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もう誰にも傷付いて欲しくないから (水月+ネイ・ミタマ・ヒト・サン)

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目の前で霊視を行われても、ただ集中している人が居るなぁとしか思えない光景なのに、ビデオ通話を使った遠隔の霊視なんて、それ以上に言うことがない。

『……っ、見えた! でも、いってぇえ! また目の血管切れたぁ! 痛い! 染みるっ、自分の血が染みるぅ!』

『落ち着けバカ息子! 親父、さっさと心霊治療!』

『じっとしてくれなきゃ治せないよ。雪風、雪風落ち着いて』

数分間の沈黙の後、電話の向こうが騒がしくなり始めた。昨日もカラスの霊視で目の辺りから血を流していた、霊視はそんなにも過酷なものなのか……

「雪風、早く場所教えて」

『いたわれ! お父様を! つーかよ、緯度経度がバッと出るとかじゃねぇんだぞ。遠くのどっかの映像っつーか画像っつーか、そんなのが頭に浮かぶんだ。どこかなんてパッと分かんねぇよ』

「建物とか見えたか?」

『ん? あぁ、物部が居たのは病室みたいなとこだったんだが、視られたことに気付いたのか弾き飛ばしてきやがってな……吹っ飛ばされながら建物の外観と、その周りの景色を見たから……記憶を頼りに頑張って調べるわ』

「待て。まだ切るな。シバ! 特定しろ、出来るな?」

「……! 出来る」

通常の通話に戻し、スピーカー機能もオフにしたスマホがタブレットを持った男の手に渡る。

「俺はユキ様が乗ってきた車で行く。シバ、お前もこっち来い。特定出来たら出発するから、カイ、アキタ、お前ら着いてこいよ」

「はーい!」
「分かりました」

二台の車それぞれの運転手が元気に返事をする。俺はサンに腕を組まれ、先程乗った車に向かった。

「公安はさっさと帰れ。息子待ってんだろ」

「行くに決まってるでしょう! あなた達は怪異と戦えても、犯罪組織への対応は出来ないんですから」

「物部を殺しゃそれで終わりですよね、ユキ様。次代のボスやそれに相当する幹部が居るとは思えません、天才一人でやってる組織はそいつさえ潰せば散り散りです」

「野蛮です! テロ組織というのはそんな簡単な話じゃない! 物部に相当する才能の持ち主が居なかったとしても、地震を起こせる怪異を欲しがる思想の持ち主は居るでしょう。危険思想の持ち主をそのまま逃がすなんてありえない、逮捕までは無理でも監視対象にするため情報を控えなければ」

「怪異案件って結論出たんでしょう? 人員も金も割けないってことですよね、監視対象って……あなたの個人的なストーキングのことですか?」

「言ったでしょう、怪異案件とされたのは死体が動いたことだけで、神秘の会との繋がりはまだ分かっていないんです。単に危険思想の持ち主として監視対象にするんですよ、そのための証拠が欲しい。怪異の製造自体は怪異案件でも、その動機がテロルなら……監視対象くらいには、きっと」

「…………まぁ、着いてきたいなら好きにしたらいいですけど、呪殺されても知りませんよ。怪異を使ったテロなんて妄言で片付けられかねませんけど……荒凪みたいに、怪異を作るために殺された人間はいっぱい居そうですし、組織的な大量殺人とかの方が現実的じゃないですか?」

秘書とネイの言い争い紛いの会話を聞き流しながら、車に乗り込んだ。両隣は当然ヒトとフタだ。

「これから乗り込むんだよね、荒凪くんを攫ったヤツらの……物部の、本拠地に。化け物いっぱい居るのかな……」

「心配するなみっちゃん、みっちゃんのことはワシが守ってやる」

「……うん。それは信じてる…………あのさ、聞こうか迷ってたんだけどサンとヒトさんは何で来てるの? フタさんは化け猫達居るからアレだけど……二人は霊感ないよね?」

「ボス、来るなって言わなかったし……なんか出来ることあるんじゃない?」

「あの人その辺ちゃんと考えてるのかなぁ……気を付けてね? 俺としてはもう車で待って欲しいよ。アキも、レイも怪我して……荒凪くん攫われて、その上ヒトさんとサンも怪我とかしたら、俺もう……耐えられないよ」

「鳴雷さん……大丈夫ですよ、私もサンもそれなりに修羅場をくぐってきていますが、目立つ傷跡なんてないでしょう?」

「修羅場ってほどの修羅場なかったよ」

「あなたは組長な上に目が見えないんですから、そりゃそうでしょう」

「あぁ、そういえばボクってばヒト兄貴と違って替えのきかない人間だったね」

「そうですね、あなたほど胡散臭い画家そうそう居ませんよ」

二人とも俺に気を遣ってくれているようだ、すぐ主目的が口喧嘩に移ったけれど。

「サンは特に手大事にしないとダメなんだよ?」

「分かってるよ」

「ヒトさんは、せっかく上品でヤクザっぽくないんですから、厳つい傷跡なんて作っちゃダメなんですよ」

「ふふっ、気を付けます」

よし、二人とも機嫌が治った。画家だからとか、ヤクザっぽさを増さないためだとか、そんな理由付け本当はしたくない。大切な人達だから傷付いて欲しくない、でもそう言っても二人は張り合うばかりで聞いてくれない。もちろん手や顔以外も、全身傷付いて欲しくない、痛みを感じて欲しくない。そう言いたい、でも俺の言いたい言い方じゃ伝わらない。

「……フタさんも、ですよ。秘書さんには戦闘要員に数えられてそうですけど、無茶しちゃダメですからね」

俺には見えない化け猫達と戯れている様子のフタにそう言うと、彼は「分かった」と笑った。

「何にも分かってないですよ、コイツ」

今回ばかりはヒトに同意だ。フタは重要な戦力かもしれないが、それ以前に俺の大切な恋人だ。せめてフタを切り込み隊長にするような真似はやめてくれと秘書に頼んでおかなければな。
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