冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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ひたすらに顔を (水月+ミタマ・サキヒコ・サン)

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メッセージアプリを立ち上げてネイから送られてきた動画を確認してみる、薄暗い道を車が走っているだけの何の変哲もない監視カメラの映像のようだ、俺には何も分からない。この数分間の通話履歴……秘書と何を話したんだろう。

「着きました!」

車は寂れた駐車場に停まった。地面はアスファルトではなく砂利で、周辺には街灯も少ない。随分郊外に来たものだ。

「……あぁ」

車移動でまた調子を悪くしたらしい秘書がフラフラと車を降りていった。トランクに詰めた、襲撃犯にを振った襲撃犯の先輩とやらを尋問するのだ。俺もヤツに言いたいことがある、降りよう。

「前失礼します」

フタの前を通り、真ん中の席の不便さを感じながら外へ出た。

「みっちゃん、あまり過激なことは考えるでないぞ」

トランクを開けている運転手の元へ向かう俺の背後に、いつの間にかミタマが立っていた。

「……別に、考えてないよ」

「さっちゃんがみっちゃんが憎悪の色に染まっとると言っとる。あーちゃんにせっちゃんの親を呪わせた時と、同じ色じゃとな」

「…………」

「あの男にも報いを与えるつもりか? せっちゃんの親のように」

セイカの母親がどうなったか、俺は知らない。荒凪の呪いの結果を俺はまだ確認していない。にも、なんて言われても分からない。

「報いとは、何じゃろうな」

「知らないよそんなの……コンちゃんは何なの、人殺すこと平気で同意したどころか勧めたくせに、俺には聖人で居て欲しいわけ? 何でも赦して欲しいわけ?」

「……最終的にはみっちゃんの選択に任せるつもりじゃ。ワシの祝福を……神通力を、呪いに使わせようとも……ワシを何に堕とそうとも、みっちゃんが心の底から望んだ結果ならそれで良い。じゃが、ワシにはみっちゃんが陽のあたる場所から遠ざかってもなお幸せを感じられるタチだとはどうも思えんのじゃ。ワシの首を直してくれた優しいみっちゃんはきっと、怒りと憎しみのままに復讐を果たしても、虚しさしか感じんじゃろうとな。じゃから、ワシの忠告は今のみっちゃんには鬱陶しく感じるんじゃろう」

ミタマは分かっていない。俺はそんな綺麗な人間じゃない、俺は醜い悦びに身を浸したって笑える人間だ。

「歯引っこ抜くと何言ってるか分かんないしなぁ、爪やるか」

「ペンチないっすよ」

「葉巻カッターならあるよ~」

「……じゃあ端っこからちょっとずつ切ってくか」

ミタマの言葉が途切れ、俺が返事をしないでいると物騒な会話が聞こえてきた。

「…………みっちゃんは、あんなふうに生きていける人間じゃない。ワシはそう思っとる。信じとるよみっちゃん、ワシをこのままのワシで居させてくれると。じゃが、みっちゃんに堕とされるのなら……みっちゃんが望むのなら、ワシは邪悪な怪異と成り果てようと、みっちゃんに恨み言を吐いたりはせん。心の赴くままに生きる道を選んでおくれ」

俺はミタマに返事をしないまま、サンの隣に並んだ。葉巻カッターを握った右手にそっと手を添えた。

「この手は……水月! ふふ、なぁに水月」

「……こんなヤツの血肉がついたことのある刃で、サンが楽しむ葉巻切って欲しくない。こいつの成分がサンの肺に取り込まれちゃう気がする。そんなのやだ」

「水月ぃ……葉巻はそんな肺に入れて吸うようなものじゃないんだよ? 煙草じゃないんだからさ。でも、ふふ、可愛い。分かったよ。ボス、やっぱこれ貸さない」

「……すいません秘書さん、ちょっと俺に話させてくれませんか?」

秘書は「どうぞ」と興味なさげに男に手のひらを向けた。俺は運転手によってうつ伏せに押さえ付けられている男の前に屈んで、口を開いた。

「俺の家を襲ったヤツらが、あなたに仕事を紹介されたって言ったんです。青い髪の子供をさらう仕事をって……合ってますか?」

「…………知らない」

穂張事務所で尋問した二人と違って、大騒ぎで命乞いをしたりはしないようだ。これが格の違いってヤツか? 年季の違い?

「なんで、さらわせたんですか?」

「…………分からない」

「鳴雷さん、そういうの俺達がさっき聞いたんですよ。あなたがそこの狐にありがたいお説教されてる時に。だから聞き出すためにどう痛めつけようかって話してた訳で」

「さらわれた子は大切な子なんです。教えてください、早く取り返さないとどんな目に遭うか……お願いします。教えてください。あなたにだって大切な人の一人や二人居るでしょう、荒凪くんが心配な俺の気持ち分かってくれますよね?」

「……だから、分からないんだ」

「…………あなたが命令した連中、俺の弟刺したんですよ」

「それは……知らない、言ってない。タタキ……ぁー、強盗の仕事は何件か振ったけど、誘拐とか刺したりとかは」

「そんな仕事あってたまるか!」

感情のままに立ち上がり、男の頭を蹴った。

「わ、何の音?」

「初手サッカーボールキックとはなかなか」

「アキがっ! 俺の弟がっ! 血まみれで! 倒れてたんだよ! 可愛いレイもっ、殴られて! 家ぐちゃぐちゃで! 荒凪くん居なくて! っざけんな! ふざけんなっ……少しでも悪いと思うんなら、荒凪くんの居場所吐けよ……!」

駄々を捏ねる子供のように足を振った。嫌な感触が何度も爪先にあった。

「知ら……ない」

顔が半分水に浸かっているような、鼻が詰まったような、聞き取りにくい言葉だった。

「…………あっ、そう……そうか、そっかぁ……そうかぁ…………じゃあ特別に! アキとおんなじになりゃ許してやるよ! シバさんどいてそいつの腹出させて!」

ポケットに入れていた巾着袋からナイフを引っ張り出し、握り締める。

「ミツキ! それは繰言の大切な物だ、そんな目的に使ってはいけない。それだけはダメだ」

「そうじゃみっちゃん、せめて違う刃物を使え! いや出来ればそんな真似自体して欲しくはないんじゃが! じゃが! せめて……!」

「聞き取りにくくなるから鼻とか歯とか折るのはやめてくださいよ。おーい、質問変えますよ。神秘の会は知ってますか?」

「…………」

「聞いてます?」

「ん……? おい離れろっ! 離れるんじゃ! おかしいっ、急激に霊力が高まっとる!」

秘書が飛び退くと男を押さえ付けていた運転手も跳んで逃げた。サンはいつの間にやらミタマの背後に隠れている。

「ひっどいことするな……鼻折れてるじゃん、話しにく……」

「…………ま、まさか、物部……か?」

「お、正解。すごいね」

点いたままの車のライトが立ち上がった男を──物部を照らす。その顔は血で真っ赤に染まっているのに満面の笑顔を貼り付けていて、酷く気味が悪かった。
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