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恥ずかしい勘違い (水月+セイカ・カンナ・ハル・ミタマ・サキヒコ)
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遅刻ギリギリ、滑り込みセーフ、一時間目の授業は現国。一応得意科目だ。
「……みぃくん、ど……したの? 時間……ぎ……ぎり……で」
教師の声が静かな教室に響く中、背中をつつかれて振り向けば、カンナが蚊の鳴くような声で俺に尋ねた。ハルが前髪を整えながら「俺も気になるー」なんて感情のこもっていない声で続けた。
「んー、朝からちょっとえっちなハプニングがあってな」
「そ……なの。先……行っ……ごめ、ね?」
「いいよいいよ。カンナまでギリギリになっちゃうとこだった、先に行ったカンナの判断は間違ってないよ」
「そーそ。気にしなくていいよ~。エロハプニングで遅刻ギリギリとかしょーもないにも程があるしぃ~、しぐしぐはみっつん見捨てて正解」
全くその通りだ。
二時間目との休み時間、俺はセイカを連れて屋上への扉の前の広間に向かった。
「……何の用事だよ」
抱えていたセイカを下ろす。彼は頬をほんのりと赤く染め、俯き加減で呟いた。質問する気で言った声色には聞こえなかった。お前の考えていることくらい分かっている、とでも言いたげな目だ。
「あぁ、ヒトさんからメッセが来てるんだけどさ」
「…………は?」
「え? ぁ、ほら、フタさんが昨日暴れたろ? あの理由、ヒトさんが聞き出してくれたんだ。フタさんにじゃなくて、飼い猫の幽霊達になんだけど……パソコン明け渡したらキーボード押して教えてくれたみたい、かなり渋られたっぽいけど」
スマホ片手に、猫から話を聞き出す苦労を語るヒトの愚痴メッセージを流し読みしながら話す。
「……んだよ、俺はてっきり」
「それでさ……ん? 何、セイカ」
「なんでもない、続けろ」
なんか機嫌悪くなったか? 気のせいだろうか。
「……? あぁ、要約するとフタさんがネイさんに殴りかかったのは、ネイさんが前に俺に盗聴器を仕掛けたからだ。猫達はどうやらめちゃくちゃ過保護らしくて、悪意とか騙したり隠したりの意思を探知するのが得意らしい」
「物に残留した持ち主の霊力から感情を読み取るんじゃな、ワシ苦手。さっちゃん得意じゃろ」
「人はともかく物に残ったものはあまり……」
いつの間にか姿を現していたらしい二人の声が背後から聞こえてくる。驚きで跳ねた心臓を骨と肉と皮とシャツ越しに宥めながら、霊能力と一口に言っても人間と同じように個々によって得意不得意があるんだなと感心する。
「盗聴器は隠すもんだ、俺のポケットにこっそり入れたその隠すって感情を感知して猫は以前盗聴器を見つけた。その時に盗聴器を仕掛けた相手の匂い的なものも覚えた」
「……! だから」
「そう、ネイさんは猫達にとって、俺を使って……飼い主の恋人を使って事務所のことを調べようとした不届き者。敵だと、追い払えと、フタさんを焚き付けた。ってわけ」
「なるほど……理由は分かったけどさ、どうするんだ? ネイが盗聴器仕掛けたってバレた訳だよな、ヒトにもフタにも」
セイカは若干不機嫌なままながらちゃんと話を聞いてくれている。
「今後あの二人会わせられない……っていうか近所なの知ってる上に、祠建てるとかでほぼ毎日来てるんだろ穂張のヤツら。大丈夫か?」
「あぁ、ネイさんは俺のことが好き過ぎて盗聴器仕掛けちゃったってことにした。ネイさんもそれで話合わせてくれるってさ」
「……それで納得するのか? 穂張共」
「フタさんはすぐ忘れるし、猫達には今後厳重注意を……コンちゃんにしてもらおうかな。ヒトさんは平気、あの人取り扱い注意な厄介系男子だけど扱うのは難しくないから」
「ふーん……扱う、ね。大人相手に……大層な男になったもんだ」
なんか更に機嫌悪くなったか? ヒトは扱いやすい、機嫌が不安定だがすぐに上機嫌に持って行ける。だがセイカは単純な媚び売りでは逆効果、上手くやらなければな……次の休み時間にも話したいことがある、不機嫌のままで居てもらいたくない。
「男子っちゅう歳でもないのぅ」
「ミタマ殿がそれを言いますか」
「なぬ! ワシは人の姿を取った時から数えればまだゼロ歳じゃぞ!」
時と場合に応じて数百歳とゼロ歳を使い分けやがるこの野郎。全くこれだから人外は最高だ。
「ま、フタさんが急に暴れ出す理由も分かったよね。大体は猫達の指示……指示っていうのも違うかな? 本来フタさんはおっとりした性格だから、急に人殴るなんてありえないんだよ。怖がっちゃってるみんなにも説明しないとだね」
「猫の幽霊の指示で人殴るヤツ、十二分に怖いけどな……」
「ヒトさんは今後猫達とのコミュニケーション頑張るってさ。忘れっぽいフタさんのサポート役だもんね猫達は……まぁ、猫達が過保護だってんならフタさん殴ってたヒトさんのことめちゃくちゃ嫌ってるだろうけど…………上手くいくといいなぁ。コンちゃん間立ってあげてよ」
「なんじゃさっきから獣同士じゃからってワシに振りよって」
「石だけどな」
「せっちゃん冷たい、石より冷たい」
拗ねるフリをしてみせたミタマにセイカは面倒臭そうな顔をし、目を伏せた。
「……いつも以上にノリ悪いのぅ。怒らせたかみっちゃん」
「ミタマ殿、もうおやめください」
「なんじゃもうやめろって、ワシが何したっちゅうんじゃ」
「もう……もう……ほら、後は二人で」
ざっくりとだが感情が視覚的に見えるらしいサキヒコには何か察するものがあったようで、ミタマを引きずるようにして透けて消えていった。
「ミツキ、今ミツキだけに話しかけている。そのまま平常を保って聞いてくれ」
と思ったら耳元で声がした。セイカは反応していない、サキヒコの声が聞こえているのは彼が言った通り俺だけだ。
「彼の感情の色は落胆や苛立ちに見える」
セイカの期限を治すための手がかりをくれているのか? ありがたい、よく聞かなければ。
「階段を上っている間は期待、そして欲情があった。何故突然感情が変わったのか私にはよく分からない……ミツキなら何か気付けるかもしれんと思ってな。出来そうなら活用してくれ」
欲情!?
(…………えっ、あっ、まさかそういうことですか?)
登校中のセイカとの会話、今サキヒコから聞いた情報を組み合わせるとセイカの思考の流れが見えてくる。
(わたくしは用事を言わずセイカ様を教室から連れ出して人気のないところへ運んだ……ヤクザとオカルトの話をしたいからだったんですが、セイカ様はわたくしの「絶対今日中に抱く」発言が実行に移されるのはこの十分休みと思いワクワクムラムラ……してんじゃねぇよ十分で本格おせっせ出来るかぁ!)
自責思考の強いセイカのことだ、恥ずかしい勘違いをしたと、自分だけ盛り上がったと、淫らなバカだと自分に八つ当たりをしたのだろう。勘違いさせた俺が十割悪いのに!
(んもぅセイカ様ったら! 機嫌だけで表現されても察せませんぞ!)
まぁ、多分俺には勘違いを知られたくなかったんだろうけど。
「……さてセイカ、フタさんの件の話は終わりだ。でも後三分くらい残ってるからさ、俺達の話をしよう」
「俺達のって……何」
「学校でセイカのこと抱きたい。昼休みは埋まってるから、別でたっぷり時間取れるタイミング……考えがあるんだ、セイカにも協力して欲しい。聞いてくれるか?」
「だ、抱きたいってお前……そんな、学校でとかバカじゃねぇの。せめて家帰るまで我慢しろよばーか」
「喜び一色だ」
サキヒコの声だ。だが教えてもらわなくとも表情で分かる。
「…………で? いつ……? 俺、何すればいいの? あっ、べ、別に俺はシたくないけどっ、お前がシたいみたいだから協力を…………はぁ、クソ……クソ野郎……違うだろ………………っ、お、俺も……鳴雷、に、だ、だっ…………かれっ、たい……から……全力で、協力……します」
「……! ありがとうセイカ!」
俺は残り二分となった休み時間を最大限活用し、セイカに計画を説明した。
「……みぃくん、ど……したの? 時間……ぎ……ぎり……で」
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全くその通りだ。
二時間目との休み時間、俺はセイカを連れて屋上への扉の前の広間に向かった。
「……何の用事だよ」
抱えていたセイカを下ろす。彼は頬をほんのりと赤く染め、俯き加減で呟いた。質問する気で言った声色には聞こえなかった。お前の考えていることくらい分かっている、とでも言いたげな目だ。
「あぁ、ヒトさんからメッセが来てるんだけどさ」
「…………は?」
「え? ぁ、ほら、フタさんが昨日暴れたろ? あの理由、ヒトさんが聞き出してくれたんだ。フタさんにじゃなくて、飼い猫の幽霊達になんだけど……パソコン明け渡したらキーボード押して教えてくれたみたい、かなり渋られたっぽいけど」
スマホ片手に、猫から話を聞き出す苦労を語るヒトの愚痴メッセージを流し読みしながら話す。
「……んだよ、俺はてっきり」
「それでさ……ん? 何、セイカ」
「なんでもない、続けろ」
なんか機嫌悪くなったか? 気のせいだろうか。
「……? あぁ、要約するとフタさんがネイさんに殴りかかったのは、ネイさんが前に俺に盗聴器を仕掛けたからだ。猫達はどうやらめちゃくちゃ過保護らしくて、悪意とか騙したり隠したりの意思を探知するのが得意らしい」
「物に残留した持ち主の霊力から感情を読み取るんじゃな、ワシ苦手。さっちゃん得意じゃろ」
「人はともかく物に残ったものはあまり……」
いつの間にか姿を現していたらしい二人の声が背後から聞こえてくる。驚きで跳ねた心臓を骨と肉と皮とシャツ越しに宥めながら、霊能力と一口に言っても人間と同じように個々によって得意不得意があるんだなと感心する。
「盗聴器は隠すもんだ、俺のポケットにこっそり入れたその隠すって感情を感知して猫は以前盗聴器を見つけた。その時に盗聴器を仕掛けた相手の匂い的なものも覚えた」
「……! だから」
「そう、ネイさんは猫達にとって、俺を使って……飼い主の恋人を使って事務所のことを調べようとした不届き者。敵だと、追い払えと、フタさんを焚き付けた。ってわけ」
「なるほど……理由は分かったけどさ、どうするんだ? ネイが盗聴器仕掛けたってバレた訳だよな、ヒトにもフタにも」
セイカは若干不機嫌なままながらちゃんと話を聞いてくれている。
「今後あの二人会わせられない……っていうか近所なの知ってる上に、祠建てるとかでほぼ毎日来てるんだろ穂張のヤツら。大丈夫か?」
「あぁ、ネイさんは俺のことが好き過ぎて盗聴器仕掛けちゃったってことにした。ネイさんもそれで話合わせてくれるってさ」
「……それで納得するのか? 穂張共」
「フタさんはすぐ忘れるし、猫達には今後厳重注意を……コンちゃんにしてもらおうかな。ヒトさんは平気、あの人取り扱い注意な厄介系男子だけど扱うのは難しくないから」
「ふーん……扱う、ね。大人相手に……大層な男になったもんだ」
なんか更に機嫌悪くなったか? ヒトは扱いやすい、機嫌が不安定だがすぐに上機嫌に持って行ける。だがセイカは単純な媚び売りでは逆効果、上手くやらなければな……次の休み時間にも話したいことがある、不機嫌のままで居てもらいたくない。
「男子っちゅう歳でもないのぅ」
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「ま、フタさんが急に暴れ出す理由も分かったよね。大体は猫達の指示……指示っていうのも違うかな? 本来フタさんはおっとりした性格だから、急に人殴るなんてありえないんだよ。怖がっちゃってるみんなにも説明しないとだね」
「猫の幽霊の指示で人殴るヤツ、十二分に怖いけどな……」
「ヒトさんは今後猫達とのコミュニケーション頑張るってさ。忘れっぽいフタさんのサポート役だもんね猫達は……まぁ、猫達が過保護だってんならフタさん殴ってたヒトさんのことめちゃくちゃ嫌ってるだろうけど…………上手くいくといいなぁ。コンちゃん間立ってあげてよ」
「なんじゃさっきから獣同士じゃからってワシに振りよって」
「石だけどな」
「せっちゃん冷たい、石より冷たい」
拗ねるフリをしてみせたミタマにセイカは面倒臭そうな顔をし、目を伏せた。
「……いつも以上にノリ悪いのぅ。怒らせたかみっちゃん」
「ミタマ殿、もうおやめください」
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「だ、抱きたいってお前……そんな、学校でとかバカじゃねぇの。せめて家帰るまで我慢しろよばーか」
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