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お見舞いに来たのは (〃)

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サキヒコはとうの昔に死んでいる。その事実が触れ合う度に突きつけられる。体温も鼓動も感じない身体にほんの少し寂しさを覚える。

「ミツキ……あぁ、嬉しい。あなたの腕の中ほど心地いい空間はこの世にもあの世にも二つとないだろう」

愛らしい童顔はほんのりと赤く色づくのに、触れてもやはり温度を感じない。

「ふふ、あなたに愛でられる時間は至福だ……」

「きゅるるるるる……」

俺の手に甘えるサキヒコの背後からイルカのような鳴き声が聞こえてきた。

「さきひこー、僕達も、みつきに抱っこ…………きゅうぅ」

「代わって欲しいのか? 仕方ないな。ミツキ、構わないだろう?」

「もう少しサキヒコくんとイチャつきたいなぁ、そりゃ荒凪くんともしたいけどさ」

「贅沢者め。腕が四本必要なのはあなたのようだな。だが残念ながらミツキの腕は二本だけだ、アラナギ、半分こしようか」

「きゅ! ありがとー、さきひこ。みつき、抱っこ」

サキヒコに促されて両腕を広げると彼は左側に寄って右側を空けた。空いたスペースに身体をねじ込んだ荒凪は無邪気に抱擁を喜び、俺の身体に両手を巻き付けた。

(両手に花ッ! たまらんっ! 荒凪きゅんと同時に抱き締めるとサキヒコきゅんの華奢さが分かりますなぁ、肩狭っ胸薄っ腰細っ! ミフユたんより肉付きは悪い気がしますな。こんな小さな身体でご主人様守り切って死んだとか……くぅぅっ! 健気! かわゆすぎんか~!)

荒凪が俺をぎゅっと抱き締め返しているのに対し、サキヒコは俺の服をきゅっと掴んでいるだけ。一対一で抱き締め合っている頃からその仕草は変わっていないから荒凪に気を遣っている訳ではないのだろう、控えめなのだ。悶絶するほどいじらしい。

(しかしやっぱり荒凪きゅんの重さはおかしいですよな、こうして抱き締めてもそれほどゴツくは感じませんもん。アキきゅんよりは筋肉少ないなって感じなのにアキきゅんより断然重くて……セイカ様抱えたアキきゅん抱っこしたくらいの重さでしたぞ)

サキヒコの小ぶりな尻と荒凪のむっちりとした尻を同時に鷲掴み、揉みしだく。

「……っ!? ミ、ミツキ……」

「きゅっ? みつき?」

下半身の肉付きが妙にいいのは日に何時間も泳いでいるからなのか? いや、泳ぐ時は下半身を魚に変えるのに、人間に変身した後の下半身に影響が出るものなのか? 水泳選手なんかは肩が発達し逆三角の美しい肉体をしているものだが、荒凪は尻尾をくねらせヒレで方向を変えているようだから肩幅は並なのか? そもそも人間ではない荒凪の肉付きを人間の常識で考えて正解を導き出せるものなのか?

「ミツキ……そ、そんな真剣な顔で尻を揉んでっ、どういうつもりなんだ! 破廉恥だぞ!」

「みつき、おしりさわるのすき?」

「片手に収まるふにふに小尻、手から零れるむっちり美尻……この世に同じ尻は存在しない、全ての尻がオンリーワン……素晴ら尻」

「おかしくなっている……!」

「すばらしり……? すばらしー、とは、ちがう?」

「悟りが、悟りが開ける……! 二人以上の美少年の尻を同時に揉み続けることで悟りに至るっ、解脱が近い!」

「古今東西の坊主に土下座して謝れ!」

「げだちゅ。ここん……とーらい、どげぢゃ」

「んぁああたまらんっ! もうムリ! うっ……! ふぅ…………宇宙が、見えた。ちょっと席を外すよ二人とも」

「まさか私達の腹や腰に擦り付けて……? さ、最低だぞミツキ……」

「いてー、らしゃい。みつき」

部屋に戻って着替えを取り、洗面所で今まで履いていた下着を洗い、風呂場で股間周りを洗い、綺麗な下着に履き替えて二人の元に戻った。

「うわ……ずぼんも変わっている。染みていたのか? 最低……」

「おかえりみつき」

ドン引き顔も可愛いサキヒコにも、何も分かっていない様子が愛らしい荒凪にも、頬にキスをしてやった。

「ん……?」

照れ、喜ぶ二人ともっとイチャつくためソファに腰を下ろそうとした俺を止めたのはチャイムの音だった。二人をソファで待たせ、一人で玄関に向かった。もうすっかりよくなったが風邪で学校を休んだ身のため、扉を開ける前にマスクを着けた。

「はーい……あっ」

覗き窓を使うことなく不用心に扉を開いた俺に微笑みかける、地黒の美人。黒い和装に身を包んだ彼は遠慮なく扉に手をかけ、俺を押しのけるように入ってきた。

「こんにちは~! 風邪っ引きと聞きましたが具合はどうですか? これお見舞い品」

「あっどうも……桃?」

母の勤め先の社長秘書であり、俺に荒凪を託した男だ。名前は確か真尋だったよな、強面に似合わない可愛い名前だ。

「あの……母は留守ですが」

「分かってますよ、今朝会社で会いましたもん。あなたが学校を休んだと聞いたので、ちょうどいいかと」

「……何が、です?」

先程俺の手に乗せた二つの桃を奪うと秘書は俺に何の断りもなくキッチンに入り、包丁を取り、桃を剥き始めた。

「早く対処しなければならない案件が出ましてね。昨日の地震についてです」

「地震……ありましたけど、アレが何か?」

「霊能力を使って稼いでる連中。霊媒師や一部の占い師、祈祷師……彼らにとって東京は最も稼げる場所なんですが、そんな彼らが一目散に地方に逃れ始めました」

「はぁ……」

「彼らは昨日の地震で気付いたんですよ、何かとんでもない化け物が東京に居るとね」

「…………」

「昨日の地震は何かが何かを呪ったことによるものです。さて、鳴雷 水月くん。何かに当てはまる語句をお答えください。出来ますよね?」

出来る。少なくとも片方は分かる。でも答えたくない、音にしたくない、秘書が代わりに口にするのだとしても、少しでも長くこの世にその問題に答えられていない時間があって欲しい。

「ん?」

これ以上沈黙を続けられないようだ。俺は首を横に振った。

「……あーん」

「ぇ……? ん、むっ?」

甘い。このくどさのない爽やかな甘みは桃特有のものだ、桃が口に押し込まれた。

「荒凪くんを呼んできてください、おやつにしましょう」

一口サイズに切られた桃がまな板から皿に移されていく。俺は咀嚼しながら頷き、リビングに歩を進めた。
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