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生配信中につき (水月+カサネ)

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ダイニングテーブルに置かれた皿に盛られているのはせんべいやおかきだ。母と男性の手元にあるコップ、そして一升瓶から察するに、アレは酒のつまみだ。母が知らない男と飲んでいる、不審な出で立ちで白髪の男だ。

「えぇと……息子の鳴雷水月でございます」

シュカが着ていた俺の服を背後に隠し、自己紹介を済ませる。

「知ってる知ってる、唯乃ちゃんから何回か聞いたよ。写真も見たけど……随分変わったな~、ちびっ子相撲常勝無敗みたいな貫禄あったのに、すっかり唯乃ちゃん譲りの美人さんじゃん」

「……!?」

俺のキモオタデブス時代を知っているだと!?

「ほんとに同じ子? 唯乃ちゃん実は二人こさえてたりした?」

「同じ水月よ……あー、水月? コイツ一代前の社長よ。私をヘッドハンティングしたヤツ」

「コイツにヤツって唯乃ちゃん無礼じゃない?」

「アンタもう社長じゃないんだからいいでしょ、今の社長にはちゃんとへりくだってるわよ」

「昔からそんな態度じゃん、誰にでもそれならいいんだけどさ~……よりによって俺の息子にはちゃんと態度変えてんのモヤんだけど」

前社長……息子……そしてあの声の若さに合わない白髪。なるほど、以前母の会社に着いて行った時に会ったウサギの仮面の小柄な彼の父親か。現社長の顔はまだ知らない、前社長の彼は……こっちも分かんない。なんで顔に布? 紙? 被せてんの?

(雑面ってヤツ……ですかな? 雅楽とかで被ってるヤツ)

前は見えているのだろうか。

「……だってアンタの息子なんか怖いのよ。ほぼ話さないし会わないし、圧強いしね」

「アイツ誰彼構わず威圧するんだよ、ごめんな唯乃ちゃん」

挨拶も自己紹介も済んだし、俺は自分の用を済ませていいかな。まずは脱衣所に行ってシュカが着ていた俺の服と、今俺が着ている服を洗濯機に放り込む。シュカと俺の着替えを手に入れるため、自室に向かう。全裸だが、まぁ廊下の数メートルくらいいいだろう。

「こっちの暗号機の方から音が……ぅわああっ!? フルチンのイケメン!?」

「あ、先輩。こっちにいらっしゃったんですか、すいませんちょっと服取ります」

「あっあっ待って待っ、あの、今配信中で」

「……は!? 他人ひとで!?」

カサネが動画投稿だの配信だのを行っているのは知っている、カミアとそんな話をしていたし、それをやっているからこそアキに配信者への道を示したのだろう。だが他人の家でも構わず配信するタイプだとはこの水月の目を持ってしても……

「俺の全てが今晒されたってコト!?」

「いっ、いや、配信してるのはスマホの画面だけだから! あっ音声も配信してるから名前とか住所とか言わんで!」

「一旦止めろやァ!」

「……マイクオフだけでいい? 今結構人来てて……もったいない……」

「いいから早く!」

「と、止めた! 今止めた!」

「…………本当に?」

「ほんとほんと。えー……繰言重音十九歳、十二薔薇在学!」

個人情報を言うことで音声を切ったことを証明するとは……操作ミスで切れていない可能性とか考えないのか?

「……他人の部屋で無許可配信はよくないと思います」

「ごめん……前日から枠取ってて、ドタキャンはちょっと……鳴雷くん俺が一人になれる場所作ってくれたし、配信してるとか知られたくなくて」

「言ってくれたらやってる間は入らないように気を付けましたよ……ところで配信って何してたんです?」

下着を履きながら尋ねてみた。

「……ゲーム、実況。今回は……その、一対四の鬼ごっこみたいなゲーム。捕まえたらキラーの勝ちで、逃げたらサバイバーの勝ち」

「あー……スマホで出来る方となると、人格がいっぱいな例のアプリですかね」

「そ、そうそう。知ってるんだ、やってる?」

「触ったことはあります。課金はしてませんしプレイ時間も大したことないライト勢ですけど」

服を着ながら会話を続ける。

「あと何時間くらいやる予定ですか?」

「ぁ、後三十分くらいでやめようとしてたよっ。ご飯食べてすぐからやってたし……」

「じゃあ後で来ていいですか? 一緒にゲームしましょっ。今ちょうどゲームしたい気分なんですよ」

「……! う、うん! やろやろっ」

「配信終わったらメッセください。それじゃ」

シュカに渡す寝間着を持って部屋を出た。彼の元へ戻るためダイニングを横切ってプールへ戻ろうとしたが、母に呼び止められた。

「ちょっと待ちなさい水月」

「何です?」

「何も無いのに前社長を家に呼ぶワケないでしょ、コイツ霊視出来るらしいのよ。私と仕事してた頃は霊能力者だなんて一言も言わなかったくせに何なのかしら……」

「易々と一般人には明かせねぇの。唯乃ちゃんジュニア、真尋にはもう会ったか?」

「名前で分かる? 地黒で目つきの悪いヤツよ」

「あ……はい。その方から荒凪くんを預かりました。荒凪くんのこと調べに来てくれたんですか?」

「そゆこと。ちな、真尋は俺のダ・ン・ナ。見て見て指輪、婚約と結婚一つずつ~」

前社長だという男性は左手薬指にはめられた二つの指輪を見せつけてきた。二つかぁ、俺は彼氏が多いから一人一つずつだとしても膨大な金が必要だ。二つとなれば倍額の上、全員とのペアリングをはめたら俺の薬指は曲がらなくなる。

「真尋くん指輪つけてた覚えないわよ」

「アイツすぐ人殴るからな。で、よ、ジュニア、俺が潜入調査を頼んだ怪異競売からアイツが一体だけ連れ帰った人魚モドキ……調子はどうよ、つい最近なかなかえげつねぇ真似してくれたらしいけど、お前の目から見てどうだ?」

えげつねぇ真似というのは超居所的な地震を引き起こしたことか?

「……かなり、打ち解けてます。すごく優しくて、俺がうっかり鱗でちょっと指切っちゃっただけでもすごく慌てて……とってもいい子ですよ」

地震云々の話から荒凪を危険な怪異だと判断され、殺処分だなんて言われたらたまったもんじゃない。俺は出来るだけ荒凪の印象が良くなるよう、エピソードを盛って話した。

「そうか、いい子か」

「……あの、荒凪くんの霊視って」

「おぅ、これ飲んだらやろうかなーってとこだ」

男の手には日本酒がたっぷり注がれたグラスがあった。

「でも、その……荒凪くんの霊視するのは、危ないって……俺もその、えーと、フリーの霊能力者さんに頼んだりしたんですけど、罠? が発動したり……そもそも視ていったら、物部……荒凪くんを作ったヤツに見つかるかもって」

スイは公的私的問わず組織だったものには見つかりたくないと考えている、名前は伏せるべきだろう。荒凪が地震を引き起こしたのはスイの事務所でのことだから、もう彼らにはスイの存在が分かっているかもしれないけれど。

「ありがたい心配りだな、それに的を得てる。だが、ホームラン王に「コルクバット使ったらよく飛ぶらしいですよ」っつってるようなもんだ」

「はぁ…………失礼しました……?」

「野球にたとえたら誰にでも通じると思ってるのっておっさんの特徴よ」

「誰がおっさんだ俺は永遠の二十代だ!」

「…………あの、見てもらいたいものがあって」

「人魚モドキじゃなくてか? パンツ下ろしてポロンなんてオチじゃねぇだろうな」

「違いますよ! あと俺のはボロロンッくらいはありますから!」

俺は初対面の相手に陰部を見せつけるような変態ではない。

「悪ぃ悪ぃちょっとふざけただけだ。任せろよ、飲んだら視てやるし、相談にも乗ってやる、唯乃ちゃんの息子だからな」

「……ありがとうございます。では、一旦失礼します」

「おぅ、またな」

気さくな人だ。現社長のような圧迫感もないし、秘書よりも話しやすい大人だった。
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