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楽な道は選ばない (水月+シュカ・リュウ・セイカ・ハル・ノヴェム)

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彼氏達の可愛らしい会話に耳を癒されたり、仕草や絡みに興奮したりしながら、夕飯を食べ終えた。少し食べ過ぎてしまったかもしれない。

「ふぅっ……お腹いっぱい」

「ごちそうさまでした」

「……なぁシュカ、ちょっと二人で話さないか?」

「私は構いませんが、出来ますかね」

穂張三兄弟とカミア以外が集まった今、確かに俺が一人だけを選んで二人きりの空間を作るのは難しいかもしれない。俺は引っ張りだこになるはずだし、そもそも物理的に難しい。我が家はそんなに広くない。

「大丈夫、いい場所あるんだ」

だが、俺には素晴らしいアイディアがある。

「サウナ。あそこ狭いし、みんなこの部屋かプールか……ゲームするならリビング行くかもだけど、サウナには来なさそうだろ?」

「……ですね。でも私暑いの嫌ですよ」

「スイッチ入れなきゃ普通の部屋だよ、冷房は入らないからこの部屋よりは暑いかもしれないけど」

「それくらいならいいですよ」

シュカの様子が普段と違うのはみんな気付いてくれているだろうから、俺がシュカだけをどこかへ連れて行っても「俺も」「僕も」なんて可愛い嫉妬心を顕にはしないだろう。問題はノヴェムだ、幼い彼は願いを叶えられるべき存在で、俺にとても懐いている。俺が同じ部屋に居る今は他の彼氏達に構われて楽しげにしているが、俺が違う部屋へ移るとなれば着いてこようとするはずだ。

(ノヴェムきゅんの気が逸れた瞬間を狙わねば)

じっとタイミングを見計らう俺をシュカは不審そうな目で見ているが、特に何も言ってこない。

「なんや甘いもん食べたいなぁ……アキくん、その冷蔵庫アイスとかないのん?」

「あるってさ。食べてもいいけど後で買って返せって」

「食べてええのん? おおきに~。アイスアイス~」

セイカを通してアキから許可を得たリュウが冷蔵庫の前に移動する。

「……あいす?」

《ノヴェムくんもアイスクリーム食べたい?》

《食べたい!》

「せーかぁ、アキくんにノヴェムくんも食べていいか聞いてよ」

「買って返すんだったらいいって言ってる。後でネイに頼めよ、って言っといてくれ」

「りょ~……ってアンタ英語も喋れるでしょ、別にいいけどさぁ」

ノヴェムが冷蔵庫の前へと移動する。ふわふわくりくりの愛らしい金髪が冷蔵庫の扉の影に隠れて見えなくなった瞬間、俺は立ち上がりプールへ繋がる扉を抜けた。

「急に……もう、行くなら行くと言ってください」

愚痴を呟きながらもシュカは俺に着いていくる。プールサイドを渡り、サウナ室を開ける。

「狭いですね」

「広いと温めるの大変だからかな」

「この真ん中の邪魔なんですけど……何ですこれ」

「石」

「見れば分かります」

カゴに入れられたいくつもの石をシュカは不快そうな表情でつついている。

「蒸気出るヤツ。アロマ水? だったかかけて、いい匂いの蒸気出すんだ、確か。より暑くするため? なのかな……よく知らないや、一回二回アキに付き合って入っただけだからなぁ」

「サウナ、気に入らなかったんですか?」

「んー……出た後涼んでボーッとするのは気持ちよかったんだよ、整うってヤツだな。でもアレ味わうために暑いの耐えるのはなぁ……趣味じゃないかも。それにほら、あんまり温めるの玉によくないらしいし」

「あなたゲイなんですから精子死んだところで関係ないでしょう」

「なんか嫌だよ……熱くて玉てろーんってなるのカッコ悪いし。ほら、入ろう」

詰めて入れば四人までは入れそうだけれど、二人で入っても狭さを感じる。そんなサウナ室の扉を閉めた。

「これでみんながプールで遊び始めても大丈夫、人目を気にせずイチャつけるぞ」

「サウナ使いたがる人は現れないって予想なんですか?」

「多分居ないよ、アキはだいたい昼間にしか入ってないみたいだし……アキに誘われて入ったことあっても、アキに誘われてもないのに個人的に入りたがるほどハマったヤツ居ないっぽいし」

「……なるほど」

誰も来ないとようやく信じた様子のシュカは俺の隣に腰を下ろし、俺を見たが、すぐに俯いた。

「…………」

シュカが話し始めるのを待つべきだろうか、何か俺に聞いて欲しいことがあるかもしれない。逆に、俺の言葉を待っているのかもしれない。どっちだ?

「……水月」

「ん?」

「寝てましたね」

「あぁ、夕飯前か? うん」

「……疲れました?」

ほんの少しだけ不安げな表情と声色。普段との差異は極僅かで、シュカの感情を必死に読み取ろうとしている今の俺でなければ分からなかっただろう。

「カンナに寝かしつけられちゃっただけだよ。みんな話しかけてくれないし、暇だし、それで寝ちゃっただけ」

「……疲れてはいないんですね?」

「うん、大丈夫」

シュカは無駄に俺に俺の家からシュカの家までを往復させたと思っているのだろうか、その手間で俺が疲れたと……自分のせいで疲れたのではと、そう不安がっていたのだろうか。

「俺よりシュカだよ、大丈夫か?」

「……私は、何も。今日は夕飯の支度も一人でやらずに済みましたし、片付けも同じく……楽なものでしたよ」

「そっか……ならよかった。今日はゆっくりしてってくれ。ううん、今日だけじゃない。荒凪くんの問題が解決するまではみんなには俺の家で過ごしてもらうから……しばらくこの家で、ゆっくり過ごしてくれ」

そっとシュカの腰に手を当てると彼は座る位置を僅かに変え、壁と自分の隙間を広げて俺の腕が通るスペースを作ってくれた。細やかな気遣いが嬉しくて、シュカも俺に密着して欲しいんだなと喜んで、彼の腰に腕を回した。

「……それは、母のことですか。母の介護が必要ないと……そう言いたいんですか」

「…………そうだよ。夏休みだっけな、シュカが倒れてるの見たのは。シュカが自分の疲労に鈍いタイプなのはよく分かってる。どうしようもないかもしれないし、俺が口を出せたことじゃないだろうけど、それでも……シュカがお母さんの世話で大変なの、俺は……胸が苦しいよ」

言葉選びが難しい。やっぱり言及するべきじゃない話題なのかもしれない。

「……だから、ウチに居る間だけでもゆっくり休んでくれたら……嬉しい。ご飯の準備とか、ちょっとくらいサボっててもいいから。いっぱい来てくれてるんだから、みんなに任せて……な? しばらくは……その、ゆっくりしててくれ」

いや、ダメだ。ちゃんと話すんだ。楽な方へと逃げて、好きな人の機嫌を損なうのが怖くて話題を何気ないものばかりにしていたから、中学時代の俺はセイカの虐待を見逃したんだ。

「ウチに居る間以外も……なんか大変なことあったり、嫌なことあったら相談して欲しいし……手伝えることあったら俺も手伝いたいし、話して欲しい……とにかく、抱え込んで壊れてくのだけは……やめて欲しい」

俺が楽な道を選び続けた結果セイカは手足を失ったんだ。今度こそ逃げない、間違えない。シュカには何も失わせない。
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