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先輩の先輩と遭遇 (水月+ノヴェム・セイカ・歌見)

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セイカに翻訳してもらい、俺の返事はノヴェムに伝わった。ノヴェムはセイカの翻訳を聞くうちに次第に笑顔になり、最後には満面の笑顔になって俺に抱きついた。

《ミツキお兄ちゃん! お兄ちゃん大好き……二人きりがよかったけど、がまんする!》

「二人きりがよかったけど我慢する。大好き。だってさ」

「ありがとうセイカ。ふふ、懐かれちゃったなぁ……」

これは、あまりよくないかもしれないな。ノヴェムが俺に懐いて学校帰りや休日にずっと俺の傍に居たがるようになったら、俺のハーレム性活に支障が出る。それにノヴェムは同年代の友達と遊ぶべきだ。

「おいで、花火見えやすいように抱っこしてあげる」

懐いてくれたのは嬉しいし、ノヴェムのことは好きだ。あくまでも近所の子供として。

「だっこ~……えへへ、みつきおにーちゃん……」

ノヴェムの初恋の相手は多分、俺だ。彼氏達には俺は見境のないヤツと思われているが、三次元のショタは御法度だ。初恋の相手がハーレム主なんて一生のトラウマものだから、彼氏達との関係を悟られる訳にもいかない。ノヴェムの世話は好きだが、彼氏達との時間はもっと好きだ。

(ママ上もこんな気持ちだったのでしょうか)

母は昔、俺の世話を他人に任せ、仕事と遊びに精を出していたと聞いている。子供の世話なんてしたくなくて、楽しいことをしていたかったから……今の俺もそうだ。まぁ、実の親と近所のお兄ちゃんじゃ全然立場が違うけど。

「……よしよし」

幼い頃の寂しさを思い出すと、ノヴェムに構う時間を減らそうと考える自分への嫌悪感が噴き出す。

「この辺がいいかな~?」

「はなび、どこ?」

「アレが花火になるんだよ」

「はなび~……」

ノヴェムは花火を楽しみにしているようだ。起こしてよかった。

「お、水月。お前も最前列か?」

前の方へ行くと荒凪を連れた歌見の隣に並んだ。

「はい、ノヴェムくんに見せたいので」

「火の粉は気を付けてやれよ」

「先輩花火好きなんですか?」

「まぁ人並みに。ほら、荒凪くん座ってるから前来てやらないと。俺は薄らデカくて邪魔だからしゃがみますよっと」

車椅子のブレーキをかけると歌見はその隣に屈んだ。

「こっちこっち、ほら最前列! 一番よく見え……ゔっ、わ……見覚えのある派手髪」

「ん……? あっ」

はしゃいだ青年の声が聞こえたかと思えば、歌見がその相手を見上げて慌てて立ち上がった。

「こんばんは、無患子先輩」

歌見の脇からそっと覗くと、見覚えのある童顔の青年の姿があった。セイカを実母から奪い取る時に手伝ってもらった弁護士の知り合いの人……歌見の大学の先輩だ。恩人だな、タイミングを見て俺も挨拶と礼をしなければ。

「うーたぁみぃ~……なんでこんなとこ居んだよ」

「……デ、デート、ですけど?」

歌見は照れを押し隠しつつ、なんでもないような態度で胸を張った。

「お前もかよ。あぁ、後な……俺の苗字、鬱金だから」

「え? 変わったんですか?」

「こら、嘘つかない」

こつん、と青年の頭を優しく叩いて諌めたのは、これまた見覚えのあるナイスミドル。前述の弁護士のおじさまだ、母の出身大学のOBだとか。

「キョウヤさぁん……」

「養子になったら同性婚制度が出来た時に結婚出来ないからと苗字を揃えたがらなかったのは誰かな?」

「いいじゃん名乗るくらいぃ~……」

歌見と話していた時よりワントーン高めな甘えた声だ。相変わらずだな、以前会った時もこんな感じだった。

「……君、うちのがすまないね。同じ大学なんだって? これからも仲良くしてあげて。よろしく頼むよ」

「あっ、はい……」

「はぁ……デート中に知り合いに会うの、嫌」

「……気が合いますね。俺もですよ、先輩」

「ねぇキョウヤさん、向こう行こ?」

「おやおやおや……そんなに二人きりがいいのかい?」

青年は弁護士の男の腕を抱き、ぐいぐい引っ張って俺達から離れていった。挨拶のタイミング逃しちゃったな、花火が終わった後にでも会えたらいいんだけど。

「……パパ活中か。金にがめついもんなぁあの人、稼げそうな顔してるし」

「いやガチカップルでしょ」

「先輩、普段塩対応通り越して岩塩対応なんだぞ、誰にでも。それがあんなデレデレとか……どう考えても演技だ」

「みんなに塩で恋人にはデレる。昔ながらのツンデレなんでしょ。俺の彼氏で言えば……んー、セイカ、は割と俺にも塩……シュカ、も俺にも塩か……」

カンナや繰言の人見知りは塩対応とはまた違うから、彼らも違うな。

「あ、リュウとか?」

「あの子誰にでもあんな感じじゃないのか?」

「忘れられないんですよ、俺……」

「なんだ急に」

「次話から回想開始の引きコマです」

歌見は呆れ顔でため息をつきつつも黙って俺を見つめ、俺の思い出語りを待ってくれた。

「アレは……なんか、ちょっと前、学校でのこと」

「日時がふわっとしてる」

「リュウがクラスメイトを話しているのを見たんです。興味があったので聞き耳を立てて……まぁ、取り留めのない話です。クラスメイトがなんか話してたんです、美少年じゃない男の話なので覚えてないんですけど」

「ルッキズムの極地」

「一通り聞いた後、リュウが「おもんな……」って呟いたんです」

「それで?」

「終わりです」

「おもんな」

「違うんですよ! パイセンが今言ったみたいな「おもんな」じゃなくて、そんな重みじゃなくて、アレもはや死刑宣告でしたよ。お前の話は二度と聞かん感出てました!」

「まぁ、だとしてもだ……それ、塩って言うのか?」

「…………ちょっと、違う? あれ、何の話してましたっけ」

「花火始まるぞ」

そう言って歌見はその場にしゃがむ。ナイアガラ花火の方に視線を移せば、見覚えのある組員達が協力して点火を始めていた。
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