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犠牲など出さない (水月+ミタマ・ノヴェム・アキ・セイカ)
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ミタマの言う通り、彼が本当の意味で死んでしまうことがないのだとしても、彼が傷付くのは嫌だ。このことについて考えると、彼がフタに切りつけられた時のことを思い出す。ぐったりと横たわった金色の狐の姿を、溢れ出る血を……肉をかき分け縫うべき血管を探し手当の補助をしたアキに対し、何も出来なかった自分への嫌悪感を。
「みっちゃん……」
三角の耳がぺしょっと垂れる。先端は黒く、根元は金色、そんな狐の耳はミタマの感情を豊かに表現している。
「こんっ……!?」
まろ眉だから分かりにくいけれど、多分眉尻を下げた表情だった。心配そうに俺を見つめる彼を抱き締めると、驚いたらしく耳と尻尾がピンと立った。
「み、みっちゃん? そんな急に抱きつかれては…………のぅみっちゃん、この分霊が消滅するほどの損傷を受けると決まった訳ではない。そんな……そんな、今生の別れのような……強い抱擁せずとも、ワシは消えんよ」
「…………うん」
「分かったなら離せ、苦しいぞ」
「やだ……」
「みっちゃん、はぁ……しようのない旦那様じゃ」
ミタマの手が背に回る。背中の真ん中をぽんぽんと優しく叩かれ、目頭が熱くなる。どんな感情がこもっているのか自分でもよく分からない涙が後から後から溢れてきて、より強く彼を抱き締めてしまう。
「んっ……みっちゃん、苦しいと言うとろうに。あんまり強くするならすり抜けて逃げてしまうぞ? っと、今は禁句じゃったか。あぁこれこれ……爪を立てるでない、爪が傷むぞ」
逃がすものか。離すものか。俺は自然とミタマの背に爪を立ててしがみついていた。
《あぁーっ!?》
ミタマの身体を軋ませるほどの抱擁は、幼子の絶叫に驚いて緩んだ。
《なにしてるの! コンお兄ちゃん!》
ノヴェムはぷくっと頬を膨らませ、密着している俺とミタマの身体の間に無理矢理両手を突っ込むと、腕を広げて俺達を引き離そうとした。
《はぁーなぁーれぇーてっ! お兄ちゃんはぼくの、ぼくの……! こんやくしゃあーっ!》
「ノ、ノヴェムくん?」
抵抗も出来るが、それではノヴェムが泣き出すかもしれない。俺はミタマを抱き締めるのをやめ、ノヴェムの手に従ってミタマから離れた。
《もぉ! お兄ちゃんのおまぬけさん! うわきもの! なんでそうすぐにぼく以外のおとことイチャイチャしちゃうの!》
「ノヴェムくん? えと、ごめんね?」
ネイもミタマも翻訳してくれないからノヴェムが何に怒っているのか分からない。分からないまま謝った。
《ごめんですむならさいばんしょはそんざいしない! 水月お兄ちゃん、うわきゆるして欲しかったら、ぼくをだっこしなさい!》
「抱っこしとくれっちゅうとるぞ」
「抱っこ? あー、すぐ行くって言ったのにこっちで長々話し過ぎたかな。寂しかった? ごめんね、ノヴェムくん」
ぷりぷり怒っているノヴェムを抱き上げ、赤子をあやすように軽く揺する。
「一緒にゲームしようね」
《かっこいい…………はっ! もぉ! かっこいいお顔見せてごまかそうったってそうは…………あれ、お兄ちゃん……水月お兄ちゃん、泣いてたの?》
「ん……?」
ノヴェムを抱えてリビングへ移動する僅かな道中、彼は俺の目のすぐ下を指で拭った。親指をぺろりと舐め、またじっと俺を見上げる。
《お兄ちゃんなんで泣いてたの?》
「泣いてたのか、鳴雷。どうしたんだ?」
ノヴェムを抱えたままソファに腰を下ろすと、セイカが怪訝な顔で俺を見た。
「えっ? な、なんで?」
「……ノヴェムがそう言ってた」
「あー……バレちゃったかぁ。んー、なんて説明すればいいのかなぁ、コンちゃんがちょっと危ないことしようとしてて、心配で……ちょっと、ね。情けないよな……本当」
「……別に、いいんじゃないか。人のために泣けるのはお前のいいとこだよ」
目を逸らしながらそう言ったセイカは、テレビ画面を見つめたまま英語で何やら呟いた。ノヴェムに何か伝えているようだ。
《浮気じゃ……ないってこと?》
《知らねぇよ。分野が何か危ないことしようとしてたっつってるだけで……具体的なことは教えてくれねぇ》
《……浮気じゃないなら、ちゃんと言ってね、水月お兄ちゃん……早とちりして、怒って、ごめんなさい。コンお兄ちゃんなにしようとしてるの? コンお兄ちゃん、ぼくのことかわいいかわいいって、いつもすごく……なでたり、だっこしたり、してくれて……だから、コンお兄ちゃん危ないのぼくもやだ。ちゃんと止めてね、水月お兄ちゃん》
「分野のことちゃんと止めろってさ。ノヴェム、アイツに懐いてるみたいだな……俺も結構世話になってるからさ、あんま危ない真似はして欲しくない……俺からも、分野のこと頼む」
「…………あぁ」
ノヴェムもセイカもミタマを大切に思っている。きっとアキも、他の彼氏もそうだ。狙いも正体も分からないナニカに付け狙われている現状が危険なのは分かっている、けれどそれを解決するためにミタマを犠牲にするのはもちろん嫌だ。彼に体を張ってもらうことになったとしても、石像というセーブポイントを使うようなことには絶対にさせない、させたくない。
「みっちゃん……」
三角の耳がぺしょっと垂れる。先端は黒く、根元は金色、そんな狐の耳はミタマの感情を豊かに表現している。
「こんっ……!?」
まろ眉だから分かりにくいけれど、多分眉尻を下げた表情だった。心配そうに俺を見つめる彼を抱き締めると、驚いたらしく耳と尻尾がピンと立った。
「み、みっちゃん? そんな急に抱きつかれては…………のぅみっちゃん、この分霊が消滅するほどの損傷を受けると決まった訳ではない。そんな……そんな、今生の別れのような……強い抱擁せずとも、ワシは消えんよ」
「…………うん」
「分かったなら離せ、苦しいぞ」
「やだ……」
「みっちゃん、はぁ……しようのない旦那様じゃ」
ミタマの手が背に回る。背中の真ん中をぽんぽんと優しく叩かれ、目頭が熱くなる。どんな感情がこもっているのか自分でもよく分からない涙が後から後から溢れてきて、より強く彼を抱き締めてしまう。
「んっ……みっちゃん、苦しいと言うとろうに。あんまり強くするならすり抜けて逃げてしまうぞ? っと、今は禁句じゃったか。あぁこれこれ……爪を立てるでない、爪が傷むぞ」
逃がすものか。離すものか。俺は自然とミタマの背に爪を立ててしがみついていた。
《あぁーっ!?》
ミタマの身体を軋ませるほどの抱擁は、幼子の絶叫に驚いて緩んだ。
《なにしてるの! コンお兄ちゃん!》
ノヴェムはぷくっと頬を膨らませ、密着している俺とミタマの身体の間に無理矢理両手を突っ込むと、腕を広げて俺達を引き離そうとした。
《はぁーなぁーれぇーてっ! お兄ちゃんはぼくの、ぼくの……! こんやくしゃあーっ!》
「ノ、ノヴェムくん?」
抵抗も出来るが、それではノヴェムが泣き出すかもしれない。俺はミタマを抱き締めるのをやめ、ノヴェムの手に従ってミタマから離れた。
《もぉ! お兄ちゃんのおまぬけさん! うわきもの! なんでそうすぐにぼく以外のおとことイチャイチャしちゃうの!》
「ノヴェムくん? えと、ごめんね?」
ネイもミタマも翻訳してくれないからノヴェムが何に怒っているのか分からない。分からないまま謝った。
《ごめんですむならさいばんしょはそんざいしない! 水月お兄ちゃん、うわきゆるして欲しかったら、ぼくをだっこしなさい!》
「抱っこしとくれっちゅうとるぞ」
「抱っこ? あー、すぐ行くって言ったのにこっちで長々話し過ぎたかな。寂しかった? ごめんね、ノヴェムくん」
ぷりぷり怒っているノヴェムを抱き上げ、赤子をあやすように軽く揺する。
「一緒にゲームしようね」
《かっこいい…………はっ! もぉ! かっこいいお顔見せてごまかそうったってそうは…………あれ、お兄ちゃん……水月お兄ちゃん、泣いてたの?》
「ん……?」
ノヴェムを抱えてリビングへ移動する僅かな道中、彼は俺の目のすぐ下を指で拭った。親指をぺろりと舐め、またじっと俺を見上げる。
《お兄ちゃんなんで泣いてたの?》
「泣いてたのか、鳴雷。どうしたんだ?」
ノヴェムを抱えたままソファに腰を下ろすと、セイカが怪訝な顔で俺を見た。
「えっ? な、なんで?」
「……ノヴェムがそう言ってた」
「あー……バレちゃったかぁ。んー、なんて説明すればいいのかなぁ、コンちゃんがちょっと危ないことしようとしてて、心配で……ちょっと、ね。情けないよな……本当」
「……別に、いいんじゃないか。人のために泣けるのはお前のいいとこだよ」
目を逸らしながらそう言ったセイカは、テレビ画面を見つめたまま英語で何やら呟いた。ノヴェムに何か伝えているようだ。
《浮気じゃ……ないってこと?》
《知らねぇよ。分野が何か危ないことしようとしてたっつってるだけで……具体的なことは教えてくれねぇ》
《……浮気じゃないなら、ちゃんと言ってね、水月お兄ちゃん……早とちりして、怒って、ごめんなさい。コンお兄ちゃんなにしようとしてるの? コンお兄ちゃん、ぼくのことかわいいかわいいって、いつもすごく……なでたり、だっこしたり、してくれて……だから、コンお兄ちゃん危ないのぼくもやだ。ちゃんと止めてね、水月お兄ちゃん》
「分野のことちゃんと止めろってさ。ノヴェム、アイツに懐いてるみたいだな……俺も結構世話になってるからさ、あんま危ない真似はして欲しくない……俺からも、分野のこと頼む」
「…………あぁ」
ノヴェムもセイカもミタマを大切に思っている。きっとアキも、他の彼氏もそうだ。狙いも正体も分からないナニカに付け狙われている現状が危険なのは分かっている、けれどそれを解決するためにミタマを犠牲にするのはもちろん嫌だ。彼に体を張ってもらうことになったとしても、石像というセーブポイントを使うようなことには絶対にさせない、させたくない。
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