冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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極小の抗議 (水月+クンネ・ヒト・フタ・サン・ネイ・ミタマ)

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まさかネイが俺に本気で惚れてくれたとは。とてつもない僥倖だ、恥ずべき甘ちゃんっぷりが逆に刺さるだなんて思いもしなかった。神秘の会に突入している今、ネイが俺から引き出すべき情報なんて何もないのだから、嘘発見器ことサキヒコに頼らず論理的に考えるだけでネイからの好意が本物だと分かる。

(嬉しいでそ……ん?)

冷静になってよく考えたら死亡フラグだよな、さっきのセリフ。

(ネイさん大丈夫でしょうか)

一人で先走るタイプではないけれど、オカルト知識の薄さはネックだ。

「あれ……?」

何気なく足元を見て、白い床に目立つ赤い足跡に気分を悪くするよりも先に、胸ポケットが空になっていることに気付いた。

「クンネ!? クンネどこっ、嘘落とした!?」

《どうしたミツキ、うるさいぞ》

耳の真横で声がして、驚きつつもそちらに目をやれば、肩の上にクンネが立っていた。

「クンネ! どうしたのそんなとこで……いつの間に登ったの? 危ないよ、掴まるとこもないのに……落ちたらひとたまりもないだろ? ここおいでよ」

胸ポケットを広げながら言うと、クンネは素直に胸ポケットの中へ滑り降りた。胸ポケットの中から俺を見上げる仕草は何とも可愛らしい。

《もう潰さないでくれよ》

「そうそう、そこに居てね」

寝かしつけるように胸ポケットの上からぽんぽんと優しく叩く。

「みつきぃ」

ネイの言いつけ通り死体に背を向け、出発を待つ俺の目の前に血みどろの男が現れた。

「……っ、フタ……さん」

「うん……んー? どしたのみつき、怖いのあった?」

怖いのはフタだ。あっという間に人を殺してみせて、表情一つ変えなかった。だが人殺しだからと怯えてはいけない、彼が殺さなければ撃たれていたのは俺だったかもしれないのだから、フタは命の恩人なのだから。

「い、いえ……フタさん、かっ、顔だけでも拭いておきましょう……他人の血は病原体なんです。目に入ったら大変ですから……」

救急箱の中にあったアルコールジェルをハンカチに垂らし、フタの顔を拭いていく。

「目閉じててくださいね」

「んー……」

ハンカチが真っ赤に染まってしまったが、フタの顔だけはどうにか綺麗に出来た。

「よし、綺麗になりましたよ」

「……よく分かんないけど、ありがとみつきぃ」

「ひっ……!?」

《だから潰れるって! 事前に言えってば!》

フタに抱きつかれるのは普段なら嬉しい。でも今彼は血まみれなんだ。血の匂いを間近で嗅いでしまうし、服に血が染み込んでしまう。

「痛、なに?」

《潰れるからやめろ!》

俺を抱き締めていたフタは、クンネの持つ小さな槍の持ち手で鎖骨を殴られて俺から離れた。

「……あっ、フタさん、クンネここに居るんで……ぎゅってされちゃうと、クンネぺたんこになっちゃいます」

槍を振り回してなにやら抗議している様子のクンネの言葉は分からないが、状況的に多分こういうことだと思う。

「ふーん……? ごめんね?」

「…………あの、フタさん」

「ん? なぁに、みつき」

これまでにも人を殺したことが? 何人くらい殺したの? 殺人に罪悪感とかないの? 無数の質問が浮かんだけれど、どれも口に出したくなくなっていく。

「漁り終えた? 行こうか」

後ろを見ないようにしていたが、何をしていたかは社員達の話し声と物音で分かる。フタが殺した男達が持っていた銃、銃弾などを回収していたのだ。ちょうどよかった、これ以上フタと話していたら余計なことを聞いてしまいそうだったんだ。

「銃、使えそう? こっそり一丁ちょうだい、ヒト兄貴が持たせてくれないんだよ」

「えー……適当に撃たないでくださいよ?」

盲目のサンに銃を持たせるなんて、いや、サンのことだ、密着してしか撃たないだろう。護身用として持っておくに越したことはない。

「フタさん、行きましょう」

「固まって行くぞ! フォーメーションは上でやってたのと同じだ。フタ、俺の斜め後ろ!」

「はぁーい」

非戦闘員として真ん中に押し込まれ、フタの背中を見る。真正面から血を浴びたフタの背中は綺麗なままだ。

「鳴雷さん、あのネイとかいう公僕と何を話してたんですか? 私、アイツ嫌いです……あんまり仲良くしないでください」

小学生女児みたいなこと言うなぁ。

「えっと……目の前で、人が殺されたの初めてで……ちょっとショック受けちゃってて。ネイさん警察だから、そういうののケア得意なんです。慰められちゃいました、はは……こういう情けないとこ、ヒトさんにはあんまり知られたくないので、その……話の詳細は、ごめんなさい」

「そう、ですか。分かりました」

ほんのりと頬を赤らめ、ヒトは俺から目を逸らす。相変わらず扱いやすい人だ。



真っ直ぐ一直線の廊下を進んでいくと、向かって右側に扉を見つけた。

「開けてみます?」

まだ廊下は続いている。扉を無視して廊下を進むか、部屋に入るか、秘書は社長に指示を仰いだ。

「覗くだけ覗こうか。こっちが正解って可能性もない訳じゃない」

「なんかカードキーとか要りそうですよ、ドアノブもないし。これじゃ幽霊にさっきみたいにしてもらう訳にはいきませんし、廊下の横幅的に突進するのも無理……バールでこじ開けるのもこのタイプのドアはちょっと難し──」

話している最中の秘書を下がらせ、社長はじっと扉を見つめた。次の瞬間、扉は跡形もなく崩れ去った。内側から破裂したような、そんな壊れ方だった。

「──い、っと……その手がありましたか」

砂粒のような扉の破片が床にこんもりと積もっている。社長はそれを跨ぎ、いの一番に部屋に入った。

「社長は霊視苦手なんですが、代わりにこういう攻撃方面が超優秀なんですよ。霊力で物理的作用を起こす時点で高等技術なんですが、ここまでの破壊となるともう世界では社長くらいしか」

「ぺらぺらバラすな駄犬」

社長自慢がしたくて仕方なかったふうの秘書はすまなさそうに笑って部屋に入った。俺達もそれに続く。

「計器類がたくさん……それに、これは」

壁際に設置された大量の機器を見回した後、ネイは透明の……おそらくは強化アクリルガラスか何かに指を這わせた。

「あれみたい。あれ。なんだっけ。魚いっぱい」

「……水族館ですか? 水や魚どころか岩も砂もないこれから水槽を連想出来るのは一種の才能ですよ、フタ」

コンコンと叩いた音で分かる過剰な分厚さ。強化ガラスで一面を作られた部屋は、確かに水槽のようにも思える。

「それよりも私はアレの方が気になりますが」

強化ガラスで仕切られた部屋と、計器類。ホラーゲーム脳の俺にはクリーチャーの実験か何かに使われていそうな部屋だと考えてしまう。そんな部屋の中央にポツンと鎮座する、黒ずんだ塊。ヒトはそれを指している。

「あまり指を差すでない、呪われるぞ」

「先に言ってください! アレ何か分かるんですか?」

「あーちゃんの残骸じゃ」

「…………え?」

ガラスに顔を貼り付けて見ても何なのかよく分からない、黒ずんだ塊。それを指してミタマが放った言葉は、俺の心臓を数秒止めるには十分な威力を持っていた。
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