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メモ書きでOK? (水月+ヒト・フタ・カンナ・ミタマ・歌見・荒凪)

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ヒトが持ってきてくれた紙に大きく「車で待ってて」と書き、ハートマークも付けておく。右下には俺の名前も書き、フタに渡した。

「フタさん、ここで待っててくださいね。必ず戻りますから」

「おー…………車で~、車で……なー、これなんて読むの?」

「……鳴雷さん、フタはほとんど漢字が読めません」

二枚目の紙をもらい、同じ内容を全てひらがなで書き、フタに渡した。

「まってて……車で待つのね。車、今乗ってるヤツ……? みつきどこ行くの?」

「すぐ戻りますよ」

「ふーん……」

「出ちゃダメですよ。じゃあ、また後で、フタさん」

「ん、ばいばいみつきぃ」

フタはにっこり笑って手を振った。無邪気な笑顔は彼をとても善良な人のように思わせる、暴力なんて知らないように見えてしまう。

「……はい。ばいばいです、フタさん」

だから、俺の命を狙っても、ミタマを切りつけても、ネイに殴りかかっても、責めにくい。



車の扉を閉めて数歩離れる。スモークガラスのせいで中の様子は伺えない。

「あんなメモ書き程度で大丈夫ですかね?」

「さぁ……」

「ま、もうしばらくは本部に居ることになっているので、私がついでに見張っておきますけど」

「まだ本部に居るんですか? 早くヒトさんとお祭りデートしたいのになぁ」

「ふふ、すいません」

「……じゃあ俺、一人で祭り戻ってますね。デート出来るようになったら連絡ください」

手を振り、別れ、再び提灯で飾り立てられた公園の中へと入っていく。ひとまず閉じ込めておくしかないフタのことや、トラウマを作ってしまったかもしれないノヴェムのことを考えて、一人で勝手に暗くなる。辺りが明るく楽しそうであればあるほどに気分が落ち込んでいく。

「……!」

きゅ、と浴衣の袖を掴まれた。覚えのある仕草に慌てて表情を整える、落ち込んだ顔なんて見せたくなかった。

「カンナ! カンナぁ、急に後ろから服掴んじゃ俺びっくりしちゃうよ。あれ、一人か? はぐれた? そういえばカンナって誰と一緒にお祭り回ってたんだっけ」

「……みぃ、くん、ひとり?」

「あぁ、今は一人だよ」

「…………っしょ、に」

「うん、一緒に回ろうな」

俺からの質問、一つも答えてもらえなかったな……カンナ、そういうとこあるんだよなぁ。

「みー、くん。ぼーる、すく……やろ」

「ボールすくい? あぁ、いいよ」

様々な創作物で縁日には金魚すくいが描かれる。けれど、実際に生きた金魚を扱った夜店なんて見たことがない。

「あ、金魚……」

水に浮いたスーパーボールの中に、稀にプラスチックか何かで出来た金魚のオモチャが浮いている。

「カンナ、勝負しようか。多くボール取れた方が勝ち、金魚は二個分カウント、勝った方は負けた方を一度言いなりに出来る。どうだ?」

「ん……いーよ」

「よーし負けないぞ~」

袖を捲り、ポイを持つ。簡単に破れてしまうこのポイを破らないよう出来るだけ多くのボールを掬うのがこのゲーム。金魚すくいの経験はないがカンナに好き放題出来るチャンスだ、やってみせるぞ。

「ぁ」

どうせなら好きな色と柄のスーパーボールを狙おうかと、お気に入りを探してみる。そんな俺の隣でカンナが微かに声を漏らした。

「ん……?」

視線をやると、カンナは穴の空いたポイを俺に見せた。一つでもボールを取れば俺の勝ちだ。

「みぃくん……ぼく、きんぎょ……欲し……」

「えっ」

「きん、ぎょ……取って?」

スーパーボールの方が取りやすそうだけれど、カンナの頼みだ、挑戦してみよう。

「……っ、お……取れ…………ぁあっ!」

プラスチック製の尖った尾ビレにポイが貫かれてしまった。俺の記録もゼロ個、今回は引き分けだな。

「意外と難しいんだなぁ金魚すくいって」

「ぼー、る……なら、取れ……かな?」

「ボールなら取れたかなって? さぁ、どうだろ。カンナも一発目から金魚狙いか?」

「さ、しょが……一番、じょーぶ……かな、て」

「……まぁそうか。どうする? もっかい並ぶ? 取れる気あんましないけど」

「みっちゃーん!」

ドンッ! と背中に強い衝撃。そのまま重たいものにしがみつかれ、カンナの方に倒れかけたが、何とか踏ん張った。

「くっ……危ないな! カンナ潰しちゃったらどうすんだよ!」

「みっちゃんそんなことせんじゃろ」

「そのためには結構な筋力が必要なんだよ! 鍛える必要のない人外には分かんないかなぁ今俺の腹筋と背筋はギリギリだったんだぞ」

「む……? しーちゃんだけか? ちっこいのはどうした、可愛い可愛い人間の幼体じゃ、むにむにしたいんじゃが」

「……ノヴェムくんなら別行動中だよ。ネイさんと……レイも一緒かな?」

俺の背中から離れたミタマの手にはりんご飴がある、まだほとんど舐めていないのか新品同様の大きさだ。

「む、みっちゃんに抱きついたせいで飴に糸汚れが」

「まさか俺の服にべちょってしたの!? どこ! 拭いて!」

「そうじゃみっちゃん、飴はふーちゃんが売っとるんじゃなかったんか? 知らん男じゃったぞ」

「……交代したんじゃないの。それより! 拭いて!」

もう代理の者が居るのか。ならノヴェムもいちご飴を買ってもらえているかもしれないな。

「お、水月」

「あっパイセン」

「時雨と一緒か? 他のヤツは?」

「別行動中です。歌見先輩も他の子と合流はしてないんですね」

「みつきー」

歌見が押す車椅子の上、荒凪が俺を見つめる。その手には鈴カステラの袋が握られている。

「や、荒凪くん。お祭り楽しい?」

「たのしい」

頭を撫でてみるも、相変わらず無表情。嫌がっているのか喜んでいるのか分からない。

「うた、さん。きんぎょ……取って、欲し……」

「時雨。金魚って? 金魚すくいか?」

「スーパーボールすくいに金魚のオモチャ紛れてるんですよ、俺も取ろうとしたんですけどダメで。パイセン取れません? カンナが欲しがってるんですよ」

「へぇ、金魚のオモチャ……分かった、やってみる」

カンナは歌見に百円玉を差し出した。

「い、いや、自分の金でやるよ。頼まれてとはいえ他人の金だと緊張する……ま、期待せずに待っててくれ」

「がん、ば……て」

「パイセンファイト~」

ここは俺が彼氏としてカッコよく金魚を手に入れてきてやるところな気もしたが、さっき体験した難しさを思い返せば歌見の背に手を振る以上のことは出来なかった。
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