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あなたのために撃ちました (水月+歌見・スイ・ハル・レイ・セイカ・カサネ・リュウ)

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母の冬用のベッドカバーを敷いた和室に歌見を案内した。

「はぁ……二度と言わん」

「そんなぁ」

「俺は年長としてお前と正しく付き合ってるって唯乃さんに思ってて欲しいんだ。それをあんな……はぁ」

俺に胸を揉みしだかれて喘いでいたところを俺の母に見られた歌見は酷く落ち込んでいて、しょっちゅうため息をついている。

「パイセン年長じゃないでしょ」

「俺より歳上のお前の彼氏、倫理観も常識も道徳もなさそうじゃないか」

「そんっ……な、ことは…………ある」

「つまり俺が年長だ」

倫理観と常識と道徳には年齢を増やす作用があるのか……知らなかったな。

「ナナくん和室で寝るの~?」

ガラッと押し入れが開き、中からスイが顔を出す。

「あぁ、よろしく頼む」

「ァ……俺ぇ、寝相悪いみたいで……うるさかったらごめんね?」

「安心して壁でも襖でも蹴ってくれ、俺はどこででも寝れるタイプだ」

「……ほんと? えへへ……ありがと。流石ナルちゃんの彼、紳士~……ふふ、おやすみ」

緩く手を振り、スイは押し入れを閉じた。襖を蹴られるのは困るんだけどなと脆いそれを眺めていると、歌見に肩をつつかれた。

「なぁ、水月……」

「なんですかパイセン」

「いや飯食ってる時からちょっと思ってたんだけどな、今確信した……あの人めっちゃ可愛くないか? ビジュは沼ると危険な男って感じなのに仕草と話し方におっとりお姉さんの気配を感じる」

「はぁ……おっとり、まぁ普段はそうか……」

俺も似た感想を抱いているが、何故だろう、ノれない。不穏な予感がする。

「……まさか、パイセン……まさかっ、おっとりお姉さん系がタイプとか言いませんよな!?」

「仕方ないだろあんなカス妹居たら! 甘やかしてくれる姉が居たらなぁとか幻想を抱いてしまう!」

「はぁあ~!? 許さん! パイセンのダーリンは私でしょうが! スイさんのダーリンも私!」

「ちっ、違うんだ、そういうんじゃないんだ! た、ただ……ただちょっと、可愛い人だなって」

「二度と勃たねぇ身体にしてやりましょうか!」

「なりつつあるわバカ! もう最近一人で抜くのもちんこだけじゃキツくていちいち時間が──」

ガララッ、と押し入れが再び開き、赤い顔をしたスイが俺達を睨んだ。

「──かかっ、て……えっと、ど、どうかしたか? スイ……」

「…………大声で、恥ずかしい話しないで。するなら、よそでして……おやすみ」

もうホント男子ってスケベ、そんな委員長キャラの呆れセリフが聞こえてきそうな視線を俺達に残し、再び押し入れは閉じられた。

「ごめん……その……ごめん……」

「すいませんでした……」

押し入れに向かって二人で頭を下げ、気まずさを抱えたまま解散した。自室に戻る前にリビングに寄り、三人に声をかけた。

「和室にちょっとした寝具用意してあるから、寝る気になったらそっち行けよ」

「ありがとみっつん、全然寝る気ないけど!」

「流石せんぱい、よっ気遣いの鬼! 俺も寝る気ないっすけどね!」

「ありがとう鳴雷……俺はもう正直眠くなってきたんだ……」

ハルは深夜ゆえのハイテンション、レイは酔って陽気になっているのかな? セイカは眠そうな目を無理矢理開けているといった具合だ。

「今どの辺……? お、この回か。俺この回の欧米作画エルフ狂おしいほど好きなんだけど俺」

「もうほぼ映んないっすね」

「そっか、残念。セイカはぼちぼち寝ろよ。レイ、セイカが途中で寝たらセイカが観れた話数メモっといてやってくれ」

「はーいっす」

「おやすみみっつ~ん」

リビング夜更かし組への忠告も終わった。後は自室に戻って眠るだけ……っと、一つやり残したことがあるな。

「ただいま」

「おかえり水月ぃ」

「……カンナは?」

「なんか肌にええ汁塗ってくるっちゅうてどっか行きよったで」

乾燥が大敵な傷跡に保湿液を塗っているのかな? 脱衣所にでも居るのだろう、すぐ戻ってくるだろうから見に行くまでもないかな。

「シュカは寝たかな……?」

無作為に投げ出され、緩く開いた手に触れるときゅっと握り返された。まだ完全に眠ってはいないようだ。

「カサネ先輩、ちょっと渡しておきたいものあるんですけど」

「ぇ、な、何……解雇通知?」

「俺先輩のこと雇った覚えないですよ。これですこれ」

祭りの日に射的で取った、いや、ネイに取ってもらったパグ犬のぬいぐるみと、お面屋で買ったパグ犬のお面だ。

「前、みんなでお祭り行ったんです。先輩誘っても来なかったから……でも、先輩にあげたいなっての見つけたので、よかったらどうぞ」

「…………」

カサネはぬいぐるみとお面を見つめて黙り込んでいる。

「……い、いらなかったら全然、いいんで……別に、無理に受け取らなくても」

「ぇ……ゃっ、ちが…………ぅ、うれ、しぃ。ごめ……ぉ、驚いちゃって、その……は、反応、出来ねぇで……」

そっとぬいぐるみを抱き上げ、しばらく見つめた後、ぎゅうっと抱き締めた。

「…………あり、がとう」

「……! どういたしまして」

「お面も……へへ、可愛い。割れそうで怖いから、机の上置いとくな」

想像以上に喜んでくれた。祭り当日に買うならまだしも、後日渡されるお面なんて反応に困るものでしかないと思っていたし、ぬいぐるみをもらって喜ぶ男子高校生などセイカの他には居ないと思っていた。

(じゃあなんで渡したんだって話ですが……いやカサネたんはパググッズ集めてるっぽいし、ワンチャン喜ぶかなって。つーか祭りのテンションで買っちゃったんで。こんなに喜ぶとは)

渡さない方がいいかと思い悩んだ日もあったが、思い切って渡してよかった。

「祭りでぬいぐるみって、何、くじ引きとか?」

「あ、射的です」

「射的……へぇ、こんなデカいの、大変だったろ。結構金使ったんじゃねぇの?」

手に入るように設定されていない賞品という、縁日の悪しき風習。それを打ち破ったのは元組長のサンという権力者と、百発百中の腕を持つネイという公安警察の二人であって、俺はあんまり何もしていない。無駄に頑張っただけだ、無駄に頑張っていたらネイが憐れんでくれただけなんだ。

「…………はい!」

「やっぱりぃ……へへ、ありがと…………俺の好きなのちゃんと分かってて、俺の居ねぇ時でも俺のために金使って……イイ男だよなぁ、ほんと」

説明が面倒なのもあって肯定してしまったが、やっぱり手に入れた過程はちゃんと説明した方がよかったかな、既に罪悪感で胸がいっぱいだ。カサネの笑顔を見ていると胸がチクチク痛んできた。

「俺にはもったいねぇいい恋人だって思うけど、へへ、何人も彼氏作ってるイカレ野郎だからあんま負い目ねぇわ…………な、なぁ、鳴雷くん、やっぱり座布団じゃ上手く寝れねぇと思うんだ……ぉ、俺んとこ、一緒に使わねぇ……?」

「はい!!!」

「……ええ雰囲気なとこ悪いんやけどとりりんが眉間に皺寄せとるからもうちょい声のボリューム下げよか、水月」

「ごめんなさい気を付けます……!」

小声で謝り、座布団をどかしてシュカとカサネの寝床をくっつける。厚みのあるベッドカバーの上に身体を横たえ、パグ犬のぬいぐるみを抱いたままのカサネと向かい合う。

「早速抱いて寝るんですか?」

「うん……」

「喜んでくれて嬉しいです」

はにかんだカサネの表情や仕草の可愛さに奇声を張り上げそうになったが、今度こそシュカに殴られる気がしたのでグッと堪えて嬉し涙に変換した。

「な、泣くほど……? 変なヤツ…………へへ」

カサネには不審がられたが、最終的には笑ってくれたのでよしとしよう。
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