冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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冴えたアイディア (水月+ミタマ・サキヒコ・ネイ・クンネ)

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荒凪は道具だから、持ち主である物部に逆らえず意思に反して俺達を襲ってしまう。今の荒凪は物部が振るっている凶器のようなものなのだ、荒凪に落ち度はない。あるとすれば凶器を盗まれた俺の落ち度だ。

「荒凪くんを俺の所有物にするんです」

スピーカーからの命令は聞こえてこない。社長が壊した空調の中にあったのか、はたまた追加の命令を下す必要がないと考えているだけなのかは分からないが、こちらの状況を理解しての命令だったから、カメラか何かでこの部屋を見ているのは間違いない。作戦を聞かれないよう、唇を読まれないよう、俺は口元を手で隠して小声で話した。

「荒凪くん、俺の精液飲みたがってたんです」

「何いきなり」

「き、聞いてください! 一番多く荒凪くんに霊力を摂取させたヤツが荒凪くんの所有者になるって、荒凪くんが言ってたんです。荒凪くんは物部のモノで居るのが嫌だって、俺のモノにしてくれって、俺の霊力を欲しがってて……だから、飲精を。ほら、体液に含まれてる的な話あるじゃないですか」

「持ち主の条件って案外パワーゲームなんだね、知らなかったよ。君が預かってる間にどんどん飲ませてくれてたらこんなことにならなかったって訳だ」

「ぅ……飲精させられる関係性、そんなすぐ築けないですよ」

「さらわれた後で物部に霊力注がれたらアウトですから、むしろやらなくて正解では? こっちが注いで、向こうが注いで、またこっちが注いで……じゃ、消費霊力が多過ぎます」

まさか秘書がフォローしてくれるとは。社長はジロっと秘書を睨み、ほんのり頬を赤くして「確かに」と呟いた。

「霊力を注ぐ、か……僕がやったら殺しちゃうな。ポチは零能力者だし……あのフタって子は?」

「フタは感覚型の天才なんでそういう細かい技術面はさっぱり」

「お、俺がやりますってば!」

「霊能力者じゃないだろ君、霊力を他人に注ぐのって結構な高等技術なんだよ。狐、君にやってもらおうかな」

「ワシはやらん方がええ思う。あーちゃんは呪いの塊じゃ、神霊の神通力など流し込んで平気とは思えん。ワシもあーちゃんの霊力苦手じゃしな……」

「な、なら私が!」

「霊体しかない君が他人に霊力を移すのは危険だよ、存在消滅してもいいってなら止めないけど」

手を挙げたサキヒコは俺の顔色を伺いながらそっと手を下ろした。

「霊力の扱いなんて出来なくったって出来ますよ! 体液飲ませればいいんですよね」

「……まさかここでシコる気ですか!?」

「な訳ないでしょ! 言ってたじゃないですか秘書さん、一番霊力が含まれてるのは血だって」

「髄液だよ」

「……俺は血で行きます」

カサネに借りた黒曜石のナイフを握り締める。

「飲精何度かで俺のモノになれるって荒凪くん言ってたんです、だったら、血なら……もっと少なくて済む。ダメ、ですかね……生肉食わせるなとかって決まり、あったくらいですし」

「……それは人を食うことに目覚める可能性があったからダメだと言ってたんです。上手くいって鳴雷さんのモノになれば、命令が出せる。たとえ荒凪が人を殺して食いたくなったとしても、あなたがするなと命令しておけばいい。それだけの話です」

「じゃあ……」

「俺とフタ、狐でどうにか荒凪の動きを止めます。血を飲ませてください」

「……なら僕の血飲ませるのが手っ取り早くない? 僕が一番霊力多いし。君より出血量が少なく済むよ」

社長は袖を捲って手首を晒す。アキよりもカサネよりも肌が白い。

「ダメです! ユキ様に怪我なんてさせられません!」

「若神子の霊力は若神子以外が取り込んだらとんでもない死に方するとか言ってたじゃないですか!」

「人間に対して祟りが起こってとんでもない死に方した事例はあるけど、呪物に対してどうかは前例がないから分からないよ」

「どう考えても人間より呪物の方が祟りに遭いそうでしょ……! 俺の血なら絶対安全なんですって、荒凪くん俺の精液喜んで飲んでたんですから!」

「気持ち悪いこと言うな。ポチ、さっき鳴雷水月と猫又憑きに注射したヤツは? 霊力の塊だろ、アレ」

「ユキ様達の髄液とは違い、誰にでも打てるように精製の過程で個人の特性を失わせています。精製前の血が誰の物なのか血清から特定することは不可能です。荒凪がどうやって所有者を判断するのかイマイチ分かりませんが、単なるエネルギー補給用でしかないアレを荒凪に与えても荒凪がパワーアップするだけかと。まぁ、やってみる価値がないとは言いませんが」

「血を飲ませる方が確実か……仕方ないね。鳴雷水月、血を準備しておいて。動脈を切らないように気を付けなよ」

ナイフを握り締めて、荒凪へ向かう男達の背中を見る。ようやく俺にも役目が回ってきた、しかも一番大事な役目だ。失敗出来ない。

「ふーっ……」

「……水月くん、本当にやるんですか」

「聞いてましたよね、ネイさん……俺がちょっと血流すだけで荒凪くんを救えるんです。大丈夫、大丈夫……クンネ居るんだし、傷はすぐ縫ってもらえる……大丈夫、大丈夫っ」

ナイフを握り締めた手が震える。肌に押し当てても、それ以上力が入らない。

「荒凪くん……荒凪くんっ」

荒凪のためだ、荒凪を取り返すためだ。取り返せなければ、荒凪は殺すと言われただろう。早く切れ、早く。

「水月くん……」

「若……お、俺が切ろっか?」

「正気ですかあなた……!」

激痛のあまりか意識を失ったヒトを見下ろし、床に広がったヒトの血を爪先で踏む。フタが腕から血を流していたのを思い出す。

「ヒトさん……フタさん……」

アキが、血溜まりの中に倒れていたのを思い出す。

「アキ……!」

手首を切るのが怖いなら、位置を変えればいい。肌を切り裂くのが怖くて手が動かないなら、目を閉じて振り下ろしてしまえばいい。俺は血を流してきた彼氏達の姿を思い浮かべて自分を奮い立たせ、ナイフを肘の内側の少し下辺りに突き立てた。

「いっ……!?」

痛い。熱い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

「……っ、るさい痛がるなっ! はぁ……ふ、へへ……い、意外と、そこまで痛くない……かも」

手首を曲げ、手のひらで器を作る。手のひらに血が溜まっていく。

《ミツキ! 何してんだ、縫うからこっち来い!》

「行ってくるね、クンネ……終わったら縫うのよろしく」

出血の興奮で頭がクラクラしてきた。こんなのじゃみんなが作ってくれるチャンスを生かせないだろ、しっかりしろ。

「荒凪くん……」

フタと秘書とミタマが荒凪の攻撃を凌ぎつつ、押さえ込む隙を狙っている。社長が麻縄を握り締めて少し離れたところで待機している。怪力の荒凪を何秒も押さえていられるとは思えない、俺も社長の居る辺りで待機しておかなければ。
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