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小人捕まえた! (水月+クンネ・ミタマ・サキヒコ・ヒト・サン)
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モフモフとした毛が愛らしい化け猫は俺をじっと睨みつけている。
「イチ、みつきのお願い聞いたげて」
フタがそう言うとモフ猫は渋々といった様子で俺の手のひらに小人を乗せた。十五~六センチくらいで、頭身は俺と変わらない。いや、俺はモデル体型だから俺よりは頭身が低いかな? っと話が逸れた。ディフォルメなんかはされていない、本当にただ人間が小さくなっただけという印象を受ける。
「だ、大丈夫……?」
《ぅう……痛い…………うわっ! お、下ろせっ、離せ!》
猫パンチをされて吹っ飛んだ際に頭でも打ったのか、ぐったりとしていた小人は身体を起こしたかと思えばすぐに暴れ始めた。
「わっ、ちょ、ちょ、暴れないで!」
屈んでいるとはいえ、この高さから落ちれば大怪我では済まないかもしれない。俺は小人を握って動きを封じた。
「やっちゃいますか? 乱童戦の桑ちゃんみたいに?」
「しませんよそんなこと! 落ち着い……痛っ!?」
手に激痛を感じ、小人に視線を戻してみれば指に太く長い針のような物が刺さっていた。小人のサイズを考えると、これは槍か?
「痛っ、ちょ、やめっ、痛い!」
「クリープショーでこんな話あったなぁ……人形が襲ってくるヤツ。知ってます? 鳴雷さんにはエボニーデビルとかの方が馴染み深いですかね、そういう襲い方してくるちっちゃいの」
「助けてくれません!?」
ザクザクと何度も指や手のひらを刺されている俺を目の前に、秘書は屈んだまま呑気に話している。対処してくれる気はないらしい。どうする? 力づくで押さえつけることは出来そうだが、加減が難しい。骨を折ってしまうかもしれない。
「ミツキに何をする!」
躊躇する俺の手からサキヒコが小人を奪う。しっかりと腕を押さえており、俺のような反撃に合うことはなさそうだ。
「そのまま潰してやりなさい! 鳴雷さんを刺すなんて、とんでもない害虫です!」
相変わらず鼻と口を手で覆ったまま、部屋にも入らずヒトが喚く。
「最後のシ者的な……」
「秘書さんちょっと黙っててくれませんかね! サキヒコくんダメ! そんなに深く刺さってないし大して痛くもないよ。こっちが先に攻撃しちゃったんだし、離してあげて」
嘘だ、めちゃくちゃ痛い。
「……ミツキがそう言うなら、そうする」
サキヒコは床にそっと小人を下ろした。途端、小人は開け放たれた扉に向かって走り出し、結界とやらにぶつかったのか尻もちをついた。よく磨かれたガラス戸にぶつかってしまうハプニング映像でよく見る動きだった。
「だ、大丈夫?」
《……! 来るな!》
震えながら小さな小さな槍を構える姿に胸がキュンと痛む。
「声、小さくてよく聞こえないけど……言葉違うよね? 小人語……なのかな。コンちゃん確か言霊で誰とでも会話出来るよね、俺達は敵じゃないって伝えてくれないかな」
「やってみるが……ぶん殴って噛み付いた連中の言葉、聞いてくれるかのぅ」
「……結界解くのにしばらくかかるから、その小人から色々情報聞き出しておいて。ポチ、肩車」
ようやく部屋に入ってきた社長は秘書に肩車をさせ、天井に指を這わせた。見上げていなかったから気付かなかったが、天井に魔法陣のような模様がある。アレが結界を作り出しているモノなのだろう。
「独学タイプか、厄介……」
魔法陣を眺める社長を横目に、ミタマと小人の会話に聞き耳を立てる。ミタマの方は日本語だが、小人の方は何語か分からない。小人伝承は海外の方が有名な気がするし、海外妖怪なのだろうか。あるいは小人独自の言葉かもしれない。
「…………物部の敵だと言ったら結構信用してくれたぞぃ」
「敵じゃないって伝わった? って……え、物部の敵? それで信用ってことは、被害者……?」
まさか、元人間?
「うむ。突然物部を名乗る男に捕獲され、カラスやら何やらに呪術陣を彫らされていたらしい。む? 目玉や耳の縫い付けも……?」
カラスに施された陰惨で細かな改造は、この小人が行っていたのか。
「……小人は小人なの? じ、実は日本中の家の軒下に住んでたりするの? あぁいやごめん今のなし、そんな質問に答えてられる状態じゃないよね……傷、手当させてもらっていいかな?」
救急箱を開けながら、ミタマに尋ねてもらう。小人は少し悩むような仕草を見せた後、頷いて俺の方へとてとてと走ってきた。
「コンちゃん、今から俺が言うことそのまま伝えてくれる?」
「あい分かった」
「……怪我、見せて」
小人は身にまとっている汚れたボロ切れを脱ぎ、裸を晒した。よく出来た十八禁フィギュアを見ている気分だ、細かいところまでよくもまぁこんな……おっと、ボロ切れで身体を隠してしまった。裸への羞恥心は人間と変わらないようだ。
「まずは消毒を……」
小さくちぎったガーゼに消毒液を染み込ませて小人の身体に押し当てる。
《痛い! 染みる!》
「染みて痛がっとるぞ」
「消毒液だもん……ごめんね。でも、カラスなんて弄ってたら絶対よくない雑菌ついてるから、包帯巻く前にちゃんと消毒しないと」
猫の噛み傷も小人スケールではナイフによる刺傷同然。脇腹の傷から流れる血を見ていると、倒れたアキの姿が脳裏に浮かんだ。感傷に浸っている場合かと自分を叱りつけ、止血しつつもう一枚ガーゼをちぎって消毒液を染み込ませ、小人の手を拭いた。
「他人の血が傷口に入っちゃったら大変だから、俺の血もちゃんと拭いておかないとね」
小人の身体を拭いたガーゼには血以外にも黒っぽい汚れがある。不衛生な仕事を強要しておいて、ろくに身体を洗わせてもいないのだろう。
「……俺の弟は、物部のせいでお腹刺されて大怪我したんだ。ちょうど今の君みたいな感じでさ……思い出すよ。ごめんね、怪我させちゃって……猫ちゃん達に悪気はないと思うんだ、猫だし……代わりに俺が謝るよ、本当にごめん」
「復讐するなら一噛みさせろ、と言っておる」
包帯を四分の一の細さに切り、腹部に巻きながら、小人が参加しても戦力はほとんど変わらないだろうなと考える。
「分かった、一緒に頑張ろう」
「救急箱の中身を見せろと言っておるぞ」
「……? いいけど」
小人は救急箱によじ登ると針と糸を手に持った。適度な長さに糸を切ると、小人は俺の手のひらに飛び移って何やら忙しなく動き始めた。くるくると踊るような、目にも止まらぬ速さだ。
《出来た。協力の証だ。俺もお前も互いに怪我させて、手当てした。これでお互い様だからな》
救急箱に飛び移り、針を元の位置に戻す。
「……! 手にいっぱい空いてた穴が縫われてる! すごい……正直全然縫うほどの傷じゃなかったけど、すごい!」
なんという手際の良さだ。そりゃ化けガラスが山ほど居る訳だ。
「ありがとう。一緒に頑張ろうね。あ、そうだ、君の名前は? 俺は鳴雷 水月。よろしくね」
「クンネ、と言うそうじゃ」
「クンネくん……クンネでいいか、くん被るし。よろしく、クンネ。あのさ……服、どうする? これだいぶ汚れてるし着ない方がいいと思うけど……裸ってのもね。俺簡単なのなら服作れるけど、まず布がないしなぁ」
「んなもん簡単じゃろ。ワシが同じくらいに変身するじゃろ?」
ポンッ、と音を立ててミタマの姿がクンネと同じ大きさに縮む。驚く彼の前で服を脱ぎ、ミタマは元の姿に戻った。
「それ着てええぞぃ」
「コンちゃん便利だなぁ……クンネ、一人で帯結べる? やってあげようか?」
《頼む》
バレンタインチョコを飾るリボンのような細さの帯を、クンネの小さな身体に負担をかけることなく結ぶことなど出来るだろうか?
「みっちゃん着付け出来るんか?」
「コンちゃんを脱がす時のために色々調べたんだよ」
話しながらでも出来る。何故なら俺は、手芸が得意な器用系超絶美形なので。
「イチ、みつきのお願い聞いたげて」
フタがそう言うとモフ猫は渋々といった様子で俺の手のひらに小人を乗せた。十五~六センチくらいで、頭身は俺と変わらない。いや、俺はモデル体型だから俺よりは頭身が低いかな? っと話が逸れた。ディフォルメなんかはされていない、本当にただ人間が小さくなっただけという印象を受ける。
「だ、大丈夫……?」
《ぅう……痛い…………うわっ! お、下ろせっ、離せ!》
猫パンチをされて吹っ飛んだ際に頭でも打ったのか、ぐったりとしていた小人は身体を起こしたかと思えばすぐに暴れ始めた。
「わっ、ちょ、ちょ、暴れないで!」
屈んでいるとはいえ、この高さから落ちれば大怪我では済まないかもしれない。俺は小人を握って動きを封じた。
「やっちゃいますか? 乱童戦の桑ちゃんみたいに?」
「しませんよそんなこと! 落ち着い……痛っ!?」
手に激痛を感じ、小人に視線を戻してみれば指に太く長い針のような物が刺さっていた。小人のサイズを考えると、これは槍か?
「痛っ、ちょ、やめっ、痛い!」
「クリープショーでこんな話あったなぁ……人形が襲ってくるヤツ。知ってます? 鳴雷さんにはエボニーデビルとかの方が馴染み深いですかね、そういう襲い方してくるちっちゃいの」
「助けてくれません!?」
ザクザクと何度も指や手のひらを刺されている俺を目の前に、秘書は屈んだまま呑気に話している。対処してくれる気はないらしい。どうする? 力づくで押さえつけることは出来そうだが、加減が難しい。骨を折ってしまうかもしれない。
「ミツキに何をする!」
躊躇する俺の手からサキヒコが小人を奪う。しっかりと腕を押さえており、俺のような反撃に合うことはなさそうだ。
「そのまま潰してやりなさい! 鳴雷さんを刺すなんて、とんでもない害虫です!」
相変わらず鼻と口を手で覆ったまま、部屋にも入らずヒトが喚く。
「最後のシ者的な……」
「秘書さんちょっと黙っててくれませんかね! サキヒコくんダメ! そんなに深く刺さってないし大して痛くもないよ。こっちが先に攻撃しちゃったんだし、離してあげて」
嘘だ、めちゃくちゃ痛い。
「……ミツキがそう言うなら、そうする」
サキヒコは床にそっと小人を下ろした。途端、小人は開け放たれた扉に向かって走り出し、結界とやらにぶつかったのか尻もちをついた。よく磨かれたガラス戸にぶつかってしまうハプニング映像でよく見る動きだった。
「だ、大丈夫?」
《……! 来るな!》
震えながら小さな小さな槍を構える姿に胸がキュンと痛む。
「声、小さくてよく聞こえないけど……言葉違うよね? 小人語……なのかな。コンちゃん確か言霊で誰とでも会話出来るよね、俺達は敵じゃないって伝えてくれないかな」
「やってみるが……ぶん殴って噛み付いた連中の言葉、聞いてくれるかのぅ」
「……結界解くのにしばらくかかるから、その小人から色々情報聞き出しておいて。ポチ、肩車」
ようやく部屋に入ってきた社長は秘書に肩車をさせ、天井に指を這わせた。見上げていなかったから気付かなかったが、天井に魔法陣のような模様がある。アレが結界を作り出しているモノなのだろう。
「独学タイプか、厄介……」
魔法陣を眺める社長を横目に、ミタマと小人の会話に聞き耳を立てる。ミタマの方は日本語だが、小人の方は何語か分からない。小人伝承は海外の方が有名な気がするし、海外妖怪なのだろうか。あるいは小人独自の言葉かもしれない。
「…………物部の敵だと言ったら結構信用してくれたぞぃ」
「敵じゃないって伝わった? って……え、物部の敵? それで信用ってことは、被害者……?」
まさか、元人間?
「うむ。突然物部を名乗る男に捕獲され、カラスやら何やらに呪術陣を彫らされていたらしい。む? 目玉や耳の縫い付けも……?」
カラスに施された陰惨で細かな改造は、この小人が行っていたのか。
「……小人は小人なの? じ、実は日本中の家の軒下に住んでたりするの? あぁいやごめん今のなし、そんな質問に答えてられる状態じゃないよね……傷、手当させてもらっていいかな?」
救急箱を開けながら、ミタマに尋ねてもらう。小人は少し悩むような仕草を見せた後、頷いて俺の方へとてとてと走ってきた。
「コンちゃん、今から俺が言うことそのまま伝えてくれる?」
「あい分かった」
「……怪我、見せて」
小人は身にまとっている汚れたボロ切れを脱ぎ、裸を晒した。よく出来た十八禁フィギュアを見ている気分だ、細かいところまでよくもまぁこんな……おっと、ボロ切れで身体を隠してしまった。裸への羞恥心は人間と変わらないようだ。
「まずは消毒を……」
小さくちぎったガーゼに消毒液を染み込ませて小人の身体に押し当てる。
《痛い! 染みる!》
「染みて痛がっとるぞ」
「消毒液だもん……ごめんね。でも、カラスなんて弄ってたら絶対よくない雑菌ついてるから、包帯巻く前にちゃんと消毒しないと」
猫の噛み傷も小人スケールではナイフによる刺傷同然。脇腹の傷から流れる血を見ていると、倒れたアキの姿が脳裏に浮かんだ。感傷に浸っている場合かと自分を叱りつけ、止血しつつもう一枚ガーゼをちぎって消毒液を染み込ませ、小人の手を拭いた。
「他人の血が傷口に入っちゃったら大変だから、俺の血もちゃんと拭いておかないとね」
小人の身体を拭いたガーゼには血以外にも黒っぽい汚れがある。不衛生な仕事を強要しておいて、ろくに身体を洗わせてもいないのだろう。
「……俺の弟は、物部のせいでお腹刺されて大怪我したんだ。ちょうど今の君みたいな感じでさ……思い出すよ。ごめんね、怪我させちゃって……猫ちゃん達に悪気はないと思うんだ、猫だし……代わりに俺が謝るよ、本当にごめん」
「復讐するなら一噛みさせろ、と言っておる」
包帯を四分の一の細さに切り、腹部に巻きながら、小人が参加しても戦力はほとんど変わらないだろうなと考える。
「分かった、一緒に頑張ろう」
「救急箱の中身を見せろと言っておるぞ」
「……? いいけど」
小人は救急箱によじ登ると針と糸を手に持った。適度な長さに糸を切ると、小人は俺の手のひらに飛び移って何やら忙しなく動き始めた。くるくると踊るような、目にも止まらぬ速さだ。
《出来た。協力の証だ。俺もお前も互いに怪我させて、手当てした。これでお互い様だからな》
救急箱に飛び移り、針を元の位置に戻す。
「……! 手にいっぱい空いてた穴が縫われてる! すごい……正直全然縫うほどの傷じゃなかったけど、すごい!」
なんという手際の良さだ。そりゃ化けガラスが山ほど居る訳だ。
「ありがとう。一緒に頑張ろうね。あ、そうだ、君の名前は? 俺は鳴雷 水月。よろしくね」
「クンネ、と言うそうじゃ」
「クンネくん……クンネでいいか、くん被るし。よろしく、クンネ。あのさ……服、どうする? これだいぶ汚れてるし着ない方がいいと思うけど……裸ってのもね。俺簡単なのなら服作れるけど、まず布がないしなぁ」
「んなもん簡単じゃろ。ワシが同じくらいに変身するじゃろ?」
ポンッ、と音を立ててミタマの姿がクンネと同じ大きさに縮む。驚く彼の前で服を脱ぎ、ミタマは元の姿に戻った。
「それ着てええぞぃ」
「コンちゃん便利だなぁ……クンネ、一人で帯結べる? やってあげようか?」
《頼む》
バレンタインチョコを飾るリボンのような細さの帯を、クンネの小さな身体に負担をかけることなく結ぶことなど出来るだろうか?
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