冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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誘拐の動機 (水月+レイ・リュウ・シュカ・ハル・ネザメ・ミフユ)

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レイは既に広間に居た。走り寄ってみると、頭に包帯が巻かれていた。

「レイ! 無事だったのか、よかった……」

「CT初めて撮ったっす! 軽い脳震盪と、頭皮の擦り傷だけだったんすよ。ちょっと皮膚抉れて十円ハゲみたいなの出来ちゃってるみたいっす……ショックっすよ」

「よかった、よかったよぉ……」

「せんぱい……あの、アキくんは」

「あぁ、酷い怪我みたいだけどちゃんと治せるって」

「そうなんすか……不幸中の幸いっすね」

みんなアキを心配していたようで、広間に集まっていた彼氏達は俺の言葉を聞いて一様に安堵のため息をついた。

「死んでしまうんやないかって怖かったんや、命に別状はないねんな? よかったわぁ~……はぁ、なんややっと息出来るようなった気分やわ」

「秋風くんを刺すだなんて、よくもそんなことが出来たものだよ。あんな美しい子に傷を付けるだなんて名画に泥をかけるが如き行為だ、そんなことが出来る人間が居るだなんて考えられない」

「このめんとアキくんが大丈夫そうなのはいいんだけど~……荒凪くん、さらわれてるんだよね? 無事かな……荒凪くんさらわれたってことは、さぁ」

「水月が私達が襲われないかと心配していた相手……彼を取り戻そうと躍起になっていると言う、妖怪の養殖家。そいつが犯人と見ていいんですよね?」

「あぁ、えっと…………あれ、カ、カンナとカサネ先輩はっ!? どこ行ったんだ!?」

「落ち着け鳴雷一年生。彼らはペット連れ、病院は動物の入場を禁止している……中庭で過ごしている。私の叔父が着いている、心配はない」

「ぁ……そ、そう、よかった」

「フランクちゃん無事でよかったっすよ~……なんか、ベッドと壁の隙間に挟まってたらしいんす、自分で逃げ込んだんすかね?」

番犬の役割は果たしてくれなかったんだな。まぁ、マズルの短い中型犬にそれを託すのは酷か。

「失礼、よろしいですか?」

「あ……くーちゃんのお兄さん。えっと、荒凪くんをせんぱいに預けた人なんすよね」

「ええ、よければ何が起こったか話していただきたいのですが」

「はい……えっと、お昼……カサネくんに電話したんす。ワンちゃんのお顔見せたげようと思って。せんぱいも出てくれたっすよね、ビデオ通話」

よく覚えている。頷いてみせるとレイは話を続けた。

「ビデオ通話してたらガシャンって鳴ったんす。ちょうど切ろうと思ってた頃だったし、そこで通話は切ったんす」

「俺も聞きました、ガッシャーンってすごい音でしたよ。葉子さんが食器棚にでも突っ込んだと俺は思ってたんだけど……」

「ダイニングの窓割られた音だったんす。ほら、俺達がいっつもアキくんの部屋から家に移動する時に使ってる窓っすよ」

確かに帰宅した時あの窓は割れていた。

「そこからゾロゾロ男がいっぱい入ってきてたんすよ。ど、鈍器とか、刃物持ってたっす……アキくんと荒凪くんはリビングでゲームしてたみたいなんすけど、二人でそいつらに抵抗してて…………でも、なんか……荒凪くん顔にお札みたいなの貼られて、そしたら動かなくなって……連れてかれたんす。アキくんびっくりしたのか、その隙に刺されちゃって……ぼ、僕、やばいって、警察呼ばなきゃって、でも見つかっちゃってて、せんぱいの部屋逃げ込んで鍵かけて、それから通報しないとって……でも、追いつかれて、頭ガンって…………そっからは覚えてないっす。約立たずで……すいません……」

「そんな、レイ……今の話すっごく詳しくて役に立ったよ。助かった」

「……ええ、完璧な目撃者です」

「…………ありがとうございますっす、お二人とも」

弱々しく微笑んだレイは自分の手をぎゅっと握った。彼の親指の付け根には皮膚が剥けたような跡がある。

「……レイ、これは?」

「え? あぁ……結束バンドで縛られてたみたいなんで、それだと思うっす」

「……そうか。痛くないか?」

「はい……」

「……そっか」

俺はレイが危険な目に遭っている間、アキが腹を刺され意識を朦朧とさせている間、何をしていた? 学校で何の動機もなく興味のない分野の知識を雑に頭に詰めて、彼氏達と意味もオチもないバカな話をしていた。

「…………」

真の約立たずは俺だ。

「水月の家には結界があるので安全、それが水月が私達を自宅に集めた理由で……結界とやらはあなたが仕組んだんですよね?」

「ええ、俺の指示で張らせました」

「話が違いますよね。安全なはずでは?」

「怪異や呪い、霊的なものに対しての結界であって……ただの人間なんてどうしようもありませんよ」

「…………物部はウチに結界張ってあるのを知って、霊的なのじゃなく……物理的にっていうか、ただの人間に襲わせたってことですか?」

「今、あなたの家に居た犯人の二人を警察から引き渡してもらってるんですが……普通に勾留されてたみたいなんで、死体とかでもないんですよね。結界が反応しなかったってことは何らかの術で洗脳されてた訳でもない……まさか何の術もかけていない、霊能力者でもない一般人送り込んでくるなんて思いませんでしたよ。ここまでなりふり構わず荒凪を取りに来るとは……そこまでして荒凪が欲しい意味が分からない」

秘書は人差し指でトントンと机を一定のリズムで叩いている。

「強盗紛いに殺人未遂……それの命令となれば、ちゃんと警察が動く。まぁ怪異案件って分かってたんで警察には手を引かせましたけど。こんなガッツリ法律違反かましてくるなんて、こっちは法外オカルトバトルする気満々だったのに……」

「……荒凪くんは元々どこかに住んでた普通の兄弟だったんでしょう? それを殺して怪異にするようなヤツですよ、犯罪なんて平気でするに決まってるじゃないですか」

「それっぽい誘拐事件、ないんですよね。荒凪の材料だろう子供の行方不明事件……生前の名前分かってから調べましたけど、ないんですよ。表沙汰にならない女子供の人身売買くらいいくらでもあるんで、そこは不審ではないんです……そうやって裏の犯罪をする分には違和感ないんですよ、でもそんな連中が表で犯罪やらかすのは、相当切羽詰まった理由がある。荒凪にそれだけの価値があるってことです、彼はヤツにとって二度と作れない傑作で……何か使い道がある……」

「大っぴらにやらかすのは変、ってことですか? うーん……そうかなぁ」

「荒凪は某掲示板で語られた怪談リョウメンスクナを再現しようとして失敗したもの……リョウメンスクナは国落としの呪物……荒凪がリョウメンスクナ足り得ないのはビジュの話であって、国を落とせるポテンシャルは感じる……高飛びして冷戦や紛争中の国に売る? なら分かるし、対処する時間もまだあるけど……」

秘書は誰に話しかけるでもなくブツブツと呟いている。

「物部天獄名乗って言霊を使ってまでリョウメンスクナを再現しようとしたってのが……怖いな。本気で日本壊したいガチテロリストか……? もしそうなら、今この時に首都直下や南海トラフ……富士山噴火が起こっても不思議じゃねぇぞ。思ったよりヤバいな……」

不穏な予想で呟きを締めると、秘書は深いため息をつきながら立ち上がり、パンッと手を叩いた。

「鳴雷 水月」

「は、はい! なんでしょう……?」

「いっちょ日本救いに行きますか」

「…………え?」

秘書の呟きはずっと聞いていたから、その言葉の意図は分かる。だがあまりにも軽い言い方に困惑してしまった。
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