冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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オタクより人魚派 (水月+シュカ・カサネ・ミタマ・ハル・セイカ・荒凪)

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肉だとかを冷凍して、野菜類は野菜室に詰めて、お麩は常温保存。すき焼きの具材はそう振り分けられた。

「ヘルパーさんに電話しますね」

「あぁ、その電話終わったら帰ろうか。緊急料金とかあるなら俺が払うからちゃんと言ってくれよ?」

シュカの家に泊まる覚悟で持ってきた、今となっては無意味な鞄を持ってトンボ帰りだ。

「ただいま~……先輩、ナイフありがとうございました」

「エペラな。使ったか?」

「お守りとしては。何にも襲われませんでした。そのナイフのおかげかもしれません、本当にありがとうございました!」

「エペラな」

まずは自室に入り、飼い犬とくつろいでいるカサネにナイフを返した。

「あなたのナイフだったんですか。意外ですねぇ、あなたみたいなヘタレそう、いえ、大人しそうな方がナイフを所持しているだなんて」

シュカはすっかりいつもの調子を取り戻している。電車の中でずっとこっそり手を繋いでいたのが功を奏したかな。

「おや……こちらは時雨さんのウサギでは?」

シュカの視線を追ってようやく俺は自室の端に設置されたケージに気が付いた。俺の目は節穴か? 何故そこそこ大きなこれを見逃していたんだ。

「さっきカンナちゃんが設置してったぞ」

「ぷぅ太連れてきたのか……このケージ、カンナの家で見たことあるなぁ」

ケージの中を覗き込むと牧草で出来たベッドに寝転がり、葉巻でも吸うような態度の大きなポーズで細長い草を貪る白ウサギの姿があった。

「そりゃ狙われてるかもとなれば連れてくるべさ。何か災害で避難する時が来ても一緒だ、動物禁止の避難所しかなけりゃ俺フランクと死ぬぜ。覚悟は出来てる」

「大層な覚悟ですね。一緒に死ぬ、か……水月でギリですね」

「えマジ? うーん……俺は……水月くん…………ちょっと無理かな」

「そんな! 先輩!」

「いや付き合い浅いし仕方ねぇべや! なぁフランク~、俺はフランクと墓に入るからな!」

「犬とは無理ですよ」

「じゃあフランクが死んだら骨壷抱えて死体が回収されない険しい山とかに行くべ」

「はぁ~? 俺が回収に行きます」

「水月、水月」

「ん?」

「私鳴雷家の墓に入りたいです」

「……養子縁組とかする?」

俺が思い付く限り最も現実的な提案をしてみると、シュカはくすくす笑って「じゃあそれで」と言った。シュカにしては表情が自然に出ている。

「水月は私より少し長く生きてくださいね。あなたに置いていかれるのは嫌ですし、あなたに忘れられるのも嫌ですから」

「頑張るよ」

「……意外と重いんだぁ」

俺と知り合って日が浅く、他に依存先が幾つもあるカサネはシュカの想いに若干引いている様子だ。

「…………ふん。水月、他の方はどこです?」

「多分アキのとこ」

「行きましょう」

それに気を悪くしたらしくシュカは俺の腕に腕を絡ませ、強引に部屋から引っ張り出した。シュカから腕を組んでくれるなんて珍しい、今日は珍しいことだらけだ。口に出したら離れそうだから、黙っていよう。

「くぁあ……ワシ像に戻っとるぞぃ」

「ごめんね、ありがとう」

ミタマは欠伸をしながら姿を消し、俺達はアキの部屋に入った。パンパンとリズミカルな拍手が聞こえる。

「消費期限切れでも平気で食べる」

「足長過ぎて机に膝ぶつけて……あっ、みっつんおかえり!」

「あぁ……何やってたんだ? リズムゲーム? マジカルバナナ的な」

「えーと、そのぉ……怒んないでね? みっつんのぉ……ムカつくとこ、言っていくゲーム……」

「なんて傷付くゲームやってんだよ!」

「だからみっつん居ない間にやってたのぉ! ご、ごめんね? でもそんな大したこと言ってないから!」

大したことかどうかは俺が決める。しっかり聞き出さないとな。

「大したことじゃないなら俺に直接言えるよな? 言ってみろ、ハル。俺のムカつくところ」

「ぁ、足長過ぎてムカつく……俺がどんなに足長く見えるファッションしてもっ、身体の六割以上足のみっつんの横並んだら腰の位置から違ってムカつく! モテ過ぎててムカつく、姉ちゃん達がみっつん狙ってんの超ムカつく!」

「最後のは俺じゃなくてお姉さん達に言うべきだろ」

「俺の彼氏だからダメとか? 無理無理絶対言えない、姉ちゃん達彼氏寝取り合ってたことあったし」

怖……

「そっか、怖いな……さて、セイカ! お前は何がムカつくって?」

「消費期限切れ平気で食べるとこ、俺には食わせないくせに。あぁ、真空パックか冷凍すれば食材の時間止まると思ってるとこもだな」

「……それムカつくのか?」

「腹壊したらどうすんだよ。それより……鳥待、結局こっち来たのか」

「ええ、少し家に帰らなければならない用事があっただけなので、それが済んだらタダ飯の食える方へ来るのは当然でしょう」

組まれていた腕が離れた。

「水月、あの写真と動画は作り物ではないんですよね?」

「……どれのことだ?」

「荒凪さんのことですよ、当たり前でしょう」

「あぁ、プールに居るぞ。会うか? みんな会った?」

アキの部屋の床に丸く座り込んだ彼氏達はみんな俺から目を逸らした。ただ一人、ハルだけは「ちょっと怖くて」と返事をしてくれた。

「そうか……荒凪くんみんなに会うの楽しみにしてるんだ、出来れば会ってやって欲しいんだけど」

「私は会いますよ。プールこっちですよね」

「あっ、うん……みんなも、ぁー……怯えちゃ荒凪くん傷付いちゃうかもだから、驚かない自信が表情に出さない自信付いたら来てくれ」

シュカに続いてプールへ入る。プールには荒凪一人だけで、水面下に虹色に輝く白いシルエットが揺らめいた。

「……! シュカ!」

複腕を使ってプールサイドに上半身を乗せた荒凪は、顔に張り付いた黒髪を主腕で後ろへ流し、シュカを見つけて満面の笑顔を浮かべた。

「お祭り、ぶり?」

「…………そう、ですね。こんばんは」

一瞬表情を強ばらせたもののシュカはすぐに温和な笑みを作ってみせた。

「こんばんは!」

「……泳ぐの上手そうですね」

「きゅ~、僕達泳ぐの好き」

「イルカみたいな声ですね……私達、夏休みに海に行ったんです。ネザメさんの別荘に……また来年連れて行ってくれるかもしれません、そうなったら私を背に乗せてくれませんか? イルカショー、ちょっと憧れなんです」

「背? きゅるる……乗れる?」

荒凪は水面にうつ伏せの体勢で身体を伸ばし、鋭く大きな背ビレを立てた。

「……私真っ二つになりそうですね」

「畳めるだろ? 荒凪くん」

「きゅ」

扇子を閉じるように背ビレが閉じる。

「あぁ、これなら乗れそうですね、乗せてくれますか?」

「きゅ! 今乗る?」

「え? 今は…………今乗っていいですか?」

「……シュカそんなにイルカショー好きだったのか? 今度水族館デートする?」

「見たいんじゃなくてやりたいんですよ、イルカに乗ってイルカに飛ばされて……楽しそうじゃないですか」

意外だな。いや、バイクが好きなのと似たようなことなのか? 乗ると速くて楽しそうだから……違うか。

「水月、水着貸してください」

「裸でよくない?」

「……あなた背中に他人のアレ当てられたらどう思います?」

「超嬉しい。美少年のぷりぷりちんちん大好き」

「知らない全く趣味でない男のでも?」

「超嫌」

「さっさと水着持ってきなさい」

横暴だ。もう水着のシーズンは過ぎている。自室の収納に押し込んでしまっていて出すのが面倒臭い。

「……分かったよ」

だが、彼氏の頼み。しかも今のシュカの頼みは叶えてやりたい。俺は仕方なく頷いた。
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