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お箸持てないの (水月+シュカ・ハル・ミフユ・カンナ・リュウ)
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手を怪我してしまったので、綱引きの練習には不参加となった。みんなが練習している間、腿上げでもしていろと言われたので、ひたすら足を上げ下げする。
(結構辛い……疲れたら力抜いててもバレない綱引きの方がマシでそ)
大した怪我じゃないから、とか言って押し切ればよかったな。見学だラッキーとか考えてたら教師が腿上げを思い付いてしまって……
(しかし、シュカたま。今朝合流した時はわたくしの心配をしていたので分かりにくうございましたが、こうして遠くから見ると明らかに元気がありませんな)
これまでの授業、休み時間で感じた違和感。優等生ぶっているとはいえ今日のシュカは大人し過ぎた。今確信した、今日のシュカの様子がおかしいのは俺の気のせいではないと。
(どこ見てるか分かんない時があるんですよな。いつも腕に筋浮かぶくらい綱引きの練習真面目にやってるのに、今日は掴んで引くフリしてサボってまそ)
俺がやろうとしていたサボり方だ。
「……シュカ! ちょっといいかな、話したいんだけど」
一試合終わったキリのいいタイミングでシュカに声をかけると、彼は小さく頷いて素直にこちらに来た。普段なら「何ですか? 手短にお願いしますよ」なんてツンとした態度を取るだろうに、今日は何も言わずに俺の前に立った。
「えっと……」
どう聞こう、シュカのことだから下手に聞いても教えてくれないだろう、いや、なんだかんだ折れてくれることが多い、素直に気持ちをぶつけよう、真っ直ぐにシュカを見つめるんだ。
「シュカ、なんか元気ないけどどうしたんだ?」
「……そう見えます?」
「あぁ、心配だよ」
「怪我してるくせに心配ですか」
「大袈裟に包帯巻かれたけど大したことないんだよ。で? シュカはどうしたんだ? 俺は怪我の理由話してるんだし、シュカも話してくれよ」
「ちょっと疲れてるだけですよ……ここ数日、普段より母が暴れてしまって」
シュカは声を小さくして理由を語ってくれた。
「……そっか」
母親の介護をしていることを、シュカは俺だけに明かしてくれている。いや、俺が家に押しかけたから明かさずにはいられなかったのだが……相談出来る相手が居るというのはいいことではないだろうか? 頼りない俺だとしても。自惚れかな。
「何か、俺に出来ることがあったら言ってくれよ。お弁当とか作るの大変だったら俺が作って持ってくるし」
「母の食事を作るついででもありますし……そこまで手間ではないので大丈夫です」
「……そう? じゃあ、うーん……何か、えー」
ダメだ、何も思い付かない。
「そうだ! コンちゃんに何とか」
「ダメです! それであなたの安全に影響が出たらどうするんです! 優先順位を間違えないでください」
「俺は俺よりシュカの方が大事で……」
「なら私が喜ぶことをもう少し考えてください。私は自分が疲れる方が、あなたが怪我をするよりマシなんです」
腕を掴まれ、手のひらをじっと見つめられる。
「……私のものです、この手は。私に、触れてくれるためのものでしょう。火傷なんてドジしないでください」
俯いて目を合わさないままながらも、シュカが素直にデレてくれた。だがここで過剰反応すればシュカは照れ隠しに暴力を振るう、耐えろ俺、叫ぶな、平静を保て!
(ぬぉおおおぉおっ! くぅうぅうぅぅ……!)
心の中で叫び尽くす。
「…………水月、少し……聞いてくれますか」
「何だ?」
「……私、母のことが」
「お母さんが?」
「昔は、その……でも最近……私………………やっぱり、いいです。もう少しまとまってから話します」
「うん……? うん、いつでも話してくれ」
「練習に戻ります」
話しにくい内容で躊躇したのか、本当にどう話すか頭の中でまとまっていなかったのか、判別が付かないな。何か悩みがあるようなのは間違いない、歯痒いけれど話してくれるのを待つしかないか。
昼休み、いつものように生徒会長室に集まった。朝に話していた通りハルは俺の膝に乗り、サラダチキンを齧った。
「みっつんのお弁当豪華だよね~、手間かかってるしぃ、流石フユさん! どれから食べたい?」
「んー、これかな」
「これ? よしっ、みっつん……ぁ、あーん」
頬を赤らめながら、ゆっくりと箸が近付けられる。料理の味以上の美味しさと喜びを堪能しながら、俺は怪我をしたのが手でよかったと心底思った。
「霞染一年生! それを作ったのはミフユだぞ!」
「えっ? うん、知ってるけどぉ……」
「だから鳴雷一年生に食べさせる権利があるのはミフユだけだ!」
ズンズンと近寄ってきたミフユはしっしっと手を振り、ハルを無理矢理俺の膝からどかして、交代に俺の膝の上に座った。ハルより少し軽いけれど、尻の骨が太腿にくい込んで痛い彼とは違い、ミフユは尻に肉がしっかりついているから太腿が楽だ。
「負傷したようだな。箸を持てないのならそう言え、何なりと対応してやる」
左手で受け皿を作り、しっかりと俺の口に運ぶ。何故だろう、彼氏とイチャついているはずなのに、親兄弟に世話を焼かれている気分になる。
「フユさんまだ食べてるじゃ~ん、俺もう食べ終わるからぁ~」
「これはミフユが作ったのだ、だからミフユが食べさせる」
「よく考えたら意味分かんない道理~! なんでどいちゃったんだろ俺、みっつんの膝返せ~!」
「ぼ、くもっ……みーくん、に……ぁーん、したいっ……」
「俺も俺も。俺もやりたい。とりりんは?」
「私はいいです、馬鹿らしい」
彼氏達は各々の箸で俺の弁当を一口掬い、俺の口に突きつけてくる。あぁ、なんて幸せなんだ……
(結構辛い……疲れたら力抜いててもバレない綱引きの方がマシでそ)
大した怪我じゃないから、とか言って押し切ればよかったな。見学だラッキーとか考えてたら教師が腿上げを思い付いてしまって……
(しかし、シュカたま。今朝合流した時はわたくしの心配をしていたので分かりにくうございましたが、こうして遠くから見ると明らかに元気がありませんな)
これまでの授業、休み時間で感じた違和感。優等生ぶっているとはいえ今日のシュカは大人し過ぎた。今確信した、今日のシュカの様子がおかしいのは俺の気のせいではないと。
(どこ見てるか分かんない時があるんですよな。いつも腕に筋浮かぶくらい綱引きの練習真面目にやってるのに、今日は掴んで引くフリしてサボってまそ)
俺がやろうとしていたサボり方だ。
「……シュカ! ちょっといいかな、話したいんだけど」
一試合終わったキリのいいタイミングでシュカに声をかけると、彼は小さく頷いて素直にこちらに来た。普段なら「何ですか? 手短にお願いしますよ」なんてツンとした態度を取るだろうに、今日は何も言わずに俺の前に立った。
「えっと……」
どう聞こう、シュカのことだから下手に聞いても教えてくれないだろう、いや、なんだかんだ折れてくれることが多い、素直に気持ちをぶつけよう、真っ直ぐにシュカを見つめるんだ。
「シュカ、なんか元気ないけどどうしたんだ?」
「……そう見えます?」
「あぁ、心配だよ」
「怪我してるくせに心配ですか」
「大袈裟に包帯巻かれたけど大したことないんだよ。で? シュカはどうしたんだ? 俺は怪我の理由話してるんだし、シュカも話してくれよ」
「ちょっと疲れてるだけですよ……ここ数日、普段より母が暴れてしまって」
シュカは声を小さくして理由を語ってくれた。
「……そっか」
母親の介護をしていることを、シュカは俺だけに明かしてくれている。いや、俺が家に押しかけたから明かさずにはいられなかったのだが……相談出来る相手が居るというのはいいことではないだろうか? 頼りない俺だとしても。自惚れかな。
「何か、俺に出来ることがあったら言ってくれよ。お弁当とか作るの大変だったら俺が作って持ってくるし」
「母の食事を作るついででもありますし……そこまで手間ではないので大丈夫です」
「……そう? じゃあ、うーん……何か、えー」
ダメだ、何も思い付かない。
「そうだ! コンちゃんに何とか」
「ダメです! それであなたの安全に影響が出たらどうするんです! 優先順位を間違えないでください」
「俺は俺よりシュカの方が大事で……」
「なら私が喜ぶことをもう少し考えてください。私は自分が疲れる方が、あなたが怪我をするよりマシなんです」
腕を掴まれ、手のひらをじっと見つめられる。
「……私のものです、この手は。私に、触れてくれるためのものでしょう。火傷なんてドジしないでください」
俯いて目を合わさないままながらも、シュカが素直にデレてくれた。だがここで過剰反応すればシュカは照れ隠しに暴力を振るう、耐えろ俺、叫ぶな、平静を保て!
(ぬぉおおおぉおっ! くぅうぅうぅぅ……!)
心の中で叫び尽くす。
「…………水月、少し……聞いてくれますか」
「何だ?」
「……私、母のことが」
「お母さんが?」
「昔は、その……でも最近……私………………やっぱり、いいです。もう少しまとまってから話します」
「うん……? うん、いつでも話してくれ」
「練習に戻ります」
話しにくい内容で躊躇したのか、本当にどう話すか頭の中でまとまっていなかったのか、判別が付かないな。何か悩みがあるようなのは間違いない、歯痒いけれど話してくれるのを待つしかないか。
昼休み、いつものように生徒会長室に集まった。朝に話していた通りハルは俺の膝に乗り、サラダチキンを齧った。
「みっつんのお弁当豪華だよね~、手間かかってるしぃ、流石フユさん! どれから食べたい?」
「んー、これかな」
「これ? よしっ、みっつん……ぁ、あーん」
頬を赤らめながら、ゆっくりと箸が近付けられる。料理の味以上の美味しさと喜びを堪能しながら、俺は怪我をしたのが手でよかったと心底思った。
「霞染一年生! それを作ったのはミフユだぞ!」
「えっ? うん、知ってるけどぉ……」
「だから鳴雷一年生に食べさせる権利があるのはミフユだけだ!」
ズンズンと近寄ってきたミフユはしっしっと手を振り、ハルを無理矢理俺の膝からどかして、交代に俺の膝の上に座った。ハルより少し軽いけれど、尻の骨が太腿にくい込んで痛い彼とは違い、ミフユは尻に肉がしっかりついているから太腿が楽だ。
「負傷したようだな。箸を持てないのならそう言え、何なりと対応してやる」
左手で受け皿を作り、しっかりと俺の口に運ぶ。何故だろう、彼氏とイチャついているはずなのに、親兄弟に世話を焼かれている気分になる。
「フユさんまだ食べてるじゃ~ん、俺もう食べ終わるからぁ~」
「これはミフユが作ったのだ、だからミフユが食べさせる」
「よく考えたら意味分かんない道理~! なんでどいちゃったんだろ俺、みっつんの膝返せ~!」
「ぼ、くもっ……みーくん、に……ぁーん、したいっ……」
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