冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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ケーキを食べよう (水月+クンネ・カサネ・サン・レイ・荒凪・ミタマ・サキヒコ)

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俺が買ってきたのは定番のチョコケーキ三つ、王道のショートケーキ三つ、期間限定のレモンケーキ二つだ。

「チョコと生クリームとレモン、ね。レモンってあんまり馴染みないなぁ、ボクこれがいいな~」

新作を選ぶ勇気のない俺の後押しになったのは彼の好奇心の強さだ、予想が当たってよかった。レモンケーキをサンの前に移し、安堵のため息をつく。

「レモンなら紅茶の方がよかったかな……まぁいいか、ブランデーってほぼ紅茶だもんね」

「全然違うっすよ」

「色一緒らしいじゃん」

「そうでもな……あ、俺はチョコがいいっす」

ニコニコ笑顔のままレイがチョコケーキを取っていく。こういう態度や表情は歳下っぽくて可愛い、それでいて大人らしいところも見せてくるんだから、たまらない。一粒で二度美味しいってヤツだな。

「先輩、先に選んでください。年功序列なんで」

「そ、そうなの?」

適当だ。サンとレイが順番に選んだから今思い付いた。

「ならワシが一番じゃろ!」

「コンちゃん考えようによってはゼロ歳だろ」

「ま、まぁまぁ、まだ全種残ってんべ。ぁ、俺ショートケーキで……」

「ワシちょこ」

「犬にチョコは……」

「ワシは狐じゃ! そも、他のじゃろうとけぇきの時点で獣にゃ食わせられんじゃろうが。む……? なんじゃみっちゃん、モフりたいのか?」

実際抜けるのかはあやふやだし、抜けたとしてもそれは実体化しているだけの霊体の欠片だからすぐに消えてしまうものだとしても、毛が散りそうで嫌なのでミタマの尻尾を三本まとめて掴んで止めた。

「セイカは?」

「甘いのがいい」

「全部甘いと思うけど……素直に甘いのはショートケーキかな? ねぇ先輩」

「えっ俺に振んの。まぁ、チョコは苦味で、レモンは酸味で、それぞれアクセントついてんだろうから、甘いだけが好きならショートケーキかなぁ」

意見が合った。セイカの前にショートケーキを移動させると、彼は愛らしく微笑んで俺に礼を言ってくれた。

(素直ぉ~! 普段なら自分は最後に余ったやつでいいとか要らないとか言うくせにぃ)

残りは一種類ずつだ。

「荒凪くん、ケーキどれがいい?」

「全然年功序列じゃねぇべゃ、つーか年齢不詳二人も居るし」

「きゅ~……?」

「どれがいいか分かんない? どれも美味しいと思うし、今日選ばなかった方も食べたかったらまた今度買ってあげるから適当に選んでいいんだよ」

「けーき……」

荒凪の瞳が震える。瞬きをせず常に目を見開き、死んだ魚のような目をしている荒凪は滅多に瞳の表情を変えない。何かを目で追うことすらしないのだ、気になる物に視線を向ける時は首ごと動く。そんな彼の瞳が僅かだが震えたのだ。

「……もののべ、くれた。ケーキくれた、美味しい、甘い。僕達知ってる」

物部がケーキを? そうか、荒凪は確か犬神法とかいう可愛がった後に酷い目に遭わせる惨い呪法によって怪異に成ったんだったな。その過程で子供が喜ぶ定番のスイーツを与えるのは自然な発想だ。

「ケーキ、嫌な思い出かな」

「きゅ……ううん、甘い。好き。でも……きゅるるっ、でも……きゅうぅ……」

「……レモンケーキ、どうかな。夏限定の新作なんて物部のとこじゃ食べなかったんじゃない?」

「黄色、ケーキ、初めて見た」

「じゃあ、とりあえずはこれにしようよ。これから少しずつ色んなご馳走のイメージ俺に変えていって欲しいけど、ひとまずは、ね」

「…………ありがとう、みつき」

微笑んだ荒凪の頭を撫でながら、ショートケーキとチョコケーキを見下ろす。正直、俺はどっちでもいい。

「クンネ、どっちがいい?」

酸味が強いケーキは小人のクンネ達には刺激的過ぎるかもしれない、無難な二種が残ったのは幸運だ。

「って聞いても、ケーキなんて分かんないよね」

「分からん言うとるのぅ」

「じゃあ半分こしようか。両方食べれるよ。サキヒコくんも両方味わえるし」

フォークからスプーンに持ち替えて、ケーキの先端を少しすくってクンネの前へ突き出す。小さな両手でスポンジを掴んで、小さな口を大きく開けてかぶりつく姿には、もう、悶えた。

(ンァアアァアアーッ! 可愛い! 可愛い! 全身ねぶり倒して涎でべっとべとにした後てぃんてぃん擦り付けてぇ~!)

左手で口を押さえ、悶え狂う声を押し殺す。そうしているとクンネの妹がクンネに促され、恐る恐るケーキを食べ、パァっと笑顔になった。うん、妹ちゃんもかわいいね。

《あっまい! すっごい甘い、おいしい! ありがとうミツキ》

《勝手に笑顔になってしまいますわ……こんなにも美味しいものをありがとうございます、ミツキ様》

「感激しとる」

「野生生活じゃ甘いものなんて手に入らないだろうしねぇ、ふふ、いっぱいお食べ~」

手乗りサイズの生き物コロポックルの食性か……まぁ、リスとかと同じと考えていいのかな。北海道に居るし、エゾリス。

「サキヒコくんも、ほら、あーん」

「う、うん……では、失礼して」

サキヒコは口元に垂れる髪を手で押さえながら俺が差し出したケーキを一口食べた。色っぽい仕草に釘付けになってしまう、サラサラ揺れるおかっぱ髪に触れたくなる。

(さっさと食べてフォーク置いて、髪撫でさせてもらいまそ)

たった今サキヒコが食べたはずなのに欠けることなく残ったケーキの一欠片を口に運び、その味の薄さに眉を顰める。

(味うっす……)

サキヒコには美味しいものを食べて欲しいけれど、幽霊の彼が食べた後には味や匂いが欠落したそれが完璧な形のまま残される。いくら味や匂いが薄くなっているとはいえそれだけで捨てるのは勿体ないし、この真実を知ればサキヒコは物を食べるのを遠慮するようになるかもしれない。だから、俺は誰にも悟られることなくサキヒコが食べた後のものを食べるのだ。

「せんぱいせんぱいっ、あーん」

「ん? あーん……ん、ふふ、美味しいよ」

レイが差し出したチョコケーキを食べて始めて俺はこのケーキの本当の味を知った。

「お返しはショートケーキの方がいいかな? ほらレイ、口開けろ。あーん」

「水月、ボクのも食べてよ。美味しいよレモン」

「ありがと……サン、俺の口はもう少し下だよ」

目の前に黄色いケーキが差し出されている。サンの手首をそっと掴み、そっと下ろしてその甘み爽やかなレモンケーキを口に運んだ。

「ありゃ、惜しかったみたいだね。水月、身長の割に座高低いよ~」

「確かに……座ってるとそうでもねぇのに立つとデカくて怖ぇ」

「スタイルよくってごめーんねっ」

「ちょっとムカつく」

机の下で足を伸ばし、セイカを挟んで右隣に座っているカサネの足を爪先でくすぐる。触れた瞬間のビクッと驚く反応はもちろん、呆れ混じりの視線も可愛い。太腿が攣りそうになってでもやる価値はあった。
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