ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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使用人体験

じさのけいさんみす

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祖父が起きるまでベッドに腰掛けて本を読みながら待つことにしたのだが、彼は案外寝相が悪い。人は上半身だけで動いても結構転がるものだ、たまにベッドから落ちているのはわざとではないのかもしれない。

「……息、熱いな」

俺は枕側の壁を背もたれにしてベッドに足を伸ばして座っている。その右足に祖父が抱きついているのだ、太腿に顔が押し付けられており、祖父の息がスラックス越しにも伝わって熱い。

「まだ起こすような時間じゃないしなー……」

抱きついてくれるのは可愛らしい。実年齢を無視して見た目だけで考えれば子供に懐かれていると思える。しかし、人の息というのは案外と熱いもの、単純に不愉快だ。

「…………ん、ぅ……?」

そうっと手で顔を押しのける。微かに声は漏れたようだが、目を覚ましはしない。眠りは浅くなったようでもにょもにょと口を動かしている。

「な、ぎ……」

なぎ……凪? 雪凪か? 雪風の実兄、祖父にとっては息子であるクズの雪凪か?

「ゅ…………か、ぜ」

かぜ……風? 雪風だな。息子二人の名前を寝言で呼ぶなんて、案外と父親らしいところがある。雪風はともかく雪凪とは絶縁して親子でも何でもないと吐き捨ててはいるのに、心の底では気になっているのだろうか。俺はあんなクズ気にしなくていいと思うが。

「ん、んん……? ふわぁ……ぁー? 雪也、何してる」

寝言の続きを待っていたが残念なことに祖父は目を覚ましてしまった。

「おじい様が起きるの待ってたんですよ。すいませんね、いつもより少し早いでしょう。起こしてしまいましたね」

「いや……構わない」

「朝食、お食べになりますか」

「ん」

祖父は眠そうな顔で両手を広げる。抱き上げて車椅子に乗せ、洗顔などの身だしなみを整えさせたらダイニングに運ぶ。

「作るんで待っててくださいね」

調理風景を見せなければ祖父は料理を食べない、なので祖父を後ろに控えさせて調理を進める。



完成した朝食を皿に盛り、振り返る──祖父が車椅子に座ったまま眠っていた。とりあえず机に朝食を置き、祖父を起こす。

「おじい様、おじい様……出来ましたけど、食べられますか?」

「あぁ、ありがとう……今日も美味そうだな」

祖父はゆっくりと朝食を食べ始める。

「…………おじい様、作ってるとこ見てないのに食べるんですか?」

「ん……? うん、美味い」

首を傾げている。寝ぼけているのか? まぁ、食べてくれたならそれでいい。

「……じゃあ、俺は帰りますね」

朝食の後は祖父は自力で部屋に帰れる。俺は自室に戻り、時計を見た。雪風を起こす約束の時間にも雪兎からのビデオ通話の時間にも早い、暇を感じていると戸を叩かれた。

「うぃーっすポチさん、宅配っすよ」

「何も頼んでませんけど」

態度の悪い使用人からダンボール箱を受け取る。

「じゃっ、何かあったら呼んでください」

「……お疲れ様です」

一応労って扉を閉める。ベッドに座り、ダンボール箱を眺める。厳重な梱包だ、テープがぐるぐる巻きにされている。ボコボコにぶつけた跡があるのでこの厳重さは正しいのだろう。

「カッターあったかな……」

無警戒に開封してみたところ、中身は可愛らしい包装紙とリボンで包まれたプレゼントだと分かった。リボンには雪風へと書いてある、時差計算を忘れた雪兎からの誕生日プレゼントだろう。開けたのはまずかったか?

「……置いとくか」

部屋に居ても暇なのでプレゼントを持って雪風の元へ向かった。ぐっすり眠った彼は物音で起きることはない、枕元にプレゼントを置いて寝室を出て、雪風の私室に置いてある本棚を漁った。
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