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夏休み

すてーき、いち

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腹を汚した精液と潮を拭ってもらった俺は、キャスター付きの椅子に座った雪兎を見上げていた。もちろん犬の座り方で、尻尾飾りを挿入し直して、胸も性器も雪兎に見せる姿勢だ。

「ポチ、お手」

「わん」

「おかわり」

「わん」

普通の犬の芸を突然やらされた。どういうつもりだろうかと考えていると雪兎は次に自分の頬を指した。

「キス」

「わんっ」

ちゅっと頬に唇を触れさせると雪兎は満足したらしく、俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「ふふ……嬉しいなぁ、ポチが居る……」

俺を見つめる赤紫の瞳には涙が滲んでいる。俺を懐かしんでくれている雪兎の顔を見ていると俺まで目が潤んできた。

「飛び級して絶対に二年以内に卒業してみせる。おじいちゃんはせっかくだから何年か入っとけって言ってたけど……やだよ、ポチと一緒に居たいもん」

「せっかくだからってどういうことですか?」

「大学の設備は大学生じゃないと使えないからね。図書館とかさ? 教授と簡単に話せるのも……ま、そんなのどうでもいいよ。ペットの方が大事」

それでいいのかと不安にはなるが、富豪かつ権力者の雪兎にとって大学図書館の蔵書や教授との会話なんて、限定的なものではないだろう。

「モラトリアム的なアレはどうなんです?」

「ポチと一緒に居ていいならわざと留年してやるけどね。そうじゃないから知識と学歴だけもらってさっさと継いで、社長の椅子をポチにする」

「ありがとうございます。ポチ椅子はキャスター付きの椅子よりも自在に動くのが特徴となっております」

「ふふっ、触って楽しめるのもいいよね。お尻叩いたら潰れたりしちゃうのかな? ふふふ……本当に可愛いねぇ、返したくないなぁー……おじいちゃんにどう交渉するか考えておかなきゃ」

俺も雪兎の傍に居たいけれど、雪兎の邪魔はしたくない。祖父がワガママを許すはずもないが、俺も気を付けておかなければな。

「……にしても、ポチ髪伸びたよね。そろそろ切らないとかな」

「邪魔なんですよね、お願いします」

「うん、美容院予約しておくね。明日にしようか」

雪兎は目の下まで伸びた俺の前髪をひと房つまみ、指でクルクルと回しながらスマホを弄った。すぐに終え、今度は耳の上あたりをわしゃわしゃと撫でられる。

「気持ちよさそうな顔するよね」

「気持ちいいです……」

「犬だなぁ、可愛い。さてと、そろそろお腹すいたよね? ご飯食べたいでしょ」

「ご飯。はい、食べたいです」

「せっかくアメリカなんだから、それっぽいもの食べようね。ちょっと待ってて」

雪兎は俺を置いて部屋の扉を開け、頭だけを外に出して待機していたらしい使用人に何かを言いつけ、戻ってきた。

「アメリカっぽいものって想像出来る?」

「…………ハンバーガー?」

「あはっ、ファストフードのイメージしかないの? 他にもっとあるでしょ」

「そう言われても、俺地理とか苦手でしたし……」

名産も郷土料理も分からない。俺の頭では有名なファストフードのチェーン店がここ発祥なくらいしか思い出せなかった。

「あ、来た来た。ありがとね、ここ置いて。ポチのは床ね」

雪兎のものが勉強机に、俺のものは床に置かれる。

「ステーキ、ですか?」

「TボーンだよTボーン、アメリカっぽいでしょ。ポチが喜ぶと思って頼んでおいたんだ」

「確かに骨付き肉は日本じゃメジャーではないかも……アメリカ感あるのかどうかはちょっと俺には分かりませんが、美味しそうです、わざわざありがとうございます」

ジュワジュワと焼ける肉の匂いや音は食欲をそそるものだ。しかし、鉄板に乗ったものを犬らしく食えというのは、なかなか鬼畜だ。

「ポチ? 食べないの?」

「いえ、あの、流石に……」

「あぁ、ソース? お口じゃかけられないもんね。僕がかけてあげるよ」

ステーキソースがかかると更に匂いが美味くなり、勝手に口が開いてしまいそうになり、腹が鳴る。

「はい、食べていいよ……ぁ、ポチ、よしっ」

犬用の合図まで出され、食欲も限界だったのでかぶりついた。意外と熱くはなく、鉄板に触れないようにすれば大丈夫そうだった。

「美味しい?」

「……わんっ!」

「よかったぁ、おかわりも用意出来るからね」

肉らしさ溢れる肉を食べて自然と興奮状態に陥った俺は、何度も下手くそな犬の鳴き真似をして雪兎を楽しませた。
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