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この世で最も優れた寝心地 (水月+カンナ・ノヴェム・セイカ)

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明るく振る舞うスイはすぐに彼氏達に馴染んだ、馴染めていないのはカサネの方だが、彼はこの場に居ない。

「ふぅ……」

彼氏達は各々床に座っている、ノヴェムの眠るベッドに腰を下ろし、背伸びをする。今日は疲れた、肉体的にも精神的にも。シュカは最終的に感謝してくれたし、爽やかな表情を見せてくれた、けれど俺はやっぱり俺の評価は「余計なことをしたヤツ」から変えられない。

「…………」

何もしなくて悪い結果になるより、自分で考えて行動した結果悪いことになった方が、精神的ダメージは大きい。

「みぃ、くん」

「ん……? どうした、カンナ。俺に構ってくれるのか?  ふふ、おいで」

そっと俺の隣に座ったカンナはその瞳を前髪で隠したまま俺を見つめる。

「……おつかれ、さま」

「え……? あ、あぁ……ありがとう。でも俺今日は別に何もしてないぞ? カンナ達は学校行ってお疲れ様だけどさ、俺は今日休んだし……」

「みぃくん……つか、れ……てる」

「そう見えるか? 大丈夫だよ」

俺と比べれば一回り以上小さな手が、俺とは違い骨張っていない子供のような手が、俺の頭をぽんと撫でた。

「…………ありがとうな」

悟られるようではいけない、俺は本当に未熟だ。微笑んではみたものの、他者の心の機微に敏感なカンナがこの程度で誤魔化されてくれるとは思えない。

「みぃくん…………みぃくん、ひざ……くら、したい」

「膝枕? いいぞ。おいで」

「……みぃ、く……寝、て」

「俺が寝るのか? うーん……ありがたいけど、また今度な。俺もうちょっとやらなきゃいけないことあってさ」

シュカの様子は度々見ておきたいし、急に化け物から隠れることになって困惑&恐怖しているだろう各彼氏達と話しておきたい。レイにあげると口約束したレジンの小物のアイディア出しくらいはやっておきたいし、セイカと約束した公助の服作りも進めたい。あぁそうだ、まだ遊園地のお土産を渡していない彼氏達も居るんだ、カサネには縁日で手に入れたパググッズを渡さなきゃいけない、やることは山積みだ。

「みぃ、くん……寝る、の」

「今寝る訳にはいかないんだって、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとうカンナ、また誘ってくれ」

「寝る、の。みぃくん……寝て★」

「……カンナぁ」

いつも控えめなカンナが譲らない。そんなに俺に膝枕をしてやりたいのか? 化けガラスに怯えた彼が癒される手段なのかもしれない、だとしたら応えねば。

「分かった、ちょっとだけだぞ」

アキのベッドの上で横になり、カンナの太腿にそっと頭を置く。眠るには少し高いが、目は覚めたままただ横になるだけならちょうどいい高さの枕だ。

「イイ……」

低反発枕は沈み過ぎて使いにくいし、高反発枕は硬過ぎる。そんなワガママな俺にカンナのむっちりとした太腿はピッタリだ、ほどよい弾力と柔らかさ……何故この世は美少年のハリのある尻や太腿を再現した枕が主流ではないんだ?

「みー、くん……ねご、こ……どう?」

「寝心地どうって? 幸せだよ」

すぐに起きるつもりだったけれど、もう少しこのままで居たい。

「よし、よし……」

頭や背中を撫でられている。心地いい。呼吸が自然と落ち着く。カンナの優しく小さな声が疲れた心に染み入る。

「やばい……眠くなってきた。カンナ、もういいよ」

起き上がろうとすると頭を撫でてくれていた手で押さえられた。まだ寝ておけと? 確かにまだ十分もこうしていない、膝枕したい欲がカンナの中で爆発しているならもう少し寝ていないとカンナは欲を満たせないだろう。

「……分かった、もうちょい寝てるよ。足辛くなったらすぐ言えよ?」

首に力を入れるのをやめ、カンナの太腿に頭を預ける。太腿の感触を楽しみながら、円形に並んで座り談笑する彼氏達を眺める。天国だ。



肩を揺すられて目を開く。

「おにーちゃ、おにーちゃん、おきて、おにぃちゃ」

「んっ……ん? ぇ……やっば寝てた! あ、ノヴェムくん……おはよう」

跳ね起きて、背後に居たノヴェムに返事をした。その後、ずっと俺に太腿を貸してくれていたカンナに笑いかけた。微笑んだつもりだったが、苦笑いに近かっただろう。

「おはよう。悪いなカンナ……寝ちゃって」

「……? みぃ、くん……寝て、欲しかっ……から、これで……いいん、だよ?」

「そうか……ありがとうな、本当」

少し頭がスッキリした気がする。仮眠は必要だったのかもしれない。

「俺何時間寝てた?」

「二時……くら…………みぃ、くん……寝たく、なか……た? ごめ……ね。つかれて、そぉで……ぼく、寝て……欲し……て」

「……いや、ありがとう。気ぃ遣わせて悪かったな」

「ううん……」

「カンナは優しいなぁ。寝てちょっとスッキリしたから、助かったよ。無理してたってほどでもないけど、仮眠は必要だったみたいだ。本当にありがとう」

「……どういたし、まして」

カンナの笑顔が見られて、彼にこれ以上の心労をかけることはないと安心した。

「みんなは?」

部屋に居る彼氏達の数が減っている。居るのはセイカとアキだけだ。そしてベッドの上にはカンナとノヴェム。

「飯の準備中」

アキの膝の上からセイカが応えた。

「人数多いからこっちの部屋かプールで適当に食えってよ」

「あぁ……確かにこの人数じゃダイニングテーブル使えないな。そっか……手伝いに行かなきゃ」

「お前は寝てろよ」

「さっきまで寝てたし、別に体調悪い訳じゃないから」

「い、ぱい……居て、も……じゃま……だから、みーくん……ここ、居たら?」

「……それもそうか。みんな行ってるんだもんな」

カンナに説得され思い直し、座り直した。そのすぐ後扉が開き、食事を持った彼氏達が続々と帰ってきた。
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