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アイドル、ファン交流 (〃)
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プレミアムパスのおかげで三時間ほどの列を無視して進める。通常パスで並んでいる皆様の視線が痛い気がするのは、きっと俺の被害妄想だ。
「……あっ、ジェットコースターって帽子とか外さなきゃだよね。マスクはいいかなぁ……顔丸出しになっちゃう」
「あー……手で顔隠すとか俯くとかでどうにかならないかな」
そんな話をしながら歩いていき、覚悟が出来ないまま席へ案内される時が来た。
「一番前! やったぁ、一番怖いとこだよ」
「ヒェ……」
脇に建てられた棚にカバンを入れ、カミアは帽子も置いた。順番待ちの人達が居る方の席に俺が座ったが、それでもカミアに気付いたのだろう者達は居た。指を差したり、目に見えてテンションが上がっていたり……アトラクションが終わったら声をかけられたりするだろうか? デートを邪魔されたくない、降りたらすぐ離れなければな。
「楽しみ~!」
カミアは気付かれたことに気付いていない、あまり大声ではしゃがないで欲しい。有名人の自覚はないのか?
「わ、動いた……! ねっねっみぃくん、手……繋いでいいかな。っていうか繋ごっ☆」
ジェットコースターへの不安と興奮、カミアが周囲の人間に見つかることへの懸念は、ぎゅっと握られた手の感触で吹っ飛んだ。カンナと同じサイズ、けれどカンナとは違い確かについている筋肉、一般人とは金と手間のかけ方が違う肌……!
(……!? カミアたん!? ふぉぉたまらんっ……に、握り返したいでそ)
手の甲側から握られているから俺からはカミアの手を握れない。まず反転させなければ。ジェットコースターは出発したが、まだゆっくりと坂を上がっているだけだ。
「カミア、俺からも握らせてくれよ」
「……! うんっ!」
手首を回し、カミアと強く手を握り合う。親指を動かしてカミアの手を楽しんでいると、ジェットコースターが止まった。坂の頂点に達したのだ。これから落ちる、落ちるっ……!
「きゃーっ☆」
「うわあぁあああああっ!?」
俺の手を握ったカミアの可愛こぶった悲鳴をかき消す、俺の本気の悲鳴。
「手ぇ上げよ、みぃくんっ」
カミアと繋いだ手が上に引っ張られる、カミアが引っ張っているんだ。何故!? ジェットコースターのベルトか肘置きでも掴んでいるものじゃないのか!?
「やだぁあああ!」
俺は必死に抵抗した。手を上げてなるものか。怖い。
「おりるぅうううっ!」
喚き散らして、ジェットコースターが止まった頃にはぐったりしていた。
「はぁ……楽しかったぁ☆」
「…………ぉえっ」
フタと遊園地に行った時は、いくつか絶叫マシンに乗ったら段々と慣れて後半は楽しめるようになった。なのに、今はこの体たらく。絶叫マシン耐性は間隔を空けるとリセットされるものなのか?
「……みぃくん? 大丈夫?」
「ぅう……」
「こういうの苦手だったの? すっごい握ってきたし……」
「いいから、早く帽子被れ」
「わっ」
棚から帽子を取り、カミアに無理矢理被せる。
「……行くぞ」
「えっ、ちょ、大丈夫なの? みぃくんっ、ねぇ!」
手を掴み、強引にアトラクションから離れる。急いでこの場を離れなければカミアが周囲の人間に捕まってしまう、しゃがんで水を飲んでしばらく休みたいけれど、そんな暇はない。
「みぃくんっ、みぃくん待ってよ、みぃくんっ! ちょっと止まって!」
次にカミアが乗りたがっていたアトラクションに向かおう。プレミアムパスとはいえ少しは待つから、その間柵にでももたれて体を休めよう。
「……待ってってば!」
手を振りほどかれて、足を止める。振り向いても目深に帽子を被ったカミアの表情はよく分からない。
「気分悪くなっちゃったんだよね? 休憩しようよ、プレミアムパスで待ち時間減るんだし……アイスでも食べてこっ、ね?」
「……でも、急がないと」
「急ぐ必要なんてないって。デ、デート……は、じっくり楽しまなきゃ。ほらアイス買おうよ、ちょうどそこにあるし。みぃくん何味がいい?」
「カミアがファンに捕まっちゃったらそっちの方がデート楽しめないだろ? だから……ムード壊れるけど、急いだ方がマシかなって」
「えー? 僕の変装は完璧なんだから、バレてないって」
本当にトップアイドルなのかコイツ。ハルの欲目じゃないのか? 有名人の自覚を持ってちゃんと顔を隠して欲しい、周囲の雰囲気の変化に敏感になって欲しい。
「じゃあアイス買ってくるから、みぃくんはそこのベンチにでも座って待っ──」
「あのー、カミアさん、ですよね」
「──てて……えっ?」
二人組の女性が声をかけてきた。俺は「ほら言っただろ」とカミアを見つめる。
「…………うん、でも今はプライベートだから、そっとしといて欲しいなぁ~……SNSに上げたりしないでね?」
女性達は口元に両手をやり、こくこくと頷いている。
「写真、とかは……」
「いいよっ☆ 出来ればアップしないで欲しいけど、どうしてもしたかったら日にちズラして欲しいんだけどぉ……カミアのお願い聞いてくれる?」
「もちろんっ!」
「生カミアのおねだり……!」
なんか興奮してる。よく言ってるフレーズなのかな。体調もマシになってきたし、俺がアイス買ってこようかな。
「……カミア、写真撮るんならその間に俺アイス買っとくよ。何味にする?」
「もう気分悪くないの? 僕ストロベリー! ウサ耳クッキー忘れないでね」
ソフトクリーム屋台の看板には追加注文で片耳が折れたウサギの耳を模したクッキーが描かれている。ソフトクリームにぶっすり刺されるらしい。
「分かった」
「あ、あの! みぃくん……さん?」
「ヴェッ」
「あっごめんね~! みぃくんガチガチの一般人でゴリッゴリの人見知りだからそっとしといてあげて? お願いっ☆」
「え……写真、とか、カミアと一緒に撮ってもらえたりは」
「ヴァッ!?」
「ん~……なんかもう変な音出てるし顔色ヤバいから勘弁してあげてくれる? みぃくんほんとに一般人で気ぃ弱いからぁ……みぃくんほら、アイス並んできてっ☆」
「ヴィエ……」
よろよろとソフトクリーム屋台の列に並ぶ。ここではプレミアムパスは通用しないらしい。
「カミアさんの事務所の新人って噂は……」
「ただの噂☆ スカウトはされたんだけどみぃくん吐きながら断ったから」
「吐いてない! 嘔吐いてたくらいだろ!」
「みぃくんほんとに……食道? 弱いんだぁ。芸人さんでも少なくなってくのに、嘔吐系アイドルとかモデルとかタレントとかはちょっと……」
「さっさと写真撮って解散しろよ! 俺をゲロキャラにするな! 吐いたことないから!」
ファンとそんなに長々と話す人気アイドルがどこに居る。やっぱりデートの邪魔だ、今後はカミアに一切バレないように動いてもらう!
「……あっ、ジェットコースターって帽子とか外さなきゃだよね。マスクはいいかなぁ……顔丸出しになっちゃう」
「あー……手で顔隠すとか俯くとかでどうにかならないかな」
そんな話をしながら歩いていき、覚悟が出来ないまま席へ案内される時が来た。
「一番前! やったぁ、一番怖いとこだよ」
「ヒェ……」
脇に建てられた棚にカバンを入れ、カミアは帽子も置いた。順番待ちの人達が居る方の席に俺が座ったが、それでもカミアに気付いたのだろう者達は居た。指を差したり、目に見えてテンションが上がっていたり……アトラクションが終わったら声をかけられたりするだろうか? デートを邪魔されたくない、降りたらすぐ離れなければな。
「楽しみ~!」
カミアは気付かれたことに気付いていない、あまり大声ではしゃがないで欲しい。有名人の自覚はないのか?
「わ、動いた……! ねっねっみぃくん、手……繋いでいいかな。っていうか繋ごっ☆」
ジェットコースターへの不安と興奮、カミアが周囲の人間に見つかることへの懸念は、ぎゅっと握られた手の感触で吹っ飛んだ。カンナと同じサイズ、けれどカンナとは違い確かについている筋肉、一般人とは金と手間のかけ方が違う肌……!
(……!? カミアたん!? ふぉぉたまらんっ……に、握り返したいでそ)
手の甲側から握られているから俺からはカミアの手を握れない。まず反転させなければ。ジェットコースターは出発したが、まだゆっくりと坂を上がっているだけだ。
「カミア、俺からも握らせてくれよ」
「……! うんっ!」
手首を回し、カミアと強く手を握り合う。親指を動かしてカミアの手を楽しんでいると、ジェットコースターが止まった。坂の頂点に達したのだ。これから落ちる、落ちるっ……!
「きゃーっ☆」
「うわあぁあああああっ!?」
俺の手を握ったカミアの可愛こぶった悲鳴をかき消す、俺の本気の悲鳴。
「手ぇ上げよ、みぃくんっ」
カミアと繋いだ手が上に引っ張られる、カミアが引っ張っているんだ。何故!? ジェットコースターのベルトか肘置きでも掴んでいるものじゃないのか!?
「やだぁあああ!」
俺は必死に抵抗した。手を上げてなるものか。怖い。
「おりるぅうううっ!」
喚き散らして、ジェットコースターが止まった頃にはぐったりしていた。
「はぁ……楽しかったぁ☆」
「…………ぉえっ」
フタと遊園地に行った時は、いくつか絶叫マシンに乗ったら段々と慣れて後半は楽しめるようになった。なのに、今はこの体たらく。絶叫マシン耐性は間隔を空けるとリセットされるものなのか?
「……みぃくん? 大丈夫?」
「ぅう……」
「こういうの苦手だったの? すっごい握ってきたし……」
「いいから、早く帽子被れ」
「わっ」
棚から帽子を取り、カミアに無理矢理被せる。
「……行くぞ」
「えっ、ちょ、大丈夫なの? みぃくんっ、ねぇ!」
手を掴み、強引にアトラクションから離れる。急いでこの場を離れなければカミアが周囲の人間に捕まってしまう、しゃがんで水を飲んでしばらく休みたいけれど、そんな暇はない。
「みぃくんっ、みぃくん待ってよ、みぃくんっ! ちょっと止まって!」
次にカミアが乗りたがっていたアトラクションに向かおう。プレミアムパスとはいえ少しは待つから、その間柵にでももたれて体を休めよう。
「……待ってってば!」
手を振りほどかれて、足を止める。振り向いても目深に帽子を被ったカミアの表情はよく分からない。
「気分悪くなっちゃったんだよね? 休憩しようよ、プレミアムパスで待ち時間減るんだし……アイスでも食べてこっ、ね?」
「……でも、急がないと」
「急ぐ必要なんてないって。デ、デート……は、じっくり楽しまなきゃ。ほらアイス買おうよ、ちょうどそこにあるし。みぃくん何味がいい?」
「カミアがファンに捕まっちゃったらそっちの方がデート楽しめないだろ? だから……ムード壊れるけど、急いだ方がマシかなって」
「えー? 僕の変装は完璧なんだから、バレてないって」
本当にトップアイドルなのかコイツ。ハルの欲目じゃないのか? 有名人の自覚を持ってちゃんと顔を隠して欲しい、周囲の雰囲気の変化に敏感になって欲しい。
「じゃあアイス買ってくるから、みぃくんはそこのベンチにでも座って待っ──」
「あのー、カミアさん、ですよね」
「──てて……えっ?」
二人組の女性が声をかけてきた。俺は「ほら言っただろ」とカミアを見つめる。
「…………うん、でも今はプライベートだから、そっとしといて欲しいなぁ~……SNSに上げたりしないでね?」
女性達は口元に両手をやり、こくこくと頷いている。
「写真、とかは……」
「いいよっ☆ 出来ればアップしないで欲しいけど、どうしてもしたかったら日にちズラして欲しいんだけどぉ……カミアのお願い聞いてくれる?」
「もちろんっ!」
「生カミアのおねだり……!」
なんか興奮してる。よく言ってるフレーズなのかな。体調もマシになってきたし、俺がアイス買ってこようかな。
「……カミア、写真撮るんならその間に俺アイス買っとくよ。何味にする?」
「もう気分悪くないの? 僕ストロベリー! ウサ耳クッキー忘れないでね」
ソフトクリーム屋台の看板には追加注文で片耳が折れたウサギの耳を模したクッキーが描かれている。ソフトクリームにぶっすり刺されるらしい。
「分かった」
「あ、あの! みぃくん……さん?」
「ヴェッ」
「あっごめんね~! みぃくんガチガチの一般人でゴリッゴリの人見知りだからそっとしといてあげて? お願いっ☆」
「え……写真、とか、カミアと一緒に撮ってもらえたりは」
「ヴァッ!?」
「ん~……なんかもう変な音出てるし顔色ヤバいから勘弁してあげてくれる? みぃくんほんとに一般人で気ぃ弱いからぁ……みぃくんほら、アイス並んできてっ☆」
「ヴィエ……」
よろよろとソフトクリーム屋台の列に並ぶ。ここではプレミアムパスは通用しないらしい。
「カミアさんの事務所の新人って噂は……」
「ただの噂☆ スカウトはされたんだけどみぃくん吐きながら断ったから」
「吐いてない! 嘔吐いてたくらいだろ!」
「みぃくんほんとに……食道? 弱いんだぁ。芸人さんでも少なくなってくのに、嘔吐系アイドルとかモデルとかタレントとかはちょっと……」
「さっさと写真撮って解散しろよ! 俺をゲロキャラにするな! 吐いたことないから!」
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