上 下
1,637 / 1,971

射的前の号泣 (水月+サン・ミタマ・ハル・カンナ・リュウ・歌見・荒凪・ノヴェム・ネイ)

しおりを挟む
サンにねだられ、彼にも鈴カステラを食べさせてやった。素直にねだり、素直に美味しさを表情で教えてくれる彼は、とても193センチの大男とは思えない愛らしさを持っている。

「ご機嫌な顔だね、水月」

筆だこのある筋張った大きな手で顔を撫で回され、サンへの愛しさで緩んだ表情を知られてしまった。

「そりゃそうだよ、みんなでお祭りなんて最高に楽しいことしてるんだから。今サンがすごく可愛い顔見せてくれたし」

「ボクが? そっか……ふふ」

サンは俺を強く抱き締める。機嫌良さげな笑顔を見上げ、彼に身体を預けた。

「みっちゃんみっちゃん、ワシにもそれおくれ」

「カステラ? いいよ。サン、ちょっと腕緩めて」

鈴カステラの最後の一つをミタマの口に入れた。あれ? 俺……鈴カステラ食べたっけ? 二袋も買ったんだけどな。

「美味いのぅ。今日だけでたくさん美味いものを知った、神社を出てよかった……何より、ずーっとみっちゃんと一緒で寂しい思いをせんしのぅ。みっちゃんが構ってくれん時はさっちゃんと話せるし……」

「ボク?」

「サキヒコの方じゃ。そういえば同じあだ名をつけてしもうとったのぅ……ま、ええか。とにかく、寂しゅうないんがいっちゃんええ。感謝しとるぞみっちゃん、首の件だけでなく、な」

改めて感謝と愛情を伝えられると照れてしまうな。

「コンちゃん寂しがりなの?」

「そうじゃの。人肌は素晴らしいものよ」

「ボクも割とそうだよ。ね、水月」

「帰さないように薬盛ったり縛ったりするもんね、サンは。でも絵描いてる時とか返信もしてくれなかったり結構極端じゃない?」

「極端……ん~、まぁそういうとこはあるかも?」

「そんなところも魅力だよ」

鈴カステラが入っていた袋を捨て、サンの頬やミタマの顎を撫でつつ、りんご飴を舐めながら二人と話す。

「ねーねーみっつん、みんなかき氷食べ終わったし、あっち見に行ってみよ~?」

「あぁ、分かった。サン、どのかき氷が一番よかった?」

「いちご練乳かな~」

「カンナのだな。カンナ! かき氷ダービー、サン杯優勝おめでとう!」

「……? ぁ、り……がと……?」

「賞品はボクからのハグ~……どこに居るの?」

「…………こ、こ」

カンナは少し悩むような素振りを見せた後、普段よりも僅かに大きな声で居場所を知らせた。

「ハグ~……ん、なんか多い」

大きく腕を広げたサンの腕の中にはカンナだけでなく、彼と腕を組んでいたリュウの姿もあった。サンは特に気にした様子はなく、二人とも抱き締めて頭や顔を撫でて愛でている。

「ゎ……」

「んー……ぐいぐい来るわぁサンちゃん」

髪や顔の上の方には触れず、頬をもちもちと弄んでばかりの手にカンナも抵抗する様子は見られない。

「ハル、何か食べたいのあるのか?」

「食べたいのって言うか~、射的! やりたいの~」

「あぁ、射的な。そういえばあったなぁ」

見た覚えがある。綿菓子の夜店の向かいだったか。ついでにアキと荒凪に綿菓子を買ってやろうかな。

「射的? ボクもやりた~い」

サンには射的は難しいんじゃ……いや、ビーチバレーにも参加していたくらいだし、誰かが位置を測ってやれば出来るのかな。

「あっ……」

射的屋台の前までやってきて、俺は足を止めてしまい車椅子に軽く撥ねられた。

「あ、悪い。でも急に立ち止まるなよ」

「みつきー……? いたい?」

「大丈夫だよ荒凪くん。すいません先輩……」

足を止めた理由は屋台に並んでいる金髪の親子を見つけたからだ。浴衣に身を包んだ彼らは英語で語らい、笑い合っている。

「……ネイさん! こんばんは」

声をかけるか一瞬迷ったが、心の準備が整わないうちに向こうに見つけられるよりはマシかと、俺の方から話しかけた。

「あぁ水月くん、こんばんは」

《……!? 水月お兄ちゃん! お父さん離して、お兄ちゃんとこ行く!》

ネイと手を繋いでいるノヴェムが暴れ出す。ネイの手を振りほどこうとしているのか、腕をぶんぶん振っている。

「こ、こらノヴェム……」

《はーなぁーしぃー、てぇ!》

「あっ……」

振りほどくのに成功したノヴェムは俺に向かって一直線に走ってくる。屈んで手を広げて待ってやろうかと、屈むスペースを確保するため一歩前に出たその時──べちっ、とノヴェムが地面に倒れた。転んだ上に手もつけず顔を打つとは……なんて鈍臭い。

「ノ、ノヴェムくん……!」

「ぅ……うぇええええんっ! うぁああああ……!」

倒れたまま泣き喚くノヴェムの元に走り、抱き上げる。浴衣についた砂埃を払い、前髪も払ってやる。

「どこ打った? 鼻? 膝は?」

「ふぇえぇん……」

「どこ痛いのノヴェムくん」

「ぅええ……」

「泣き止まんのぅ」

「ひっどいコケ方だったも~ん……痛そ~」

「子供泣き止ませるにはお菓子だよ、水月」

サンのアドバイス通り、持っているりんご飴をノヴェムに差し出してみる。

「ノヴェムくん、りんご飴食べる?」

「……? ん……」

小さな舌が水飴をちろと舐める。小さな口が端をはむはむとしゃぶる。すっかり泣き止んだ、前髪の隙間に指を入れて目元を拭ってやり、微笑みかけるとノヴェムは頬を真っ赤に染めた。
しおりを挟む
感想 440

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...