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電灯を返しに来ました! (水月+スイ・ミタマ)
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昨日割れた電灯の詳細を調べて送ると、少ししてスイから返信があった。店の裏に着いたとのことだ。
「ナルちゃん、こんにちは」
紙袋を持ち、俺に気まずそうに話しかけてきた彼は今日も茶髪の女のガワを被っていた。
「あぁ……どうも、こんにちは」
「これ、買ってきたから……えっと、なんか上手いことお願いねっ」
「はい」
紙袋の中身は電灯だ。昨日割れた……スイが割った電灯と同じ数だけある。
「店長~、倉庫に予備のありましたよ。電球」
「え、ほんと? 昨日探した時は見つかんなかったのに……わ、いっぱいある。え~、私もしかして捜し物下手?」
「やー……結構分かりにくいとこに紛れてたんで。どうします? これ付けます?」
「まだ割れた原因分かってないから、業者さんに電気系統に問題ないか見てもらってからかな。朝電話したら明日来てくれるって。新しいの付けて大丈夫そうなら付けようかな。今日は店閉めてるし、鳴雷くん帰っていいよ。配達も歌見くんに任せた分しかないし……」
「はぁ、じゃあ失礼します。お疲れ様でした」
「お疲れさま~」
今日の分の給料はナシかな。
「あっナルちゃん」
「アナルちゃん……!?」
「そっ、そんなこと言ってないわよぉ! ナルちゃん、えっと……電灯渡してくれた?」
「はい。店長特に不審がってませんでしたよ。でも今日は店閉めてるみたいで、俺もバイトないんです」
「ご迷惑をおかけしましたぁ……」
スイは肩を落とし、しゅんと落ち込んでみせる。是非素顔で見たい仕草だな。
「いえ、早く帰れるのはラッキーですし」
「…………ナルちゃんなんかテンション低くない? アタシと話してたくない? 鬱陶しい? 返事もしてないのに、連日バイト先に来るなんて……キモい?」
「えっ、そんなことないですよ! 別にテンション低くもないです、こんなもんですよ俺」
「いや低いぞぃ」
「うわ余計なこと言いに出てきた!」
いつの間にか背後に立っていたミタマの言葉に、スイの表情が更に歪む。
「すーちゃん、原因は単純明快じゃ」
「……何よ」
「ヌシが女の皮など被っとるからじゃ! みっちゃんは大の男好き、中身が男と分かっとろうが見た目が女じゃノれんのじゃ!」
「大声で何言ってんだよコンちゃん! そ、そんな、見た目なんかで俺が好きな人への態度を変えるなんて……!」
「きゃんっ、みっちゃん乱暴……」
とんでもないことをのたまったミタマの肩を掴むと、妙に細いことに気が付いた。にたりと笑った彼は自身の胸元を指差す。豊満な乳房からなる谷間が覗く、胸元を。
「うわっ……え、何、今女の子? なんで……」
「ほれ見ぃ露骨にてんしょん下がっとる」
ポン、と軽い音を立ててミタマの姿が元に戻る。胸が平たくなり、肩幅が少し広がり、腰の丸みが取れた。
「……そんなに変わるんだ。ちょ、ちょっと……一回消えてくれない?」
「む? 仕方ないのぅ」
再びポンと音が鳴り、ミタマの姿が消える。振り返ればスイは黒髪長髪の男の姿になっていた。先程まで被っていたガワとは違う切れ長の細い目は俺から逸れ、骨張った指は気まずそうに毛先をくるくると巻いていた。
「スイさん? コンちゃん引かせて、何か二人きりで話したいことでもっ? 告白の返事とか……!」
「…………本当にテンション上がってる。願望を写した狐はまぁ、アガるの分かるけど……俺でもそうなんだ……そ、そんなに、本当に……俺の顔好きなの?」
「はい! 好きです! ドストライクです!」
「そ、そうなんだぁ……」
照れた仕草にチャンスを見出した俺はツカツカと彼に向かって歩いていく。距離を縮め、超絶美形のキメ顔を間近で見せ、口説き、今日こそ告白の返事をもらうのだ。
「そんなドストライクな美人が今までろくな恋愛出来ず寂しい思いしてきたとかっ、俺が、俺がっ……! 幸せにしたい……! するっ! 俺にスイさんを幸せにさせてください!」
「……っ、そ、そんなぁ……プロポーズみたいな、やめてよぉ…………こんな路上じゃヤダ。ねっ、そこのパーラー行かない?」
「喜んで! 暑いですし嫌ですよねこんな裏道。気が回らずすみません、スイさんしか見えてませんでした」
駅前のパステルカラーな店にスイと共に入る。こういう店、ハルも好きかもな。今度家デートをする時があればハルを連れてきてやろうかな。
「窓際の席案内されちゃった、ナルちゃんカッコイイからかな?」
「えぇ? たまたまですよ」
「絶対そうだと思うけどなぁ……ねぇナルちゃん、アタシチョコパフェ食べようと思ってたんだけど……このマスカットパフェすっごい惹かれる。ナルちゃんどっちか頼んでくれない? 半分こしよ」
「えっ」
「ぁ……や、やっぱり嫌? ごめんねっ、好きなの頼んで」
「あっ、いやいや! いいですよ全然、じゃあ俺マスカット頼みますね」
「……ありがとう。お金は私出すから」
「いえいえいえむしろ俺が奢りますよ! 別にお金の心配したんじゃないんです、その……俺ちょっと太りやすいので、パフェ、カロリーヤバいかなって気になっただけで」
「そうなの? ふふ、ナルちゃんみたいなカッコイイ人って何食べても太りません~とか言うと思ってた」
「俺のこの最もモテる程よい筋肉は不断の努力によるものですよ。毎日筋トレして、食事制限して、毎晩体型確認して、常にトレーニング内容を見直し続けて……! そうやって作ってるんです」
筋トレ以外は母がやってくれていることだけれど。
「へぇえ~……」
「髪も肌もだいぶ手間かけてケアしてます。何もしてないって言う方がカッコつくので、あんまり言いたくなかったんですけど……スイさんはちゃんと話した方が好感持ってくれるみたいですね」
「うん、なんか親近感湧くもん。ね、ナルちゃん。もっとナルちゃんの、何でも出来そうな雰囲気崩れること話して~?」
「えー……好きな人にカッコ悪いとこ教えるんですか? 気が乗らないなぁ」
「何でも出来そうなヤツってムカつかない? 聞かせてよぉ」
「……俺割とダメダメですよ? 引かないでくださいね、スイさんが聞きたがったんですから」
本当に気が乗らない。あまりに酷い俺のダメダメっぷりを聞いて幻滅する可能性は高く思える。スイの反応を見つつ、幻滅度が低そうなダメっぷりから話していくか……
「ナルちゃん、こんにちは」
紙袋を持ち、俺に気まずそうに話しかけてきた彼は今日も茶髪の女のガワを被っていた。
「あぁ……どうも、こんにちは」
「これ、買ってきたから……えっと、なんか上手いことお願いねっ」
「はい」
紙袋の中身は電灯だ。昨日割れた……スイが割った電灯と同じ数だけある。
「店長~、倉庫に予備のありましたよ。電球」
「え、ほんと? 昨日探した時は見つかんなかったのに……わ、いっぱいある。え~、私もしかして捜し物下手?」
「やー……結構分かりにくいとこに紛れてたんで。どうします? これ付けます?」
「まだ割れた原因分かってないから、業者さんに電気系統に問題ないか見てもらってからかな。朝電話したら明日来てくれるって。新しいの付けて大丈夫そうなら付けようかな。今日は店閉めてるし、鳴雷くん帰っていいよ。配達も歌見くんに任せた分しかないし……」
「はぁ、じゃあ失礼します。お疲れ様でした」
「お疲れさま~」
今日の分の給料はナシかな。
「あっナルちゃん」
「アナルちゃん……!?」
「そっ、そんなこと言ってないわよぉ! ナルちゃん、えっと……電灯渡してくれた?」
「はい。店長特に不審がってませんでしたよ。でも今日は店閉めてるみたいで、俺もバイトないんです」
「ご迷惑をおかけしましたぁ……」
スイは肩を落とし、しゅんと落ち込んでみせる。是非素顔で見たい仕草だな。
「いえ、早く帰れるのはラッキーですし」
「…………ナルちゃんなんかテンション低くない? アタシと話してたくない? 鬱陶しい? 返事もしてないのに、連日バイト先に来るなんて……キモい?」
「えっ、そんなことないですよ! 別にテンション低くもないです、こんなもんですよ俺」
「いや低いぞぃ」
「うわ余計なこと言いに出てきた!」
いつの間にか背後に立っていたミタマの言葉に、スイの表情が更に歪む。
「すーちゃん、原因は単純明快じゃ」
「……何よ」
「ヌシが女の皮など被っとるからじゃ! みっちゃんは大の男好き、中身が男と分かっとろうが見た目が女じゃノれんのじゃ!」
「大声で何言ってんだよコンちゃん! そ、そんな、見た目なんかで俺が好きな人への態度を変えるなんて……!」
「きゃんっ、みっちゃん乱暴……」
とんでもないことをのたまったミタマの肩を掴むと、妙に細いことに気が付いた。にたりと笑った彼は自身の胸元を指差す。豊満な乳房からなる谷間が覗く、胸元を。
「うわっ……え、何、今女の子? なんで……」
「ほれ見ぃ露骨にてんしょん下がっとる」
ポン、と軽い音を立ててミタマの姿が元に戻る。胸が平たくなり、肩幅が少し広がり、腰の丸みが取れた。
「……そんなに変わるんだ。ちょ、ちょっと……一回消えてくれない?」
「む? 仕方ないのぅ」
再びポンと音が鳴り、ミタマの姿が消える。振り返ればスイは黒髪長髪の男の姿になっていた。先程まで被っていたガワとは違う切れ長の細い目は俺から逸れ、骨張った指は気まずそうに毛先をくるくると巻いていた。
「スイさん? コンちゃん引かせて、何か二人きりで話したいことでもっ? 告白の返事とか……!」
「…………本当にテンション上がってる。願望を写した狐はまぁ、アガるの分かるけど……俺でもそうなんだ……そ、そんなに、本当に……俺の顔好きなの?」
「はい! 好きです! ドストライクです!」
「そ、そうなんだぁ……」
照れた仕草にチャンスを見出した俺はツカツカと彼に向かって歩いていく。距離を縮め、超絶美形のキメ顔を間近で見せ、口説き、今日こそ告白の返事をもらうのだ。
「そんなドストライクな美人が今までろくな恋愛出来ず寂しい思いしてきたとかっ、俺が、俺がっ……! 幸せにしたい……! するっ! 俺にスイさんを幸せにさせてください!」
「……っ、そ、そんなぁ……プロポーズみたいな、やめてよぉ…………こんな路上じゃヤダ。ねっ、そこのパーラー行かない?」
「喜んで! 暑いですし嫌ですよねこんな裏道。気が回らずすみません、スイさんしか見えてませんでした」
駅前のパステルカラーな店にスイと共に入る。こういう店、ハルも好きかもな。今度家デートをする時があればハルを連れてきてやろうかな。
「窓際の席案内されちゃった、ナルちゃんカッコイイからかな?」
「えぇ? たまたまですよ」
「絶対そうだと思うけどなぁ……ねぇナルちゃん、アタシチョコパフェ食べようと思ってたんだけど……このマスカットパフェすっごい惹かれる。ナルちゃんどっちか頼んでくれない? 半分こしよ」
「えっ」
「ぁ……や、やっぱり嫌? ごめんねっ、好きなの頼んで」
「あっ、いやいや! いいですよ全然、じゃあ俺マスカット頼みますね」
「……ありがとう。お金は私出すから」
「いえいえいえむしろ俺が奢りますよ! 別にお金の心配したんじゃないんです、その……俺ちょっと太りやすいので、パフェ、カロリーヤバいかなって気になっただけで」
「そうなの? ふふ、ナルちゃんみたいなカッコイイ人って何食べても太りません~とか言うと思ってた」
「俺のこの最もモテる程よい筋肉は不断の努力によるものですよ。毎日筋トレして、食事制限して、毎晩体型確認して、常にトレーニング内容を見直し続けて……! そうやって作ってるんです」
筋トレ以外は母がやってくれていることだけれど。
「へぇえ~……」
「髪も肌もだいぶ手間かけてケアしてます。何もしてないって言う方がカッコつくので、あんまり言いたくなかったんですけど……スイさんはちゃんと話した方が好感持ってくれるみたいですね」
「うん、なんか親近感湧くもん。ね、ナルちゃん。もっとナルちゃんの、何でも出来そうな雰囲気崩れること話して~?」
「えー……好きな人にカッコ悪いとこ教えるんですか? 気が乗らないなぁ」
「何でも出来そうなヤツってムカつかない? 聞かせてよぉ」
「……俺割とダメダメですよ? 引かないでくださいね、スイさんが聞きたがったんですから」
本当に気が乗らない。あまりに酷い俺のダメダメっぷりを聞いて幻滅する可能性は高く思える。スイの反応を見つつ、幻滅度が低そうなダメっぷりから話していくか……
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