪風と雪兎を幸せにするために生まれたし、生きてる」
「…………死んだ女の代わりにされる人生なんて可哀想だね」
「雪風と雪兎は笑えてる。それでいい。俺も愛されて幸せだ、俺を通して麻紘さんに注がれてる愛情だとして、それの何が問題だ? コーヒーフィルターにもいい香りは染み付くだろ」
「……っ、何……ちょっと嫌がらせしてスッキリしようと思ったのに。なんだよそれ……ムカつく」
叔父はぶつぶつと呟きながらアルバムを閉じる、もう見せてくれないのだろうか。雪風の最愛の女にだけ見せる顔をもっと見てみたかったのに。
「…………涼斗さんの帰りが遅くなると、俺より学校のクソガキが優先されてる気がしてさ、すっごくイライラするんだよ。そんな時に君が来たから……ちょっと、八つ当たりした」
そういえば涼斗はいつ帰ってくるんだろう、叔父の顔を見るだけでイライラするから早く帰ってきて欲しいな。
「……………………ごめんね。雪風も雪兎くんも、君のこと君として愛してると思う。悪かったよ、大人気なかった……君のぶっ壊れた心、ギリギリで保ってるのがあの二人だって分かってるのにさ、俺……本当に大人気ない。ごめんね」
くい、と袖を引かれた。
「え? 何? 気持ち悪っ、触んな」
「は……? きっ、聞いてなかったの!? このっ、クソガキ! 本っ当に俺心底君のこと嫌いだよ! クソクソクソっ、謝って損した! せいぜい死んだ女の代わり果たすがいいよクソガキ!」
「はぁ……? 何急にキレてんだよ、怖……」
足音を大きくして棚まで向かい、アルバムを元の場所に戻した叔父は振り返りながら眼帯をズラし、赤い瞳で俺を見つめた。
「そんなふうに雪風と雪兎の声以外ろくに聞けないのも、トラウマが原因なんだろうね。何があったか知らないけどさ、本っ当……可哀想な子」
「………………軟禁生活の無職に言われたくないな」
「君も似たようなもんだろ!」
「俺は当主補佐やることになってるし、料理とか格闘とか色々と修行してる。お前は何もしてない、何のために生きてんのか分かんねぇのはお前の方だろ」
さて、何を言い返してくるか……罵倒文句を用意して待っているのに叔父は黙り込んでしまった。俯いて肩を震わせている。
「ふっ……勝った」
生憎、雪風と顔が似ているからと叔父に向ける優しさは持ち合わせていない。
「君、前に俺のこと花瓶で殴ったろ? まひろちゃんもしたことあるんだよ、彼女は置時計だったかな」
雪風が俺に惚れたのは、俺が雪風に暴力的な一面を見せた瞬間だった。嫁に似てると、そう言われたのをよく覚えている。
「君、めちゃくちゃ目つき悪いよねぇ。雪風ってそういう子が好きなのかな?」
「……ちょっと、黙れよ」
「雪兎くんは……お母さんの面影でも見てるのかなぁ? 会ったことはないはずだけど、なんとなくとか、ね」
「黙れって……」
雪兎は俺の胸が好きだ。嬉しそうに揉むし、顔を寄せては安心しているような素振りを見せる。俺の身体に勝手な母性を見出しているのか? いや、でも、麻紘の胸は控えめ──だからこそ、男の胸筋で十分なのか?
「あの二人に愛されてること以外なーんの価値もない君はさ、あの二人がまひろちゃんの面影追っかけてるだけだとしたらさ、君って……何の価値があるの?」
「黙れち言いよんやろっ!」
「まひろちゃんもガラの悪い方言使ってたんだよねぇー! しかも関西弁! これは確定じゃない? 俺の妄想じゃないよね。ねぇ、まひろちゃん。死んだ女に似てるから金で買われた君は、君自身は、必要ないんだよ。分かる? ふふ……君って何のために生まれてきたの? 一人産んで死んだ女の代わりになるため? かわいそ」
「……俺、は」
麻紘さんはどこ出身だったんだろう。関西弁……いや、俺は九州出身だし方言なんて使わないし関係ない。
叔父の言う通り俺は彼女の代わりでしかないのかも──いや、だったら何だ? 亡くなった妻の代わりになれているのなら、会えもしなかった母の代わりになれているのなら、あの二人の心を俺が癒せていることになる。じゃあ無問題じゃん、あの二人が幸せなら俺の個なんてどうでもいいんだし。
「……俺は、雪風と雪兎を幸せにするために生まれたし、生きてる」
「…………死んだ女の代わりにされる人生なんて可哀想だね」
「雪風と雪兎は笑えてる。それでいい。俺も愛されて幸せだ、俺を通して麻紘さんに注がれてる愛情だとして、それの何が問題だ? コーヒーフィルターにもいい香りは染み付くだろ」
「……っ、何……ちょっと嫌がらせしてスッキリしようと思ったのに。なんだよそれ……ムカつく」
叔父はぶつぶつと呟きながらアルバムを閉じる、もう見せてくれないのだろうか。雪風の最愛の女にだけ見せる顔をもっと見てみたかったのに。
「…………涼斗さんの帰りが遅くなると、俺より学校のクソガキが優先されてる気がしてさ、すっごくイライラするんだよ。そんな時に君が来たから……ちょっと、八つ当たりした」
そういえば涼斗はいつ帰ってくるんだろう、叔父の顔を見るだけでイライラするから早く帰ってきて欲しいな。
「……………………ごめんね。雪風も雪兎くんも、君のこと君として愛してると思う。悪かったよ、大人気なかった……君のぶっ壊れた心、ギリギリで保ってるのがあの二人だって分かってるのにさ、俺……本当に大人気ない。ごめんね」
くい、と袖を引かれた。
「え? 何? 気持ち悪っ、触んな」
「は……? きっ、聞いてなかったの!? このっ、クソガキ! 本っ当に俺心底君のこと嫌いだよ! クソクソクソっ、謝って損した! せいぜい死んだ女の代わり果たすがいいよクソガキ!」
「はぁ……? 何急にキレてんだよ、怖……」
足音を大きくして棚まで向かい、アルバムを元の場所に戻した叔父は振り返りながら眼帯をズラし、赤い瞳で俺を見つめた。
「そんなふうに雪風と雪兎の声以外ろくに聞けないのも、トラウマが原因なんだろうね。何があったか知らないけどさ、本っ当……可哀想な子」
「………………軟禁生活の無職に言われたくないな」
「君も似たようなもんだろ!」
「俺は当主補佐やることになってるし、料理とか格闘とか色々と修行してる。お前は何もしてない、何のために生きてんのか分かんねぇのはお前の方だろ」
さて、何を言い返してくるか……罵倒文句を用意して待っているのに叔父は黙り込んでしまった。俯いて肩を震わせている。
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