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真の姿は (〃)

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先程まで見ていた茶色いボブヘアとは違う、肩甲骨を覆うほどだろう長い黒髪。少し太めで短く茶色い眉とは違う、細長く黒い眉。くりんと上を向いていた長く茶色い睫毛とは違う、存在を確認するのがやっとの短く黒い睫毛。

「ぅ……く…………いっ、たた……」

大きいながらに女性的だった手は、筋張り血管が浮いた男らしい手へと変わっている。鎖骨もくっきり浮いているし、喉仏もある。何よりさっきまでそこそこあった胸が平たい。

「いったぁい……頭打ったぁ」

見た目にそぐわない可愛こぶった声はスイのものだ、つまりこの男性がスイの本当の姿……霊体の着ぐるみを脱いだ肉体の姿か。

「ナルちゃん、ごめん、起こしてぇ……なんか力入んない」

「……ぁっ、はい」

女性の姿をしていた時は2メートル半はあろうかという巨大に見えたが、今は俺とそう変わらない。倒れているのを座らせただけだから正確には測れていないけれど。

「ありがとねぇ」

男性ではあまりみない、くねっとした仕草。切れ長の一重に小さめの虹彩がなんともセクシーだ。これが涼し気な塩顔イケメン……俺の彼氏の中には居ない、新鮮なタイプの美形だ。

「……ナルちゃん? どしたのボーッとして。おねーさんの手握ったまんまでぇ、やぁねぇうふふ」

「綺麗……」

「…………へっ?」

「すっ……ごい、色っぽい……ド好み……」

「へ……? えっ? や、やだ、何言って……もぉ! そりゃアタシは男ウケ最高バブみ抜群の聖母系美少女フェイスだけどぉ……ダメよそんなぁ」

並の男よりも男っぽい見た目でくねくねしてるのなんか逆にクセになってくるな。なんて言うんだっけ、オネエ系? オカマ? そっち方面は俺あんまり詳しくないんだよな。

「モテ期来ちゃったぁ、前髪直さなきゃ……」

スイは嬉しそうに、鼻歌交じりにコンパクトを取り出し、小さな鏡に自身の姿を移した。

「……は? 何このクソ一重の犯罪者ヅラ」

舌打ちと共にコンパクトを投げ捨て、立ち上がる。髪の隙間から覗く鋭い瞳が恐ろしい。

「え、ちょっと……ガワ作れないんだけど」

「大丈夫じゃったか! 罠じゃ、霊視した者の霊体を破壊する……爆弾? のような仕掛けがあったんじゃ」

「……あぁ、確かに。霊力ごっそり持っていかれてるゎ……だるいわけね。んっ……! くっ……! はぁ、ダメ、力んでもガワ作れない」

「並の人間なら死んどったぞ」

「アタシ……僕、俺? も、死んだわよ……じゃ、なくて、ぇー……死んだ、ようなもんだよ? 顔見られた……最悪。はぁー……鬱……」

取り繕っていない低い声で、男性的な話し方を意識しつつ、スイはソファを起こすとどっかりと腰を下ろした。

「…………深くまで視たんだけど、彼の魂……ちょっと変なのよ……変、なんだよ」

「……あの、スイさん。話しにくいなら今まで通りの話し方で話していただければ」

「キッショいでしょ! こんなブ男が可愛こぶってたら!」

「ぶ、ぶおとこ……そんなことないですよ、綺麗です」

「はっ! そんなおべっか使ったって…………ぅ、そ、そんな目で見ないでくんない? ホントに……」

俺の言葉には信憑性があるのだろうか、スイはバツが悪そうに目を逸らした。

「…………霊視結果の報告、続けるよ。霊体は霊力を増やしたりすることでアタシ……俺みたいに大きさを変えたり出来るんだけど、魂を弄るのは普通無理。でも彼の魂は歪だし普通より大きかった、二倍弱ってとこ? その理由探る前に吹っ飛ばされたんだけど……なんか、色が微妙に違う粘土適当に混ぜてるみたいな印象を受けたから、多分二人分の魂が混ざり合ってる。いや、うーん……混ざり合ってるって言えるほど混ざってないかな、癒着した? って感じ?」

「二人……やっぱり。腕とか二人分あるし、話し方とか…………あのっ、それって……元は、双子とか。結合双生児の……とか、そんな感じの、ですか?」

「そこまで深く見る前に吹っ飛ばされたけど、双子ならもっと綺麗に混ざるはずだし魂の色が同じはずよ。色が似てたから多分血縁者だとは思うんだけど」

「……そう、ですか」

じゃあネット都市伝説のリョウメンスクナ云々はやっぱり俺の妄想か。

「霊体七割分くらい削られちゃったみたい、回復するまで霊視は出来そうにない。ごめんなさい」

「いえ、すいません……俺の方こそ。危ないこと頼んじゃって。あなたじゃなきゃ死んでたかもって……」

「……みつきー」

立ち上がって頭を下げていると、荒凪に手を引かれた。

「荒凪くんちょっと待っててね……」

「みつき、みつき……僕達、危ない?」

「…………大丈夫だよ荒凪くん、君は悪くない。罠仕掛けたヤツが悪いんだよ、何だよ罠って……身体に埋め込んだ爆弾が手術中に爆発したようなもんだろ今のって、最低だよそんなことするなんてっ」

前言撤回だ、神秘の会の情報はネイの仕事に役立つだけのものではない。悪辣な人間を捕らえるために使えるものだ。スイの負傷を自分の責任だと感じているらしく落ち込んでいる荒凪の復讐のためにも、善良なる小市民としても、神秘の会の連中の逮捕に俺は全力でネイに協力させてもらう。

「罠って一回発動したら終わりかしら? 回復したら今度はしっかり霊視出来るかしらね」

「発動した瞬間しか視えんかったから発動と同時に消失する類の術じゃと思うが……幾つ仕掛けてあるかは分からんぞ。霊視しとっても罠の気配はせんかったんじゃろ」

「罠なんてないと思ってる時と、罠があると思ってる時じゃ見え方は変わるものじゃない?」

「変わりますね。俺も画鋲貼られるまでは見ずに机の中手突っ込んだり椅子に座ったりしてましたけど、一回やられてからは必ず覗いてから机の中いじりましたし、座面確認せず座ることなくなりましたもん」

うんうんと頷きながら会話に参加した俺を、スイは信じられないものを見る目で見てきた。
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