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霊を退ける言動とは (〃)

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感情を視覚情報として処理出来るサキヒコなら何か分かるかと、彼に視線をやるも首を横に振られた。自力で解決するしかないかと腹を括り、俺はカサネの顔を覗き込んだ。

「先輩……先輩、カサネ先輩…………カサネたん、俺何がいけませんでした? 何が怖かったですか? どこが気持ち悪かったんですか?」

部屋の中心に立ち尽くし、ただ巾着袋をぎゅうぎゅうと握り締めるばかりのカサネに根気強く語りかける。

「ダメだったとこ言ってください、すぐ直してみせます。カサネたん好みの男になります、たんキモいですか? でも嫌がった時先輩呼びだったし……カサネたんのがいいんですよね? あ、取り繕った敬語が嫌? 素の口調がいいってことですかな? ね、教えてくだされ、きっとカサネたんの理想を体現してみせますぞ! 大好きなカサネたんの心の平穏のためなれば!」

「…………っ、そういうとこぉ!」

「……へ? そういうとこ、とは……えぇと、話が長い……ですか?」

前回も今回も話が長かったかもしれない。俺の話が長くて喜ぶのはセイカくらいだ、改善点だな。

「違う! 他のヤツは何にも言わないのかよ、自意識過剰な連中だなっ……ぁ、あのなぁっ、本当に分かってないみたいだから教えてやるよ、人間はなぁ! 身の丈に合わない愛情注がれると怖いんだよ! 飼い主が突然ペットフード山盛り盛り始めた時のペットと同じ! ドン引くの!」

エサを出し続ける飼い主を恐れるような仕草をする猫の動画、見たことあるなぁ。

「俺なんかした!? お前に何した!? そんなっ、食われかけたりしても会いたくなるような、身代わりになってもいいような、なんでも直すって言うようなこと……俺したかなぁ!? なんもしてないだろお前に好かれるようなこと! 怖いんだよ……! メッセに返信出来なかったのも今思えばそれだ! ヘラってくの面白がってんのもあったけど、根底は恐怖! 怖かった! 俺なんもしてないのにお前めっちゃ盛り上がって俺愛でてて!」

「…………」

「わ、分かったかよ……分かったのかよ! 俺の気持ち!」

「すいません……ちょっとよく分からなくて……えっと、カサネたんはかわゆくって尊いので、全力で尽くすのは当たり前なのですが……それに、不満が?」

「怖いよぉお! サキヒコくぅん!?」

「……慣れてくれ、ミツキはこういう男だ」

「とんだ暴走機関車だぜ!」

「尽くされるの苦手なタイプでした?」

「そういう問題じゃないんだよなぁ! な、なんなの……お前はそんなに俺のために色々やって、どんな見返り求めてるの」

「見返り……?」

「見返りのない尽くしなんかありえないんだよ、意図が見えなくて怖いの!」

「……いや、ちょっとそれは、言えない……かな」

「言えよぉ! 言え! 俺のためにどんな欠点も直すんだろ! したっけ言え! 求めてる見返り言え!」

不登校で引きこもりのくせに大きい声が出せるものだな、動画投稿の賜物か?

「分かりましたよ……そこまで言って言わせるんですから、引かないでくださいよ? 約束ですよ?」

「いいから言え」

「引かないでくださいよ?」

「……分かった、引かない。言え」

「言質」

「言えってばもう!」

粘ったが、ダメか。俺がカサネに求める全てを吐くしかないな。

「はぁ……分かりましたよ…………すーっ……せぇっくす! セックス! セックスですよ! ヤらせろ! 男なんですよ俺は、当たり前でしょ!」

「ぁ……お、おぉ……よかった普通で……」

「俺の精液でその髪の半分黒いとこ白く染めたい! タレ犬耳カチューシャ着けて犬しっぽ付きディルドハメさせてフランクちゃんと一緒に全裸散歩とかっフゥッ! フランクちゃんがマーキングした電柱に俺が噴かせた潮で上書きさせてぇ~! ミフユさん怖いとか将来不安とか飼い犬大好きとかそういう思考全部失くしたい! 脳に浮かぶは俺のちんぽオンリー! 俺に種付けされることしか考えられねぇ淫乱雌犬に仕上げたいでござる!」

「……………ちょ、ちょっと待っ」

「意外と大声出るってことは喉結構広がるよね!? 全部咥えさせる! 食べるの興味ないんですよね最低限の栄養補給出来ればそれでいいんですよねじゃあその口性器にしよっか! 喉イキ舌イキ覚えよう! 上下のお口から注ぎまくって胃ぃタプタプ満タンザーメンタンクにしようねカサネたん!」

「サ、サキヒコくぅん……?」

「……あなたが撒いた種だ」

「そうかなぁ!? これそうかなぁ!?」

「コラコラコラなーに他の男の名前呼んじゃってんのぉ? このお口は俺専用って今決めたでしょ? サキヒコくんも種とかえっちなこと言って! そういうのは俺にだけ言いなさい!」

「み、水月くん……」

「はぁい! なんですかなカサネたん」

「も、もういいわ……もう、分かったから」

「え、まだ一割も話せてないんですけど」

「納得は、したから……もういい」

「そうですか! じゃあ早速」

「イヤーッ! ベッドに引っ張らないでこのケダモノ! その納得じゃないその納得じゃない! 俺まだ人間やめたくない! 雌犬もザーメンタンクも嫌!」

「そ、そうですか……ごめんなさい、早とちりして」

「…………下品な言動が霊に効くというのは本当なんだな、家の中に浮遊霊の気配を感じなくなったぞ」

「じゃあ何を納得してくれたんですか?」

「な、何をって……それは」

「ミツキ、あなたは彼が何故あなたに怯えるのかと疑問に思い、それはあなたの意図が分からないからだと──」

「サキヒコくんごめん! ちょ、ちょっと……離れてて」

「……? 分かった。出しゃばってしまったな」

サキヒコは俺達から離れ、部屋の壁に背を預ける。カサネは俺の耳にそっと手を当て、吐息だけで囁いた。

「セ……セックス、は……シてもいいと、前から……思ってる。あっ、ノーマルなヤツな。犬コス? とか、は……嫌、かも。でも……ど、道具、ちょっと使うくらいなら……別に、いいけど……」

「…………カサネたんっ!」

「今じゃない今じゃない今じゃないっ!」

カサネを抱き締めてベッドに押し倒すと、そのか細く非力な手に必死に突っ張られた。
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