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アイドルとステーキハウス (〃)
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俺が頼んだステーキとカミアが頼んだハンバーグはほぼ同時に届けられた。気まずい時間がなくて助かる。
「……ねぇみぃくん、僕帽子脱いでいいかな」
「暑いか?」
「暑くはないけど……行儀悪いじゃん、店員さんに何も言わないのもアレなのに。食べる時も被ってるとか……」
「…………ダメだ、被ってろ。奥の方の席とはいえ結構人通るし」
「僕のファンいいひとばっかだもん……」
確かに、先程声をかけてきた女性達も俺が気分が悪くなったら解放してくれたしな……割と民度がいい方なのかもしれない。
「……ダメだ」
だが、昔、硫酸をかけてきたようなヤツが居たんだろう? カンナはそれで大怪我を負ったんだろう? どうしてそんなにも無警戒でいられるんだ?
「みぃくんお堅いなぁ」
カミアはぷぅと頬を膨らませて子供っぽく不満を示す。彼の幼げな美顔でなければ許されない仕草だ。
「嫌なんだよ、カミアとの時間邪魔されるの。カミアにとっちゃ大事なファンでも、俺にとっちゃただの邪魔者だからな」
「…………そっか」
「……悪い、邪魔者は言い過ぎた」
「ううん、みぃくんが僕との時間大事に思ってくれてるの嬉しいし……」
危険な目に遭ったことがあるくせにファンを信じているカミアへの苛立ちを少し表に出してしまった。
「ごめんねみぃくん。僕、普通の子じゃなくて」
「……そんなこと言うなよ。こうして頑張って作ってくれた時間でコソコソ会うの、結構気に入ってるよ」
「ほんと? なら、いいんだけど」
カミアはまだ少し不安そうな顔をしていたが、切り分けたハンバーグを一口食べると緩んだ表情になった。
「んふふ……おいし~!」
カミアの笑顔を肴に俺もステーキを一口……なるほど、オリジナルソースを勧めたカミアの気持ちがよく分かる。未知の味ではなく新鮮さこそないものの、これぞステーキソースと言った具合でとても美味い。
(お肉も分厚くジューシー! 圧倒的「こういうのでいいんだよこういうので」感!)
ファミレスなどで出される料理の値段に比べると遥かに高い、俗に言う遊園地価格ではあるものの、この味ならそこまで不満はない。まぁ、やはり高過ぎるとは思うけれど。
「美味いな」
「ね! ぁ、そうだ、一口交換しようよっ。僕そのステーキ食べたことないんだ」
「ないのか? オリジナルソースがオススメとか言ってたくせに」
「このハンバーグも同じソース使ってるんだ。ハンバーグに合うソースはステーキにも合うでしょ?」
「……なるほど。いいよ、一口交換しようか。どの辺がいい? やっぱり赤身のとこか?」
ミンチを使ったハンバーグは均一な味だが、ステーキは一枚でも場所によって味が異なる。その一番の理由は脂身の有無だ。アイドルで体型管理の責務を負っているカミアは脂身を厭わなければならない、そう考えて俺は赤身を勧めた。
「えー、脂身も欲しいなぁ。ジューシーさとかお肉の甘み分かるのってそういうとこじゃん? バランスよくちょーだい☆」
「あぁ……分かった、今切るよ」
「僕もみぃくんの一口分けるね~」
お節介だったようだ。カミアの要望通り脂身も赤身もバランスよく含むように一口分を切り取り、フォークに乗せてカミアの皿に移す──
「……あーんしてくれないの?」
「…………少しは人目気にしろよ」
「気にしてるよ! 今は誰も見てない、いいでしょ? みぃくんにあーんして欲しい、ダメ?」
「……分かった」
左側は壁、右側は通路、通路を挟んだ隣の席には今現在客は入っていない。前後には柵と磨りガラスがあり人の目は防がれている。それをしっかりと確認してから、俺はカミアの口へステーキを一切れ運んだ。
「ん~! 美味しい!」
オリジナルソースを絡めたステーキにカミアは舌鼓を打つ。
「そりゃよかった」
「次僕の番! みぃくんあーん!」
「あんまり大声出すなよ……」
再び周囲を確認し、口を開けた。そっと舌の上に転がされたハンバーグは分厚く、噛むと肉汁が溢れた。
「ん……!」
「どう? 美味しいでしょ!」
「……あぁ、正直舐めてたよ。ミンチ肉のハンバーグより肉そのままのステーキの方が美味いに決まってるって。そもそも潰した肉だから食べやすいのはそうなんだけど、しっかり噛めて……こう、ぎゅって、なる。肉汁すごいし」
「切っても肉汁あんまり出ないんだけど、食べるとすごいんだよ」
「あー……なんか、めかぶ? とかかな、それ入れると肉汁が上手く閉じ込められるとか母さんが昔言ってたような……言ってなかったような」
母は時々料理や家事のコツを話してくれる。でも「これがこうなるのは〇〇っていう成分が〇〇するからで~」という理系っぽい説明の仕方だから、俺は途中で聞く気がなくなってしまうことが多い。だからよく覚えていないんだ。
「曖昧~」
「今度ちゃんと聞くよ……」
「みぃくん料理上手いんだよね? いつか僕にハンバーグ作ってよ、そのお母さんから聞いたっていうコツ使ってさ!」
「別に上手くないぞ?」
「またまたぁ。お兄ちゃんが美味しいの食べたって言ってたよ」
謙遜だと思われている。カンナは俺を全肯定し、カミアはカンナを盲信しているから仕方ないな。カミアを失望させないよう彼に料理を振る舞う日までにハンバーグだけでも上手く作れるようになっておかねば。
「……ねぇみぃくん、僕帽子脱いでいいかな」
「暑いか?」
「暑くはないけど……行儀悪いじゃん、店員さんに何も言わないのもアレなのに。食べる時も被ってるとか……」
「…………ダメだ、被ってろ。奥の方の席とはいえ結構人通るし」
「僕のファンいいひとばっかだもん……」
確かに、先程声をかけてきた女性達も俺が気分が悪くなったら解放してくれたしな……割と民度がいい方なのかもしれない。
「……ダメだ」
だが、昔、硫酸をかけてきたようなヤツが居たんだろう? カンナはそれで大怪我を負ったんだろう? どうしてそんなにも無警戒でいられるんだ?
「みぃくんお堅いなぁ」
カミアはぷぅと頬を膨らませて子供っぽく不満を示す。彼の幼げな美顔でなければ許されない仕草だ。
「嫌なんだよ、カミアとの時間邪魔されるの。カミアにとっちゃ大事なファンでも、俺にとっちゃただの邪魔者だからな」
「…………そっか」
「……悪い、邪魔者は言い過ぎた」
「ううん、みぃくんが僕との時間大事に思ってくれてるの嬉しいし……」
危険な目に遭ったことがあるくせにファンを信じているカミアへの苛立ちを少し表に出してしまった。
「ごめんねみぃくん。僕、普通の子じゃなくて」
「……そんなこと言うなよ。こうして頑張って作ってくれた時間でコソコソ会うの、結構気に入ってるよ」
「ほんと? なら、いいんだけど」
カミアはまだ少し不安そうな顔をしていたが、切り分けたハンバーグを一口食べると緩んだ表情になった。
「んふふ……おいし~!」
カミアの笑顔を肴に俺もステーキを一口……なるほど、オリジナルソースを勧めたカミアの気持ちがよく分かる。未知の味ではなく新鮮さこそないものの、これぞステーキソースと言った具合でとても美味い。
(お肉も分厚くジューシー! 圧倒的「こういうのでいいんだよこういうので」感!)
ファミレスなどで出される料理の値段に比べると遥かに高い、俗に言う遊園地価格ではあるものの、この味ならそこまで不満はない。まぁ、やはり高過ぎるとは思うけれど。
「美味いな」
「ね! ぁ、そうだ、一口交換しようよっ。僕そのステーキ食べたことないんだ」
「ないのか? オリジナルソースがオススメとか言ってたくせに」
「このハンバーグも同じソース使ってるんだ。ハンバーグに合うソースはステーキにも合うでしょ?」
「……なるほど。いいよ、一口交換しようか。どの辺がいい? やっぱり赤身のとこか?」
ミンチを使ったハンバーグは均一な味だが、ステーキは一枚でも場所によって味が異なる。その一番の理由は脂身の有無だ。アイドルで体型管理の責務を負っているカミアは脂身を厭わなければならない、そう考えて俺は赤身を勧めた。
「えー、脂身も欲しいなぁ。ジューシーさとかお肉の甘み分かるのってそういうとこじゃん? バランスよくちょーだい☆」
「あぁ……分かった、今切るよ」
「僕もみぃくんの一口分けるね~」
お節介だったようだ。カミアの要望通り脂身も赤身もバランスよく含むように一口分を切り取り、フォークに乗せてカミアの皿に移す──
「……あーんしてくれないの?」
「…………少しは人目気にしろよ」
「気にしてるよ! 今は誰も見てない、いいでしょ? みぃくんにあーんして欲しい、ダメ?」
「……分かった」
左側は壁、右側は通路、通路を挟んだ隣の席には今現在客は入っていない。前後には柵と磨りガラスがあり人の目は防がれている。それをしっかりと確認してから、俺はカミアの口へステーキを一切れ運んだ。
「ん~! 美味しい!」
オリジナルソースを絡めたステーキにカミアは舌鼓を打つ。
「そりゃよかった」
「次僕の番! みぃくんあーん!」
「あんまり大声出すなよ……」
再び周囲を確認し、口を開けた。そっと舌の上に転がされたハンバーグは分厚く、噛むと肉汁が溢れた。
「ん……!」
「どう? 美味しいでしょ!」
「……あぁ、正直舐めてたよ。ミンチ肉のハンバーグより肉そのままのステーキの方が美味いに決まってるって。そもそも潰した肉だから食べやすいのはそうなんだけど、しっかり噛めて……こう、ぎゅって、なる。肉汁すごいし」
「切っても肉汁あんまり出ないんだけど、食べるとすごいんだよ」
「あー……なんか、めかぶ? とかかな、それ入れると肉汁が上手く閉じ込められるとか母さんが昔言ってたような……言ってなかったような」
母は時々料理や家事のコツを話してくれる。でも「これがこうなるのは〇〇っていう成分が〇〇するからで~」という理系っぽい説明の仕方だから、俺は途中で聞く気がなくなってしまうことが多い。だからよく覚えていないんだ。
「曖昧~」
「今度ちゃんと聞くよ……」
「みぃくん料理上手いんだよね? いつか僕にハンバーグ作ってよ、そのお母さんから聞いたっていうコツ使ってさ!」
「別に上手くないぞ?」
「またまたぁ。お兄ちゃんが美味しいの食べたって言ってたよ」
謙遜だと思われている。カンナは俺を全肯定し、カミアはカンナを盲信しているから仕方ないな。カミアを失望させないよう彼に料理を振る舞う日までにハンバーグだけでも上手く作れるようになっておかねば。
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