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彼だけが倒れた理由 (水月+セイカ・シュカ・リュウ・ハル)
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セイカの車椅子にシュカを乗せ、保健室まで運んだ。突然気絶したなんて言ったら救急搬送徹底検査コース、そうなるのはシュカは望まないだろう。
「すみませーん……ぁ、一年、鳴雷です。えっと……鳥待くん貧血みたいで、ちょっと立ちくらみ起こしちゃって……立てるようになるまで休ませてもらいたいって」
「んー」
養護教諭は箸を握ったまま手の甲で口元を押さえ、頷いた。
「あっご飯中でしたか、すいません……シュカちょっと話すのもダルいみたいなんで、失礼します。名前とか体温とか俺が書いてもいいですよね?」
コンビニ弁当を食べている様子の教諭の隣を抜け、カーテンを開ける。シュカを抱えてベッドに寝かせ、戻ってペンを取る。
「えっと……まちは、待つだったよな……シュカ、首に夏か。改めて見ると変わった名前……」
学年、組、名前などを用紙に記入していく。
「すいません、体温計ってどちらに?」
「そこ」
「ありがとうございます」
体温計を持ってベッドへ戻り、シャツのボタンを外しシュカの胸元をくつろげる。
「腋に……よし」
検温を待つ間、シュカを眺めた。顔を撫で、傷跡をなぞる。無傷の皮膚とは触り心地が少し違う、目ごとシュカの顔を傷付けたこの跡……誰が付けたんだ? 報いは受けたか? シュカのことだからきっと受けさせているのだろう。目、潰れてればいいのに。
「……っ、お……早……」
家のそれよりも随分早く体温計は鳴った。物騒な考えを頭から追い払い、机に戻った。今分かったばかりのシュカの体温を書く。
「平熱……ま、貧血ならそうか。いつから貧血気味とか聞いてる?」
「いえ、でも疲れてはいるみたいです」
「食べ終わったら診察してみるね」
「その頃には寝ちゃってるかもですけど、お願いします。それじゃ、俺も飯中途半端なんで戻りますね。失礼しましたー」
昼休みの廊下や階段は人気がない。普段なら注意される小走りも、駆け上がりも、躊躇なく行えるのは気持ちがいい。忘れ物に気付いたのは生徒会室に戻ってからだった。
「……あっ」
とても大きな忘れ物だ。
「ごめんセイカ……車椅子保健室に忘れた」
「はぁ……? よくあんな邪魔なモン忘れられたな」
「すぐ取ってくる」
「いいよ別に。五、六時間目は移動ないし教室までくらい歩ける。起きた鳥待が持ってくるかもだし、アイツが気が利かなかったら帰りでもいい」
「そう? 足痛かったらすぐ言えよ、俺が運ぶから」
セイカが気を遣わないよう出来る限り軽い声色を作ったが、セイカは車椅子が返ってくるまで俺に何も頼まなかった。
「気付いたら保健室で寝ていて驚きましたよ。何があったんですか?」
六時間目が始まる少し前に車椅子と共に戻ってきたシュカは、セイカに車椅子を返すとすぐに俺に尋ねた。
「あー……えっとな、コンちゃんがさ……」
生徒会室でリュウとミタマにされた説明をそのままシュカに伝えた。
「……そうですか」
「ごめんな、わざとじゃなかったみたいだから許してやって欲しい」
「…………私の弁当は?」
「食べてる途中だったな、鞄に入れてあるけど……」
シュカは俺が言い終わるのを待たず自分の鞄を開き、食べかけの弁当を取り出すと席に座って手を合わせた。
「今から食べるのか? もうすぐ授業始まるぞ」
シュカは何も言わずじっと俺を見上げている。普段よりも箸が早い、急いでいるのだろう。
「……まぁお腹減ってるよな。ぁ、さっきの授業なんだけど、えーと……現国だったから、ハルー! ハル、シュカにさっきの授業教えてやってくれ」
「OK~。おかえりしゅー、具合どぉ?」
頷いている。話す気はなさそうだな。ハルは苦笑いしながらシュカに見えるように教科書を開き、先程の授業の内容を話し始めた。
「とりりん大丈夫そやな」
「あぁ、腹減ってるだけみたいだ」
「……な、水月ぃ。霊的なもんへの耐性ってな、コンちゃんが言うとった通り日頃触れ合っとるかどうかも重要なんやけど……それ以上に精神的な面が大事なんよ。とりりん、なんや疲れとんのちゃうかなぁ。気にしたってな」
「…………あぁ」
霊力の増幅は感情に起因する。ミタマが信仰や感謝で力を高め、スイが嫉妬の余り力を暴走させたことからも、それは明らかだ。
(精神的……疲れ……心当たり大ありですな。シュカたまだけ倒れた理由が分かりましたぞ)
シュカは要介護の母親と二人暮らしだ。あの場に居た者の中で最も疲れているだろう、心も身体も。彼だけが強く影響され倒れたことに納得が行く。
(気にしたってなって言われてもなぁ……)
俺にはどうしようもない。介護はともかく家事の手伝いくらいならやってやりたいけれど、シュカはそれすら嫌がる。
「…………そうだ! なぁシュカ、コンちゃん強くなったって話は聞いたよな? 倒れさせちゃったお詫びに何かお願い叶えさせたらどうだ?」
シュカは黙って口を動かし続けながら俺を見ている。
「お願い思い付いたら言ってみな」
頷きすらしない。この慰め方では失敗だったか……だがこれ以外には何も思い付かない。しばらくの間は様子を見よう。
「すみませーん……ぁ、一年、鳴雷です。えっと……鳥待くん貧血みたいで、ちょっと立ちくらみ起こしちゃって……立てるようになるまで休ませてもらいたいって」
「んー」
養護教諭は箸を握ったまま手の甲で口元を押さえ、頷いた。
「あっご飯中でしたか、すいません……シュカちょっと話すのもダルいみたいなんで、失礼します。名前とか体温とか俺が書いてもいいですよね?」
コンビニ弁当を食べている様子の教諭の隣を抜け、カーテンを開ける。シュカを抱えてベッドに寝かせ、戻ってペンを取る。
「えっと……まちは、待つだったよな……シュカ、首に夏か。改めて見ると変わった名前……」
学年、組、名前などを用紙に記入していく。
「すいません、体温計ってどちらに?」
「そこ」
「ありがとうございます」
体温計を持ってベッドへ戻り、シャツのボタンを外しシュカの胸元をくつろげる。
「腋に……よし」
検温を待つ間、シュカを眺めた。顔を撫で、傷跡をなぞる。無傷の皮膚とは触り心地が少し違う、目ごとシュカの顔を傷付けたこの跡……誰が付けたんだ? 報いは受けたか? シュカのことだからきっと受けさせているのだろう。目、潰れてればいいのに。
「……っ、お……早……」
家のそれよりも随分早く体温計は鳴った。物騒な考えを頭から追い払い、机に戻った。今分かったばかりのシュカの体温を書く。
「平熱……ま、貧血ならそうか。いつから貧血気味とか聞いてる?」
「いえ、でも疲れてはいるみたいです」
「食べ終わったら診察してみるね」
「その頃には寝ちゃってるかもですけど、お願いします。それじゃ、俺も飯中途半端なんで戻りますね。失礼しましたー」
昼休みの廊下や階段は人気がない。普段なら注意される小走りも、駆け上がりも、躊躇なく行えるのは気持ちがいい。忘れ物に気付いたのは生徒会室に戻ってからだった。
「……あっ」
とても大きな忘れ物だ。
「ごめんセイカ……車椅子保健室に忘れた」
「はぁ……? よくあんな邪魔なモン忘れられたな」
「すぐ取ってくる」
「いいよ別に。五、六時間目は移動ないし教室までくらい歩ける。起きた鳥待が持ってくるかもだし、アイツが気が利かなかったら帰りでもいい」
「そう? 足痛かったらすぐ言えよ、俺が運ぶから」
セイカが気を遣わないよう出来る限り軽い声色を作ったが、セイカは車椅子が返ってくるまで俺に何も頼まなかった。
「気付いたら保健室で寝ていて驚きましたよ。何があったんですか?」
六時間目が始まる少し前に車椅子と共に戻ってきたシュカは、セイカに車椅子を返すとすぐに俺に尋ねた。
「あー……えっとな、コンちゃんがさ……」
生徒会室でリュウとミタマにされた説明をそのままシュカに伝えた。
「……そうですか」
「ごめんな、わざとじゃなかったみたいだから許してやって欲しい」
「…………私の弁当は?」
「食べてる途中だったな、鞄に入れてあるけど……」
シュカは俺が言い終わるのを待たず自分の鞄を開き、食べかけの弁当を取り出すと席に座って手を合わせた。
「今から食べるのか? もうすぐ授業始まるぞ」
シュカは何も言わずじっと俺を見上げている。普段よりも箸が早い、急いでいるのだろう。
「……まぁお腹減ってるよな。ぁ、さっきの授業なんだけど、えーと……現国だったから、ハルー! ハル、シュカにさっきの授業教えてやってくれ」
「OK~。おかえりしゅー、具合どぉ?」
頷いている。話す気はなさそうだな。ハルは苦笑いしながらシュカに見えるように教科書を開き、先程の授業の内容を話し始めた。
「とりりん大丈夫そやな」
「あぁ、腹減ってるだけみたいだ」
「……な、水月ぃ。霊的なもんへの耐性ってな、コンちゃんが言うとった通り日頃触れ合っとるかどうかも重要なんやけど……それ以上に精神的な面が大事なんよ。とりりん、なんや疲れとんのちゃうかなぁ。気にしたってな」
「…………あぁ」
霊力の増幅は感情に起因する。ミタマが信仰や感謝で力を高め、スイが嫉妬の余り力を暴走させたことからも、それは明らかだ。
(精神的……疲れ……心当たり大ありですな。シュカたまだけ倒れた理由が分かりましたぞ)
シュカは要介護の母親と二人暮らしだ。あの場に居た者の中で最も疲れているだろう、心も身体も。彼だけが強く影響され倒れたことに納得が行く。
(気にしたってなって言われてもなぁ……)
俺にはどうしようもない。介護はともかく家事の手伝いくらいならやってやりたいけれど、シュカはそれすら嫌がる。
「…………そうだ! なぁシュカ、コンちゃん強くなったって話は聞いたよな? 倒れさせちゃったお詫びに何かお願い叶えさせたらどうだ?」
シュカは黙って口を動かし続けながら俺を見ている。
「お願い思い付いたら言ってみな」
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