冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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突飛な正体考察 (水月+セイカ・ミタマ・サキヒコ)

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二時間目と三時間目の隙間の休み時間、俺はまたセイカを連れて屋上への扉前の広間に向かった。二連続同じ相手との逢瀬は当然ハルとリュウからは非難轟々。カンナとシュカは無言。セイカは少し居心地悪そうにしていた。

「……今度は何の話? フタの話したし、その……今日、する場所と時間の取り方も……決めたじゃん」

詳しいセックスの予定を立てたことでセイカは常にそれを意識するようになってしまったらしく、頬を赤らめもじもじとしている。今すぐに手を出したい。

「クッ……! 鎮まれ俺の息子……!」

「…………で、何の話だよ」

「あ、うん。荒凪くんの話。今秘書さんが調べてるだろうし、次の水曜日はスイさんに霊視予約してるんだけど」

スイに渡された名刺から俺は彼女……彼? 彼女? にメッセージアプリを使って仕事の依頼をした。リュウが異様に怯えていたように、ある程度オカルトに通じた者にとって荒凪に関わるのは避けたいことのようで、かなり渋っていた。

「俺も個人的に荒凪くんの正体について考察してみたんだ」

「正体? あぁ、実は人魚じゃないとかいう話だっけ」

「昨日の夜、お祭りの後ネイさんに呼び出されてたんだよ俺。日本神秘の会……荒凪くんを養殖したっていう組織のことネイさん調べてるから、荒凪くん連れてって色々情報渡したんだ」

「いいのかよそれ、あの人怒らないか?」

「秘書さん? さぁ……それは正直分からない、俺は大丈夫だと思ってるけど」

「……ふーん。それで?」

「ネイさんが荒凪くんからその会のこと聞き出そうとした時、様子がおかしくなった。弟について話した時みたいに……ゃ、ちょっと種類は違った気がしたけど。その時にさ、物部さん? って言ってたんだよ」

セイカは軽く頷きながら聞いてくれている。

「……セイカ、実は当たってたのかも。セイカ最近よく漫画とかゲーム楽しんでるみたいだけど、ネットの都市伝説とかフリーゲームの方はどうだ?」

「ん……? いや、都市伝説とかはあんまり。お前そういうのも好きなのか? 幅広いなぁホント……口裂け女くらいしか知らないよ俺。フリーゲームって何?」

「企業が出してる数千円のじゃなくて、個人とか数人のグループ制作の無料ゲーム」

「インディーズ?」

「んー……まぁその辺の細かい区分はいいや、実況とかで見てないんだな?」

「あぁ、うん。お前の棚見てゲーム名調べて実況動画探してるから」

ゲーム実況動画を見ているのは単にそれを好んでいるのではなく、俺と話を合わせるため俺の話を理解するため知識を収集しているというのが、実感出来る言葉だ。ときめく。キュンキュンする。ギンギンになっちゃう。

「洒落怖……掲示板に投稿された怖い話、それを元にしたフリーホラゲがあってね、それ知ってたらネット読み漁ってなくても知ってるかなって思ったんだけど」

「……知らない」

「そっか。うん……俺が今話してる都市伝説ってのは、口裂け女とか人面犬とか昭和頃のヤツじゃなくて……くねくねとか八尺様とか、ちょっと世代が手前のヤツな。で、それを色々知ってる人は多分、物部って聞くとちょっと身構える」

「ふぅん……?」

「リョウメンスクナ、って話があるんだよ。まぁ掲示板投稿だからしっかりタイトルある訳じゃないんだけど……通称的な、ね」

「両面宿儺……あ、今漫画読んでる」

「え? あぁ、セイカが今読んでるのとは関係ないよ、元ネタは同じだろうけど。そもそもは日本書紀だかに出てくる鬼神とか、どこぞの英雄とか……最大の特徴は名前の通り顔が二つあること。俺が今言ってるのは、結合双生児を使って作られた呪いのミイラの話。頭と腕が二人分ずつだったからリョウメンスクナって名付けた……的な話だったかな? あの話読んだのかなり昔だからな~、ハッキリとは覚えてない。帰ったら一緒に読もうか」

「……それで?」

「あぁ、うん。そのミイラが入ってた箱を開けちゃったってとこから始まって」

「それで怪奇現象が次々って流れ?」

「見た人が死んだ、だったかな。で、お坊さん? 的なのが急いで回収した……話自体はそれだけ。そのミイラ、大正? の頃、全国各地回ってて、移動させられる度に地震とかの災害が起こってたって話」

「ふーん……で、その呪いのミイラの詳細設定がさっき言った双子をどうにかしたヤツって訳だ」

「そうそう。蠱毒の人間版的なので呪いを作っていった的な話で……」

「それと荒凪に何の関係が?」

「その呪いのミイラ作ったヤツの名前が物部なんだよ、物部天獄。どこぞの教祖で外法使い」

「…………物部」

「荒凪くんが呼んだ名前と同じだろ、今んとこ苗字だけだけどさ。カルト関係ってのも合ってる。荒凪くん……手、たまに増えるし、合致ポイント多くない?」

「顔は一つだろ。一番の特徴は顔二つなことなんだろ?」

「重瞳で瞳孔だけとはいえ目も増えた、しかも計四つ。二人分だろ。で、歯磨きする時に気付いたけどあの子喉の奥にもう一つ口がある、ウツボみたいに」

「……ウツボってそうなんだ」

漫画やオカルトの知識ではなく、実在の生物の知識で俺がセイカより詳しいものがあるとは……ちょっと調子に乗ってしまうな。

「うん、だから人魚の特徴って言っちゃええばそれまでなんだよ。肌やスリットに関してはイルカっぽいし、ヒレは古代魚みたいな多さでトビウオみたいにしっかりして鋭いし折りたためる。鱗は……よく分かんないな、螺鈿みたいな綺麗さってだけで」

「螺鈿?」

「工芸品。貝殻の内側を薄く剥がして貼っつけた漆器とか螺鈿細工って言うんだ。だから荒凪くんの鱗は真珠の輝きだね」

「あぁ……確かに。基本白で、光の当たり具合で虹色に輝く感じ……鯖の鱗とか鳩の羽みたいな感じだと思ってた」

「うん。海の生き物ごちゃ混ぜ人魚ってんなら喉の奥の口はウツボ由来で話がつくし……そもそも人間が混じってるのが、溺死者ベースの怪異とかいう話なら腕や目が数人分あったって何の不思議もない。でも、物部……荒凪くんが呼んだあの名前が引っかかるんだよ」

「荒凪の正体はリョウメンスクナ、って言いたいのか? 筋通ってるって言うか、無理矢理筋通してるって感じだな」

「え、無理あった?」

「顔のパーツは目と口だけじゃないから両面って言うには無茶だし、その目と口もだいぶ無理がある。腕だってたまに増えるだけ。そもそもなんで下半身が魚なんだよ? その怪談通りに人間の双子使って作ったとしたら、魚はどこで混ざったんだよ」

「……そうだよなぁ、でも物部って」

「そこまで珍しい名前じゃないだろ。それに、もしその物部が実在してたとして……お前が言ってるリョウメンスクナはミイラなんだろ? めちゃくちゃ生きてるじゃん荒凪」

「うーん……うん、リョウメンスクナの話でも物部天獄は昔に死んでるし……考え過ぎかぁ!」

「死んでるのかよ! じゃあ関係ないじゃん……はぁーあ、聞いて損した、休み時間損した」

「ご、ごめん……じゃあ荒凪くんが言ってた物部さんって誰かな?」

「知らね。親しい感じだったんなら養殖してる作業員か何かじゃないのか」

「親しげに呼びかけてきた声もあったけど、すごい殺意こもってる声もあったんだよ。荒凪くん口と喉の口で同時に話せるみたいでさ……」

「……殺意ってんなら密猟者か何かだな、そいつに弟殺されたってとこか。二つの口で同時に話せる、ねぇ……分野も大概だけど荒凪はホントにバケモンだな」

「ワシ!?」

「うわっ! 急に耳元で叫ばないでっていうか背後に急に出現するのやめてよ寿命縮むだろ!」

「正面から出た方がいいのか?」

サキヒコが突然目の前に現れ、驚いて後ずさった。

「……っ! ゆっくり出てこれない……? 急にドーンじゃなくてさ、もっと日本幽霊としてジワジワくる奥ゆかしさを持とうよぉ……急にドーンはアメリカンホラーなのよ」

「それはそれで怖いだろ。サキヒコ、分野、気にしなくていいぞ。ほら教室帰るぞオカルト妄想暴走ノミの心臓バカ野郎」

「長蔑称!」

一人で階段を下りようとするセイカを慌てて止め、抱え、教室まで連れて帰った。
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