冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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何が怖いのか (〃)

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俺はカサネを抱き締めたまま彼のベッドに腰を下ろした。カサネは俺の隣に移動し、大胆にも俺の腕を抱き締めている。

(どぅふふふかわゆい、もっともっと積極的になってわたくしのお膝の上に乗ったりしてくださってもよろしくてよ~?)

と思いつつも、下手に押せば逃げてしまうカサネの特徴をよく理解している俺はカサネが動くのを待った。

「な、鳴雷くん、あの……」

「……水月、でお願いします」

「みっ、み、水月くん……その、返信……あんまりしなくて、ごめん。なんて返せばいいか分かんなくて、迷って……悩んでる間に、水月くんなんかヘラって、焦って……ちょっと面白くなって、コイツほっといたらどこまでヘラるんだろって、イケメンのくせに俺如きでヘラってくん面白いなって、なっちゃって」

「俺のメッセに気を悪くしたとか、俺のこと嫌いになったとか、体調悪くて返信も出来なかったとか、そういうのじゃないなら俺はいいんですけど……ヘラる、とは?」

「え……? ヘ、ヘラってたべお前、メッセでは病み癇癪起こしてたのに今落ち着いてんの怖いんですけどっ、お前抱え過ぎて急に爆発するタイプ? い、言えよ? 言いたいことあるならっ、言えよ」

言いたいこと、か。本音を語ればカサネが俺から逃げていくのは目に見えている。けれど建前を使えばバレかねない。本音でも一割くらいに薄めれば引かれないかも、一応付き合ってるんだし。

「カサネたんからのスキンシップありがたし! 出来ればもう少し密着プリーズ、具体的に言うなればお膝の上とか! とか!」

「……膝乗って欲しいのか? 変わってんな……まぁいいけど、重いとか文句言うなよ。お前から言ったんだからな」

意外にもカサネは訝しげな顔はしたものの渋ることなく俺の膝の上に乗った。劣情を元にした願いだと気付いていないのだろうか。

「意外と座り心地いいな……」

俺の太腿の上でもぞもぞと動き、止まり、ポツリと呟いた。座る姿勢を整える何気ない仕草だったのに尻を擦り付けているようにしか感じられなくて、目の前の華奢な肩と丸い頭がたまらなく可愛くて、呼吸が早くなる。

「…………」

カサネを抱き締めてしまわないよう、ベッドのシーツを強く掴む。

「あ、あのさ、えっと、サキヒコ……くん、だっけ? 何キョロキョロしてんの、あんまり部屋ん中見ないで欲しいんですけどっ」

「あぁ、すまない。無礼な態度だったな。いや何、少し霊力を感じるんだ」

「玄関で言ってたヤツ? アレじゃないの、手形つけてきたヤツ……先輩、ああいうのっていつから出るようになりました?」

「……っ、や、やだ……話すと寄ってくるって言うだろ。話したくない」

「悪いモノではない、感情は……この色は、愛情だろうか。ミツキが男達に抱くものとは少し違う、ユノ殿がミツキに対して向けているものと似た色だ」

性愛じゃなく家族愛ってことか?

「…………ここだな。この奥だ。繰言、ここに何かあるのか?」

サキヒコが指したのは何の変哲もないただの棚だ。カサネは何も言わず俺の膝の上から去る、俺に後ろ姿だけを見せたまま一番上の鍵付きの引き出しを開けた。

「……これか?」

引き出しの奥に手を突っ込んだカサネが取り出したのは、無地の巾着だ。何か硬くて重そうな物が入っている。ようやく俺に横顔を見せてくれたカサネの表情は、何か悩んでいるような複雑なものだった。

「おぉ! それだ! それのお陰でこの部屋には怪異が入り込んでいないようだ」

「……フランクのおかげだ。家中に出るようになった変なヤツ……部屋に入ってこようとすると、フランクが吠えてくれる。そしたら、居なくなる」

「そうなのか? だがそれの力も強そうだぞ、それは何だ? 数珠やろざりおのような物だろうか」

「ハズレ、ただの日用品。でも、そっか。御守りみたいなもんになってたんだな……今日から枕元に置いて寝るわ。ありがと」

カサネは巾着袋を持ったまま俺の膝の上に戻ってきた。

「……なぁ水月くん、お前家に来いって言ってたよな。結界がどーたらで安全だからとか厨二臭いこと言って」

「はい。でも妄想とかじゃないってことは分かってもらえてますよね? お化け、出るんでしょう? 俺と一緒に俺の家に来てください、もちろんフランクちゃんも一緒でいいので」

「…………他のヤツらも誘ってんだろ。嫌なんだよな、俺、一人の時間ないと……ここじゃないと、実況……撮れないし……」

「荒凪くん周りのゴタゴタが片付くまでです、そんな何週間も泊まってろなんて言いません。お願いします、俺の家が今のとこ一番安全なんです。他のみんなはあんまり実感ないって言ってて……多分お化け家に出たりとかしてないんです、先輩は違う、先輩は俺の家の前で死体に会ってる、マーキングされたかも……先輩が一番危ないんです!」

「これあるから大丈夫って、サキヒコくん今言ったべ」

「いや、この家の中でフラフラしているような私でもどうとでもなりそうな浮遊霊ならそれの力で防いでいられるが……外に居た化けガエルは多分無理だぞ」

「…………は? ば、ばけ、なんて?」

「カエルの化け物です。この家の近所うろついてるんです。来るの大変でした……食われかけたし」

「はぁ!? なっ、なな、なんで帰んなかったんだよっ、食われかけてまで来るこたねぇべ!」

「あなたが心配だったんです! もしかしてもう食われたかもとまで思って……! 無事でよかった、本当に……」

カサネは俺を怯えた目で見つめている。

「そんな怖がった顔しないでください、大丈夫です、俺の家にはアイツも入れない。ウチに来れば安全なんです。ね、カサネ先輩、一緒に来てください。カエルはジグザグに走れば何とか逃げられるって分かってますし、最悪俺が食われてる間に逃げてもらえれば……駅周辺は何も居ませんでしたし、電車乗ってる間も何もなかったし……俺の家周りも別に、何も。だから先輩だけは絶対に俺の家に辿り着けるはずです! ね、ダメなとこなんてひとつもない。俺の家に来てください先輩」

言い終わるが早いか、カサネは彼を緩く抱いていた俺の腕を振り払って立ち上がった。肩で息をし、巾着袋を握り締めている。

「こっ、こ、こ……怖いのはっ! お前なんだよ! 俺が怖いのはっ、お前! な、なんなの、なんなの!? 意味分かんない、食われかけたとかっ、でも来たとか、食われてる間に逃げろとか、俺だけは行けるからダメなとこないとか……何考えてんのお前!?」

「カサネ先輩……落ち着いてください、カエルの化け物は本当に居ましたし俺を食おうとしてきました。でも先輩を食わせたりなんて、俺が絶対にさせない、だから大丈夫なんです」

「なんっっも大丈夫じゃねぇべやそれぇ! なんなの、もぉなんなのぉっ……怖い! 怖いしキモい!」

「確かにあのカエル目ん玉いっぱいあってめちゃくちゃキモかったです。でも俺が先輩を守っ──」

「目ん玉いっぱい!?」

「──てみせますから!」

「ゃあぁあああお前も怖いしキモいぃ~!」

俺の大声での宣言を打ち消す悲鳴を聞いて、ようやく俺は怖がられ気持ち悪がられているのが俺だと理解した。だが、その理由までは分からず、カサネを説得し家から連れ出す難易度の高さに途方に暮れた。
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