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あなたを愛せるのは (〃)
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スイからは信じられないものを見る目を向けられ、ミタマには見ていられないとでも言いたげに目を逸らされた。
「……ナルちゃん虐められてるのっ?」
「あ、今は全然。中学時代の話です」
「ほんの半年前のことじゃないのよぉ!」
「あはは、画鋲貼られたのは一年生の頃の話ですよ。三年生にもなると……」
「あ、流石に落ち着いたのね? そうよね受験があるものね」
「……いえもっと直接的でエグくて痛い感じになったんで、画鋲みたいな地味な痛みもうなかったよって話です」
「犯人呪わせて! 酷いわこんな顔がいいばかりかお化けにまで好かれるいい子を……!」
「ありがとうございます、怒ってくれて……高校入って本当に全然イジメとかなくなったので、もう大丈夫なんですよ」
別に同情を買おうとした訳じゃない。経験する前と後では警戒心に差が出るという話に乗っただけなんだ。
「いい子ぉ……おねーさんが守ってあげたぁい。あっ、えっと……お、おにーさんね。今のアタ……俺は、おにーさん」
「話しにくいなら元のままでいいですよ?」
「元は男だから俺って言ってるのが素のはずなんだけど……キャラ演じ歴が長過ぎて、ちょっとね。あんなにだわだわ言うような女居ないでしょ? 必要以上に女ぶろうとしちゃってるのよね~……」
「……差し支えなければ、どうして女性として振る舞っているのか聞いても? 荒凪くんのこと調べるのはもう無理っぽいですし、まだジュース残ってるのでもうしばらく居たいし……あっ、嫌なら全然いいんですけど」
「大した理由じゃないのよ? 性同一性障害とか、そういうしっかりした理由じゃ……単に、その、モテたくて」
本当に大した理由じゃなかった。
「……弟の顔、見たでしょ? アタシの弟、蓮ちゃん。地毛が茶色くて、色素が薄いから天然美白で、女顔。目ぇぱっちりで優しい感じ。男は甘えたくなるし守りたくなる顔……羨ましいのよ」
スイが霊体を実体化させ化けていた姿、体型は無視するとして顔は彼の弟そっくりだった。よく似た姉弟に見えた、だが本当は全く似ていない兄弟だったんだ。
「モテるのよねあの子。アタ……俺はモテない、一重だし目細いし黒目もちっちゃい、しかもツリ目で性格キツそうに見えるでしょ。くりっとして目自体も黒目も大きくて、タレ目で優しそうな蓮の目とは違う。俺の髪は真っ黒でドストレート……亜麻色でふわっとした蓮の髪とは違う」
「…………スイさん」
「死んだお母さんに似てるからお父さんにすごく大事にされるし、目付き悪くないから周りの大人にも可愛がられる。羨ましかったの、すごく。女の子みたいで可愛いねって弟が褒められるんなら、弟と同じくらい可愛い顔した女の子なら弟に勝てるって思って」
モテたい、なんて軽薄に聞こえる言葉は正しくない。愛されたかった、そう言うべきだ。
「霊体捏ねて女の子になったの。でも、肉体の上から覆ってるから大きくてね、やっぱりモテなかったわ。先生も同級生も男だって知ってるし、気味悪がられたり気持ち悪がられたりばっかり……でも高校はちょっと遠くの制服が可愛いとこに行ったから、楽しく女子高生やれたのよ。ま、成長期来ちゃって大きくなり過ぎて、やっぱりモテなかったんだけど」
スイは自身の手に髪を絡め、ため息をつく。彼の黒髪は伸ばしているというより、伸びているといったふうだ。大した手入れもしていないのだろう、長さはバラバラで艶もそれほど。それが分かるのはいつもハルを見ているからだ。
「それに、霊力で作ったモノって人の記憶に残りにくいのよ。薄ぼんやりと、夢みたいな幻みたいな……だから身長が二メートル半になっちゃったって、俺を見た人達には「背の高い女の人」止まりで騒ぎにならない。顔もしっかりとは覚えられないみたいだから造形に拘ったって無駄で……アタシは、蓮には、なれなくて」
スイが俯く。ミタマとサキヒコが身構える。
「……ミタマ殿、おかしいです。確かに先程霊体が破壊され、回復には数週間を要すると私は想定していたのですが……霊力が凄まじい勢いで生まれています、これは一体」
「…………感情の起伏で霊力を生成する体質の者は稀に居る。あーちゃんもおそらくそうじゃ、憎悪を抱けば霊力が生み出される。怒りや憎しみなどが多いはずじゃが、すーちゃんは……感情を見るのはさっちゃんの特技じゃったな」
「嫉妬、に見えます」
「……なるほどのぅ」
この止まらない寒気は、下腹にズンと来る重い感覚は、目の前で負の感情由来の霊力が生み出されているからなのか。
「友達や恋人が欲しかったのに……逆効果。ぼんやりとしか認識されなくなっちゃったって訳よ、笑えるでしょ」
「分かっとるんなら何故やめんかったんじゃ、あまり霊力を無茶に使うと怪異化が進むぞ」
「…………だってこの姿見せたら嫌われるんだもん。昔、好きだった男の子に気持ち悪いって言われた……男じゃダメなの、せめて蓮みたいに女顔で背の低い可愛い子ならまだしも……こんな、男男した男じゃ、可愛がってもらえない。デカい女もあんまり可愛がってもらえないけど、女の子扱いはしてもらえるの。ぼんやり認識だから恋愛なんて出来ないけど……でも! それでも、このクソブスヅラ晒してるよりずっとマシ!」
「不憫な子じゃのぅ……整っとる方じゃと言うに」
「アンタはいいね、狐で、姿自由に変えれて、別にサイズ制限もないんでしょ。お化けだから人間の俺とは霊力の密度が違う、ぼんやり認識なんかじゃない、みんなに可愛い子って記憶されてさ……いいね、ほんと……いいなぁ、羨ましい……」
「…………その霊力の生成速度なら、すぐに元の量に戻るじゃろうな」
「……何話してるんだろアタシ。ごめんね、ナルちゃん……変な話して、こんな話が聞きたかった訳じゃないでしょ? えっと……ナルちゃん何話したかったんだっけ、ごめんなさい……ちょっと頭がボーっとして。ナルちゃん……ナルちゃん? ど、どうしたの?」
ソファに座っているスイの前に跪いた。スイはそんな俺を不審がりつつも視線の高さを近付けようと背を丸めてくれている。いい人だ。
「…………俺じゃダメですか?」
膝の上に置かれた筋張った手をそっと握った。
「……俺なら、今のあなたを深く愛せる。心底から可愛いって褒められる。俺じゃ……嫌ですか?」
鋭い瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……ナルちゃん虐められてるのっ?」
「あ、今は全然。中学時代の話です」
「ほんの半年前のことじゃないのよぉ!」
「あはは、画鋲貼られたのは一年生の頃の話ですよ。三年生にもなると……」
「あ、流石に落ち着いたのね? そうよね受験があるものね」
「……いえもっと直接的でエグくて痛い感じになったんで、画鋲みたいな地味な痛みもうなかったよって話です」
「犯人呪わせて! 酷いわこんな顔がいいばかりかお化けにまで好かれるいい子を……!」
「ありがとうございます、怒ってくれて……高校入って本当に全然イジメとかなくなったので、もう大丈夫なんですよ」
別に同情を買おうとした訳じゃない。経験する前と後では警戒心に差が出るという話に乗っただけなんだ。
「いい子ぉ……おねーさんが守ってあげたぁい。あっ、えっと……お、おにーさんね。今のアタ……俺は、おにーさん」
「話しにくいなら元のままでいいですよ?」
「元は男だから俺って言ってるのが素のはずなんだけど……キャラ演じ歴が長過ぎて、ちょっとね。あんなにだわだわ言うような女居ないでしょ? 必要以上に女ぶろうとしちゃってるのよね~……」
「……差し支えなければ、どうして女性として振る舞っているのか聞いても? 荒凪くんのこと調べるのはもう無理っぽいですし、まだジュース残ってるのでもうしばらく居たいし……あっ、嫌なら全然いいんですけど」
「大した理由じゃないのよ? 性同一性障害とか、そういうしっかりした理由じゃ……単に、その、モテたくて」
本当に大した理由じゃなかった。
「……弟の顔、見たでしょ? アタシの弟、蓮ちゃん。地毛が茶色くて、色素が薄いから天然美白で、女顔。目ぇぱっちりで優しい感じ。男は甘えたくなるし守りたくなる顔……羨ましいのよ」
スイが霊体を実体化させ化けていた姿、体型は無視するとして顔は彼の弟そっくりだった。よく似た姉弟に見えた、だが本当は全く似ていない兄弟だったんだ。
「モテるのよねあの子。アタ……俺はモテない、一重だし目細いし黒目もちっちゃい、しかもツリ目で性格キツそうに見えるでしょ。くりっとして目自体も黒目も大きくて、タレ目で優しそうな蓮の目とは違う。俺の髪は真っ黒でドストレート……亜麻色でふわっとした蓮の髪とは違う」
「…………スイさん」
「死んだお母さんに似てるからお父さんにすごく大事にされるし、目付き悪くないから周りの大人にも可愛がられる。羨ましかったの、すごく。女の子みたいで可愛いねって弟が褒められるんなら、弟と同じくらい可愛い顔した女の子なら弟に勝てるって思って」
モテたい、なんて軽薄に聞こえる言葉は正しくない。愛されたかった、そう言うべきだ。
「霊体捏ねて女の子になったの。でも、肉体の上から覆ってるから大きくてね、やっぱりモテなかったわ。先生も同級生も男だって知ってるし、気味悪がられたり気持ち悪がられたりばっかり……でも高校はちょっと遠くの制服が可愛いとこに行ったから、楽しく女子高生やれたのよ。ま、成長期来ちゃって大きくなり過ぎて、やっぱりモテなかったんだけど」
スイは自身の手に髪を絡め、ため息をつく。彼の黒髪は伸ばしているというより、伸びているといったふうだ。大した手入れもしていないのだろう、長さはバラバラで艶もそれほど。それが分かるのはいつもハルを見ているからだ。
「それに、霊力で作ったモノって人の記憶に残りにくいのよ。薄ぼんやりと、夢みたいな幻みたいな……だから身長が二メートル半になっちゃったって、俺を見た人達には「背の高い女の人」止まりで騒ぎにならない。顔もしっかりとは覚えられないみたいだから造形に拘ったって無駄で……アタシは、蓮には、なれなくて」
スイが俯く。ミタマとサキヒコが身構える。
「……ミタマ殿、おかしいです。確かに先程霊体が破壊され、回復には数週間を要すると私は想定していたのですが……霊力が凄まじい勢いで生まれています、これは一体」
「…………感情の起伏で霊力を生成する体質の者は稀に居る。あーちゃんもおそらくそうじゃ、憎悪を抱けば霊力が生み出される。怒りや憎しみなどが多いはずじゃが、すーちゃんは……感情を見るのはさっちゃんの特技じゃったな」
「嫉妬、に見えます」
「……なるほどのぅ」
この止まらない寒気は、下腹にズンと来る重い感覚は、目の前で負の感情由来の霊力が生み出されているからなのか。
「友達や恋人が欲しかったのに……逆効果。ぼんやりとしか認識されなくなっちゃったって訳よ、笑えるでしょ」
「分かっとるんなら何故やめんかったんじゃ、あまり霊力を無茶に使うと怪異化が進むぞ」
「…………だってこの姿見せたら嫌われるんだもん。昔、好きだった男の子に気持ち悪いって言われた……男じゃダメなの、せめて蓮みたいに女顔で背の低い可愛い子ならまだしも……こんな、男男した男じゃ、可愛がってもらえない。デカい女もあんまり可愛がってもらえないけど、女の子扱いはしてもらえるの。ぼんやり認識だから恋愛なんて出来ないけど……でも! それでも、このクソブスヅラ晒してるよりずっとマシ!」
「不憫な子じゃのぅ……整っとる方じゃと言うに」
「アンタはいいね、狐で、姿自由に変えれて、別にサイズ制限もないんでしょ。お化けだから人間の俺とは霊力の密度が違う、ぼんやり認識なんかじゃない、みんなに可愛い子って記憶されてさ……いいね、ほんと……いいなぁ、羨ましい……」
「…………その霊力の生成速度なら、すぐに元の量に戻るじゃろうな」
「……何話してるんだろアタシ。ごめんね、ナルちゃん……変な話して、こんな話が聞きたかった訳じゃないでしょ? えっと……ナルちゃん何話したかったんだっけ、ごめんなさい……ちょっと頭がボーっとして。ナルちゃん……ナルちゃん? ど、どうしたの?」
ソファに座っているスイの前に跪いた。スイはそんな俺を不審がりつつも視線の高さを近付けようと背を丸めてくれている。いい人だ。
「…………俺じゃダメですか?」
膝の上に置かれた筋張った手をそっと握った。
「……俺なら、今のあなたを深く愛せる。心底から可愛いって褒められる。俺じゃ……嫌ですか?」
鋭い瞳を真っ直ぐに見つめた。
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