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瞳の色について (水月+レイ・ネイ・ノヴェム)

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元組長のサンの友達で、兄貴分のフタの恋人。それが夜店を管理する男達から見た俺だ。実際は現組長のヒトも含めて三人と交際しているのだが……それは組員には秘密だ。

「……ありがとうございます」

サンが恐ろしいからか、フタへの尊敬の念からか、途中で撃つ者が代わったことには言及せず景品を渡してくれた店の男に礼を言う。

「あの……ネイさん」

俺から銃を奪った男、ネイは銃を置くと同時に表情から冷酷さを消して温和な笑みを浮かべた。

「すみません、余計なお世話でしたかね?」

「……あっ、いえ、そんな、全然……ありがたい、です。助かりました。どうしても、ってほどではないんですけど……かなり、欲しくて」

「お友達にあげたいんですよね? 水月くんは優しいですねぇ」

お友達、を妙に強調した言い方だった。ネイが仕掛けた盗聴器やカメラは全て処分または撤去済みのはずだが、カサネを彼氏だと見抜く程度ネイには朝飯前だったらしい。

「可愛らしいぬいぐるみです、パグ……でしたっけ?」

「あ、はい。カサネ先輩が飼ってるんです、パグ。それで、玄関マットとかスリッパとか服とか、色々パグで……相当好きなんだなって。それで」

「なるほど」

ぬいぐるみを袋に詰め、腕に引っ掛ける。いつどうやって、何と言ってカサネに渡そうか。渡したらどんな顔を見せてくれるか。想像を膨らませる俺の肩をネイが抱く。

「水月くん、今日の夜は空いていますか?」

「へっ……?」

吐息八割の微かな声に耳元で予定を聞かれ、鼓動が跳ね、股間に血が集まっていく。

「……日本神秘の会について情報を掴んだとか。ぜひ、聞かせて欲しい。ノヴェムを寝かしつけたら連絡しますので、家に来て欲しいのですが……どこかに泊まったりする予定ですか?」

「いえ、多分帰ります。明日学校ですし。でも、学校だから……早く寝たいし、行くのは……メッセじゃダメですか?」

「出来れば口頭で。記録に残したくないので」

「えー……」

「それほど長く話さなければならないような量の情報が手に入ったんですか?」

「……いえ、行きます。行きますよ……はぁ」

「気乗りしませんか」

そりゃそうだ。睡眠時間が削られる訳だからな。

「あなたが情報が手に入ったと言ってきたんですから、そんな態度を取られても……あぁ、ご褒美が欲しいんですね? もちろんあげますよ。情報の価値次第ではありますが…………ふふ、私……上手いですよ、色々」

肩に組んだ腕とは反対側の手が、俺の下腹から胸までをゆっくりと撫で上げる。

「…………ふざけないでください。離して」

腕を振ってネイを引き剥がす。少々乱暴になってしまったことをすぐに後悔したが、謝罪の言葉なんて口から出ず、気まずさのあまり彼から数歩離れた。

「せんぱい? どうしたんすか?」

「ぁ、いや……」

「自分で取りたくて拗ねちゃったんすか~?」

「…………」

「違う……みたい、すね。あのー……ネイ、さん? せんぱい、どうしたんでしょう」

「あー……少し、おふざけが過ぎたみたいデス。私ユーモアが悪い……みたいで?」

「……せんぱい、大丈夫すか?」

「あ、うん……ちょっと過剰反応しちゃったの、恥ずかしいっていうか気まずいっていうか……それで、ちょっと黙っちゃっただけだから、別にそんな大したアレじゃないんだ、本当。ごめんなさいネイさん」

「こちらこそデス」

不安そうなレイの顔を見ていると罪悪感が湧いてきて、早く元の空気感に戻そうと舌が回った。謝り合いはしたもの俺が機嫌を悪くした理由の詳細は分からなかったからか、レイの表情は戻らない。

「……次は何食べたり、遊んだりしたいっすか? せんぱい」

ネイに警戒や疑念の混じった視線を一瞬向け、すぐに俺に向き直ってにっこり微笑む。俺を何よりも優先し、気遣ってくれる彼への愛しさが彼を抱き締めさせた。

「わ、ちょ、せんぱいっ……?」

「…………うん、充電完了。次は何しようか、ぁー……綿菓子、どうだ?」

「いいっすね、さっきサンちゃんにポテトもらったし、次は甘いの欲しいっす!」

誘いを断られしゅんと落ち込んだセイカの表情が脳裏に浮かぶ。今からでも合流すれば喜んだ顔を見せてくれるだろうか。

「おにーちゃ、まって」

きゅ、と小さな手が俺の手を掴む。握り返してやるとノヴェムは笑顔を見せた。

「ネイさん、ノヴェムくんの前髪結んであげたりしないんですか? このままじゃ目悪くなっちゃいますよ」

「家の中ではつけていてくれるんですが、外へ出ると外してしまうんですよ。もちろん切らせてもくれません」

「外出時はメカクレってこだわりがあるんすね。オシャレさんっす」

「……オッドアイを気にしているようなんです。向こうでからかわれでもしたのか……話してはくれないのですが。日本でもからかいの対象になると思いますか?」

「どうでしょう、そもそも外国人珍しくて目立つから今更要素一つ追加されたところでって感じもしますけど」

「俺田舎の出なんで東京の感覚はよく分かんないすね」

「秋風くんは……」

「アキは学校行ってません。ロシアに居た頃は虐められて目潰されかけたって」

「Oh……」

「まぁ、流石に日本でそこまで激しいイジメは……ぁー……セイカ、イジメで車道に飛び出させられたんだったな」

「学校によるっすよね。上品なとこは生徒の攻撃性も低い気がするっす」

「ん~……いや、上品なとこって年季入ってるとこだから、隠蔽の体制がしっかりしてるだけじゃないか? イジメのない集団作るのなんて無理だよ」

「せんぱいの学校あるんすか? イジメ」

「……俺のクラスでは見たことないけど、他は知らない。カンナが一回前髪捲られそうになって泣いてたくらいかな……アレも悪気があった訳じゃなさそうだったし、シュカとリュウがシメたからその一回で終わりだった」

「ネイさん、ノヴェムくんとしっかりコミュニケーションを取って、もしイジメっぽい話が出たら速攻で対象児童をシメるっす。先生に相談とかチンたら生易しい真似はせず、脅すっすよ。くーちゃん貸してもいいっす」

「なんで元カレをまだ顎で使えると思ってるの? 実際割と使えるのは何なの」

「せんぱいが心配するようなことはないすよ?」

「あるぅ~! 関わんないでよもう! デカくて顔が怖いだけの形州よりSAN値が減少するレベルのイケメンと評される俺の方がイイだろ!」

「まぁまぁお二人共……まずは、ノヴェムを思ってくれて、ありがとうございマスです。怪我も、物の紛失もありませんから、きっとノヴェムは馴染んでマス。大丈夫デスヨ」

カタコトのフリの手抜きが見受けられるな。語尾のイントネーションを少しおかしくするだけになってきている。

「油断は禁物っすよ」

「レイ、結構心配性なんだな」

「身近にイジメ被害者が三人も居るっすからね」

俺、アキ、セイカ、かな?

「他の子は聞いてないっすけど、どうだったんすかね」

「……カンナは色々あったって親父さんから聞いたけど、詳細は知らないな」

「ハルせんぱいとかも怪しくないすか? メイクとか女装とか、東京は案外そういうの大丈夫なんすかね。俺田舎の出っすから、男らしさから外れた男がどうなるか……ちょっと、知ってるっていうか」

話しながらレイは自身を抱き締めるように二の腕を掴む。

「……この話、また今度な。ノヴェムくんは今のとこ本当に何ともないみたいだし、今日はお祭り楽しもう。俺も色々思い出しちゃうよ」

「あ……そうっすね。すいません……」

「いやいや、ノヴェムくんのこと思ってのことだろ? よかったなぁノヴェムくん、レイお兄ちゃん優しくて」

ノヴェムはきょとんとした顔で俺を見上げる。その可愛さに癒されて、昔を思い出したことによる痛みが引いた。

「……! 鳴雷、なんか取れたか? 秋風、綿菓子すごい喜んでるぞ」

虐められた記憶を頭の深くに沈めるのが間に合ってよかった。俺を迎えるセイカの笑顔をただただ愛おしいと感じられる。
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