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人外の数値 (〃)

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水中でキスなんてなんともロマンチックじゃないか、それも相手は人魚だ。じゃあ俺は難破船の王子様にでもならなきゃな、なんてキザな思考を巡らせながら荒凪の背に腕を回そうとした。

(おっと背ビレが……腰掴むくらいのがいいですかな?)

背ビレが邪魔で抱き締めにくかったので、肩と腰に手を添えた。サキヒコとは違い、低いながらにしっかりとした体温が伝わってくる。

「秘書さん……真尋さんのことも許してくれる?」

「許す」

「じゃあ一回上がろうか、もう少し調べたいものがあるんだって。大丈夫、もう痛くも暑くもないから」

「…………うん」

荒凪と共にプールサイドに上がる。二、三言葉を交わした後、秘書は荒凪の全長を測った。

「三メートル八十……保護当時の全長は三メートル五十だったはずなんですけどね。ヒレもなんか少し大きくなってる気がしますし……成長期なのかな。二人目の目覚めとかじゃなくてこっちが成長したから体重増えたんですかね?」

「三十センチで五十キロも増えますかね……」

「まぁとりあえず成長期ってことで」

変なとこ緩いんだよなこの人。だから形州の親族ということを抜きにしても信頼し切れないんだ。

「真尋、次何する?」

「さっきやった検査もう一回。出来れば体液も人間の姿と人魚の姿で一回ずつ取りたかったんだけどな……まずは視力検査だ、ここ広いから3.0まで測れそうだな」

視力検査が始まった。人魚の姿になり表情筋が動くようになった荒凪は楽しそうに指を差していく。

「3.0以上か……また上限値だな。次、肺活量」

「荒凪くん、エラあるのに肺呼吸なんですよね」

「肺魚みたいなもんですね。肺魚は肺呼吸への依存度が高いために息継ぎが必要ですが……荒凪は結構立派なエラある上に、上半身が人間そのままなので肺は丸々存在しそうですし、どちらの依存度が高いのか……それぞれ何割なのか調べてみたいところですね。潜水し続けていられるのか、水深何メートルまで潜れるのか、色々確認したいところですが……霊力でどうにかしてる可能性が超高い。つか確実にそう。怪異だもん。その場合潜水技術や器具の開発に役立つ情報は手に入らなさそうですね」

長々と話されたな……呼吸にはあまり興味がないから声にうっとりするばかりで内容はほぼ聞き流してしまった。

「測れたな。え~……9000ccか。人間体は3000だったのに随分上がったな」

「俺も測っていいですか?」

「好きにすれば……」

俺とサキヒコが肺活量を測定してきゃいきゃい遊んでいる傍ら、秘書は荒凪の聴力測定を始めた。

「ほー……15Hzから150kHzまでか。いや可聴域広過ぎねぇかお前」

「すごいんですか?」

「咬合力は20kNか。ウケる」

「それすごいんですか?」

「握力は? 200……ってお前これ上限じゃねぇか。100キロ上限じゃオーバーするかもって大会用の持ってきたのにそれも振り切りやがって。つくづく化け物だな……」

「あ、それはすごいの分かります。俺も測ってみてもいいですか?」

「好きにすれば……」

結果は17。だって今手痛いんだもん……荒凪の鱗刺さって皮膚ズタズタになったから……

「ミツキ、私もしたい」

「ん? うん、どうぞ」

「んっ……! 24だ、ミツキに勝ったぞ! 左は……19か。ふふ、利き手でなくともミツキに勝てたぞ」

俺が本調子でないとこの笑顔の前では言えやしない。

「持ってきてる器具ではここまでだな。異常な数値いくつも叩き出しやがって……怪異の測定する無意味さを思い知らされましたよ、まぁ怪異の身体測定する機会なんて滅多にないし、いい経験ではありましたけど」

「楽しかったー。終わり?」

「測定はな。次は体液の採取だ」

「……! 暑いの嫌! 真尋嫌い!」

「サウナにはもう入れねぇよ。人間体で汗かけないなら人魚でも無理だろ」

「じゃあ真尋嫌い違う。何取るの?」

「まずは涙だな。お前瞬きしてるとこ見たことないし、うるうるだろ」

荒凪の目尻に透明の器具が押し付けられる。数十秒待って、秘書は荒凪から手を離した。

「よし、十分溜まった」

「終わり?」

「いや、次は精液と我慢汁と……水月くんが一番調べて欲しいのは腸液でしたっけ?」

「……そうですよ」

からかうような秘書の態度に対抗し、声を低くして威嚇してみるも秘書はくすくす笑うばかりだ。

「精液……」

「精液、何か分かる?」

「……寝てると、出てる、白いの」

荒凪が夢精したことはないはずだ、保護前の記憶か? それとも生前の記憶? 単なる知識?

「起きてる時も出せるんだよ、気持ちいいはずなんだけど……どうかな? 嫌かな? 精液出すの。俺が荒凪くんの恥ずかしいところ触って、気持ちよくして、出してもらうって形になるんだけど」

臍よりも下、人間なら股間がある位置なのだろうところにある縦長の割れ目ことスリットを指して言うと荒凪は慌ててそこを手で隠した。

「……! 見ないで」

「触らなきゃいけないんだけど……嫌? 気持ちいいよ」

荒凪は蛇のようにとぐろを巻き、尾でスリットを隠した。鱗の跡が残るくらいに、骨が軋むくらいに強く巻き付かれたいな。絶対気持ちいいぞ。

「ダメか……実践あるのみですね」

「えっ、無理矢理はちょっと俺のポリシーに反するというか」

「上手く出来ない、怖がってやりたがらない、そんな子にするべきは何ですか? 説得でも説明でもありませんよね」

「……! 手本を見せよ、ということですね? 真尋殿」

「正解。ほら、シコれエロガキ」

「今ここで!?」

秘書は表情はコロコロ変わるものの、目の焦点が微妙にズレているから瞳に宿る感情は読み取りにくい。だが、きっと本気だ。本気で俺にここで自慰を披露しろと言っている。
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