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地震の解説をしていくぜ (〃)

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机の真ん中に置かれた皿、皿の中には一口サイズに切られた桃。隣には荒凪とサキヒコ、向かいには秘書が座っている。まるで今から面接でも始まるかのような緊張を、俺は勝手に感じていた。

「まひろぉ、ひさしぶり」

「おひさ~。元気?」

「げんきー、まひろげんき?」

「元気元気」

「まひろげんきー、よかた」

荒凪は数日ぶりに秘書と会えたことに喜んでいる様子だ。

「まひろ、僕達しらべる来た? 僕達、みつきあぶない。まひろしらべる、みつきあぶなくない、出来る?」

「あぁ、何とかなるよ」

「ほんとっ? きゅうぅん……うれしい、まひろ、ありがとー」

「……さて、さっきの話の続きです。昨夜の地震ですが、アレは荒凪がこの国を呪ったことによるものです」

「きゅ……?」

予想していた犯人と、予想外に大きい呪いの対象に、頭を抱える。たった今まで嬉しそうに喉を鳴らしていた荒凪が首を傾げる様も、もはや痛々しく見える。

「知り合いに霊視を頼んだそうですね、素晴らしい人脈をお持ちで……よければ紹介して欲しいのですが」

そう聞かれ、スイとのやり取りを思い出す──

「アタシの霊視の結果を誰に話しても構わないけど、アタシのことは誰にも言わないでね。その子を作った何とかの会にも、その子をさらってきたダークヒーローさんにも、知られたくないの。特に公安には絶対アタシのこと言わないで! アタシは個人で細々のびのびやってきたいの。だからアタシの話は誰にもしないで、約束よ!」

──やり取り、やり取り? 一方的だったような。まぁどっちにしろ約束は約束だ。

「すみません。その人との約束なんです。霊視結果は誰に話してもいいけど、自分のことは誰にも話すなって……だから、ごめんなさい」

「……そうですか。ま、ついでにいい人材をスカウト出来るかと思っただけなので構いませんよ」

「すいません……それで、あの、地震は荒凪くんが呪ったからっていうのは」

「言った通りですよ。あの地震は正常な地球の活動じゃない、荒凪の呪いによる災厄です。霊力っていうのは一人一人違っていて、ちゃんと調べれば声紋認証みたいに誰の霊力か分かるんですよ。で、地震を引き起こした霊力を調べたところ、荒凪のものだと分かった……納得していただけました?」

「……っ、れ、霊力を調べたって、どういう……なんか、そういう計測器とかあるんですか?」

荒凪がやったと信じたくないあまりに疑ってかかった。

「あります」

「あるんだ……あるよね……」

「という訳で今回は霊紋の取り方をゆっくり解説していくぜ」

「……!? な、なんて馴染み深い。頭にするする入ってきそうです……!」

「電子機器は霊と相性がいいと言うか悪いと言うか……狂わされがちなので、紙を使ってます。こちらの紙は少々特殊でして、霊力に反応して焦げるんですよ」

「あっゆっくり終わり……? 分かりやすかったのに……」

秘書は持っていたトランクケースからメモ帳を取り出し、二枚ちぎって俺に寄越した。

「紙に霊力を注いでみてください」

俺にそんなことは出来ない。二枚ということは、サキヒコと荒凪に渡せということだろう。俺は黙って二人に紙を渡した。

「んっ……! こうでいいのか? あっ、焦げ始めたぞ! おぉ……模様が出たな」

「昭和の魔法瓶をちょっと禍々しくした感じ……」

花柄に見えるような、見えないような。ロールシャッハテストでもされている気分だ。

「きゅ~……まひろぉ、僕達やり方しらない」

「えぇ? お前の霊紋は俺のとこに居る時に取ってあるぞ? あの時みたいにやればいいんだよ」

「きゅ……?」

「きゅーきゅー可愛こぶりやがって……お前そんなんだったか? はぁ、まぁいいや。水月くん、こちらがその紙です。荒凪を保護した際に採取した霊紋です」

逮捕されたら指紋取られるみたいな感じなのかな。

「うわ……」

薄いビニールに包まれた紙。焦げが作った紋様は不気味なものだった。二つの髑髏、四本の腕、背景は鱗……? 蛸……? どこか荒凪らしさはあるものの、荒凪がこんな禍々しいモノを持っているとは思いたくない。

「で、こちらが地震時に採取した霊紋です」

全く同じ模様の紙が隣に並ぶ。

「……地震時に採取って、どうやったんですか? 秘書さん東京に居たんですか?」

「いや家で緊縛プレイしてましたけど」

「おぉ……」

麻縄に絡め取られた秘書を想像してしまったじゃないか。実際どっちだったんだろ、縛ったのか縛られたのか……あぁっ気になる!

「若神子製薬本社の地下に、大きな日本地図が置いてある部屋がありましてね。特殊な加工を施したその地図の上にこの紙を並べてあるんです。今回のような霊障があれば反応するんですよ。この紙は地図の上に置いてあったものなんです」

「へぇー……」

「ちなみにその地図はちょっと人間が数人取り殺されたくらいじゃ反応しません。その程度で反応させてたら紙が足りませんからね、資源は大切にしないと」

紙という資源より人命の方が大切なはずでは?

「反応するのは災害レベルからです。霊障を受ける範囲、使われた霊力の量で判定されます。今回は災害は災害ですが、大した地震じゃなかったんで死傷者は居なかったみたいですけど……本来あの地図が反応するのは神霊クラスによる祟りくらいです。何が言いたいかお分かりですね?」

「……荒凪くんのポテンシャルマジやべぇ、ですね?」

「いえす」

俺のアホみたいな返事に知能レベルを合わせて答えてくれた。冷徹な目を向けられるかツッコまれるかのどちらかだと思っていたのに……優しいなぁ。

「い、いやでも、見せられたの持ち込みだけだし、荒凪くんのかどうか分かりませんし」

悪あがきをする俺の隣で荒凪が二対目の腕を生やし、紙を掴んだ。

「……まひろ、出来たぞ」

机に置かれた紙はビニールに包まれたものと同じ、二人分の死体を描いたような禍々しい模様をしていた。

「わぉ……できちゃった」

「証明出来ましたかね」

「すいません……悪あがきを……」

「じゃ、そろそろ今後の話をしましょうかね」

同じ模様の三枚の紙、そしてサキヒコが霊力を注いだ紙が回収された。今後の話……気合いを入れ直さなければな。
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