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お兄ちゃんと一緒 (水月+ネイ・ノヴェム)
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柔らかいもち肌にキスをした。俺からの頬へのキスにノヴェムは顔を真っ赤にし、俯いた。
「ノヴェムくん」
「…………?」
ゆっくりと上を向いたノヴェムの長い前髪を持ち上げる。印象的なオッドアイが提灯の光を反射してキラキラと輝いている。曇りのない瞳は幼い彼の純粋さを表しているように感じた。
「俺は……君を、嫌ったり……しない。分かる? 嫌う、ない。ありえない」
「……わかる」
「分かった? よかったぁ……」
「おにーちゃ、のゔぇむ……すき?」
「好きだよ。ごめんね、泣かせるつもりなんて本当になかったんだ、そんな勘違いするなんて考えてなくて……よしよし、もう大丈夫だよね? 離すよ」
ぽんぽんと背を優しく叩き、ノヴェムを離して立ち上がった。
「水月くん、ノヴェムは泣き止みましたね。よかった……すいません任せ切りにしてしまって」
ハルとリュウの議論を終わらせたらしいネイが戻ってきた。
「……いえ」
「ノヴェム、お父さんと手を繋ぎましょう」
ネイが手を差し伸べるもノヴェムは首を横に振り、俺の太腿に抱きついた。
《ノヴェム、水月お兄ちゃんはお友達と一緒に遊んでいるんですよ。あなたが居てはお邪魔になります。あまりワガママを言っては本当に嫌われてしまいますよ?》
《……っ、お兄ちゃんノヴェムのこと好きだもん!》
《ええ、ですから、もっと好かれるように聞き分けよくしていましょうと……》
《お兄ちゃんノヴェム好きで、ノヴェムお兄ちゃん好きなの、好き同士なの、一緒に居るの!》
言葉は分からないが、ノヴェムが俺と離れたくないと駄々を捏ねているのだろうと予測は出来る。ネイは俺と彼氏達に気を遣い、ノヴェムがお祭りデートの邪魔をしないように引き離そうとしてくれているのだろう。
「ネイさん、ノヴェムくん俺と回りたいとか言ってます?」
「ええ……すいません、今説得しますから」
「別にいいですよ。親子水入らずがいいって言うなら話は別ですけど、俺は構いません」
「……デート中でしょう?」
ハーレム云々を知らない荒凪が居るし、フタの弟分達に浮気を咎められても面倒だし、男同士でのイチャつきに向ける世間の目はまだまだ厳しいし、たとえ同性愛を見逃されたとしても複数人とキスやハグを楽しめば悪い意味で人目を引くのは間違いない。ノヴェムが居ても居なくてもデートらしいことは出来ない。
「日本に来て初めてのお祭りでノヴェムくんに嫌な思い出が残るよりよっぽどマシですよ」
「……そうですか。ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
ネイは身を屈めてノヴェムと視線の高さを合わせると、俺にはよく分からない英語で話し始めた。
《ノヴェム、水月くん達と一緒に回りましょうか》
《……! お兄ちゃんっ、お父さん……せっとくしてくれたのっ? さすがお兄ちゃん! お兄ちゃんもノヴェムと一緒に居たいんだよね、そうだよねっ! えへへへ……水月お兄ちゃんだーいすき!》
《水月くんはもちろん、水月くんのお友達に迷惑をかけてはいけませんよ。水月くんがお友達と話している時に割り込んだり、泣いたり、騒いだり、邪魔をしてはいけません。そんなことをすればせっかく高い好感度が下がってしまいますからね》
《分かってるよお父さん。お母さんが言ってた、ママ友とのランチまで制限するのは、そくばくだめおっとだって! ぼくは、さいこーのおっとになるんだ》
ネイは呆れたようにため息をつきながら立ち上がり、背筋を伸ばした。
「あの……?」
「ノヴェムがワガママを言って本当にすいません。迷惑をかけないようにとは言っておきましたので」
「……子育て経験のないガキが何をって感じかもしれませんけど、迷惑かけないようにとかの注意の仕方、俺あんまり好きじゃないです」
「ふむ……指示が抽象的過ぎる、子供より近所付き合いや世間の目を大事にしている、何がどうしていけないことなのか子供が学習する機会を逃す……と言ったところでしょうか」
「えっ……そ、そんなふうに言語化は出来ませんけど、まぁ……だいたい、そんな感じです」
「あなたが私の言葉を信用してくれるかは分かりませんが……心配はいりませんよ、ノヴェムにはもう少し具体的に伝えてあります。あなたにはざっと伝えただけです」
「あ、そうなんですか……なら、いいです。その……人に迷惑かけるなって言われると、親が本当に自分のこと見てくれてるのか……愛してくれてるのか、分かんなくなっちゃう気がして、嫌なんです。本当、ただの好き嫌いなんですけど……すいません」
ネイは優しい微笑みをたたえたまま首を横に振った。
「謝る必要なんてありません。ノヴェムのことをとてもよく考えてくれて……すごく、嬉しいんです。改めて……水月くん、あなたのおかげでノヴェムに笑顔が増えました、ありがとう」
「…………はい、ありがとうございます……光栄です」
大人に真正面から感謝されるのには慣れていない。照れてしまって返事が無愛想になる、目を逸らしてしまう。
「水月くん……」
ネイの手が頭に乗る。ぽんぽんと優しく撫でられて、胸の奥から、腹の底から、何かがこみ上げてくる。
「……っ、射的! 射的やりましょっ、ノヴェムくんやりたがってたんですよね、俺もやりたい! 行きましょ!」
ネイの手から逃げるように夜店へ向かった。けれど、俺が本当に逃げたかったのは、奥底からこみ上げる自分の感情からだった。
《水月お兄ちゃん? 大丈夫?》
自分の感情から逃れる術なんてない。移動しても、別のことを考えても、無駄だった。
「ノヴェムくん」
「…………?」
ゆっくりと上を向いたノヴェムの長い前髪を持ち上げる。印象的なオッドアイが提灯の光を反射してキラキラと輝いている。曇りのない瞳は幼い彼の純粋さを表しているように感じた。
「俺は……君を、嫌ったり……しない。分かる? 嫌う、ない。ありえない」
「……わかる」
「分かった? よかったぁ……」
「おにーちゃ、のゔぇむ……すき?」
「好きだよ。ごめんね、泣かせるつもりなんて本当になかったんだ、そんな勘違いするなんて考えてなくて……よしよし、もう大丈夫だよね? 離すよ」
ぽんぽんと背を優しく叩き、ノヴェムを離して立ち上がった。
「水月くん、ノヴェムは泣き止みましたね。よかった……すいません任せ切りにしてしまって」
ハルとリュウの議論を終わらせたらしいネイが戻ってきた。
「……いえ」
「ノヴェム、お父さんと手を繋ぎましょう」
ネイが手を差し伸べるもノヴェムは首を横に振り、俺の太腿に抱きついた。
《ノヴェム、水月お兄ちゃんはお友達と一緒に遊んでいるんですよ。あなたが居てはお邪魔になります。あまりワガママを言っては本当に嫌われてしまいますよ?》
《……っ、お兄ちゃんノヴェムのこと好きだもん!》
《ええ、ですから、もっと好かれるように聞き分けよくしていましょうと……》
《お兄ちゃんノヴェム好きで、ノヴェムお兄ちゃん好きなの、好き同士なの、一緒に居るの!》
言葉は分からないが、ノヴェムが俺と離れたくないと駄々を捏ねているのだろうと予測は出来る。ネイは俺と彼氏達に気を遣い、ノヴェムがお祭りデートの邪魔をしないように引き離そうとしてくれているのだろう。
「ネイさん、ノヴェムくん俺と回りたいとか言ってます?」
「ええ……すいません、今説得しますから」
「別にいいですよ。親子水入らずがいいって言うなら話は別ですけど、俺は構いません」
「……デート中でしょう?」
ハーレム云々を知らない荒凪が居るし、フタの弟分達に浮気を咎められても面倒だし、男同士でのイチャつきに向ける世間の目はまだまだ厳しいし、たとえ同性愛を見逃されたとしても複数人とキスやハグを楽しめば悪い意味で人目を引くのは間違いない。ノヴェムが居ても居なくてもデートらしいことは出来ない。
「日本に来て初めてのお祭りでノヴェムくんに嫌な思い出が残るよりよっぽどマシですよ」
「……そうですか。ありがとうございます、ではお言葉に甘えて」
ネイは身を屈めてノヴェムと視線の高さを合わせると、俺にはよく分からない英語で話し始めた。
《ノヴェム、水月くん達と一緒に回りましょうか》
《……! お兄ちゃんっ、お父さん……せっとくしてくれたのっ? さすがお兄ちゃん! お兄ちゃんもノヴェムと一緒に居たいんだよね、そうだよねっ! えへへへ……水月お兄ちゃんだーいすき!》
《水月くんはもちろん、水月くんのお友達に迷惑をかけてはいけませんよ。水月くんがお友達と話している時に割り込んだり、泣いたり、騒いだり、邪魔をしてはいけません。そんなことをすればせっかく高い好感度が下がってしまいますからね》
《分かってるよお父さん。お母さんが言ってた、ママ友とのランチまで制限するのは、そくばくだめおっとだって! ぼくは、さいこーのおっとになるんだ》
ネイは呆れたようにため息をつきながら立ち上がり、背筋を伸ばした。
「あの……?」
「ノヴェムがワガママを言って本当にすいません。迷惑をかけないようにとは言っておきましたので」
「……子育て経験のないガキが何をって感じかもしれませんけど、迷惑かけないようにとかの注意の仕方、俺あんまり好きじゃないです」
「ふむ……指示が抽象的過ぎる、子供より近所付き合いや世間の目を大事にしている、何がどうしていけないことなのか子供が学習する機会を逃す……と言ったところでしょうか」
「えっ……そ、そんなふうに言語化は出来ませんけど、まぁ……だいたい、そんな感じです」
「あなたが私の言葉を信用してくれるかは分かりませんが……心配はいりませんよ、ノヴェムにはもう少し具体的に伝えてあります。あなたにはざっと伝えただけです」
「あ、そうなんですか……なら、いいです。その……人に迷惑かけるなって言われると、親が本当に自分のこと見てくれてるのか……愛してくれてるのか、分かんなくなっちゃう気がして、嫌なんです。本当、ただの好き嫌いなんですけど……すいません」
ネイは優しい微笑みをたたえたまま首を横に振った。
「謝る必要なんてありません。ノヴェムのことをとてもよく考えてくれて……すごく、嬉しいんです。改めて……水月くん、あなたのおかげでノヴェムに笑顔が増えました、ありがとう」
「…………はい、ありがとうございます……光栄です」
大人に真正面から感謝されるのには慣れていない。照れてしまって返事が無愛想になる、目を逸らしてしまう。
「水月くん……」
ネイの手が頭に乗る。ぽんぽんと優しく撫でられて、胸の奥から、腹の底から、何かがこみ上げてくる。
「……っ、射的! 射的やりましょっ、ノヴェムくんやりたがってたんですよね、俺もやりたい! 行きましょ!」
ネイの手から逃げるように夜店へ向かった。けれど、俺が本当に逃げたかったのは、奥底からこみ上げる自分の感情からだった。
《水月お兄ちゃん? 大丈夫?》
自分の感情から逃れる術なんてない。移動しても、別のことを考えても、無駄だった。
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