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人魚に魚料理 (〃)
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ヒトが部下に買わせてきてくれた新鮮な魚を使って荒凪の食事を作ることになった。サンマは塩焼きに、アジは梅肉としその葉と共にフライに、サバは味噌煮だ。
「出来ました~」
野太い嬌声が複数上がる。ヒトの部下達であり、フタを慕う者達であり、秘書がスカウトしていた訳ありで有能な男達の声だ。
「やっべぇ美味そう! 匂いからしてやばかったけど見た目も美味そう!」
「家庭的な飯知らねぇけど家庭的な気がする! いい嫁って感じがする!」
「バッカお前若はフタさんの旦那だよ! こないだ聞いただろ夜はフタさんがあっちだって……!」
はしゃでいるなぁ。この料理、荒凪のためのものなんだけど。まぁ荒凪一人でこんなにいっぱい食べないだろうし、気絶した俺と人魚に戻ってしまった荒凪を助けてくれた彼らには礼がしたいが……俺の料理なんて礼にならないよな。今度また菓子折りでも包むか。
「若」
「あっ……えっと、シェパードさん」
好みの美人以外の顔と名前を覚えるのは苦手な俺だが、集団の中に一人だけ居る外国人くらいは見分けられる。応急手当が得意な彼には世話になっているしな。
「調理器具を様々握っていたようだが、手は無事か」
「だ、大丈夫ですよ……流石にちょっと痛かったけど」
さっと背後に手を回して隠すも、簡単に手首を掴まれ身体の前に戻される。包帯を巻いたままでは汚いからと調理中は使い捨て手袋をしていた俺の手は斑に赤く染まっていた。
「……無理に使うから傷が開いている。細かく深い大量の傷、消毒と止血が面倒だった。もう一度やりたくはない。扱いには気を付けろ」
「すいません……あの、ヒトさんが俺の手当してくれたって聞いたんですけど」
「手伝いたいとうるさく喚いた。ので、ガーゼを軽く手で押さえ頼んだ。テープでこれを固定してくれと」
「…………ガーゼ貼っただけで自分がしたとか言ってたんですね、ヒトさん」
分かりやすい外傷だけだから本当にヒトが一人で手当してくれたものと信用していた。まさか部下の手柄を奪っていたとはな。
「そっかぁ……ま、いいや。ありがとうございましたシェパードさん」
「待て。包帯を替える。こちらへ」
血が染みた包帯が外され、血が拭き取られ、新しい包帯が巻かれた。相変わらず手際がいい。ちょうどヒトによって乾かされ人間に変身した荒凪もやってきた。
「ありがとうございました! 荒凪くん、お腹すいたろ? ご飯出来たよ」
「ごはん。ありぁとー、みつき」
無表情だ。人魚の姿のままなら可愛らしい笑顔が見られただろうか?
「なぁ、あの子だよな下半身魚だったの」
「あのインナーカラー見間違えねぇよ」
「人魚って足生えたら喋れねぇと思ってた」
部下達がヒソヒソと話している。
「鳴雷さん」
「あ、ヒトさん。お疲れ様です。ありがとうございました、荒凪くん乾かしてくれて助かりました」
「いえいえ」
「……あの、鱗とかって」
「鳴雷さんの言った通り全て集めて袋に詰めておきましたよ、ゴム手袋をして触れないようにしましたし……毒があるんでしたよね」
ヒトは声のボリュームを一段階下げた。そんな気遣いが出来たとは驚きだ。
「はい。コンちゃんとかは呪いや穢れって言ってますけど、別に毒呼びでいいと俺は思ってます」
「……どういった作用があるんですか?」
「荒凪くんの怪我を手当した時、血に触れた皮膚が少し溶けました。塩化カリウムに似てるってセイカは言ってました。体感したのは血だけで、鱗とかにどんな作用があるかは……でもとりあえず危なそうなので素手で触れないようにしつつ回収しようって」
「なるほど。ところで塩化カリウムはただの塩ですけど。ちょっと苦めの」
「……塩化ナトリウム、だったかも」
「それ食塩ですね」
あなたがさっき使ったヤツ、とヒトはサンマの塩焼きを指差している。
「何とかウムなのは間違いないんです! 塩酸とニコイチみたいな感じのヤツです!」
「……水酸化ナトリウムでしょうね」
「それ! かな……?」
「…………鳴雷さんって理科苦手なんですね」
ヒトの目がどこか冷たく感じる。そうだ、彼の性癖は自分よりも強い男に認められること。強いとは腕っぷしだけでなく頭と顔が良く社会的地位が高く収入もかなりのものという理想の高い話だったはず。
「ぁ、いや……あ、頭打ったからか、なんかボーッとして、ハハ……後で病院行かないと~」
フタへの態度を見れば分かる通りヒトはバカが嫌いだ、あまり頭の悪さが露呈すると愛想を尽かされかねない。気を付けなければ。
「……フタは昔、あそこまで物覚えが悪くはなかったんです。生まれつき注意力散漫な子なので何度も頭を打ったせいでバカになったのではと疑っているんですよ」
「そうなんですか……」
「…………鳴雷さん、あまり頭は打たないように。そして、早めに病院で精密検査を受けてくださいね」
「は、はい」
「あなたはいつまでもあなたのまま成長してください」
それは……どういう意味だ? 矛盾しているようにも聞こえるお願いの意味と意図がよく分からなかった俺は、とりあえず頷くことしか出来なかった。深く理解せず適当な返事をしただけなのに、ヒトが安堵と満足を混じえた笑みを浮かべたことに罪悪感を覚えた。
「出来ました~」
野太い嬌声が複数上がる。ヒトの部下達であり、フタを慕う者達であり、秘書がスカウトしていた訳ありで有能な男達の声だ。
「やっべぇ美味そう! 匂いからしてやばかったけど見た目も美味そう!」
「家庭的な飯知らねぇけど家庭的な気がする! いい嫁って感じがする!」
「バッカお前若はフタさんの旦那だよ! こないだ聞いただろ夜はフタさんがあっちだって……!」
はしゃでいるなぁ。この料理、荒凪のためのものなんだけど。まぁ荒凪一人でこんなにいっぱい食べないだろうし、気絶した俺と人魚に戻ってしまった荒凪を助けてくれた彼らには礼がしたいが……俺の料理なんて礼にならないよな。今度また菓子折りでも包むか。
「若」
「あっ……えっと、シェパードさん」
好みの美人以外の顔と名前を覚えるのは苦手な俺だが、集団の中に一人だけ居る外国人くらいは見分けられる。応急手当が得意な彼には世話になっているしな。
「調理器具を様々握っていたようだが、手は無事か」
「だ、大丈夫ですよ……流石にちょっと痛かったけど」
さっと背後に手を回して隠すも、簡単に手首を掴まれ身体の前に戻される。包帯を巻いたままでは汚いからと調理中は使い捨て手袋をしていた俺の手は斑に赤く染まっていた。
「……無理に使うから傷が開いている。細かく深い大量の傷、消毒と止血が面倒だった。もう一度やりたくはない。扱いには気を付けろ」
「すいません……あの、ヒトさんが俺の手当してくれたって聞いたんですけど」
「手伝いたいとうるさく喚いた。ので、ガーゼを軽く手で押さえ頼んだ。テープでこれを固定してくれと」
「…………ガーゼ貼っただけで自分がしたとか言ってたんですね、ヒトさん」
分かりやすい外傷だけだから本当にヒトが一人で手当してくれたものと信用していた。まさか部下の手柄を奪っていたとはな。
「そっかぁ……ま、いいや。ありがとうございましたシェパードさん」
「待て。包帯を替える。こちらへ」
血が染みた包帯が外され、血が拭き取られ、新しい包帯が巻かれた。相変わらず手際がいい。ちょうどヒトによって乾かされ人間に変身した荒凪もやってきた。
「ありがとうございました! 荒凪くん、お腹すいたろ? ご飯出来たよ」
「ごはん。ありぁとー、みつき」
無表情だ。人魚の姿のままなら可愛らしい笑顔が見られただろうか?
「なぁ、あの子だよな下半身魚だったの」
「あのインナーカラー見間違えねぇよ」
「人魚って足生えたら喋れねぇと思ってた」
部下達がヒソヒソと話している。
「鳴雷さん」
「あ、ヒトさん。お疲れ様です。ありがとうございました、荒凪くん乾かしてくれて助かりました」
「いえいえ」
「……あの、鱗とかって」
「鳴雷さんの言った通り全て集めて袋に詰めておきましたよ、ゴム手袋をして触れないようにしましたし……毒があるんでしたよね」
ヒトは声のボリュームを一段階下げた。そんな気遣いが出来たとは驚きだ。
「はい。コンちゃんとかは呪いや穢れって言ってますけど、別に毒呼びでいいと俺は思ってます」
「……どういった作用があるんですか?」
「荒凪くんの怪我を手当した時、血に触れた皮膚が少し溶けました。塩化カリウムに似てるってセイカは言ってました。体感したのは血だけで、鱗とかにどんな作用があるかは……でもとりあえず危なそうなので素手で触れないようにしつつ回収しようって」
「なるほど。ところで塩化カリウムはただの塩ですけど。ちょっと苦めの」
「……塩化ナトリウム、だったかも」
「それ食塩ですね」
あなたがさっき使ったヤツ、とヒトはサンマの塩焼きを指差している。
「何とかウムなのは間違いないんです! 塩酸とニコイチみたいな感じのヤツです!」
「……水酸化ナトリウムでしょうね」
「それ! かな……?」
「…………鳴雷さんって理科苦手なんですね」
ヒトの目がどこか冷たく感じる。そうだ、彼の性癖は自分よりも強い男に認められること。強いとは腕っぷしだけでなく頭と顔が良く社会的地位が高く収入もかなりのものという理想の高い話だったはず。
「ぁ、いや……あ、頭打ったからか、なんかボーッとして、ハハ……後で病院行かないと~」
フタへの態度を見れば分かる通りヒトはバカが嫌いだ、あまり頭の悪さが露呈すると愛想を尽かされかねない。気を付けなければ。
「……フタは昔、あそこまで物覚えが悪くはなかったんです。生まれつき注意力散漫な子なので何度も頭を打ったせいでバカになったのではと疑っているんですよ」
「そうなんですか……」
「…………鳴雷さん、あまり頭は打たないように。そして、早めに病院で精密検査を受けてくださいね」
「は、はい」
「あなたはいつまでもあなたのまま成長してください」
それは……どういう意味だ? 矛盾しているようにも聞こえるお願いの意味と意図がよく分からなかった俺は、とりあえず頷くことしか出来なかった。深く理解せず適当な返事をしただけなのに、ヒトが安堵と満足を混じえた笑みを浮かべたことに罪悪感を覚えた。
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