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改めて好きなところを (水月+シュカ)
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言葉に詰まりながらも下手くそな文章を組み上げて、どうにかこうにかシュカに俺の気持ちを伝えられた。シュカにとっては不快な部分もあっただろう、でも伝えなければならないことだったんだ。
「……シュカ」
「そんな泣きそうな顔しないでくださいよ……分かってますよ、あなたが……その、私を……大切に思ってるのは」
シュカは俺にぴったりと身を寄せると、俺の腕に未だ残る刃物傷に指を滑らせた。
「……私を庇って、怪我したり……私を喜ばせるために、何十万も使ったり…………危ない状況なのに、私の傍に居ようとしてくれたり……あなたの気持ちはよく分かっています」
また俯いたシュカの耳は赤い。
「だから……そんな顔しなくても大丈夫です。夏休みの時みたいな失態、二度としません。ケチらずヘルパーさん呼んで、適度に休んで、健康保ちますよ」
「…………ほんと?」
「……ええ」
「よかった」
顔を上げたシュカはレンズの奥で僅かに目を見開いた。
「……なんです、その顔」
「えっ、そ、そんな変な顔してた?」
シュカがちゃんと自分の身体に気を遣うと決めてくれたのが嬉しくて、何より俺の思いが通じたことでそう決心してくれたのが嬉し過ぎて、自然と頬が緩んでいた。情けない顔だっただろうか?
「すごく、いい笑顔でした」
「……? ならいいじゃん」
「あなた自分の顔の良さ分かってます? そんな、人間離れした顔で……今みたいな、子供みたいな、なんて言うんですか、純新無垢? そんな笑顔されたら……」
「…………ときめくぅ?」
「……その通りですよ」
「そ、そうなんだ……」
「自分からふざけて聞いてきておいて何照れてんですか」
「いやぁ、だって……こう、カッコつけたり、キザっぽく振る舞ってときめいてもらうのは……狙い通りだしいいんだけど、今のは……素、だし、それでときめかれるの……なんか……」
超絶美形になってからの人生は、キモオタデブスとして蔑まれ続けてきた人生に比べてあまりにも短い。顔に合わせて作った仕草や言葉でなく、素の表情をイイと言ってもらえるのは、不思議な気分だ。
(……って勘違いしてはいけませんぞ鳴雷水月。超絶美形の今だからこそ素の表情でも魅力が出るのであって、キモオタデブスの頃ではただのキモいニチャつきに過ぎませぬ!)
いや、整形でも仮面でもない、ただ痩せただけで手に入れた顔なんだ。この顔は俺が生まれついて持っていたもの。シュカが今気に入ってくれた表情もそう、俺のもの。一から十まで全部俺。勘違いなんかじゃない。俺の素は、みんなに嫌われた醜い姿じゃない。
「…………」
「水月?」
「……ありがとう。俺のこと、好きになってくれて」
入学してすぐの頃の俺の言動は確かに作ったものだった、演技だった。ゲームをしているような、プレイヤー視点のような気分だった、超絶美形はただのアバターだった。でももうそろそろ演技と素の境界が曖昧だ、口調は整えてはいるけれど変態だとはとっくにバレたし情けなさも散々晒した。
「なんですか、今更……」
シュカが、みんなが、愛してくれているのは俺の顔と演技だけじゃない。シュカが俺の愛情を受けて自分の健康に気を遣うと決めてくれたように、俺も俺自身がちゃんと愛されていると自覚を持とう、覚悟を決めて責任を持とう。
「シュカ、俺のこと好き?」
「なんで聞くんですか、今ありがとうとか言ったんですから分かってるでしょう……好き、好きですよ、知ってるでしょ」
「……どこが好き?」
「意地悪してるんですか? 私を、辱めて……遊んでる」
「違うよ、教えて欲しいだけ。嫌なら我慢する」
真っ直ぐに目を見て素直に言葉を紡ぐと、シュカはぐっと唸るような表情で僅かに身体を引いて、ゆっくり目を閉じて、ため息をついて、それから俺にずっしりと体重を預けた。
「安心させてくれるところ、ですね」
「……安心?」
「ええ、恋人への不安と言ったら大抵は飽きられたり浮気をされたり……でしょうけど、あなたにはその心配がない。浮気公認みたいなものですし、十何人と彼氏を作ってもなお私だけの時間を作ってくれている。冷めやすい恋情だけじゃなく、深まっていく愛情を向けられていると、分からせてくれる」
シュカの腕が俺の胴を力強く抱き締める。
「分野さんのおかげであなたが突然死んでしまう心配もない……死なず、忘れず、飽きず、冷めず、愛してくれる……最高の恋人ですよ、あなたは」
「……恋人が俺と居て安心してくれるなんて、男冥利に尽きるってヤツだよな。教えてくれてありがとう、シュカ」
「あなたは顔が良くて、ちんぽも大きくて形がいい、しかも絶倫だし、スタイルもいいし、筋肉もいい具合……外も中も完璧です。だから……その、好きなところは、全部です。やっぱり、全部ですよ。子供っぽいし、バカみたいな言い方ですけど……全部好きです、全部……」
胴に巻かれた腕の力が強くなっていく。流石の腕力だ、苦しい。だが今「苦しいから離してくれ」なんて言えば台無し、耐えなくては。
「光、です。私の……今の、人生の。なくてはならないもの。水月……あなたが居てくれなかったら、私きっともっと自暴自棄になってました。九州に居た頃と同じように暴れて、滅茶苦茶してたかも……東京に出てきたばかりの頃の私の決意、まともに生きるんだって私の決意……保たせてくれたのはあなたです。私の一番大切な人ですよ」
「……そうなんだ。嬉しいなぁ……ありがとうシュカ。俺にとってもシュカは唯一無二だよ、絶対に失いたくない。だからちゃんと、自分のこと大切にしてくれよ」
「分かってますよ」
「無茶しちゃダメだからな、自分の疲れにちゃんと気ぃ配るんだぞ」
「分かりましたったら!」
「……ふふ」
「もう……からかいましたね?」
「ちょっとだけ? ふふふ……でも本気だよ」
俺を抱き締めていた腕の力が緩む。浅くしか出来なかった呼吸が途端に深くなる。
「…………愛しとーよ、水月」
「……!?」
深く吸った息が肺の手前で止まる。
「ふふっ……お返しです。好きでしょう? 方言。特別サービスです。もう二度と言いませんから、しっかり脳に刻むといいですよ」
「もっかい……! もっがい言っでぇ……録る、どるがりゃぁ……!」
「いーやーでーすー」
「それも可愛いぃ! サービスが過ぎるよシュカぁ!」
「お嫌でした?」
「お好きにごじゃりましゅぅ!」
シュカは俺の反応を楽しんで、どんどん可愛い姿を見せてくれる。シュカ相手に表情や態度を繕うのは損だ、気持ち悪くない程度に素を解放して大きなリアクションを見せてシュカをノせ、可愛くなってもらうんだ!
「……シュカ」
「そんな泣きそうな顔しないでくださいよ……分かってますよ、あなたが……その、私を……大切に思ってるのは」
シュカは俺にぴったりと身を寄せると、俺の腕に未だ残る刃物傷に指を滑らせた。
「……私を庇って、怪我したり……私を喜ばせるために、何十万も使ったり…………危ない状況なのに、私の傍に居ようとしてくれたり……あなたの気持ちはよく分かっています」
また俯いたシュカの耳は赤い。
「だから……そんな顔しなくても大丈夫です。夏休みの時みたいな失態、二度としません。ケチらずヘルパーさん呼んで、適度に休んで、健康保ちますよ」
「…………ほんと?」
「……ええ」
「よかった」
顔を上げたシュカはレンズの奥で僅かに目を見開いた。
「……なんです、その顔」
「えっ、そ、そんな変な顔してた?」
シュカがちゃんと自分の身体に気を遣うと決めてくれたのが嬉しくて、何より俺の思いが通じたことでそう決心してくれたのが嬉し過ぎて、自然と頬が緩んでいた。情けない顔だっただろうか?
「すごく、いい笑顔でした」
「……? ならいいじゃん」
「あなた自分の顔の良さ分かってます? そんな、人間離れした顔で……今みたいな、子供みたいな、なんて言うんですか、純新無垢? そんな笑顔されたら……」
「…………ときめくぅ?」
「……その通りですよ」
「そ、そうなんだ……」
「自分からふざけて聞いてきておいて何照れてんですか」
「いやぁ、だって……こう、カッコつけたり、キザっぽく振る舞ってときめいてもらうのは……狙い通りだしいいんだけど、今のは……素、だし、それでときめかれるの……なんか……」
超絶美形になってからの人生は、キモオタデブスとして蔑まれ続けてきた人生に比べてあまりにも短い。顔に合わせて作った仕草や言葉でなく、素の表情をイイと言ってもらえるのは、不思議な気分だ。
(……って勘違いしてはいけませんぞ鳴雷水月。超絶美形の今だからこそ素の表情でも魅力が出るのであって、キモオタデブスの頃ではただのキモいニチャつきに過ぎませぬ!)
いや、整形でも仮面でもない、ただ痩せただけで手に入れた顔なんだ。この顔は俺が生まれついて持っていたもの。シュカが今気に入ってくれた表情もそう、俺のもの。一から十まで全部俺。勘違いなんかじゃない。俺の素は、みんなに嫌われた醜い姿じゃない。
「…………」
「水月?」
「……ありがとう。俺のこと、好きになってくれて」
入学してすぐの頃の俺の言動は確かに作ったものだった、演技だった。ゲームをしているような、プレイヤー視点のような気分だった、超絶美形はただのアバターだった。でももうそろそろ演技と素の境界が曖昧だ、口調は整えてはいるけれど変態だとはとっくにバレたし情けなさも散々晒した。
「なんですか、今更……」
シュカが、みんなが、愛してくれているのは俺の顔と演技だけじゃない。シュカが俺の愛情を受けて自分の健康に気を遣うと決めてくれたように、俺も俺自身がちゃんと愛されていると自覚を持とう、覚悟を決めて責任を持とう。
「シュカ、俺のこと好き?」
「なんで聞くんですか、今ありがとうとか言ったんですから分かってるでしょう……好き、好きですよ、知ってるでしょ」
「……どこが好き?」
「意地悪してるんですか? 私を、辱めて……遊んでる」
「違うよ、教えて欲しいだけ。嫌なら我慢する」
真っ直ぐに目を見て素直に言葉を紡ぐと、シュカはぐっと唸るような表情で僅かに身体を引いて、ゆっくり目を閉じて、ため息をついて、それから俺にずっしりと体重を預けた。
「安心させてくれるところ、ですね」
「……安心?」
「ええ、恋人への不安と言ったら大抵は飽きられたり浮気をされたり……でしょうけど、あなたにはその心配がない。浮気公認みたいなものですし、十何人と彼氏を作ってもなお私だけの時間を作ってくれている。冷めやすい恋情だけじゃなく、深まっていく愛情を向けられていると、分からせてくれる」
シュカの腕が俺の胴を力強く抱き締める。
「分野さんのおかげであなたが突然死んでしまう心配もない……死なず、忘れず、飽きず、冷めず、愛してくれる……最高の恋人ですよ、あなたは」
「……恋人が俺と居て安心してくれるなんて、男冥利に尽きるってヤツだよな。教えてくれてありがとう、シュカ」
「あなたは顔が良くて、ちんぽも大きくて形がいい、しかも絶倫だし、スタイルもいいし、筋肉もいい具合……外も中も完璧です。だから……その、好きなところは、全部です。やっぱり、全部ですよ。子供っぽいし、バカみたいな言い方ですけど……全部好きです、全部……」
胴に巻かれた腕の力が強くなっていく。流石の腕力だ、苦しい。だが今「苦しいから離してくれ」なんて言えば台無し、耐えなくては。
「光、です。私の……今の、人生の。なくてはならないもの。水月……あなたが居てくれなかったら、私きっともっと自暴自棄になってました。九州に居た頃と同じように暴れて、滅茶苦茶してたかも……東京に出てきたばかりの頃の私の決意、まともに生きるんだって私の決意……保たせてくれたのはあなたです。私の一番大切な人ですよ」
「……そうなんだ。嬉しいなぁ……ありがとうシュカ。俺にとってもシュカは唯一無二だよ、絶対に失いたくない。だからちゃんと、自分のこと大切にしてくれよ」
「分かってますよ」
「無茶しちゃダメだからな、自分の疲れにちゃんと気ぃ配るんだぞ」
「分かりましたったら!」
「……ふふ」
「もう……からかいましたね?」
「ちょっとだけ? ふふふ……でも本気だよ」
俺を抱き締めていた腕の力が緩む。浅くしか出来なかった呼吸が途端に深くなる。
「…………愛しとーよ、水月」
「……!?」
深く吸った息が肺の手前で止まる。
「ふふっ……お返しです。好きでしょう? 方言。特別サービスです。もう二度と言いませんから、しっかり脳に刻むといいですよ」
「もっかい……! もっがい言っでぇ……録る、どるがりゃぁ……!」
「いーやーでーすー」
「それも可愛いぃ! サービスが過ぎるよシュカぁ!」
「お嫌でした?」
「お好きにごじゃりましゅぅ!」
シュカは俺の反応を楽しんで、どんどん可愛い姿を見せてくれる。シュカ相手に表情や態度を繕うのは損だ、気持ち悪くない程度に素を解放して大きなリアクションを見せてシュカをノせ、可愛くなってもらうんだ!
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