冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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嘗ての母に会いたいから (水月+レイ・ノヴェム・スイ・シュカ)

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リビングの窓から外に出ようとすると、ノヴェムは俺の服をぎゅっと掴んで今にも泣き出しそうな声を出した。

「みつきおにいちゃ……外、や……」

「……大丈夫、怖いのは居ないよ。大丈夫……お兄ちゃんが着いてるから、ね?」

ノヴェムをなだめながら、彼がアキの部屋に行かず俺の部屋に留まって震えていた理由はこれかと納得する。外が怖かったのだ、庭を抜ける僅かな間すら。それほどカラスが怖かったのだ。

「震えてるっすよ、可哀想に……」

「あぁ……」

足早に庭を抜けてアキの部屋に入る。ノヴェムをベッドに座らせてやり、セイカのテディベアを与える。金髪男児が大きなぬいぐるみを抱いている姿は様になる、絵画として飾りたい。

「俺はちょっと見てみたいっすけどね、お化けカラス」

「外に居ると思うぞ。敷地外に出なけりゃ安全だと思うけど……見に行くか?」

「…………やっぱやめとくっす。そ、それより、えーと……あ、セイカくんのクマさん貸しちゃっていいんすか? セイカくんそれすっごい大事にしてたっすよね」

「まぁノヴェムくん賢いから汚さないし大丈夫だろ。鼻水つけたりしないって。帰ってきたら返させればいいよ」

「そういうもんすかねぇ」

ノヴェムの隣に腰を下ろすと、レイも隣に座った。ノヴェムは寝転がって身体を丸め、俺の膝に頭を預け、レイもまた俺にもたれた。くるくると巻いた金色の髪を梳き、細いながらに男であると確かに分かる肩を抱く。

(皆さん大丈夫でしょうか)

ようやく安心してくれたのか寝息を立て始めたノヴェムの頭を撫でるのをやめ、スマホを持った。

『そちらの調子はどうですか? 何か変わったことありましたか?』

と、ヒトにメッセージを送ってみた。

『特にありません。あなたが私のことを心配してくださっているのはとても嬉しいのですが、どうにも実感がなく少し戸惑っているところです』

穂張事務所は無事、と。

(私達のことを……じゃなく、私のことを……なところにヒトさんのヒトさんたるところが出てますよなぁ)

適当に返事をして、次。歌見に対して似た文を送る。

『よく分からん』
『猫は見えないし幽霊とかも見てないと思う』
『先輩に昼飯たかられた方が厄介』

歌見も無事か。

(あの人またパイセンに絡んでるんですか……妬きますな)

歌見の先輩と言えば色気のある童顔が印象的な、枯れ専で金にうるさい彼だ。俺ほどではないものの俺とはタイプ違いの美人が歌見の傍に居るのは不愉快だ。嫉妬を匂わせた文を返そう。

(今のとこ目撃者はわたくしとカサネたんとノヴェムくん……場所的に言うなら、わたくしハウスとカサネたんハウス)

俺の交友関係を把握し、彼氏達を人質にされるかもというのは杞憂だったか。死体に接触した者達だけが危険だったのだろう。となるとスイを学校に行かせたのは逆効果だったか……と悩みながらスイに送るメッセージを打っていると、そのスイから電話がかかってきた。

「レイ、ちょっと電話出るぞ」

「はぁーい」

俺の横顔をうっとりと眺めていたレイに一応声をかけてからスマホを耳に当てた。

「もしもし、鳴雷です」

『もしもしナルちゃん? えっと、ちょっと厄介なことになって』

「……! 何かに襲われましたか?」

『あ、そういうのじゃなくて……その、メガネの、何だっけ? シュカ……? シュカって言うの? うん……その子が、家に帰るって聞かなくて』

シュカは俺が昨晩トークグループに送った現状を説明するメッセージを読んでいない。足りない既読数と、返信がないことからの推測でしかないが。

「……俺が説得します。代わってくれますか?」

『分かった。シュカちゃん、ナルちゃ……水月くんが代わってって』

『はぁ…………もしもし?』

「もしもしシュカ? あのさ、えーと……昨日俺がグルチャに送ったの読んでくれた?」

『出来の悪い妄想みたいな内容のでしょう? 読まされましたよ』

「妄想じゃないんだよ、本当に」

『知ってます。この人相の悪い長髪ロン毛が捕まえた気持ち悪いカラスを見せられました』

『人相の悪い長髪ロン毛って誰のことよぉ!』

俺の家から出たセイカとスイに着いて行ったのか、死体と接触したからスイを追って行ったのか、どちらかは分からないが、先程の推測が正しければセイカもスイも学校に行かさなければ学校にカラスは現れなかったかもしれない。

「じゃあ分かるだろ、シュカ。今んとこ安全なのは俺の家だけなんだ、来てくれ」

『……今日は家に帰らないといけないんです』

「お母さんのことならヘルパーさんに頼んでくれ、当日に頼むと割高になるとかあるのか? 今日の分は俺が出す、巻き込んだのは俺だからな。それでいいだろ?」

『…………正気に、戻ったんです』

他の彼氏達やスイに聞かれたくないのか、忍んだ小声が返ってきた。

『昨晩も、今朝も……母さん、正気だったんです。私の名前……呼んでくれた。ご飯、食べてくれたんです。いただきますって、美味しいって、作ってくれてありがとうって、話した……朝家を出る時なんて、行ってらっしゃいって言って……早く、帰ってきてねって。待ってるって……一緒にご飯食べようって約束したんです』

「…………シュカ」

『だから、私帰らないといけないんです。こんな話をしてる時間もない、今すぐ帰らないと』

シュカが家に帰りたい気持ちはよく分かった。何故このタイミングでシュカの母の病状がマシになったんだ、喜ぶべきことなのに腹立たしい。

「……シュカ、でも、危ないんだよ。カラスだけじゃない……もっとヤバいの俺見たんだ。襲われたら大変なんだよ」

『正気の母と話せるならどうでもいい』

「シュカ……シュカに何かあったらお母さん悲しむよ?」

『何日も今の状態を保てるとは思えません、私がどうなったってすぐに忘れますよ』

「…………俺の辛さは考えてくれないのか? シュカに何かあったら俺、辛いよ」

『……………………ごめんなさい。私……母さんに、会いたい……』

シュカには珍しい弱々しく頼りない声に、これ以上否定の言葉を返す心の強さは俺にはなかった。
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