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返事をする条件とは (水月+スイ)
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母に相談するためアキの部屋を出た。ダイニングではまた母と前社長が酒盛りをしていたが、先程とは違う点が一つある。
「ん? 誰か来たか?」
「私の息子よ。どうしたの水月」
前社長が顔を隠す布を外し、使い捨てのアイマスクを付けている。
「ちょっと相談が……あの、目温めて大丈夫なんですか? 血管切れたとか言ってましたけど、温めたら開いちゃって余計血出たりしません?」
「大丈夫っぽいぜ、ご心配どーも。で、相談って?」
「あっ、みんなの寝床の話で……母さんに相談なんで」
「そ。んじゃおにーさん黙っとくぜ」
おにーさん……社長職を息子に譲るような歳なんだよな、この人。
(雑面外してるので目元以外が見えるようになってますな、口元も首周りも超若々しいでそ。鼻もスっとしてて、うーん美形。アイマスク外した素顔が見たいですなぁ)
あんまりじっと見ていたら母にからかわれる。
「ちょっと寝床足りるか怪しいのですが、使えそうな布団とか代用品ありません?」
「ほとんど物置と化してる和室あるでしょ、そこ漁りなさい」
「あ、はい。もちろん。他は……」
「私の冬用のベッドカバーとか、そんなもんね。冬用とはいえ結構ペラペラだけど、まぁ男子高校生なんかそんなもんでいいでしょ」
男子高校生を何だと思っているんだ。
「あなたは今日は泊まっていかれる感じですか?」
「俺? 俺は多分帰る。つーか迎え来ると思うぜ」
「多分なんですか?」
「俺ぁさっき帰国したばっかでな、家にも会社にも帰らずここ来てる訳だ。俺が今日帰国するって知ってて俺を待ってるマイダーリンは、さっき俺がここに来てることを電話で知った。すると、どうなる?」
「……どう、と言われましても」
「迎えに来るんだよ」
「はぁ」
「ブチ切れながら」
「ブチ切れながら!?」
「そりゃ家に帰らず他所の家に入り浸ってんだ、超嫉妬深いダーリンとしちゃ面白くねぇだろうぜ」
前社長は楽しそうに笑っている。
「怒らせて遊んでるタイプですか? 趣味は勝手ですけど、俺達巻き込まないでくださいよ?」
「んな心配は……どうだろうな、知らね」
「えぇ……」
迎えが来るタイミングで玄関近くやダイニングには居ないように気を付けておくか。
和室に移り、押し入れの中身を引っ張り出す。昨冬の終わりに洗って以来、ずっと押し入れの中にあった布団の匂いは……洗剤の香り。
(もうちょいホコリっぽくなってるかと思いましたが、全然ですな)
羽毛布団は使わないだろう、いや、この厚みなら敷き布団として使えるか? 暑いかな。
(つーかせっかくふわっふわの羽毛布団がペタンコになったら嫌ですし、これは戻しときまそ。使わなさそうなのは全部下段に押し込んで、上段に敷き布団を一枚……ちょっと狭いですが寝れそうですな)
ミフユなら足を伸ばして眠れそうな広さだが、スイは足を曲げなければならないだろう。まぁ高身長な男は大抵丸まって眠る癖がついているものだ。
早速スイを呼んで押し入れを確認してもらった。
「ネコ型ロボットになった気分……」
「どうですか? 寝心地」
「なんかワクワクするわね。アタシ狭いとこ結構好きだから居心地いいわよ、ランプとか漫画とかお菓子とか持ち込んじゃいたい気分」
「秘密基地ですね」
俺は物心ついた時から規格外のデブだったから、狭いところに入り込んで秘密基地を作ったり……なんて経験がほとんどない。そんな俺でも何故か秘密基地のワクワク感は分かるし、ノスタルジックな気分になる。
「……ねぇナルちゃん、アタシこんな喋り方しちゃってるけど……別に心が女とか、そういうのじゃないのよ?」
「はい、前聞いたんで知ってます」
「着せ替え人形よりプラモ派よ?」
「それ性別あんまり関係ないと思いますけど……ってかプラモ作るんですか? 俺も結構好きなんですよ、スイさん何プラが好きですか?」
「えっと……ごめんね、子供の頃の話。中学上がった時にはもうしなくなってたわ」
「中学生が一番燃える時期でわ……!? あっ、いえ、すいませんこっちこそ……えと、何の話でしたっけ」
ちょっと興味のある分野の話が出たからってはしゃぐな俺。誰もが今現在俺と同じ熱量でハマっているとは限らないのだから。
「んーとね、個室用意しようとしてくれたり、こんなとこで寝させようとしてくれたり……なんか、女の子扱いな気がしちゃうのよね。そういう扱い求めて姿誤魔化したり今までしてたんだけどぉ……ほら、ナルちゃんが好きなのって、アタシが嫌いな……うっすい素顔じゃない?」
一重かつ目が細め、唇も薄め、彫りも浅いスイの顔立ちは、確かに「うっすい」と言える。だが二重だの長い睫毛だのと言った一般的な美人の条件を満たしていないにも関わらず、奇跡的なパーツのサイズと位置関係によってスイは素晴らしい美人となっているのだ。非常に色っぽく、見ればうっとりしてしまうこの顔を、あまり卑下しないで欲しい。
「だからアタシ……俺、出来れば……すっかり忘れちゃった、素で……中身も素で、ナルちゃんに向き合ってみたいなって思ってて」
既にイントネーションの柔らかさや仕草が女性的だ。
(言動の性差ってそもそも身に付いてるものじゃなく、環境で身に付くものだと思うんですよな……周りの女の子はこうだから合わせたりとか、男の子はこうするんだよって教わるとか……女性のフリをして、女性として周りに扱われて半生を過ごしたスイさんの言葉遣いや仕草にはもう、男性的な『素』とかないんじゃ……?)
まぁこれからじわじわ男を取り戻していくのかもしれないけど。正直俺はどっちでもいい、俺はスイの顔と若干病んだ精神性が好きなのだ。女性的な仕草のままでも、男性的な仕草に戻っても、どっちでも俺は萌えられる。
「なのにナルちゃんが女の子扱いしてくれると、それがブレちゃうから……こういうの、しなくていいよって言いたくて……言いたかっただけなのに、なんか長々話しちゃった、ごめんねっ」
「いえ……俺別に女の子扱いとかしてるつもりなかったんですけど、そう感じさせちゃってたみたいですいません」
女の子の扱い方なんか知らないし。
「あっ、そうだったの? 過敏になってたのかなぁ、えへへ……ごめんね。それじゃあこの扱いはどういうつもりでやってたの? 明らかに他の子と違うじゃない」
「……スイさん、まだ俺の告白返事くれてないから。OKの返事くれるまでは扱い違いますよ、そりゃ……お客様と彼氏達一緒に寝させる訳には、ねぇ?」
「…………そういうことだったの」
「はい。ぁ、初対面のみんなと一緒に寝るのちょっとキツいかなって思ってたのも結構大きいんですけどね」
「そう……ごめんねいつまでも返事保留にしちゃって」
「いえ、いつ頃返事出来そうとかあります?」
「……そうねぇ、お義母さまに挨拶も終わったし……今度はナルちゃんがアタ、ちが……俺! 俺のお父さんに挨拶して……くれだぜ?」
互いの親に挨拶だって? 結婚前じゃあるまいし、交際を始めてしばらく経ったならまだしも交際前に挨拶だって? どこの地域の文化だそれは。
「は……はい、分かりました。今度……はい」
あんまり驚いたから変な語尾に心の中ですらツッコめなかったじゃないか。
「ん? 誰か来たか?」
「私の息子よ。どうしたの水月」
前社長が顔を隠す布を外し、使い捨てのアイマスクを付けている。
「ちょっと相談が……あの、目温めて大丈夫なんですか? 血管切れたとか言ってましたけど、温めたら開いちゃって余計血出たりしません?」
「大丈夫っぽいぜ、ご心配どーも。で、相談って?」
「あっ、みんなの寝床の話で……母さんに相談なんで」
「そ。んじゃおにーさん黙っとくぜ」
おにーさん……社長職を息子に譲るような歳なんだよな、この人。
(雑面外してるので目元以外が見えるようになってますな、口元も首周りも超若々しいでそ。鼻もスっとしてて、うーん美形。アイマスク外した素顔が見たいですなぁ)
あんまりじっと見ていたら母にからかわれる。
「ちょっと寝床足りるか怪しいのですが、使えそうな布団とか代用品ありません?」
「ほとんど物置と化してる和室あるでしょ、そこ漁りなさい」
「あ、はい。もちろん。他は……」
「私の冬用のベッドカバーとか、そんなもんね。冬用とはいえ結構ペラペラだけど、まぁ男子高校生なんかそんなもんでいいでしょ」
男子高校生を何だと思っているんだ。
「あなたは今日は泊まっていかれる感じですか?」
「俺? 俺は多分帰る。つーか迎え来ると思うぜ」
「多分なんですか?」
「俺ぁさっき帰国したばっかでな、家にも会社にも帰らずここ来てる訳だ。俺が今日帰国するって知ってて俺を待ってるマイダーリンは、さっき俺がここに来てることを電話で知った。すると、どうなる?」
「……どう、と言われましても」
「迎えに来るんだよ」
「はぁ」
「ブチ切れながら」
「ブチ切れながら!?」
「そりゃ家に帰らず他所の家に入り浸ってんだ、超嫉妬深いダーリンとしちゃ面白くねぇだろうぜ」
前社長は楽しそうに笑っている。
「怒らせて遊んでるタイプですか? 趣味は勝手ですけど、俺達巻き込まないでくださいよ?」
「んな心配は……どうだろうな、知らね」
「えぇ……」
迎えが来るタイミングで玄関近くやダイニングには居ないように気を付けておくか。
和室に移り、押し入れの中身を引っ張り出す。昨冬の終わりに洗って以来、ずっと押し入れの中にあった布団の匂いは……洗剤の香り。
(もうちょいホコリっぽくなってるかと思いましたが、全然ですな)
羽毛布団は使わないだろう、いや、この厚みなら敷き布団として使えるか? 暑いかな。
(つーかせっかくふわっふわの羽毛布団がペタンコになったら嫌ですし、これは戻しときまそ。使わなさそうなのは全部下段に押し込んで、上段に敷き布団を一枚……ちょっと狭いですが寝れそうですな)
ミフユなら足を伸ばして眠れそうな広さだが、スイは足を曲げなければならないだろう。まぁ高身長な男は大抵丸まって眠る癖がついているものだ。
早速スイを呼んで押し入れを確認してもらった。
「ネコ型ロボットになった気分……」
「どうですか? 寝心地」
「なんかワクワクするわね。アタシ狭いとこ結構好きだから居心地いいわよ、ランプとか漫画とかお菓子とか持ち込んじゃいたい気分」
「秘密基地ですね」
俺は物心ついた時から規格外のデブだったから、狭いところに入り込んで秘密基地を作ったり……なんて経験がほとんどない。そんな俺でも何故か秘密基地のワクワク感は分かるし、ノスタルジックな気分になる。
「……ねぇナルちゃん、アタシこんな喋り方しちゃってるけど……別に心が女とか、そういうのじゃないのよ?」
「はい、前聞いたんで知ってます」
「着せ替え人形よりプラモ派よ?」
「それ性別あんまり関係ないと思いますけど……ってかプラモ作るんですか? 俺も結構好きなんですよ、スイさん何プラが好きですか?」
「えっと……ごめんね、子供の頃の話。中学上がった時にはもうしなくなってたわ」
「中学生が一番燃える時期でわ……!? あっ、いえ、すいませんこっちこそ……えと、何の話でしたっけ」
ちょっと興味のある分野の話が出たからってはしゃぐな俺。誰もが今現在俺と同じ熱量でハマっているとは限らないのだから。
「んーとね、個室用意しようとしてくれたり、こんなとこで寝させようとしてくれたり……なんか、女の子扱いな気がしちゃうのよね。そういう扱い求めて姿誤魔化したり今までしてたんだけどぉ……ほら、ナルちゃんが好きなのって、アタシが嫌いな……うっすい素顔じゃない?」
一重かつ目が細め、唇も薄め、彫りも浅いスイの顔立ちは、確かに「うっすい」と言える。だが二重だの長い睫毛だのと言った一般的な美人の条件を満たしていないにも関わらず、奇跡的なパーツのサイズと位置関係によってスイは素晴らしい美人となっているのだ。非常に色っぽく、見ればうっとりしてしまうこの顔を、あまり卑下しないで欲しい。
「だからアタシ……俺、出来れば……すっかり忘れちゃった、素で……中身も素で、ナルちゃんに向き合ってみたいなって思ってて」
既にイントネーションの柔らかさや仕草が女性的だ。
(言動の性差ってそもそも身に付いてるものじゃなく、環境で身に付くものだと思うんですよな……周りの女の子はこうだから合わせたりとか、男の子はこうするんだよって教わるとか……女性のフリをして、女性として周りに扱われて半生を過ごしたスイさんの言葉遣いや仕草にはもう、男性的な『素』とかないんじゃ……?)
まぁこれからじわじわ男を取り戻していくのかもしれないけど。正直俺はどっちでもいい、俺はスイの顔と若干病んだ精神性が好きなのだ。女性的な仕草のままでも、男性的な仕草に戻っても、どっちでも俺は萌えられる。
「なのにナルちゃんが女の子扱いしてくれると、それがブレちゃうから……こういうの、しなくていいよって言いたくて……言いたかっただけなのに、なんか長々話しちゃった、ごめんねっ」
「いえ……俺別に女の子扱いとかしてるつもりなかったんですけど、そう感じさせちゃってたみたいですいません」
女の子の扱い方なんか知らないし。
「あっ、そうだったの? 過敏になってたのかなぁ、えへへ……ごめんね。それじゃあこの扱いはどういうつもりでやってたの? 明らかに他の子と違うじゃない」
「……スイさん、まだ俺の告白返事くれてないから。OKの返事くれるまでは扱い違いますよ、そりゃ……お客様と彼氏達一緒に寝させる訳には、ねぇ?」
「…………そういうことだったの」
「はい。ぁ、初対面のみんなと一緒に寝るのちょっとキツいかなって思ってたのも結構大きいんですけどね」
「そう……ごめんねいつまでも返事保留にしちゃって」
「いえ、いつ頃返事出来そうとかあります?」
「……そうねぇ、お義母さまに挨拶も終わったし……今度はナルちゃんがアタ、ちが……俺! 俺のお父さんに挨拶して……くれだぜ?」
互いの親に挨拶だって? 結婚前じゃあるまいし、交際を始めてしばらく経ったならまだしも交際前に挨拶だって? どこの地域の文化だそれは。
「は……はい、分かりました。今度……はい」
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