冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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遺骨の回収 (水月+ミタマ・ヒト・ネイ)

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あーちゃん……荒凪の、残骸。ミタマは今、そう言った。ガラスで仕切られた部屋の中央にある黒ずんだ塊が、荒凪だと。

「……っ、どこ!? どこから入れるのここっ!」

「な、鳴雷さん落ち着いて……」

「落ち着いてられませんよ! あ、荒凪くん……荒凪くん、ど、どう……死っ、死ん……もう、殺されっ…………?」

「落ち着けみっちゃん。言葉が足りんかったの、すまん。アレはあーちゃんの生前……人間だった頃の死体じゃ。あーちゃんは血も肉も骨も取り込んで怪異化しとるが、二人分にはちと足りん。怪異化の際に余分として捨てたのか、取り込み切れんかったんか、とにかく怪異化に着いてこれんかった血、肉、骨の余りがアレじゃ」

「…………荒夜くんと、夜凪くん?」

「そういうことじゃの」

「……どう、やって…………どこから、入るの? ここ……行きたい、傍に……傍に行きたい」

「…………ここだと思われます」

計器類の影からネイが顔を出した。ふらふらと走ってそちらへ向かうと、札が貼られた扉があった。この扉にはドアノブがついているが、握ってもビクともしない。

「封印の御札ですね。剥がしゃしまいですよ」

秘書が俺の肩越しに手を伸ばして札を剥がすと、途端にドアノブが傾いた。扉を開けると物置のような狭い部屋に出て、また札が貼られた扉を開けるとあのガラスに仕切られた実験場のような水槽のような部屋に出た。

「荒凪くんっ……」

黒ずんだ塊に向かって駆け出す。

「しかし死体残してるって妙じゃないですか? 荒凪が傑作って気付かず適当なオークションに出した訳じゃないですか、物部は。なら次の妖怪作るためにこの部屋綺麗にして空けとくでしょう」

「大した出来じゃないとしても怪異化した人間の余りなんて、それなりのパワーアップ材料になる。秀作が出来た時にでも食わせようと置いておいたんじゃないの? 僕が物部ならそうするよ」

「なるほどー……」

秘書と社長の無用な考察に割く耳などない。人間だったモノの傍まで行った俺は、その場に膝をついてそれを眺めた。酷い腐臭を発するそれは確かに肉だ、腐って溶けた肉だ。黒い血肉がこびり付いて分からなかったが、骨も見える。

「…………荒夜、くん?」

損傷が激しいが、頭蓋骨らしき物を見つけた。二人が一つになった怪異なのに、荒凪の頭は一つだけだ。頭が一人分足りない、ここに置いて行かれたんだ。

「顎、ない……口はあるもんね、荒夜くん……は、はは……ふふ……」

肉と皮膚を失うと、人の頭とはこんなに小さな物なのか。何故か勝手に笑いが零れた。

「…………鳴雷さんおかしくなってません? ねぇ……公僕、メンタルケアはあなたの方が得意そうです。屈辱ですけど任せますから何とかしなさい」

「言われなくてもやりますよ、水月くんは私にとって大切な子ですから。それと、公僕と呼ぶのはやめていただきたい」

酷い苦痛の中で死んでいったという荒夜と夜凪。荒夜の方は様々な呪いに蝕ませたから死の寸前既に原型を留めていなかったと物部は語った。頭蓋骨を見れば、あぁ確かにと、嫌な納得をした。

「……水月くん」

「ネイさん……見て、荒夜くん。ボロボロ……こっちの、太いの……足の骨かな。にしては短い……折れたのかな、でも、片割れ見つかんない……粉々に折られたのかな、変な呪いで骨溶けちゃったとかかな……ふ、ふふ、へへっ…………何笑ってんの、俺……なんで、笑えてるの、クズなの」

「水月くん、聞いてください。極端なストレスに晒されると、逆に笑ってしまうのはよくあることです。人間の防衛本能の一種でしょう」

「…………俺、変じゃない?」

「まともですよ、あなたは。誰よりも」

「腐った肉ぐちゃぐちゃ掻き混ぜて骨を探したのに?」

「せめて骨を回収しようとするのは、人間らしい行動です。持ち帰って、埋葬してあげましょう」

「うん……ぁ、でも、荒夜くん、生きてるっちゃ生きてる……」

「ミツキ、私も今ここに居るが墓はあるぞ」

「…………ならいいか。うん、持って帰る……ネイさん、俺これ持って帰る」

「入れ物を用意しなければなりませんね」

「……カイさん、エコバッグ持ってるって。さっき吐きかけた時、貸してくれた」

ネイは頷いて俺の頭を撫で、カイの名を呼んだ。小走りでやってきた彼にネイが俺の要望を話してくれた。

「骨持って帰りたいからエコバッグ貸せぇ?」

荒唐無稽な頼みだ、嫌に決まってる。嘔吐と腐肉がついた骨じゃ話が違う。

「OK! 骨って尖ってるとこねぇですか? 安モンだから刺さったらそっから破れっかもです」

いいんだ……ゲロ許容出来る人って、腐った死体も許容出来るんだ……

「入れ方には気を付けます。水月くん、ほら、頭蓋骨渡してください。私がちゃんと入れてあげますから」

「……お願い、します」

ネイは俺から受け取ったボロボロの頭蓋骨をそっとエコバッグに入れ、その他の骨も腐肉から丁寧に取り出して納めてくれた。

「出来ました。水月くんが持ちますか?」

「うん……ありがとう……ネイさん。カイさんも」

「若には元気でフタの兄貴とイチャついてて欲しいんで!」

「……はは」

エコバッグを肩にかけ、立ち上がる。酷い匂いだ、鼻が曲がってしまいそうだ。他の者達には申し訳ない、せめてエコバッグの口をしっかり閉じていよう。ファスナーが付いているタイプでよかった。

「異様な光景じゃの~……人骨入りえこばっぐ」

「埋葬と言ってもこんな回収の仕方をした骨をまともな墓に納めるのは難しそうですし……やはりミタマ殿の祠の隣にでも埋めることになるのでしょうか」

「マジか。超ド級の呪物じゃぞ。ワシ変質しそう」

そうだ、埋葬場所考えなきゃな……いやいやそれより、荒凪の奪還が先だ。怪異になろうとも荒凪は生きている、遺骨よりも生者優先なのは当然の話だ。混乱して骨をエコバッグに詰めてしまったが、こんなのは帰りでもよかった。荒凪と一緒に拾うのでよかったんだ。

「すいません……時間かけちゃって」

みんなの元に戻ってすぐ、俺は深々と頭を下げた。

「大した時間じゃない。構わない。行くよ」

社長はいつの間にかマスクを着けていた。ウサギの全頭マスクじゃない、よくあるサージカルマスクだ。腐臭対策かな、と、早速狂ってきた鼻でエコバッグを軽く嗅いだ。
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