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大人数での朝 (水月+カンナ・リュウ・シュカ・カサネ・ミフユ・ハル・アキ・ノヴェム)

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保湿液を塗り終えたらしいカンナが部屋に戻ってきた。

「おかえりカンナぁ、はぁあんカンナの部屋着姿超可愛いよぅ。なんか、なんだろうなぁっ、カンナがふわっとした長袖着てるのすごくイイんだ……乱暴な気持ちが目覚めちゃいそうで困りもするんだけど」

華奢な肩と細い腰、少年らしい危うい体つき。全然ぷにぷにしているという幼児のような脂肪と肌の具合。ぐちゃぐちゃにしたい……!

「みー、くん……なら、なに……ても……いー、よ」

「カンナぁ……!? ダメだろそんなこと言っちゃぁ、ほんとに襲っちゃうぞ? ぅへへへ」

「……いい、よ」

ちゅ、と頬に唇が触れた。俺と彼の身長差では滅多にないことだ、塗りたての保湿液の匂いを嗅ぐためカンナの顔に顔を近付けておいてよかった。

「おや、すみ。みーくん……」

カンナは恥ずかしそうに微笑む。赤らんだ頬がなんとも愛らしい。

「……ぉ、そっ……ても、いー……ょ。いつ、でも…………でも、みーくん……寝な、の……しんぱ…………か、ら……」

「はいっ、今晩は大人しく寝ますっ! おやすみなさい、カンナ」

にっこりと満足そうに笑って頷いたカンナは、ぴょんとシュカを飛び越えてベッドに腰を下ろした。リュウと仲良さげに二、三言葉を交わし、二人でベッドに横たわった。

「電気消すぞ、いいな。いいですか先輩」

三人から小声での返事。電灯を消し、真っ暗になった部屋で寝転がりタオルケットを被る。

「……カサネ先輩、抱っこしても?」

「ぬいぐるみ……? いいけど」

「違いますよ、先輩のことに決まってるじゃないですか」

「ぇ、あ……い、いいよ。恋人……なんだし」

向かい合ったまま、カサネが俺に近付く。抱き寄せたその身体に脂肪も筋肉もついていないことを改めて実感する。

「おやすみなさい……」

美少年達に囲まれてなんて、興奮して寝れそうにない。そう思っていたけれど俺は今日随分と疲れていたようで、すぐに瞼が下りてきた。



肩を揺すられて目を覚ました。俺の顔を覗き込んでいたのはリュウだ。

「おはようさん水月ぃ、もう朝やで。水月のスマホアラーム鳴っとる、うるさいからはよ止めぇ」

「ん……あ、あぁ、おはよう……」

スマホを握らされ、目覚め切らない意識のままそれを操作する。

「メガネ……天正さん私のメガネ知りませんか」

「机の上に置いたんで」

「取ってください」

「もー、自分で取りぃな、そないに目ぇ悪いんか? しゃあないのぅ……」

リュウが離れて、俺は欠伸をしながら身体を起こした。腕の中にはパグ犬のぬいぐるみがある、カサネは居ない。

「あれ……カンナ、カサネ先輩知らないか?」

うさぎに餌をやっているカンナに声をかけると、彼は小さく頷いた。

「ぉ、にわ…………いぬ、の、さんぽ……」

「へぇ……意外と朝早いんだな。そういえばカンナ、ネザメさんとこのメープルちゃんは嫌がってたのに、フランクちゃんはいいのか? 同じ部屋で」

「……に、ぉ……嗅ぎ、にも……来ない、し……ぷぅ太に、きょーみ、なさそ…………それ、に……ぉーかみ、ぽく……な……から」

パグ犬はボーダーコリーに比べ、マズルが短いしなんかムチムチしてるしで、確かにオオカミっぽさはない。オオカミに似ているかどうかがカンナがウサギが食べられると怯えてしまうポイントなのか。

「ちょっとレンズに指紋ついてるんですけど!」

「俺ちゃんとツル持ったわ!」

「じゃあ誰が指紋つけたって言うんですか」

「知らんわ! あぁ、自分が寝そうやった時にメガネ外したんは水月やで」

「えっおい俺に押し付けるなよ!」

「…………ここ、うるさい……ねー……ぷぅ太……ごめんね……」

騒ぎながら自室を後にし、朝支度を始める。多くの彼氏を泊めたせいで洗面所は大混雑だ。

「霞染一年生! 洗面所を占領するな! 髪など後ろでまとめておけばいいだろう! ネザメ様に早く明け渡せ!」

「あぁもううるさいなぁ前髪決まんないじゃないですかぁ~!」

「メガネ洗いたいんですけど」

食パンを焼き続ける母を横目にダイニングの窓から庭に出ると、庭を行ったり来たりしているカサネと目が合った。

「あ、ぉ、おはよう鳴雷くん……」

「おはようございまそカサネたん」

「……み、水月、くん。えっと……い、今何時? もう学校行くの?」

「いえ、もうちょい余裕ありまそ。そろそろ朝食のお時間ですので、ダイニングにお集まりいただければと」

「ぁ、朝? 俺はカロリーバー食うからいいって言っといて……」

「全員分、用意してくだすってるので」

「……わ、分かった。フランク、散歩終わり。ほらおいで、足拭くべ」

へっへっと舌を出して息を吐いているパグ犬の足を、カサネは丁寧に濡れタオルで拭い始めた。優しい眼差しを向け、時折頭を撫でながらのその仕草からは確かな愛情を感じる。

「…………ふふ」

微笑ましい気持ちのままアキの部屋へ。ネザメとミフユは洗面所に居たが、アキとノヴェムはどうしているだろう。

《大人しくしろクソガキ! 髪ちぎっちまうだろうが!》

《やぁああ~っ! やだぁああーっ!》

アキがノヴェムを押さえつけて泣かせていた。なんてことだ、カサネと愛犬の優しい光景からの落差がすごすぎるだろ。

「こっ、こらこらこらこらアキぃ! 何してるんだやめなさい!」

「……! ゔあぁああんっ! おにぃぢゃあぁああっ! みぢゅぎおにぃぢゃあ、ゔぇえぇん……ひっく、ひっぐ……ぅえぇ……」

「よしよし……アキ、どうしたんだ。何があったんだ?」

アキは理由もなく子供を虐めたりしない。ましてや仲良くなってきていたノヴェムをこんなに泣かせるなんて、なにか理由があるはずだ。そう信じている俺はアキに落ち着いて尋ねた。

「……目、出すするしない、危ないするです。ぶつかるー……ぁー……ころぶー……するです。だから、髪、縛るするです。のに、のゔぇむ、嫌がるするしたです」

「ノヴェムくんの前髪結んであげようとしてたのか? そっか……危ないもんなぁ、でも無理にしちゃダメだ。こんなに泣いて……ひきつけ起こしちゃうぞ」

「…………ごめんなさいです」

「ノヴェムくん、ノヴェムくん、よしよし……ごめんな、アキお兄ちゃんは悪気があった訳じゃないんだ。ノヴェムくんが目隠してちゃ危ないと思って、髪結ぼうとしただけなんだよ。いじわるじゃないんだ、それは分かってやってくれないかな?」

「ひっく……ひっく…………ぐずっ、め……やだ」

「目、嫌? あぁ……出すの嫌だって? うーん……」

ノヴェムは黄色と青の綺麗なオッドアイだ、どこの国でも人間だけじゃなく動物でも希少な見た目の者は迫害される運命にある。ノヴェムにも何かあったのだろう、だからこんなにも嫌がって……可哀想に。

「……アキ、ノヴェムくんの好きにさせてやったらどうかな。ほら、カンナとかがっちり前髪固めてるけど前見えなくてぶつかったりこけたりなんてしてないぞ?」

「…………?」

「ごめん、分かんないよな。とりあえずご飯食べよう、この話は後で……セイカも混ぜて話そう」

「だ」

未だしゃくりあげているノヴェムの背中を優しくさすりながら、アキがサングラスを探し当てるのを待った。
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