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危険には見えない (水月+荒凪・リュウ・歌見)
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夜店には大きく「今川焼き」と書かれている。中身は餡子だけでなくカスタードクリームやクリームチーズなど、種類豊富なようだ。
「お、回転焼き……水月ぃ、アレ食べよ」
「ご飯系じゃないけどいいのか?」
「ええよええよ。どれにしよ……チーズ入りは初めて見たわ、美味しいんかなぁ」
約束通り俺は荒凪からリュウを離すことを意識して動いた。その甲斐あってかリュウは普段通りの笑顔を見せてくれるようになってきていた。
「あっやべ、財布……歌見先輩に預けっぱなしだった。悪いリュウ、ちょっと並んでてくれ、受け取ってくる」
「え……」
「カンナ、リュウ頼むよ」
俺と繋いでいる手とは反対側の腕にはカンナが抱きついている。リュウは俺と離れることを嫌がるような素振りを見せたが、口には出さずカンナに身を寄せた。俺は急いでクレープの夜店に並んでいる歌見の元へ走った。
「先輩! すいません財布返してください」
「あぁ、預かったままだったな」
「あーでも別々で並ぶこと多いんですよね……いくらか渡しとくので祭り終わりに余ってたら返してくれます? 足りなかったらその時払うんで立て替えお願いします。我慢させず遊ばせてやってください」
「分かった。弟思いだなぁお前」
「あっ……」
「ん?」
歌見に頭を撫でられながら、恐る恐る荒凪の様子を伺う。歌見が押す車椅子に乗っている彼には俺達の会話は聞こえていたはずだ、弟という単語が耳に入ったはずだ。
「あ、荒凪くん……?」
そっと声をかける。荒凪はどこかを見つめている、いや、誰かを目で追っているのか?
「みつきー、立つ」
「え?」
荒凪の伸ばした両手を引っ張り、立たせてやる。
「立てるのか?」
「足怪我してるだけなので……痛いの我慢すれば立てるみたいです」
本来尾ビレである部位を使って立つのには特に慣れないのか、フラフラしている。けれど荒凪は俺の手を離し、覚束無い足で歩き出した。
「荒凪くん! あっ先輩はここで待っててください。車椅子だけ貸してもらって……すいません行ってきます!」
車椅子を押して荒凪を追う。荒凪がフラフラと向かった先には、俺から巻き上げた二百円はもう使い終えたのかかき氷を食べているレイの元カレが居た。
「またお前かよ……!」
「まひろぉー」
荒凪に抱きつかれ、小豆がかかったかき氷片手に元カレは目を丸くする。
「こら荒凪くんそんなケダモノに抱きついちゃいけません!」
「……誰がケダモノだ」
俺は慌てて元カレから荒凪を引き剥がした。
「あー……やだ、まひろぉ」
荒凪は残念そうな声を上げ、嫌がり、身を捩り、俺の手から逃れようとする。
「…………真尋? そいつ、兄ちゃんの……何だ?」
「あー、出先で保護した孤児だってよ。ウチの親の上司だからな、縁あって預かってる」
「……兄ちゃん何してんだ」
今時「出先で保護した孤児」はおかしかったか、製薬会社の秘書が孤児を保護するような出張先での展開なんて思い付かないし、普通警察なり施設なりに預けるものだよな。
「まひろ、まひろ、あそぼ」
「…………俺は真尋じゃない、國行だ」
「まひろぉー?」
「荒凪くん、この人はその真尋さんの親戚だよ。よく見て、大きさ違うでしょ」
「…………顔も違う」
確かに顔は違うが、最大の特徴である行き過ぎた三白眼がお揃いだから顔も似ているように見えるんだよな。
「まひろちがう?」
「そう、違う。そんなにしつこく見間違うほど似てないと思うんだけどなぁ」
「…………同感だ。しかし……随分兄ちゃんに懐いてるんだな。そんなに兄ちゃ……いや、真尋が好きか?」
「うん」
「……ふぅん…………そのよく分からんインナーカラーをやめて、全て金色に染めてこい。で、ピアスを空けろ。そうしたら抱いてやる。振り向かない本物より気楽な紛い物の方がいいと思わないか?」
「いきなり何言ってんだ見境なしかてめぇ!」
「…………お前に見境なしとか言われたくない」
「だっこ? くにーき僕達だこする?」
「荒凪くんは見た目より幼いんだよ! 分かったらセクハラやめろクソ野郎!」
「……お前の方がしてそうだが」
「はっ、はぁ~!? そっそそ、そんなことしてませんけどぉ!?」
「…………わざとでなければ怖いな、その動揺の仕方」
俺はちょっと性器が収められているであろうスリットを念入りに観察したり、身体をベタベタ触ったりしただけだ。激しく首を横に振りながら、荒凪を車椅子に乗せて運び、歌見の元へ走った。
「みつき、くにーき僕達だこするって」
「抱っこくらい俺がいくらでもしてあげるよ! アイツは怖くてヤバいヤツなんだから関わっちゃいけません! いいね、荒凪くん」
「でも……まひろの、しせき……」
「ダメ! 何されるか分かんないよ!」
ライバル心を剥き出しにして、具体的な説明が出来ないまま頭ごなしに禁止を叫び続けた。そのうち荒凪は諦めたのかしゅんと落ち込みながら頷き、車椅子から降りようとするのをやめた。
「おぅ、おかえり水月、荒凪くん。なんか落ち込んでないか?」
「ちょっと叱ったからかな……」
「そうか……荒凪くん、水月は君が心配だったんだ。叱られて落ち込むのは仕方ないけど、水月を嫌いにならないでやってくれよ」
歌見は荒凪の頭をわしわしと撫でながらフォローを入れてくれた。助かる。
「…………」
荒凪は小さく頷き、俺の服の裾を掴んで顔を上げた。
「みつき、ごめんなさい……」
「あ……いいよいいよ全然謝らなくて! 分かってくれたんならそれでいいんだ」
「…………僕達、みつき……まだ、なかま?」
「仲間仲間」
「よか、た」
表情にも声色にも表れていないけれど、荒凪は安心したようだった。やはり俺にはどうも、リュウが感じ取っているような危険性を荒凪の中に見い出せない。
「お、回転焼き……水月ぃ、アレ食べよ」
「ご飯系じゃないけどいいのか?」
「ええよええよ。どれにしよ……チーズ入りは初めて見たわ、美味しいんかなぁ」
約束通り俺は荒凪からリュウを離すことを意識して動いた。その甲斐あってかリュウは普段通りの笑顔を見せてくれるようになってきていた。
「あっやべ、財布……歌見先輩に預けっぱなしだった。悪いリュウ、ちょっと並んでてくれ、受け取ってくる」
「え……」
「カンナ、リュウ頼むよ」
俺と繋いでいる手とは反対側の腕にはカンナが抱きついている。リュウは俺と離れることを嫌がるような素振りを見せたが、口には出さずカンナに身を寄せた。俺は急いでクレープの夜店に並んでいる歌見の元へ走った。
「先輩! すいません財布返してください」
「あぁ、預かったままだったな」
「あーでも別々で並ぶこと多いんですよね……いくらか渡しとくので祭り終わりに余ってたら返してくれます? 足りなかったらその時払うんで立て替えお願いします。我慢させず遊ばせてやってください」
「分かった。弟思いだなぁお前」
「あっ……」
「ん?」
歌見に頭を撫でられながら、恐る恐る荒凪の様子を伺う。歌見が押す車椅子に乗っている彼には俺達の会話は聞こえていたはずだ、弟という単語が耳に入ったはずだ。
「あ、荒凪くん……?」
そっと声をかける。荒凪はどこかを見つめている、いや、誰かを目で追っているのか?
「みつきー、立つ」
「え?」
荒凪の伸ばした両手を引っ張り、立たせてやる。
「立てるのか?」
「足怪我してるだけなので……痛いの我慢すれば立てるみたいです」
本来尾ビレである部位を使って立つのには特に慣れないのか、フラフラしている。けれど荒凪は俺の手を離し、覚束無い足で歩き出した。
「荒凪くん! あっ先輩はここで待っててください。車椅子だけ貸してもらって……すいません行ってきます!」
車椅子を押して荒凪を追う。荒凪がフラフラと向かった先には、俺から巻き上げた二百円はもう使い終えたのかかき氷を食べているレイの元カレが居た。
「またお前かよ……!」
「まひろぉー」
荒凪に抱きつかれ、小豆がかかったかき氷片手に元カレは目を丸くする。
「こら荒凪くんそんなケダモノに抱きついちゃいけません!」
「……誰がケダモノだ」
俺は慌てて元カレから荒凪を引き剥がした。
「あー……やだ、まひろぉ」
荒凪は残念そうな声を上げ、嫌がり、身を捩り、俺の手から逃れようとする。
「…………真尋? そいつ、兄ちゃんの……何だ?」
「あー、出先で保護した孤児だってよ。ウチの親の上司だからな、縁あって預かってる」
「……兄ちゃん何してんだ」
今時「出先で保護した孤児」はおかしかったか、製薬会社の秘書が孤児を保護するような出張先での展開なんて思い付かないし、普通警察なり施設なりに預けるものだよな。
「まひろ、まひろ、あそぼ」
「…………俺は真尋じゃない、國行だ」
「まひろぉー?」
「荒凪くん、この人はその真尋さんの親戚だよ。よく見て、大きさ違うでしょ」
「…………顔も違う」
確かに顔は違うが、最大の特徴である行き過ぎた三白眼がお揃いだから顔も似ているように見えるんだよな。
「まひろちがう?」
「そう、違う。そんなにしつこく見間違うほど似てないと思うんだけどなぁ」
「…………同感だ。しかし……随分兄ちゃんに懐いてるんだな。そんなに兄ちゃ……いや、真尋が好きか?」
「うん」
「……ふぅん…………そのよく分からんインナーカラーをやめて、全て金色に染めてこい。で、ピアスを空けろ。そうしたら抱いてやる。振り向かない本物より気楽な紛い物の方がいいと思わないか?」
「いきなり何言ってんだ見境なしかてめぇ!」
「…………お前に見境なしとか言われたくない」
「だっこ? くにーき僕達だこする?」
「荒凪くんは見た目より幼いんだよ! 分かったらセクハラやめろクソ野郎!」
「……お前の方がしてそうだが」
「はっ、はぁ~!? そっそそ、そんなことしてませんけどぉ!?」
「…………わざとでなければ怖いな、その動揺の仕方」
俺はちょっと性器が収められているであろうスリットを念入りに観察したり、身体をベタベタ触ったりしただけだ。激しく首を横に振りながら、荒凪を車椅子に乗せて運び、歌見の元へ走った。
「みつき、くにーき僕達だこするって」
「抱っこくらい俺がいくらでもしてあげるよ! アイツは怖くてヤバいヤツなんだから関わっちゃいけません! いいね、荒凪くん」
「でも……まひろの、しせき……」
「ダメ! 何されるか分かんないよ!」
ライバル心を剥き出しにして、具体的な説明が出来ないまま頭ごなしに禁止を叫び続けた。そのうち荒凪は諦めたのかしゅんと落ち込みながら頷き、車椅子から降りようとするのをやめた。
「おぅ、おかえり水月、荒凪くん。なんか落ち込んでないか?」
「ちょっと叱ったからかな……」
「そうか……荒凪くん、水月は君が心配だったんだ。叱られて落ち込むのは仕方ないけど、水月を嫌いにならないでやってくれよ」
歌見は荒凪の頭をわしわしと撫でながらフォローを入れてくれた。助かる。
「…………」
荒凪は小さく頷き、俺の服の裾を掴んで顔を上げた。
「みつき、ごめんなさい……」
「あ……いいよいいよ全然謝らなくて! 分かってくれたんならそれでいいんだ」
「…………僕達、みつき……まだ、なかま?」
「仲間仲間」
「よか、た」
表情にも声色にも表れていないけれど、荒凪は安心したようだった。やはり俺にはどうも、リュウが感じ取っているような危険性を荒凪の中に見い出せない。
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