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夏休み
かいがいでのおさんぽ、はち
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抱きかかえた雪兎の案内に従い、乳首をシャツの上から弄り回されながら歩き、古めかしい本屋に着いた。店の入口で雪兎は俺の腕から降り、首輪の紐をしっかりと握った。
「あんなに乳首してあげたのに、僕のこと落とさなかったね。お仕置きするつもりだったんだけど」
「……申し訳ありません」
「何謝ってるのさ、ポチは僕の意地悪に負けずに職務を全うしたんだよ。誇りなよ」
雪兎は思い通りにならなかったことを悔しく思っているような表情はしていない。落とさなかったことを本心から喜んでいるように見える。
「僕を落とさないようにぎゅーってして、足震えちゃうくせに頑張って立って……僕の命令をこなそうって意志を感じたね。お仕置きのネタなんていくらでも作ってあげられるから気にしなくていいよ、嬉しかったから」
「……はい!」
「でも、今日はお仕置きはナシかな? 僕のこと落とさないポチは本当に可愛いから、ご褒美あげたくなっちゃった」
「ありがとうございます……!」
手酷いお仕置きも好きだが、甘えさせてもらえるご褒美も好きだ。快楽の度合いはどちらも変わらないし、痛みが伴わないだけでSMではある。
「僕ここ来たかったんだよね、電子版出てない本とか色々あるんだよ」
「そうなんですね、入らないんですか?」
「二足歩行の犬がいるのに僕が扉を開けるの?」
俺が開けるのを待っていたのだと言われて始めて気付き、慌てて扉を開けた。
「申し訳ありません……!」
「いいよ、こんな躾してなかったもんね」
後ろ手に扉をゆっくりと閉めながら反省し、下品でない程度に店内を見回した。荘厳な本屋だ、漫画などは置いていなさそうだな。
「骨董レベルの本ばかりさ、下手に触らないようにね」
「は、はい……」
「ポチも欲しい本あれば言っていいよ、買ってあげる」
「いえ……俺は」
背表紙を見たところ、全て英語の本だ。俺には読めない。
「ポチって本読まないっけ? ポチの私物にだいぶ本あったよね」
「漫画も小説も読みますけど……ユキ様が読むようなものは、俺は読んでも理解出来ません」
「学術書読まない?」
「あまり」
「そっかぁ……面白いのになぁ、物語のない本は嫌い?」
雪兎の「面白い」は「興味深い」であって、娯楽的な意味ではない。雪兎こそ物語のある本は嫌いなのかと聞き返したいが、質問に質問で返すのは悪手だと俺は漫画を読んで理解している。
「あまり好きではありませんね」
「でもポチ、心理学系の本はたくさん持ってたよね? 行動観察とかを主にさ」
「……ただの中二病ですよ」
三白眼を恐れられるから人に好かれる言動を探ったり、共感能力が低いから知識でカバーしようとしていたなんて、とても正直には言いたくない。
「あ、この棚だね。僕が欲しいジャンル。退屈かもだけどちょっと待っててね」
「ユキ様を見ていれば退屈なんてありません」
不可解な文字列の本を立ち読みする雪兎の隣に控え、ふわりと柔らかそうな白髪ときめ細かい白磁の肌が店の照明により琥珀色に輝く様を楽しむ。
「……それラテン語ですか?」
不意に雪兎が読んでいる本に視線を落とすと見覚えのある言語だった。
「うん、古い学術書だからね。読める?」
「俺が知ってるラテン語は闇とか獣とか血とかそういう系でして……んー、単語難しいですねコレ、文の作りはなんとなく分かりますけど」
「何そのチョイス怖い」
フィクションで使われるカッコイイ外国語はラテン語かドイツ語なんだ、くだらない理由だから怯えないで欲しい。
「自由が多い……? とか書いてます?」
「自由を与えられ過ぎると不自由になるって話だよ、どういうことか分かる?」
「数千の映画を好きに見れるサブスクに入ってみたはいいものの、たくさんあると何故かどれも見る気になれずに放置してしまう……」
「及第点」
「よっしゃ」
雪兎は持っていた本を棚に戻し、また別の本を手に取る。また問題を出されるかもしれない、雪兎に見蕩れてばかりはいられないな。
「あんなに乳首してあげたのに、僕のこと落とさなかったね。お仕置きするつもりだったんだけど」
「……申し訳ありません」
「何謝ってるのさ、ポチは僕の意地悪に負けずに職務を全うしたんだよ。誇りなよ」
雪兎は思い通りにならなかったことを悔しく思っているような表情はしていない。落とさなかったことを本心から喜んでいるように見える。
「僕を落とさないようにぎゅーってして、足震えちゃうくせに頑張って立って……僕の命令をこなそうって意志を感じたね。お仕置きのネタなんていくらでも作ってあげられるから気にしなくていいよ、嬉しかったから」
「……はい!」
「でも、今日はお仕置きはナシかな? 僕のこと落とさないポチは本当に可愛いから、ご褒美あげたくなっちゃった」
「ありがとうございます……!」
手酷いお仕置きも好きだが、甘えさせてもらえるご褒美も好きだ。快楽の度合いはどちらも変わらないし、痛みが伴わないだけでSMではある。
「僕ここ来たかったんだよね、電子版出てない本とか色々あるんだよ」
「そうなんですね、入らないんですか?」
「二足歩行の犬がいるのに僕が扉を開けるの?」
俺が開けるのを待っていたのだと言われて始めて気付き、慌てて扉を開けた。
「申し訳ありません……!」
「いいよ、こんな躾してなかったもんね」
後ろ手に扉をゆっくりと閉めながら反省し、下品でない程度に店内を見回した。荘厳な本屋だ、漫画などは置いていなさそうだな。
「骨董レベルの本ばかりさ、下手に触らないようにね」
「は、はい……」
「ポチも欲しい本あれば言っていいよ、買ってあげる」
「いえ……俺は」
背表紙を見たところ、全て英語の本だ。俺には読めない。
「ポチって本読まないっけ? ポチの私物にだいぶ本あったよね」
「漫画も小説も読みますけど……ユキ様が読むようなものは、俺は読んでも理解出来ません」
「学術書読まない?」
「あまり」
「そっかぁ……面白いのになぁ、物語のない本は嫌い?」
雪兎の「面白い」は「興味深い」であって、娯楽的な意味ではない。雪兎こそ物語のある本は嫌いなのかと聞き返したいが、質問に質問で返すのは悪手だと俺は漫画を読んで理解している。
「あまり好きではありませんね」
「でもポチ、心理学系の本はたくさん持ってたよね? 行動観察とかを主にさ」
「……ただの中二病ですよ」
三白眼を恐れられるから人に好かれる言動を探ったり、共感能力が低いから知識でカバーしようとしていたなんて、とても正直には言いたくない。
「あ、この棚だね。僕が欲しいジャンル。退屈かもだけどちょっと待っててね」
「ユキ様を見ていれば退屈なんてありません」
不可解な文字列の本を立ち読みする雪兎の隣に控え、ふわりと柔らかそうな白髪ときめ細かい白磁の肌が店の照明により琥珀色に輝く様を楽しむ。
「……それラテン語ですか?」
不意に雪兎が読んでいる本に視線を落とすと見覚えのある言語だった。
「うん、古い学術書だからね。読める?」
「俺が知ってるラテン語は闇とか獣とか血とかそういう系でして……んー、単語難しいですねコレ、文の作りはなんとなく分かりますけど」
「何そのチョイス怖い」
フィクションで使われるカッコイイ外国語はラテン語かドイツ語なんだ、くだらない理由だから怯えないで欲しい。
「自由が多い……? とか書いてます?」
「自由を与えられ過ぎると不自由になるって話だよ、どういうことか分かる?」
「数千の映画を好きに見れるサブスクに入ってみたはいいものの、たくさんあると何故かどれも見る気になれずに放置してしまう……」
「及第点」
「よっしゃ」
雪兎は持っていた本を棚に戻し、また別の本を手に取る。また問題を出されるかもしれない、雪兎に見蕩れてばかりはいられないな。
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