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何の収穫もありませんでした (水月+サキヒコ・ミタマ)

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もう風邪は治ったように感じるけれど、半日足らずで治るとは思えない。念の為に風邪薬を飲んで早めに眠ることにした。

「よし、じゃあ荒凪くんの夢の中に入ってみよう。よろしくねサキヒコくん」

「分かっている」

「はぁ……傍で過ごすだけで悪影響を与えるようなお化けの夢に入ろうなどと、相も変わらず無鉄砲じゃのぅ。ワシが治療しなければとっくに前のあっちゃんのようにぶっ倒れていることを忘れるでないぞ!」

「感謝してるよ」

「うむ、感謝の念を感じるぞぃ。そうそう、ワシへの感謝と信仰を欠かすな。でなければ神通力が足りず治療などしてやれんからのぅ」

時間と回数を重ねれば重ねるほど感謝は薄れてしまうものだ。意識して抱かなければならない感情だが、義務的ではダメだ。俺は上手くミタマに感謝出来ているのだろうか。

「ミツキ、早く寝るんだ。他者の夢の中に入っている間、ミツキの霊体は休めない。早く済ませて休まねば翌日以降に疲れが残ってしまう」

「心配してくれてありがとう。じゃあ、おやすみ」

既にベッドに入っていた荒凪を抱き寄せ、目を閉じた──

「ん……?」

──はずなのに、気付けば十二薔薇高校の教室で自分の席に着いていた。目の前には着物を着たおかっぱ頭の美少年が居る。

「眠ったな、ミツキ。アラナギも寝ている、彼の夢へ移動するぞ」

眠った瞬間も夢を見始めた頃も分からない、睡眠は全てが胡乱になる。

「……ミツキ? 寝ぼけているのか?」

「俺は寝てて……ここは夢の中なんだよね。ごめんごめん、寝てるのにこうやってハッキリ喋ってるの不思議でさ、ちょっとボーっとしちゃった。荒凪くんの夢にはどうやって行けばいいの?」

「こっちだ」

サキヒコに手を引かれるままに歩き、引き戸をくぐった。一瞬の暗転と浮遊感の後、覚えのある冷たさに包まれた。

「寒っ……水中? プール、かな」

ゆっくりと沈んでいき、足が水色の床に触れた。床には黒い線が何本か引かれている、プール特有の模様だ。

「水の中なのに息出来てるよ、荒凪くんに作ってもらえる泡とかもないのにさ。流石夢って感じ」

「見ろミツキ、魚が泳いでいるぞ。赤い……金魚か何かか?」

サキヒコが指した先には小さな金魚が居た。金魚といえばヒレが優雅に揺らめくのが特徴の魚だが、今目の前に居る金魚はそうではない。胸ビレも尾ヒレも硬そうだ。爪でつついてみるとコンコンと軽い音が鳴った。

「プラスチックかな?」

「不気味だな……何を表しているのだろう」

「お祭りで歌見先輩が荒凪くんに取ってあげたヤツだと思う。荒凪くん金魚すっごく気に入ってたから夢にも出てるんだろうね」

「……忘れてくれ」

真剣な表情で考え込んでいたのが恥ずかしいのか、サキヒコは赤らめた顔を手で隠して俯いた。

「家のプールより広くて深いね」

「そのようだな。荒凪は……居た。泳いでいる」

夢の主、荒凪は普段通りに泳いでいる。

「話聞けたらいいんだけど」

俺とサキヒコはその夢にも夢の主にも干渉出来ない。以前、彼の力で他人の夢に入った際に分かったことだ。ただ他人の夢を眺めるだけなのだ、一緒に同じ夢を見るロマンチックなデートは残念ながら不可能。

「特に変わった様子はないかな。プール出てみようか」

サキヒコと共にプールサイドに上がる。やはりアキの部屋の隣にあるプールだ、シャワーブースや水道の位置、壁や床の色が同じ……サウナもあるな。

「うわ、グリルみたいになってる」

サウナを覗いてみたところ、ここだけは現実とは違い床が魚焼きグリルのような鉄の網になり、その下では火が燃え盛っていた。

「トラウマなんだな……」

荒凪をサウナに閉じ込めた罪悪感がまた膨らんできた。

「ミツキ、ミツキが現れたぞ」

サキヒコが指した先には俺が居た。プールサイドに腰掛け、荒凪と何か話している。

「ホントだ、俺じゃん。荒凪くん俺のこと夢に見てくれてるんだなぁ……なんか嬉しいよ、好かれてるんだなって。そういえばシュカとセイカも俺を夢に出してくれてたね、セイカの方はちょっとアレだったけど。俺結構愛されてるのかな」

「喜んでもらえて何よりだ。しかしミツキ、これでは私達の目的が達成出来ない」

夢という深層意識が現れるかもしれないモノを覗き見し、荒凪が造られた神秘の会の情報、彼の生前の記憶などを知れないか……というのがサキヒコの提案だった。

「まぁ、荒凪くんが悪夢見てなくてよかったけど……新しい情報は手に入らないね」

「そうだな……だが毎日同じ夢を見るとも考えにくい、何日か繰り返していけばいつか……!」

予想を外して情報を手に入れられなかったのが相当悔しかったらしい。サキヒコは強く拳を握り締めている。

「一応外も見てみようか、俺の家なのはここだけで外は違うかもしれないし」

サキヒコを元気付けようとそう言い、彼の手を引いて外に出てみるも、小物の少ないアキの部屋を通って俺の家の庭に出ただけだった。

「俺の家だね……」

荒凪は家の造りをあまり覚えていないのか、全体的にのっぺりしている。

「道路も……まぁ、俺の家の周りだね」

「…………夢から出ようか」

落ち込んだサキヒコを励ますことは出来なかった。
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