ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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使用人体験

たんじょうび、よん

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四等分にしたのでケーキの角は直角。俺は昔三人家で、ホールケーキなんて買わなかった。それぞれの好きなものを買っていた。だから直角に切られたケーキを食べるのは新鮮だ、大抵のショートケーキの一切れって……六、八等分だよな? 四等分なんて贅沢だ。

「んー……! 美味い! なぁ、これも手作りなんだろ? すごいなぁ真尋、レストランとケーキ屋どっち開くよ」

「雪風は大げさだな」

「割とマジなんだけどなー」

ケーキを一口食べてみる。普通だ。一切れ百円のものよりはクリームにくどさがないけれど、それはただ材料がよかっただけ。俺の技能なんてどこにも使われていない。

「この雪だるま可愛いね」

「あぁ……だいふくアイス二つくっつけただけですよ。上のには顔書いて、ちょっと手つけて、帽子乗せて……」

「可愛いよ。雪風、後で写真ちょうだいね」

「おっけーじいちゃん」

ケーキもネームプレートもレシピ通りだったが、雪だるまの飾りだけは一から十まで俺の思い付きで作ったものだ。何か雪風を表すような飾りが欲しくて、雪風の「雪」から連想して雪だるまを作ったけれど、後から若神子一族全員に「雪」の字はあると気付いて自分の鈍感さに落ち込んだりもしていた。
そんな雪だるまを褒められるのはなんだかこそばゆい。

「ごちそうさまっ、マジで美味かったぜまーひろぉ。また頼むわ」

「甘いものは別に好きでもなかったが……お前の作ったものなら是非また食べたい」

「秋夜くんにもあげたいな。全部食べ終わっちゃったからまた作ってよ」

「…………はい、次はもっと美味しいものを作ってみせます」

お世辞を言うような人達ではない、本当にまた食べたいと思ってくれているのだ。明日からお菓子作りも習わないとな。

「さて、ケーキも食べ終わったことだ」

「お開き?」

「そう急くな親父。プレゼントに決まっているだろ」

祖父は懐から手のひらに乗る小さなプレゼントを出した。しっかりと包装紙とリボンに守られたそれを雪風は気恥しそうに受け取った。

「開けていいか?」

「好きにしろ」

雪風は丁寧に中身を取り出した、ネクタイピンのようだ。

「おぉ……見ろよ真尋、雪の結晶だ」

飾りとして雪の結晶のモチーフが付いている。雪の結晶部分は金属製ではなさそうだ、ガラス細工だろうか?

「名前入ってるじゃーん、さんきゅー親父」

「これガラスだろ? 脆そうだな、気を付けて使えよ雪風」

「ダイヤだ。お前の目は節穴か? いや、点だったな」

確かに俺は黒目が異常に小さな三白眼、いやもはや四白眼だが、点扱いしないで欲しい。

「……雪風、なんか箱に入れてしまっとけ」

まさかダイヤだとは──いや、そうだな、この家富豪だったな。

「あの……雪風? 僕、今日が君の誕生日って知らなくて……ここ数十年今が何月何日かとか考えてこなかったから。その、ごめんね」

「そうそう雪風、秋夜の親父が渡すもんあるからパーティの後は画室来いって言ってたぞ」

「えっ? 秋夜くん知ってたの? ひどい……僕だけ何も知らなくて、これじゃ僕が薄情者みたいじゃないか」

「実際そうだ。親父が日にち覚えてないのは倒れるまでヤってるからだろ、それで子や孫のこと一切考えていない。薄情者以外の何者でもない」

曽祖父は何も言い返さずに俯いた。性的なものなど一切感じさせない穢れなき神聖な雰囲気を持つ彼が倒れるまでヤるなんて……ちょっと興奮してきた。

「雪風……明日、明日までには何か用意するからっ」

「別に気にしなくていいけど、まぁ一応待っとくよ。そ、れ、よ、り……まーひろぉ、お前はなんかすごいもん用意してくれてるんだよな?」

期待に満ちた瞳は赤く輝いており、そんな真っ直ぐな視線に射抜かれた俺は一瞬たじろいだ。

「ま、まさか真尋も準備してないのか? じいちゃんはド天然ボケな上に秋じぃ狂いでパーティ参加自体奇跡なもんだからもうどうでもいいけど、お前にプレゼント忘れられてたら俺泣くぞ……」

「どうでもいいって何さ」

ちゃんと用意はしているが、ダイヤを出された後では出しにくい。渡すのを躊躇ってプレゼントを握り締め、包装紙をガサッと鳴らしてしまい雪風に気付かれた。

「なんだよ、あるんじゃん。ありがと真尋ぉ~」

「あっ、ちょっ……その、大したものじゃないから、本当に、本当に大したものじゃ……ない、から」

俺のプレゼントを見た雪風は静止している。やはり、あまりにくだらない物過ぎたのだ。雪風を模したぬいぐるみなんて──ガキっぽ過ぎた。

「…………真尋ぉ、これ」

手足は紐。目はボタン。髪はフェルトをそれっぽい形にして何枚か貼り合わせただけ。せめてテディベアくらいのクオリティを目指すべきだった。

「めっちゃくちゃ可愛いな! 何これ俺!? 俺なの!? やっば可愛い、お前がこんなちっこいもんコソコソ作ってたかと思うとそれも可愛い!」

「え……あ、いや、雪風……気を遣わなくても」

「何がだよ、めちゃくちゃ嬉しいぞ俺」

「……本当に?」

「俺がそんな嘘つくかよ」

それもそうだ。でも、こんな安っぽい作りのぬいぐるみで喜んでくれるなんて作ってすぐの頃しか思っていなかった。

「…………雪也くん、僕の誕生日九月二日なんだ」

「ねだるな親父、その小物収集癖少しは控えろ。おい雪也、俺の誕生日は七月七日だ、プレゼントのネタは使い回しで構わない」

祖父達も欲しがっているように感じるし──俺の選択は間違っていなかった。金銭的な価値で勝負しに行かなくて本当によかった。下手に宝石なんて贈っていたらこんな笑顔は見られなかったかもしれない。
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