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疲れる兄弟 (水月+ミタマ・サキヒコ・ヒト・フタ)

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厳つい車の運転席にはカイと呼ばれた男が座り、助手席にサンが座った。俺は最後部の座席の真ん中に座り、ヒトとフタに挟まれた。腕をぎゅっと抱き締められている、役得だ。

「アンタら邪魔なんで消えといてください」

「神に向かってなんたる言い様……バチが当たるぞ!」

「ミタマ殿……実際邪魔なのですから……」

ミタマとサキヒコは実体化をやめた。透けた姿すら見えないし、何の重さも感じないけれど、きっと俺の傍に居る。

「コイツが例の先輩、ね。まぁ公安からもらった情報のが確実だろうけど……行き道にある居酒屋に居るみたいだし、行ってみるか」

真ん中の座席には秘書とタブレットを持った男が座っている。

「……別の店移ったっぽい。二次会の写真、SNS上がってる」

「近場の店だろ。特定しろ」

「してる。ここ」

「流石シバ。カイ、ここ行け」

タブレットを見せられた運転手は明るく頷き、アクセルを踏んだ。シバと呼ばれている男はじっと俯いている。

「……ん? あぁ、忘れてた。グッボイグッボーイ」

「…………」

秘書は男の頭を雑に撫で、男は満足気に姿勢を正してシートベルトを締めた。

「ミィ、ダメだよ。犬殴っちゃダメ。え……? キツネ……?」

隣ではフタがずっと猫達やミタマ、サキヒコと話している。実体化していないミタマとサキヒコの様子が見られる霊能力は羨ましくもあるが、傍から見ると完全に不審者で、それを思うと羨ましさが少し萎んだ。

「……鳴雷さん? どうかされました?」

着いてきている車の方を振り返っていると、ヒトが歳に合わない幼げな表情で俺を見つめた。

「ん、いや……他の社員さん達、来てるな~って。後ろの車ちょっと見てただけです。特に意味はありませんよ」

「じゃあ私見ててください……私の顔好きでしょう?」

「…………あの、ヒトさん。シバさんとか、カイさんも居ますから……ね?」

先程社員達に無視されたことで拗ねているヒトは、事務所の者達には俺達の関係を知られる訳にはいかないという過去の自分の判断を失念しているらしい。そっと小声で思い出させてやると、更に拗ねたような表情になって俺の肩に頭を預けるのをやめ、代わりとでも言いたげに俺の手を強く握り締めた。

「みつきぃ、なんか怒ってる? 俺なんかした?」

「えっ……? い、いえ……怒ってるように見えました?」

怪異達と楽しく話していたはずのフタがいつの間にか不安げな表情で俺を見つめていた。アキが刺されたことへの怒りや、荒凪が攫われたことへの怒りを感じ取ったのだろうか?

「…………私が約束忘れてベタベタしたからですか?」

「は……!? ち、違いますよ。覚えてます? 俺弟刺されたんですよ……!? そりゃ多少顔に苛立ち出たりもしますよ、今日はあんま顔見ないでください。綺麗な顔出来てないんで」

「みつきはきれーだよ。かわいい!」

「ぁ、ありがとうございます……」

疲れる。この兄弟、疲れる! 万全の時だって大変なのに、アキが刺され荒凪が誘拐され心労が溜まっている今この時でも、この兄弟の相手をしなければならないのか? フタは忘れっぽいから仕方ないけれど、ヒトは俺の心労を察して遠慮してくれてもいいんじゃないか?

「鳴雷さんはカッコ良くて美しいんです、分かってませんねフタは。男に向かって可愛い可愛いと……嫌がられますよ普通。嫌われますよ?」

「え……やだ。ごめんみつき……だってみつきかわいいから……あ、また言っちゃった……みつきぃ、ごめん……嫌わないで」

黙っててくれないかなぁ主にヒト! 煽るなよもぉ!

(あれ……? これ私がおかしいんですか? 弟刺されたってそんな気にすることじゃないんですか? なんで配慮してくれないの……?)

ヒトは弟達と仲が悪いから弟が刺されて酷いショックを受けている俺の気持ちが分からないのだろうか。それとも、そもそも他人の気持ちを考えるとかそういうことが出来ないタイプの人間なのだろうか。

「着きました! この居酒屋っすよね」

「あぁ……? ぁー、じゃあ、連れて来い」

「っす!」

「……フタ、お前も行け。お前が居ると早く事が済む」

「はーい。どこ行くの?」

「こっちこっちフタさん、コイツ捕まえるんですよ」

車から降りたフタは運転手に連れられて隠れ家的雰囲気の居酒屋へ入っていった。

「ボス……どうしてフタばかり、私の何が気に入らないんですか?」

「適材適所だ。半グレもどきのバカを飲み屋から連れ出すのには、刺青丸出しのフタのが合ってる。違うか?」

「……違いません」

「だろ。お前は品があるからなぁ、こういうのは向かない」

「…………ふふ。ですよね。すみません、意見してしまって」

ヒトの機嫌が治った。彼氏の俺よりもヒトの扱いが上手い秘書に、普段なら嫉妬するところだが今日は「ラッキー」だの「助かった」だのといった感想ばかり浮かんでしまう。

「ボス、連れてきました!」

真新しい鼻血をダラダラと垂らしている男が運転手に襟首を掴まれている。

「そいつがアキ刺せって言ったヤツですか」

「トランク詰めとけ」

「っす!」

「えっ、ちょっ、問い詰めたいことが」

「こんな道端でやったら警察来て面倒です。俺は超法規な人間ですが、通報されれば当然警察は来るし引かせる度に社長に報告上がるので後からネチネチ言われるんですよ」

背後でトランクが開け閉めされる音と振動があった後、フタと運転手が車に戻ってきた。

「責められるのは好きですけど、叱られるのは嫌です」

「ボス、どこ行きます?」

「公安から言われた場所があそこだから……その近く、ぇー……」

秘書は運転手にスマホで地図を見せながら次の行き先を運転手に指示し始めた。

「みつきぃ、焼き鳥食べる?」

「えっ……?」

居酒屋から盗ってきたのか? 今トランクに詰められている男が頼んだ物だよな? 無関係の客の席から勝手に取ったりしていないよな?

「い、いらない……」

「んじゃ俺食べるね」

「おいフタぁ! 車内に食べ物持ち込むなって何回言ったら覚えんだ! しかもタレ!」

「おいしかった~」

「棒を床に捨てるな殺すぞ!」

秘書のおかげでせっかくヒトの機嫌が良くなっていたのに……この兄弟の間の席、嫌かも。
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