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どうしても欲しいもの (水月+荒凪・歌見・ミタマ・シュカ・セイカ・リュウ・ハル・サン・レイ)

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サンに与えられたお菓子を齧る荒凪を眺めながら、思う。荒凪は別に全く言葉を知らない訳じゃない、話すのが拙いのは人間の肉体に慣れていないからというだけの話だ。

「ばかども!」

「あぁあぁ……水月、本っ当にすまん」

荒凪の記憶が完全なものだとすると数週間前に生まれたことになるが、それだとここまで話せるのはおかしい。記憶喪失の人も言葉は忘れないと聞く。荒凪は多分記憶喪失なのだ。

「いえ……荒凪くん、それはあんまりいい意味の言葉じゃないから、使っちゃダメだよ」

「だめ?」

「うん、ダメ」

荒凪が「バカ共」「クソ」の意味を知らないような振る舞いを見せるのは何故だろう。そんな言葉が使われない環境で育ったのか? 人魚社会って治安いいのかな……あの秘書が世話をしている間、荒凪の前で一度も乱暴な言葉遣いをしなかったというのもすごい話だ。気を付けていなければ「クソ」は強調の言葉として「とても」とかの代わりに使ってしまいがちじゃないか? 俺だけ?

「わかた」

「よしよし、いい子」

ミタマのように言葉を知らなくても言霊で意味が分かるなんて不思議な力もないらしい。

「くそもー?」

「クソも」

「だめ」

「そう、ダメ」

そういえばミタマは今何を──

「……っしゃあ! やーっと当たったのじゃ! はー……何発目じゃこれ」

「十三発目ですね。三百円も使うようなお菓子じゃありませんよこれ」

「やかましい! 過程を楽しむための金じゃ!」

──レイより射的が下手だったんだな、ミタマ。まぁ狐に銃が上手いイメージはないな、撃たれるイメージがあるからむしろ天敵? だから下手なのかな。

「鳴雷、秋風が綿菓子食いたがってる。みんなやったし射的はもういいだろ?」

「セイカはいいのか?」

「いい。片手じゃやりにくそうだし、これ利き手じゃないし」

セイカはぷらぷらと左手を揺らす。

「そっか。じゃあ綿菓子……ぁー、いや、俺もうちょい射的やりたい。ハマっちゃった。悪いけど他のヤツ誘ってくれるか?」

「え……うん」

セイカはしゅんと落ち込んだ顔で俺の彼氏達を見回し、荒凪から最も離れた位置に立ちハルと談笑していたリュウの袖を引いた。

「天正……秋風と綿菓子買いに行きたい。着いてきてくれ」

「二人で行けばいいじゃん」

「身障者を十五のガキ一人に介助させるとか酷いヤツだな」

「アンタ普段アキくんと二人でウロウロしてんでしょーが!」

「まぁまぁハル、やめぇや。俺もちょうど綿菓子買おかな思ててん。行こか。ハルどないする?」

「え~……んー、いいや。綿菓子あんま興味ないし、サンちゃんと一緒に居る~」

「ボクスマートボールやりたい」

荒凪から離れられてラッキーとでも思っているのか、リュウは二人を連れてさっさと人混みの奥へ消えてしまった。

「スマートボール確かあっちにあったと思う~。懐かしいな~、小学生の頃図工の時間に作ったんだよねスマートボール。木に色塗ってさ~、釘打って障害物作ってさ~」

「へぇー、イイね。ボク小学生の頃オリジナル点字で暗号文作ってた」

「あはっ、分かる~! オリジナル言語とか暗号とか考えちゃうよね~」

ハルはサンに肩を掴ませ、スマートボールの屋台へと向かった。二人で大丈夫かな、一見美少女のハルはタチの悪い男に絡まれやすいし、盲目のサンに悪漢の対処は……出来るか、出来るな、デカいし強いし躊躇なく股間蹴ったり踏んだりするもんな、サン。っていうか袖捲って刺青見せたら逃げるだろ、チンピラなんか。

「輪投げなら荒凪くん出来るかもだし、俺そっち行ってくるよ」

「景品あります?」

「さっき見た感じ、お菓子の詰め合わせとかあったぞ」

「行きます」

「……みっちゃん、ワシらはあーちゃんについとく」

歌見と荒凪、シュカ、ミタマにサキヒコまで俺の元から離れていった。ちょっと寂しいな……

「せんぱいっ、撃つとこ撮らせて欲しいっす」

「撮ってなかったのか? 珍しいな。もちろんいいよ、好きにしてくれ。あぁノヴェムくん、ちょっと離れてくれる?」

百円を支払い、俺の足に抱きついていたノヴェムに離れてもらい、銃を握り締めて集中する。狙いはただ一つ、最上段の真ん中に置かれたパグ犬のぬいぐるみ──の腹に貼られた紙に描かれた小さな円だ。

「……っ、クソ……外した。ぁー……当たらない。ダメだ……当たっ、てない! 惜しい……はぁ」

五発全て外れてしまった。

「結果は振るわなかったみたいっすけど、せんぱいの凛々しい横顔は最高っした!」

「……どうも。すいません、もう一回」

再び百円を支払い、またパグ犬のぬいぐるみを狙う。が、全然当たらない。

「…………もう一回」

「せんぱい、そんなにアレ欲しいんすか?」

「カサネ先輩のお土産にしようかと思ってるんだけどな……あー、全っ然ダメ……俺、過疎ったバトロワ系ゲームに居るCPUより弱い」

「そ、そんな……せんぱい、しっかりしてくださいっす!」

「あんな小さな円に弾当てるなんて、ラケットでピンポン球打ち返すくらい無茶だよ」

「……卓球、苦手なんすね。せんぱい」

「カッ、て音がしたと思ったら背後にボールが転がってるんだ」

「動体視力ゴミカスなんすね、せんぱい……でも射的のマトは動いてないっすよ、ガンバ! っす!」

ゴミカスまで言われるほどか? という困惑と傷心、俺を応援する笑顔の無垢な愛らしさへのときめき、レイへの感情全てが俺の集中力を削ぎ、四発外させた。

「くぅう……」

「あと一発あるっすよ! せんぱいなら出来るっす!」

一箇所を狙って九発も撃てば嫌でも分かる。あぁ、これ永遠に当たらないヤツだな、って。ネイはあっさり当てていたのに、俺と彼に何の違いがあるというのか、全く当たらない。まぐれで惜しいところを掠ったとしても、それを再現出来ない。

(……いっそお祭り終わった後にぬいぐるみ買い取らせてくださいってお願いしに行った方がいいのでは? いや、他の人に取られるかも……いやいや当たればOKシステムはわたくし達限定のものですから、他の方々はあのデカいぬいぐるみを落とさなければならないのですから、取られるはずが……いや万が一ということも…………お取り置きって頼めますかな)

買い取りだの取り置きだの、情けない発想に至った俺の手から銃が奪われる。俺の目が彼の方を向くより先にパンッと軽い音が鳴って、円のド真ん中に青色のインクがついた。

「……大当たり!」

店の男は途中で撃つ者が代わったことには言及せず、俺が外した弾によってぬいぐるみの手足や顔についた水性インクをウェットティッシュで拭い取ると、俺にぬいぐるみを差し出した。
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