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庶民的な遊び (水月+サキヒコ・シュカ・歌見・セイカ・ミタマ)
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アキに贈られる予定だった金魚のオモチャはセイカに渡った。半透明のそれを光に透かし、上機嫌そうにしている。
「よかったな、セイカ」
「……ん」
「気に入ったんならよかったよ。だいぶ合流してきたな……今居ないのは鳥待と木芽だけか?」
「ワシ、のっちゃんとも合流したい。可愛ええんじゃあのちびこ」
「ノヴェムくんか。でも親子で居るんだろ? 合流は鳥待を優先したいな、水月はどう思う?」
「レイは多分ネイさん達と一緒だし……同意見! シュカから連絡取ってみます」
この祭りの喧騒の中、シュカは着信音に気付くだろうか。俺なら気付けないかもしれないな、なんて考えつつスマホを耳に当てる。
「ミツキ、見てくれ。魚が一つ、玉が三つ取れた」
ボールすくいからサキヒコが帰ってきた。透明のカップに入った戦績を見せてくれている。
「おめでとう。綺麗なの取れたね」
「あぁ、主様の瞳と同じ色だ」
「その木星みたいなヤツ? 確かにこの辺の色はネザメさんぽい」
茶色や薄茶色の縞模様のスーパーボールは俺には木星に見えた。サキヒコはかつて仕えた主君の面影を見たらしい。確かにネザメの瞳の優しい亜麻色は、このスーパーボールの色とよく似ている。
「木星……?」
「あれ、木星分かんない? 太陽系にあるでっかい星だよ、火星の隣。ぁ、火星は地球の隣ね」
「……よく分からない」
ボールすくいの戦績を俺に見せながら、俺を見上げながら、綺麗に切り揃えられた髪を揺らして不思議そうに首を傾げる。その様子は何とも子供っぽく、可愛らしい。
「そっかぁ、結構綺麗で面白いから本でも読んでみてよ」
「そうする」
「それまたネザメさんのおじいさんに見せたいんだよね? 今度行く時は忘れずに持って行かなきゃね」
「次はいつ行ける?」
丸っこい瞳で見上げられると「明日にでも」と返事をしたくなる。
「ミフユさんにまた確認しないとね。っとシュカ繋がった、ごめんねサキヒコくんまた後で……もしもしシュカ? 今どこ?」
『……水月? スマートボールの前です、今終わったところで』
「スマートボールやってたのか、楽しかったか?」
『当たればデカいみたいですが、なかなか当たらない……いわゆるギャンブル要素が強い。輪投げの方が最終的にはコスパが良さそうです、繰り返せばその分上手くなりますし。スマートボールの方も上達のシロはある気はしますが、イマイチ実感に欠ける』
「変わった楽しみ方してるな……」
より良い景品を、より多くの景品を求めるのはまぁ自然な話だ。しかし何度も繰り返すことを前提にコスパを考えるのは珍しいと思う。
「合流したいんだけど」
『分かりました。じゃあその辺の女にウインクでもかましてもらえます?』
「え、嫌だけど……ちなみになんで?」
『キャーキャー聞こえるかな、と』
雑な予想だ。まぁ俺の顔なら祭りの騒ぎにも負けない黄色い悲鳴を上げさせることくらい余裕だろうけど。
『もう皆さんとは合流してるんですか?』
「まぁ大体は」
『なら素直にあのデカい結い髪目指していいんですね』
「サ、サンさんかな?」
『目印にいいですね、彼。ここからでも見えます』
「見えてるのかよ……なんで俺にウインクさせようとしたの」
『切りますね』
通話を切られた。スマホをポケットに戻した俺は、ハルの肩に片腕を乗せ景品のお菓子を食べているサンを見上げた。周囲より頭一つ分背の高い彼は目立つ、シュカはすぐに合流するだろう。
「ミツキ、話は終わったか?」
「今終わったよ」
サキヒコはスマホを下ろしてすぐに話しかけてきた。通話中もじっと俺を見つめていたし、今は相当俺と話したいのだろう。可愛いヤツめ。
「自分でぼうるすくいをやってみて分かった、五つも魚を取ってしまえる彼の能力が如何に非凡か」
「歌見先輩? 上手いよね。まぁ経験者らしいし、初めてでそれだけ取れたサキヒコくんもすごいと思うよ。俺ゼロ個だし」
「遊びにも慣れや上達があるんだな……こういったことからは離れて育った、私も主様も。主様は生きられなかった分遊べと私に言うが、主様はちゃんと遊んできたのだろうか」
「別荘あるくらいなんだし遊んでるんじゃない? 俺に憑いててもサキヒコくんが本来出来ただろうお金持ちの遊びとかはさせてあげらんないの、ちょっと申し訳ないかも」
「私はミツキと居たいんだ、私のことでミツキが気負うことなど何もない。ところで、金持ちの遊び……とは?」
「ネザメさんみたいに豪華客船で旅行したりとか? 昔は宝石のコレクションが趣味だったとか言ってたし、スケールが違うよね」
「そんなことなら私は別に出来なくても構わない」
「そう? 庶民的でよかった、俺でも楽しませられてるかな」
「ミツキと一緒なら何だって楽しい」
真っ直ぐに俺を見つめて微笑むサキヒコに、俺の方が照れて目を逸らしてしまった。
「ミツキ?」
「……照れさせておいて顔覗き込むのは反則だよ。可愛いなぁ、もう……ぁ、冷たい。ふふ、ひんやりしてて気持ちいいね、サキヒコくんは」
顔を覗き込んできたサキヒコを抱き締めて、その生者とは違う冷たさを堪能する。
「冬になればミツキはこんなふうに触れてくれなくなるのだろうか」
「外じゃ厳しいかもね。暖房つけて、お布団頭から被って、あったかくしてイチャイチャしよっか」
「……うん!」
今晩は彼を一度抱き締めると離れがたい熱帯夜だ。冷たい頬に頬を寄せて、伝わらない体温への虚しさを心地好さで誤魔化していよう。
「よかったな、セイカ」
「……ん」
「気に入ったんならよかったよ。だいぶ合流してきたな……今居ないのは鳥待と木芽だけか?」
「ワシ、のっちゃんとも合流したい。可愛ええんじゃあのちびこ」
「ノヴェムくんか。でも親子で居るんだろ? 合流は鳥待を優先したいな、水月はどう思う?」
「レイは多分ネイさん達と一緒だし……同意見! シュカから連絡取ってみます」
この祭りの喧騒の中、シュカは着信音に気付くだろうか。俺なら気付けないかもしれないな、なんて考えつつスマホを耳に当てる。
「ミツキ、見てくれ。魚が一つ、玉が三つ取れた」
ボールすくいからサキヒコが帰ってきた。透明のカップに入った戦績を見せてくれている。
「おめでとう。綺麗なの取れたね」
「あぁ、主様の瞳と同じ色だ」
「その木星みたいなヤツ? 確かにこの辺の色はネザメさんぽい」
茶色や薄茶色の縞模様のスーパーボールは俺には木星に見えた。サキヒコはかつて仕えた主君の面影を見たらしい。確かにネザメの瞳の優しい亜麻色は、このスーパーボールの色とよく似ている。
「木星……?」
「あれ、木星分かんない? 太陽系にあるでっかい星だよ、火星の隣。ぁ、火星は地球の隣ね」
「……よく分からない」
ボールすくいの戦績を俺に見せながら、俺を見上げながら、綺麗に切り揃えられた髪を揺らして不思議そうに首を傾げる。その様子は何とも子供っぽく、可愛らしい。
「そっかぁ、結構綺麗で面白いから本でも読んでみてよ」
「そうする」
「それまたネザメさんのおじいさんに見せたいんだよね? 今度行く時は忘れずに持って行かなきゃね」
「次はいつ行ける?」
丸っこい瞳で見上げられると「明日にでも」と返事をしたくなる。
「ミフユさんにまた確認しないとね。っとシュカ繋がった、ごめんねサキヒコくんまた後で……もしもしシュカ? 今どこ?」
『……水月? スマートボールの前です、今終わったところで』
「スマートボールやってたのか、楽しかったか?」
『当たればデカいみたいですが、なかなか当たらない……いわゆるギャンブル要素が強い。輪投げの方が最終的にはコスパが良さそうです、繰り返せばその分上手くなりますし。スマートボールの方も上達のシロはある気はしますが、イマイチ実感に欠ける』
「変わった楽しみ方してるな……」
より良い景品を、より多くの景品を求めるのはまぁ自然な話だ。しかし何度も繰り返すことを前提にコスパを考えるのは珍しいと思う。
「合流したいんだけど」
『分かりました。じゃあその辺の女にウインクでもかましてもらえます?』
「え、嫌だけど……ちなみになんで?」
『キャーキャー聞こえるかな、と』
雑な予想だ。まぁ俺の顔なら祭りの騒ぎにも負けない黄色い悲鳴を上げさせることくらい余裕だろうけど。
『もう皆さんとは合流してるんですか?』
「まぁ大体は」
『なら素直にあのデカい結い髪目指していいんですね』
「サ、サンさんかな?」
『目印にいいですね、彼。ここからでも見えます』
「見えてるのかよ……なんで俺にウインクさせようとしたの」
『切りますね』
通話を切られた。スマホをポケットに戻した俺は、ハルの肩に片腕を乗せ景品のお菓子を食べているサンを見上げた。周囲より頭一つ分背の高い彼は目立つ、シュカはすぐに合流するだろう。
「ミツキ、話は終わったか?」
「今終わったよ」
サキヒコはスマホを下ろしてすぐに話しかけてきた。通話中もじっと俺を見つめていたし、今は相当俺と話したいのだろう。可愛いヤツめ。
「自分でぼうるすくいをやってみて分かった、五つも魚を取ってしまえる彼の能力が如何に非凡か」
「歌見先輩? 上手いよね。まぁ経験者らしいし、初めてでそれだけ取れたサキヒコくんもすごいと思うよ。俺ゼロ個だし」
「遊びにも慣れや上達があるんだな……こういったことからは離れて育った、私も主様も。主様は生きられなかった分遊べと私に言うが、主様はちゃんと遊んできたのだろうか」
「別荘あるくらいなんだし遊んでるんじゃない? 俺に憑いててもサキヒコくんが本来出来ただろうお金持ちの遊びとかはさせてあげらんないの、ちょっと申し訳ないかも」
「私はミツキと居たいんだ、私のことでミツキが気負うことなど何もない。ところで、金持ちの遊び……とは?」
「ネザメさんみたいに豪華客船で旅行したりとか? 昔は宝石のコレクションが趣味だったとか言ってたし、スケールが違うよね」
「そんなことなら私は別に出来なくても構わない」
「そう? 庶民的でよかった、俺でも楽しませられてるかな」
「ミツキと一緒なら何だって楽しい」
真っ直ぐに俺を見つめて微笑むサキヒコに、俺の方が照れて目を逸らしてしまった。
「ミツキ?」
「……照れさせておいて顔覗き込むのは反則だよ。可愛いなぁ、もう……ぁ、冷たい。ふふ、ひんやりしてて気持ちいいね、サキヒコくんは」
顔を覗き込んできたサキヒコを抱き締めて、その生者とは違う冷たさを堪能する。
「冬になればミツキはこんなふうに触れてくれなくなるのだろうか」
「外じゃ厳しいかもね。暖房つけて、お布団頭から被って、あったかくしてイチャイチャしよっか」
「……うん!」
今晩は彼を一度抱き締めると離れがたい熱帯夜だ。冷たい頬に頬を寄せて、伝わらない体温への虚しさを心地好さで誤魔化していよう。
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