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伝えたいこと (水月+ミフユ・シュカ・ハル・リュウ・セイカ・アキ・レイ)

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彼氏の誰かが救急車を呼んでくれたようだ、警察に連絡もしてくれている。

「鳴雷一年生、こういう時に大切なのは意識を保つことだ。救急車が到着するまで秋風に声をかけ続けるんだ」

ミフユにそう言われて背中を叩かれ、俺は震える足を動かして膝立ちのままアキの傍ににじり寄り、スラックスに染み込む血の感触を知った。

「ア、アキっ……アキ」

身体に触れていいのだろうか、揺さぶるのは多分ダメだ。叩くのは? ダメだろ。そっと触れる程度にするんだ。

「タタキでしょうか。コイツが犯人……? 気絶してるみたいですね」

「ひゃっ……! ちょっ、こ、こっち、テレビの下にも居るんだけどっ……」

「警察を呼んだとはいえ拘束しておかないと不安ですね、何か……ひとまずベルトで手足を縛っておきましょうか。あなた達、ベルト抜きなさい」

肩にそっと触れ、続けて名前を呼び続けていると真っ白な睫毛が震えた。

「葉子さんも縛られてた……木芽と一緒だ、頭から血ぃ出てた。殴られたのかな……」

「だ、誰それ」

「秋風の母親……秋風はっ? 秋風居たか? 秋風も殴られてるのか?」

「……! ゃ、大丈夫、大丈夫やから……せーかはこっち居り」

瞼がゆっくりと持ち上がり、瞳孔も虹彩も赤い瞳が揺らぎながら俺を捉えた。血色の悪い唇が薄く開く。

「にー、に……?」

「……! ア、アキっ! アキ、大丈夫か、にーにだぞ、にーにだ……お前のにーにだ」

「にぃ、に」

「あぁ……あぁっ、しっかりしろ、すぐ救急車来るからなっ」

「ぃずぃ、み」

「え……? な、なに、泉?」

「らら、な……ぅあ、ひー……しゅ……」

「わっひーしゅん……? え……? な、なに、アキ……?」

アキが何を伝えようとしているのか分からない。

「アキ、喋るな。すぐ救急車来るからっ」

「ゃ、に……もか……すと……めり……ちぁ、た……」

「アキ…………セイカ! セイカ助けてくれ!」

無理に喋って体力を使うなと言い聞かせようとしたし、そうするべきだと今も思っているけれど、アキが必死に伝えようとしてくれていることは聞くべきだとも思った。

「な、鳴雷っ? 何……ぇ…………あ、秋風っ!? あきっ、秋風!」

「……! 危ないっ!」

アキの状況を今知ったセイカは自分が義足を使う身であることも忘れて走り寄ろうとし、当然のように転びかけた。リュウに支えられ、俺の隣にそっと転がされた。

「秋風っ、秋風ぇ! なっ、だ、だいじょ……なんでっ、血、血がいっぱいっ、ぁ、あきっ、秋風」

「セイカ……セイカ頼む! アキが何か言おうとしてるんだ、セイカにしか分からないんだよ、聞いてくれ頼む、頼む……!」

「……ゎ、わかっ、た。ぁ、秋風……?」

アキはもう一度うわ言のように何かを呟いた。俺がさっき聞いたけれど聞き取れなかった言葉と、多分ほとんど同じ言葉だった。

「えっと、ごめんなさい、荒凪、誘拐された。止められなかった。ごめんなさい……って、言ってる」

「荒凪、誘拐……」

あぁ、分かった、全て分かった。犯人もその動機も何もかも。

「水月、ちょっとどいてください」

「……ぇ、ちょっ、シュカ、変に動かすのは」

シュカは俺を押しのけてアキの前に膝立ちになり、腹の辺りに触れた。アキが呻き、眉間に皺が寄る。

「おいっ、シュカ!」

「…………止血は出来てますね。流石。大丈夫……刺された位置も悪くない。経験則でしかありませんが、命に関わるようなものではないと思います」

「え……ぁ…………そ、そっか、ありがとう……」

「痛みを紛らわす話でもしてあげておいてください」

そう言われ、肩をポンと叩かれ、俺は必死にアキに話しかけた。セイカは泣きながらもそれを翻訳してくれた。遊園地に行こうだとか、冬休みにまた旅行しようだとか、そんな話を。



救急車とパトカーが到着してからは慌ただしいものだった。俺はアキと共に救急車に乗り、アキの手術を待つ間警察に話を聞かれていたが、俺の話を聞いていた彼らは誰かから電話を受けると帰ってしまった。

「…………」

何故話の途中で帰ってしまったのか、困惑し呆然としているとカランコロンと独特な足音が近付いてきた。

「怪異案件であることを説明し、引かせました」

「ぁ……秘書さん」

「水月っ!」

「母さんも……」

珍しく母の息が上がっている。母は目に涙を浮かべて俺を抱き締めた。

「移動中に、ぇー……名前忘れた、義足ユーザーの、彼……彼に電話で状況を確認しました。荒凪が攫われたとか。このタイミングでの襲撃、行方知れずの荒凪……確実に怪異案件です。今回の事件単品の犯人は人間みたいですけど」

「……っ、アンタがあんな化け物ウチに押し付けるから! アキが!」

「それについては言い訳のしようもございません。幸いここはウチの息がかかってる病院なんで……心霊治療も無償で行わさせていただきます。通常より治りは良いかと」

「だ、大丈夫なんですねっ? アキ……よかった」

「よくないわよ。葉子も、アキも……酷い怪我して。そういえばアンタの甥っ子も前水月とアキに怪我させたわよね…………ねぇ、真尋くん、今回の件が終わったら二度と水月達に関わらないでくれる? ハッキリ言って……疫病神みたいよ、あなた」

「お断りします、と言うより出来ませんね。荒凪を取り戻したら今後も定期的に検査や実験をしなければ……もし荒凪を今回完全に紛失したとしても、彼に取り憑いた付喪神は非常に興味深い存在です。調査を続けたい」

母は大きな舌打ちをし、病院の廊下に備え付けられたベンチに腰を下ろした。

「母さん……」

「お友達、ゃ、彼氏さん達でしたっけ。広間に集まってますよ」

「ぇ、や……でも、アキ……」

「…………多分結構時間かかるし、私ここに居るから……水月、行ってきなさい」

「……うん」

母は一人になりたいのだろう。エレベーターの近くにある広間へ向かうと独特な下駄の足音が着いてきた。

「あの、秘書さん……心霊治療ってなんですか?」

「基本は自己治癒力の上昇です。場合によっては霊力の物質化による欠損部位の置換なども行います」

「……副作用とかは?」

「特にありません。他人の霊力の波長に同調させるのが得意な者が心霊治療士というものです」

「よかった……アキは本当に大丈夫なんですね。じゃあ、レイは」

「あっせんぱい!」

広間に置かれた丸い机、それを囲む椅子の一つに腰を下ろしたピンク色の髪をした少年が俺に向かって手を振った。
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