冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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入浴中に爆睡 (水月+レイ・サキヒコ)

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レイと頭を洗う役を交代しても雑談を続けていたが、次第にレイの返事が雑になっていった。いや、雑と言うか……なんと言うか、胡乱?

「体育祭の練習が毎日あって憂鬱だよ」

「そうっすねぇ」

「逆立ちしたウサギは扉に似てるしさ」

「そうっすかぁ」

段々と会話が噛み合わなくなってきた。適当なことも言ってみたが、何も言ってこない……寝てるな、これ。

「…………」

黙ったままシャワーを手に取り泡を流していく。レイは何も言わない。

「……ふふ」

頭という大事な部位を任せて眠ってくれるだなんて、彼氏冥利に尽きる。ふらふらと揺れる頭を捕まえて、リンスに移った。



再びシャワーを掴む頃にはもうレイはすっかり眠っていた。俺の胸に頭を預けた彼の顔に湯をかけないよう気を付けてリンスを洗い流し、しっかりと水気を切った髪を風呂用のキャップに収めた。

「似合う似合う」

これで浴槽に髪が浸かることはない。俺の短い髪には必要ないそれを被ったレイは可愛くて、しばらく眺めていた。

「ミツキ、早く湯船に浸からねば風邪を引いてしまうぞ」

にゅ、と鏡からサキヒコが姿を現す。上半身だけを見せた彼の忠告に従い、レイを抱き上げて共に浴槽に入った。

「んっ……?」

湯に浸かると流石に目を覚ました。ぼうっとした表情でキャップに触れた手を握り、こちらを見たレイに微笑みかけた。

「おはよ。髪浸からないようにしてるヤツだから、脱いじゃダメだぞ」

「ありがとー、ございます……?」

「眠いか?」

「んー……」

「しょうがないなぁ」

全身で洗ってくれると言うから楽しみにしていたけれど、無理そうだな。夜更かししていそうなイメージがあるレイが十時にもなっていない今眠気を訴えるなんて……健康のために早く寝ろという俺の小言を聞いてくれているのかな。酒の量を減らしてくれる方がありがたいのだが。この急な眠気だって酔っているのが原因だろうし。

「身体洗うぞ」

「んゃ……えっち…………」

身体を洗う間に起きないかと淡い期待を抱いていたが、洗い終えた頃には話しかけても返事すらしなくなっていた。

「寝入ったな……マジかよ。普段一人で風呂入ってて大丈夫かこれ」

「ミツキが居るからこそ眠ったのかもしれん」

「安心して? はは、だったらまぁ、悪い気はしないけどさ。あ、サキヒコくんちょっと手伝ってくれる?」

レイを抱いて浴室を後にする。サキヒコに手伝ってもらいつつバスローブを羽織り、レイの身体を拭いていく。

「んっ……ぐ…………!」

身体を失い幽霊になろうとも筋力は変わらないようで、小柄なサキヒコにレイを支え続けてもらうのは難しい。顔を真っ赤にして唸っている。血の通わない冷たい身体をしているくせに何故顔が赤くなるんだ?

「よし……もういいかな。ありがとうサキヒコくん」

「……っ、はぁっ、はぁ……いや、なに、この程度……なんてことない」

「ほんと? 大丈夫? じゃあ服着せるのも手伝って欲しいんだけど」

「……私が、着せる方なら」

「あ……そっか、そっちでいいよね。ごめんごめん」

俺がレイを抱いて、サキヒコにレイの世話をしてもらうことこそ適材適所と言うものだ。

「ありがとうサキヒコくん」

寝間着を着せたレイを横抱きにし、寝室に運ぶ。重ねたタオルを枕に被せてベッドが濡れないようにし、サキヒコにドライヤーを渡した。

「乾かしておいてあげて。重ねてごめんねサキヒコくん」

「構わない。他人の世話は得意だ」

そういえばサキヒコも紅葉家に仕える年積家の人間だったな。

「はぁ……ちょっと寂しいな」

レイの全身で洗ってもらうはずだった身体を自分で洗い、いつも通りのはずなのに何故か虚しさを感じた。

「ただいまサキヒコくん、レイどう?」

「眠っている。髪は乾かし終えたぞ」

「完全に寝ちゃったかぁ……今日は出来るかなって思ってたんだけど」

ドライヤーを受け取りながらレイの寝顔を覗き込む。ぐっすりと眠っている彼は少し湿った指で頬をつまんだ程度では起きない。

「シたかったなぁ……ちょっと太腿使うくらいならいいかな?」

「……どういう意図の発言なのか私には理解出来ない、返答は控えさせてもらう」

睡姦はやってはいけないと分かっているが、素股ならセーフではないか? という俺の欲望に満ちた発想をなんとなく察したのだろう。俺を見つめるサキヒコの目には軽蔑を感じた。

「見抜きで我慢するからそんな目で見ないでよ」

風呂が空いたことをアキにメッセージで知らせ、続けて彼氏達にメッセージを送っていく。

「ミツキ、先に髪を乾かせ。風邪を引くぞ」

「んー……」

歌見とハルからは返信が来た。ドライヤーを使い始めるきっかけを逃し、スマホを弄り続けているとサキヒコがドライヤーを持った。

「はぁ……全く、仕方のない旦那様だ」

ときめく愚痴と共に首にかけていたタオルが頭に被せられる。

「えっ、ぁっ、ごめんサキヒコくん。自分でやるから……」

「大人しくしていろ」

「いや悪いよ、レイの世話も手伝わせちゃったのに」

「……ミツキ、私は世話をするならあなたがいいんだ。生来私は世話を焼くのが好きでな、それが大切な人なら尚更だ。愛しいあなたの愛しい人であり、好ましい人柄の木芽の世話をするのもよかったが、やはりあなたがいい。世話をさせてくれ、旦那様」

「そこまで言うなら甘えるけど……」

何十年も前に死んだ彼はドライヤーなんて使い慣れていないだろうに、それでも俺の世話をしたいと言ってくれる。助けられた恩だけではなく、本当に俺に惚れてくれている。それが嬉しくて、サキヒコに髪を任せながら笑みを浮かべた。
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